トマト味でした
最近、活動にも随分慣れた気がする。変わったのは、橙乃に「皆と同じように瑞希君って呼んでよ」と言われて呼び方を変えたことくらいだ。でも、「慣れてきた」と思っている時は油断も生まれやすい。気を引き締めて活動に当たらなければ。
「よう、神谷。今からだと白っさんと電車か?」
まだ朝早いのに、紅野に声をかけられた。
「はい。紅野さんも今日はお早いですね。」
「いや、逆だよ。今まで外で呑んでたんだ」
そのわりに、酒に酔っている様子は感じられない。
「浅葉って本当に強いよね。おはよう、遥さん」
背後から、やけに明るい声が聞こえてきた。
「おはようございます……嗣彦さん」
紅野が野犬のような目で青山を睨んでいる。
「浅葉ったら、本当に遥さんが好きなんだね。」
「悪いかよ」
はっきり言われて、顔から湯気が出そうだ。
「ううん、そういうスタンスが羨ましいと思っただけだよ。」
「だったら神谷に謝罪の一つでもしたらどうだアホ山殿。」
「今日はその為に来たんだ。遥さん、今日は白瀬が来られなくなったから、僕と電車に乗ろう」
「あぁ?白っさんがドタキャンなんかする訳ねぇだろ」
「何があったかは秘密。大丈夫、駅なんだから人の目もあるし」
「そういう問題じゃねぇだろ。第一、」
「浅葉、さっきまで呑んでたんだからもう休みなよ。本当に今日は謝るだけのつもりだし、心配だったら後で遥さんのカメラの映像を請求して見れば良いじゃない。ほら、今から点けるよ」
青山が私のエンブレムに手を伸ばし、カメラのスイッチを入れた。紅野や脇田が操作した時は何も思わなかったのに、青山にされると身構えてしまう。
「……分かった、そうさせてもらう。神谷、くれぐれも用心しろよ。何かあったらすぐに電話しろ。俺でも和泉さんでも良いから」
「はい、ありがとうございます……」
駅までの道程、青山とは少し距離を開けて歩いた。人目があるとはいえ、まだ元通りという訳にはいかない。西螟蛉に行き、入場証をもらって電車に乗る。活動中、青山は何も言わなかったし、私とは少し離れて電車に乗っていた。1時間程の活動を終え、入場証を返してマンションに帰るが、今はまだ商店が開いていないし、通勤通学の時間帯を過ぎて人が疎らになっている。不安感に襲われて、思わず携帯を手に取る。
「僕、思ったより傷つけてしまったみたいだね。……遥さん、」
青山が急に振り返り、地面に膝をついた。
「この間は、本当にごめんなさい。」
「えっ、そ、そんな、頭を上げてください」
「ううん、僕、遥さんの心をこんな風にしてしまって……もしかしたら一生残るような傷になってしまったんじゃないかって、」
「いえ、あっ、あの……あの時は確かにびっくりしましたけど、別に何かされた訳ではありませんし……そんな風に謝っていただけるなんて、」
「……許して、くれますか。」
「はっ、はい。えっと……どういたしまして」
「本当に?良かった、許してもらえなかったらどうしようかと思ってたんだ。」
青山が立ち上がり、膝の砂を払う。
「いえ……そんな、」
「けど、遥さんは優しいから、きっと許してくれるとも思ってた。ねぇ、今度は……ううん、今度こそ、だね。誰か他のメンバーを連れて、ファミリーレストランみたいな所で食事しませんか?無かったことになんて出来ないけれど、今度は団員として、仲間として、遥さんと良好な関係を築きたいので。」
「ああ……はい。それだったら」
「良かった。メンバーに予定を訊いておくから、決まったら連絡するね。」
勢いで了承してしまったが、他のメンバーがいるならこの間みたいなことにはならないだろう。……いや、そうではない可能性があった。
「あの、出来たらなんですけど……」
「うん?」
「こんなこと言うのは本当に失礼なんですけど、嗣彦さん、和泉さん、私っていう状況はなるべく避けたいと言いますか……、」
