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青きバラの騎士団〜氷姫と守護者の英雄譚〜  作者: 卯月 桜華
青いバラの紋章を刻む者たち
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炎と氷の剣舞

「ふむ、いい調子だ。」


ルーンは数回、剣を振ると、満足気に頷いた。

どうやら、自分の状態に満足したらしい。

そして、剣から目を離すと、目の前に立つ団長に声をかけた。


「ジオス、腕は鈍ってまいな。」

「さぁ、どうだろう。俺の全盛期も過ぎたからな。だが、今日は調子がいい。全力でやらせてもらう。」


団長は謙虚にそう言うが、目にはかなりの自信が溢れている。

ルーンもまだ僕とは同い年だとはいえ、ドラゴンを一撃で倒してしまうほどの実力者だ。

これなら、ハイレベルな試合になることだろう。

まわりには団長が決闘を行うということもあってか、かなりの人が集まっていた。

どちらが勝つのかと賭けをしているものまで見受けられる。

もうこうなっては、お祭りレベルだ。


試合開始数分前。

フラフラとその周辺を歩いていた僕は、何気なく倍率を見て、思わず目を疑った。

ルーンの方に、かなりの票が入っていた。

てっきり、団長の方が倍率は低いかと思っていたが、それは逆だった。

むしろ、ルーンの方が多いのだ。

ただ、僕の目を引いたのは、倍率なんかではない。


「おじさん、この人の名前…。」

「ああ、『フィラ様』のことか。ボウズ、そっちにかけるのかい?」

「いっ、いや。そうじゃなくて。あの人の名前、ルーンって言うんじゃないの?」

「ルーン?それは一体、誰のこったい?あの人は偉大なお方。フィラ様だ。知らないのか?」


そう、名前が違ったのだ。

何度も目を擦って見てみても、そこにあるのは、「FIRA」の文字。

知らないはずなのに、何処かで聞き覚えのある名だ。

どうして、名前が違うのだ。

そう思った時には、もう体が勝手に動き出していた。

人混みをかき分けて、ルーンの、否フィラの元へと進み続けた。

どうして、偽名など。

その疑問の答えを得る為だった。

でも、お祭りのような賑わいは簡単には僕を前へは進ませてくれない。

ようやく最前列へたどり着いた時には、もう遅かった。

二人は、体の前に剣を構えて、ジリジリと間合いを詰めていた。

試合が始まっていたのだ。


しばらく、お互いの様子見が続いた。

見物人達もその雰囲気にのまれて、誰一人声を出すものはいない。

僕も名前のことなどサッパリ忘れて、ジッと息を詰める。

と、突然に変化は訪れた。

キインッという耳障りな金属音を響かせて、二つの剣は交差する。

二人は、一度離れると、もう一度剣を合わせた。

互角の戦い。

剣が合わさる度に観客からは歓声が上がった。

ボルテージも知らず知らずのうちに、最高潮へと向かっていく。


「やはり、腕はなまっていないようだな。」

「お前も腕を上げたようだなっ!」


そんな短い会話の中でも激しい攻防戦は続いた。

キン、キンとぶつかり合う刃。

これには僕だって、手に汗を握らずにはいられなかった。


「はああっ!」


先に攻撃を仕掛けたのはルーンだった。

十分に距離をとったあと、団長に向かって、真正面から突っ込んで行く。

これは、ドラゴンと戦っていた時に使っていた技と同じだ。

刃はドラゴンに技を決めた時と同じく、青い光を放ち、彼女の黒髪はパッと舞った。

一方、そんな華麗な技を前に、団長はよけようとはしない。

むしろ、剣を前に構え直していた。

そして、団長の持つ剣の刃も光り出す。

その色は赤だ。

それぞれの剣の光を見た瞬間、僕はこの勝負の勝者を悟ってしまった。

団長の技属性は炎。

そして、対するルーンの技属性は…。

あのドラゴンの炎から守ってくれた時の冷気。

そう、彼女の属性は…。


炎柱壁(えんちゅうへき)!」

氷晶撃(ひょうしょうげき)。」


そう、氷だった。

炎は氷を溶かし、氷は炎に溶かされる。

それがこの世界においての理だ。

二つの剣はそれぞれの光を放って、ぶつかり合った。


ドカン、という爆発音と共に、目の前は煙でおおわれる。

一瞬、状況を理解できなかったが、後から考えれば、爆発が起きたのだろう。

まだ煙の残る中に現れた影は、一人は立ち、もう一人は地面に倒れ伏していた。


決着が着いた。

やがて、煙はスッーと晴れていく。


「ルーン。」


僕はポツリと呟いた。

倒れる者の首に剣を突きつけ、立っていたのは…ルーンだった。

それをその場にいた全員が理解した時、ワッと歓声が溢れた。

ルーンもその歓声の意味を理解して、フッと表情を緩める。

倒れた団長も呆れたように首を振って、笑っていた。


「参ったよ。君は本当に強くなった。」

「ジオス、貴様も強かった。楽しかった、またやろう。」

「それは勘弁な。」


興奮がさめぬまま、僕はしばらくボーッとしていた。

凄まじい試合だった。

とてもハイレベルで、世の理をひっくり返すような、試合。

僕もいつか、あんな強い騎士になりたい。

そう思えた瞬間だった。


ようやく、我にかえったのは、ルーンと目があってからだった。

そこで、名前の件について思い出す。


「ルーン!」


慌てて駆け出すと、ルーンは笑顔で振り向いた。

その顔に不覚にもドキッとしてしまうが、今はそれどころでない。


「ああ、エディ。どうだ、勝っただろう?お前、どっちに賭けた?」

「そうじゃない!どうして、嘘なんてついたのさ?フィラなのに、ルーンだなんて…。」


すると、ルーンはキョトンとした表情を浮かべた。

数秒、そのまま経った後、ようやく僕の質問の意味を理解したようだった。


「ああ、名前か。」

「そうだよ、僕に嘘つく理由なんてないだろう?」

「確かにないな。それは、俺自身わからん。だが、俺は名前に関して嘘はついていないぞ?」

「ハッ?名前に関して?」


今度は僕がキョトンとする番だった。

フィラとルーン。

全く違う名前に、共通点などまるでない。

愛称である可能性は限りなく低いだろう。

なら、嘘はついていないとはどういうことなのだろう?


「俺の正式名はルーン・フィラ・エーレル。皆の間ではミドルネームのフィラで通っている。自惚れているつもりはないが、フィラ・エーレル。聞いたことはないか?」

「えっ…?聞いたことがあるような気が…って、ああっ!」


ある、一つの結論にいきついたとき、僕は頭を抱えたくなった。

まさに、穴があったら入りたい、というやつだ。

今なら全てのことに納得がいく。

あの強さや知り合いのレベル。

そして、エーレルという名に聞き覚えがあることにも、だ。


「ルーンって…ルーンって。」


うわ言のように呟き続ける僕に、ルーン…否フィラ。

いや、「フィラ様」ははにかむように笑った。


「そう、俺は『あの』フィラだ。」

「うっ、嘘だぁ〜!」


僕の声は茜空いっぱいに広がったのだった。


毎度短かい小説を読んで下さり、ありがとうございます。


もっと文才が欲しいと願うばかりの出来ですが、今後もよろしくお願いします。

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