「……ああ、そうだね。じゃあ、白瀬、浅葉、橙乃のうち誰かが来られるようにするよ。」
「すみません、お願いします……」
「ううん、確かに和泉ってちょっと信用ならないよね。今は僕も人のこと言えないけど」
青山がそんな冗談を言うと思わなかった。
「今、僕がふざけたことを言って驚いてるんでしょ。」
「……えっ、」
「そういう誤解も少しずつ解けたら良いな。食事、楽しみにしてるから。」
昼を過ぎて、紅野から電話がかかってきた。
『よう。さっきは大丈夫だったか?』
「はい。きちんと謝罪していただきました」
『ハハ、「いただきました」ってな。当たり前だろ』
「ええ、まあ……。あ、嗣彦さんと食事の約束をしました。今度はルドベキアの誰かと一緒にということなので、大丈夫だと思います」
『そっか。まあ、何かあったらすぐに言えよ。他の奴がどう思ってるかは知らねぇが、俺は俺が一番神谷のことを大切に思ってるって思ってるからな。……何か変な文になったな。悪い』
恥ずかしさに首を絞められて、何も言えなかった……。
翌日から暫くは白瀬と朝の駅をパトロールしたが、大きな事件は無かった。ここ数日はかなり気温が低く食欲も無くて、体に力が入らない。事件が起こらなくて、正直かなりほっとした。
「お疲れ様。帰るか」
マンションに戻る途中、コンビニの前でがらの悪い男性数人がたむろしているのを見かけた。男性たちは最初喧嘩腰で近づいてきたが、エンブレムを見ると舌打ちしてどこかに行ってしまった。
「嗣彦さんが言うように労働が取り戻されて、ああいう方々がいなくなると良いですね。」
「ああ……まあな」
珍しく、白瀬が言葉を濁している。
「正直な話、俺は今の状態に疑問を感じている。青山が言うような世界が来るとは思えないんだ。無論、それでも従う価値があるからここまで来ている訳だが」
「それは、どういう……」
「青山は今の状態を『黎明期』だと言っている。『正しい労働が社会に組み込まれ、社会に幸福をもたらす時代の始まり』だと」
風が吹いて、微かな良い香りが運ばれてきた。
「だが、俺は今の状態を過渡期に過ぎないと思っているんだ。今は、ある労働を正しいと言っている世界から、別の労働を正しいと言っている世界に移行しているだけなんじゃないだろうか」
「成長ではなく変化だということですか?」
「ああ。結局、ある程度世界が安定すると上と下が生まれてしまう。青山の言うような労働が正しい労働になれば、そうでない労働をしている者が先程の男性たちのようになってしまうような気がしてならないんだ。そもそも警察の真似事をしている組織をアイドル扱いするのもかなり違和感があるし、これを正しい労働と呼べる迄にするのは難しいと思う」
「それは、自警団そのものが間違ってるっていう……」
「間違っているとは言わない。必要だと思うからやっていることだしな。ただ、これが正しい労働として永続的に社会に受け入れられるのは難しいということだ」
「じゃあ、自警団ってどうなって行くんでしょうか。」
「滅多なことは言えないが、良い方向に進めば国家の運営に協力する団体のひとつにでもなるだろうし、悪い方向に進めば名前だけ残して消滅……あるいは、完全に無かったことにされるかも知れないな。どれになるかは俺たちではなく、人々や歴史が決めるのだろう」
「自警団のままでいることは出来ないんでしょうか……」
「俺たちの活動は警察が無ければ成り立たないからな。これから警察とは何かを人々が考えて、現状を打破するものが生まれ、俺たちはそのムーヴメントに飲み込まれていくんだろう。まあ、それでも世の中を見直す良い切っ掛けになれているとは思うが」
「逆に言えば、それだけのもの……ということでしょうか。」
「『それだけ』か……確かにたったひとつの事柄だが、量的に僅かでも質的に大きければ社会の役には立てているんだと俺は思うけどな。……全く、」
白瀬は突然大きな溜め息をついて、頭を抱えた。
「大丈夫ですか?」
「いや、すまない。自分に対してだ」
「はい?」
「……俺の話は面白かったためしが無い。いつも申し訳無いと思いながら、直せないんだ。そしてそれを今話した相手にブチ撒けている。最悪だな」
「そんなこと、」
「……悪かった。帰ろう」
夕方になって、青山から電話がかかってきた。
『こんばんは、遥さん。急なんだけど、これから僕、橙乃、遥さんでファミリーレストランに行きませんか?』
「分かりました。」
『良かった。では、ロビーで待っていますね。』
ロビーに行くと、青山と橙乃が待っていた。
「改めましてこんばんは、遥さん。急に呼んでごめんね。」
「いえ、全然大丈夫です。」
「良かった。じゃあ、行こうか。近くだから歩きで良いよね。」 着いたのはくちなわ駅の近くの洋食系ファミリーレストランだった。メインストリートから少し入った所にあるせいかかなり空いていて、ゆっくり食事が出来そうだ。
「混んでなくて良かったー。僕チーズハンバーグセットね。青山君は?」
「僕はミートソーススパゲティにしようかな。遥さんは?」
「……私、甘いものにしても良いですか?最近寒いせいか、あんまり食欲が無くて」
「大丈夫?橙乃が急にオフになったから呼んだんだけど、体調が悪かったなら別の日でも良かったのに。」
「食欲が無いだけですし、いつ良くなるかは分からないので。……私、『マロンたっぷりのブラウンパフェ』にします」
青山が店員を呼び、注文を済ませる。ドリンクバーも付けてもらったので、温かい紅茶を持って席に戻る。
「遥ちゃん、本当に平気?上着貸すよ」
「汚したら申し訳無いですし、お気持ちだけで嬉しいです」
「遥さん、本当に真面目なんだから……。次から体調不良の時はちゃんと言ってくださいね。」
「お気遣いありがとうございます。でも本当に、大したことありませんから。」
それぞれに料理が運ばれて来た。青山もさることながら、橙乃も食べ方が綺麗で羨ましい。考えてみれば、橙乃もコーンフラワーホールディングス系列会社の社長の息子、いわば御曹司ということになるんだろうか。
「遥ちゃん、全然進んでないみたいだけど?」
「すみません、ぼーっとして……お二人とも食べ方が綺麗だなぁと思って」
「そうかな?青山君ならまだしも、僕は普通だと思うけど」
「遥さん、ちょっと気にし過ぎじゃないかな。この間食事に行った時も、ガチガチで震えていたよね。」
「そうなの?遥ちゃんも全然普通だけど……」
「それに、例え食べ方がおかしかったとして人前で注意したり陰で笑ったりはしないし、ゆっくり直していけば良いと思いますよ。」
「そうそう。僕も中学校くらいまでは……電話だ。ちょっとごめんね。」
橙乃が携帯を持って出ていった。人目があるとはいえ、青山と2人きりだとやっぱり緊張する。
「遥さん、まだ傷が癒えないのかな。」
「いえ、そんなことは」
「ううん。本当に、今でも悪かったって思ってるよ。」
「その件は、もう謝っていただきましたし」
「優しいね、遥さん。でも、もう少し楽にしても良いと思うけどなぁ。」
「楽に……ですか」
「僕にも弱点や至らない部分はあるわけだし、僕の頼みを聞いてもらう分、遥さんも僕に注文をつける権利がある筈だよ。人間は人間という意味では平等なんだし、ましてプライベートの食事でどちらかが王公貴族みたいな振る舞いをするなんて、普通じゃないからさ。これから友人とか、それ以上の付き合いをしていきたいと思っている相手を無闇に責めたりする訳が無いし、小さなことで破綻する関係なら相性が悪かったと諦めて距離を置いた方が良いと思うんだ。だから遥さん、もう少し肩の力を抜いて、僕には遥さんらしく接して欲しいんです。」
「はあ……ありがとうございます」
「フフ、まだ駄目みたいだね。……随分かかってるな。ちょっと見てくるよ」
青山が出ていって、5分程して戻ってきた。
「橙乃、急用が出来たみたい。僕たちも食べ終わったら帰ろう」
結局全部は食べられなくて、青山が食べ終わった時点で店を出た。くちなわ駅周辺は道がかなり入り組んでいて、メインストリートを離れると人が殆どいない。青山と距離を取って歩くのも、青山の側を歩くのも怖い。
「遥さん、あまり離れると危ないですよ」
「はい、すみませ……うわっ、」
予想通りと言うべきか、腕を取られて袋小路に投げ込まれる。頭のすぐ横に手をつかれて、大きな音に体がすくむ。
「女性はこういうの好きなんだよね?」
「そん……」
柔らかな唇が私の言葉を啄んでいった。少女漫画みたいにファーストキスに特別の期待をしていた訳じゃないけど、こんな形だなんて。
「どう?初めてのキスは」
「……トマト味でした」
「フフ、レモンアイスでも食べたら良かったかな」
「馬鹿にしてますよね」
「とんでもない。僕はただ、遥さんにも愛の快楽を知って欲しいだけです。……もう少し、味見してみると良い」
青山の唇がまた近づいてくる。突き飛ばすと、青山は凶悪な笑い声を上げた。
「遥さん、僕は別に遥さんを困らせようと思ってこんなことしてる訳じゃないんです。ただ純粋に、貴女に快楽を知って欲しい。そして出来るなら、その相手が僕であって欲しい。浅葉のやり方は焦れったくてね」
「……女を番号で呼んでいるらしいですね」
「浅葉か和泉あたりに聞いたのかな?そうだね、識別番号は付けてるよ。でも順位をつけようとか、そういう意図は無いんだ」
「そんな、」
「遥さん、僕は値段のつくものならあげられる。けど、愛とか、友情とか……。ルドベキアは皆大切だし、遥さんのことも、他の女性のことも大切だと思ってる。ただ、普通の人が言うような一人に対しての情熱的な愛とか、そういうのは残念ながら持っていないんだ。でも、だからこそ、自分の限界とか、自分が何を考えているかは誰よりもよく分かっているつもりです。『誰よりも愛してる』なんて綺麗事は言わないよ。けど、僕は今、遥さんを心の底から愛してるんだ。」
また青山は同じ笑い方をする。耳許でカスタネットを鳴らされているような、人を追い詰める笑い方だ。
「しかし、学習能力が無いのか、無欲という罪がなせる業なのか……それとも、この生クリームみたいな甘さはわざとなのかな?」
「今回は……瑞希君が急に帰ることになったから、」
「橙乃?フフ、遥さんったら」
「……?」
「橙乃の立場は知ってるよね。彼はコーンフラワーについた油虫なんだよ。青山嘉彦という大きな花に付いて、僕という蟻に守られながらルックスという甘い汁を撒き散らして生きている油虫だ」
「瑞希君は友達なんじゃ、」
「友達?橙乃はそんなこと言ってたんだ?」
「そんな言い方、」
必死で返す言葉を探していると、急に青山が振り返った。
「……瑞希君、急用が出来たって」
「青山君に帰れって言われたけど、何か変だと思って引き返して来たんだ。」
「後にしてくれる?今、大事な話をしてるんだ」
「油虫は冗談だって言うの?」
「橙乃、お前がそこまで馬鹿だとは思わなかった。お前だって周囲がその見た目を利用しているだけだって気づいてたんだろ?今更怒ることなんかないよ」
「……僕は、友達だと思ってた。例え利用しているだけだったとして、こんな……油虫なんて、酷すぎるよ……」
「……気が削がれた。今日は帰るよ。また今度ね、No.63、神谷遥さん」
「青山君!」
青山はひらり、と手を振って去っていった。静けさが戻り、橙乃の乾いた病的な笑い声だけが、夜の街に虚ろに響いていた。
「瑞希君……」
「分かってたんだ」
夜の海を湛えた瞳から、星が幾つも零れている。
「分かってたんだ。僕は……僕みたいな奴、飾っておいたら皆の目を引くもんね。皆僕をそんな目で見てた。分かってた……」
堪えきれなくなったのか、橙乃が嗚咽を漏らして泣き出した。
「だか……だから僕、あいつらを利用してやるって、決めたんだっ……そうやって僕は、いつか……いつか誰よりも輝ける所に辿り着くんだって……けど、駄目だよね、他人を……青山君みたいな、人をさ……友達だと思ってたのに、それなのに……」
橙乃はとうとう話が出来なくなって、子どもみたいに大声で泣き出した。背中を擦っていると、急に橙乃が私の手を握った。
「……何で、」
「えっ?」
「何で遥ちゃんは、皆みたいな目で見ないでいてくれるの……?」
橙乃の瞳が街の明かりを映し、七色に煌めいている。
「皆、僕を好奇の目で見るんだ。けど遥ちゃんは違う。……遥ちゃんは、」
握った手を引っ張られて、抱きつくような格好になってしまう。離れようにも、橙乃に腕を回されて身動きが取れない。
「瑞希君、」
「僕、プラトニックな愛って信じてないんだ」
「……和泉さんと」
「違う。けど、そうかも知れない。だって、本気で嫌な奴にはそういうこと、許さないでしょ?本当に好きかどうかなんて人間には分からない。けど本当に嫌いかどうかは簡単だ」
橙乃の手が私の頬をゆっくり撫でて、鎖骨を通って下りていく。
「瑞希君、違うよ。そうじゃない」
「正しいかどうかなんてどうだって良いよ。楽しければ、……寂しくなければ、それで」
「瑞希君、」
「……嫌なんだね。分かった」
「そんな、」
「じゃあ良いの?」
「それは……」
橙乃は私を突飛ばし、笑っているとも泣いているともつかない声を上げた。
「もう……もう、良いよ。帰れよ……」
このまま橙乃を置き去りにする訳にはいかない。意を決して、橙乃の側に行く。
「何だよ、」
「私が言うのも偉そうだとは思うけど、瑞希君、愛は寂しさを埋める為だけのものじゃないよ。」
「僕にはそれすら満足にしてもらえない。穴を開けるばっかりで、何も……」
「そうじゃない。私も、完全に理解なんてしてないけど……愛って、誰かの為にしてあげたいとか、自分の為にしてあげたいとか、そういう『〜たい』っていう気持ちのことなんだよ。瑞希君は今、瑞希君への愛を忘れてる。それは本当にしたいことなの?瑞希君は、」
「分かったような口利くなよ!僕だって……僕だって、」
今度は力無く、橙乃の腕が私を包んだ。
「僕を、一人にしないで……」
橙乃の涙が止んだのは1時間近く経ってからだった。マンションに帰り、橙乃は「ありがとう」とだけ言って部屋に戻っていった。私も部屋に戻り、キャラクターカウンセラーのスイッチを入れる。
『おかえり、遥チャン』
「流星、初めに『軽い暴力』ならしても良いって言ってたよね」
『僕たちに痛覚は無いのです。遥チャンにストレスが溜まっているなら遠慮ナ゛ッ』
流星の腹に思いっきりパンチを入れる。ご丁寧に吹き飛ぶ映像効果が入り、流星は壁に激突して床に落ちた。これも映像効果なのか、流星の体から煙が立ち上っている。
『……遥チャン?』
「青山嗣彦の馬鹿野郎!クズ!変態!」
『酷いことされたの?』
「……瑞希君がね。嗣彦さん、目の前で瑞希君のことを『油虫』って罵っててさ。もう、気分悪くて」
『……変態は違うみたいなのです?』
「ああ、ちょっと……何て言うか、」
『大丈夫、秘密は守るのです』
「……ううん、やめておくよ」
『分かったのです。遥チャン、それは嫌なことだったのですね。』
「少なくとも、ああいう状況では嫌だった。嗣彦さん自体がどうなのかは、正直今も分からないけど……思い出したらまた苛々してきた」
『なら、僕にエ゛ッ』
流星を殴ったり蹴ったり散々暴れて、ようやく気が晴れてきた。
『ハるかチャん、ダいじょウブ?』
「……流星こそ大丈夫?ちょっとやり過ぎた?」
『うウん、メンてなンすすれバへいキナのデス。あサにはもドルのでス』
「ありがとう、流星。今日はもう大丈夫だよ」
『よかッたノでス。キョうはこレカラめんテなンスニはイらせてモラうのデす』
「うん。……お大事に」




