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悪魔の奪ったモノ

残酷描写ありのタグをつけました。

今回は残酷な描写を含むので、ご注意ください。

またタグの理由については活動報告をご覧ください。


「で、話というのは?」


僕はルーンを呼んで、再び部屋に戻ってきた。

それを報告しようとして、口を開こうとして、ルーンに遮られた。

彼女は部屋に入るなり、どこか焦った様子で単刀直入に聞いた。

それに対し、ルリア様は落ち着いた様子で向かいの席に座るように促した。

ルリア様は焦るルーンを無視してカップの底に僅かに残った紅茶を飲み干すと、ため息をつく。

そして、ようやく答えた。


「そうやって焦って聞いてくるってことは何の話かは理解しているんでしょう?」

「はい。ですから、早く教えて頂けませんか?」


ルーンはかろうじて席にはついているものの、身を乗り出して、今にも食いつかんばかりに聞いていた。

こんなに焦るルーンを見るのは初めてだ。

一体、何を知りたがっているのだろうと、僕も興味深く待っていた。


ルリア様はそんなルーンを見て、言いづらそうに視線を逸らした。


「あのね。ルーン。とても言いづらいのだけれど……」

「……なんでしょう?」


さすがに焦っていたルーンもルリア様の様子に気がついたようだった。

幾分か落ち着きを取り戻して、聞き直した。


「貴女との約束、守れないかもしれないわ」

「それは、『例の件』を他にまわすということでしょうか?」

「いいえ、そうではないのだけれど……」


そこでルリア様はチラリと僕を見た。

が、向けられた僕には何も心当たりがない。

「例の件」がなんなのかもさっぱり見当もつかなかった。

戸惑う僕だったが、その視線だけでルーンは意味を理解したらしい。

たちまち険しい表情になり、反論した。


「それはいけません! 約束したではないですか、そんなの俺は認めません」

「でも、この状況ではそうも言ってられなくなったの。彼もこの国の駒として動くことを決意してくれたようだし、適任だとおもったのよ」

「どういうことです? 理由を説明してください。でなきゃ、納得なんて無理です。それでも、受け入れたくはありません」


ルーンは怒りを露わにして、テーブルを叩いた。

僕の前ではいつも感情を露わにしてくれるルーンだが、ここまで感情的になるのを見るのは初めてだ。

「例の件」とやらは、よっぽどルーンにとっては特別なものなのだろう。

流石のルリア様もルーンの気迫に押されたようで、必死に弁解を試みていた。


「落ち着いて。説明をする余地を頂戴」


ルーンは今にも掴みかからん勢いでまくしたてていたものの、ルリア様にそう言われて、ようやく不服そうにしながらも席に着いた。

僕は二人の間に挟まれながら、何も言えずに黙って聞いていた。


「貴女の幼馴染、シャロン王子のことよ」

「……シャロン、ですか?」


唐突に聞こえた、聞きなれた人名に僕も反応した。

ルーンは急に出てきたその名前に首をかしげて、聞き返す。

しかし、次に教えられたのは驚くべきことだった。


「彼は命を狙われている」

「そっ、それはっ!?」

「まさか!」


シャロン王子はこの国の王子だ。

それも、子宝に恵まれない王の血を持ったたった一人の王子である。

その王子が狙われていると聞いて、驚いたのはルーンだけではなかった。

だって、そうだろう。

この国の未来を担う者が狙われていると知って、僕も驚かないわけがなかった。

とはいえ、ルーンの驚きには負ける。

何しろ、今聞いたことによると、幼馴染らしいのだから。


「どうして、シャロンが狙われているのです? 確かに『奴』は多くの貴族を殺してきましたが……」

「それは一週間前に起きた事件を調べて確信したことよ。多分、間違いはない」


ルーンは信じられないといったように、再度確認する。

しかし、ルリア様は確信を持って、断言した。


「『奴』はヴェルエーヌ家と関係の深い者を襲っている」

「ヴェルエーヌ? 確かに、シャロンはミルネと婚約を交わしていました。『奴』も貴族ばかりを狙っていた。でも、どうして?」

「そこまではわかっていない。けれど、確かなのよ。今まで殺されたすべての者がヴェルエーヌ家と繋がっていた。だから、王子も危険だわ」

「『奴』はヴェルエーヌ家に恨みを持っていた……? だから、殺しているのか? だったら、『奴』の正体も絞り込めるんじゃ」

「無理よ、犯人と疑っていた者は片っ端から殺されている。今じゃ、親しかったものこそいるのみよ。それも、残されているのは王子と貴女だけ。それ以上となると、ヴェルエーヌ家も強力な勢力だったから、それこそ疑わなきゃいけないのはほぼすべての人になってしまう。そんなのはとても無理よ」

「『奴』の正体は相変わらずってわけか」

「まぁ、そうなるわね。少なくとも貴女と王子は信用できる。なんといったって、あなた達は国に楯突く行為は出来そうもないもの」

「ああ、そうですね」

「あっ、あのぉ……」


そこで、僕はようやく口を挟むことに成功した。

ルリア様とルーンはそこで、ようやく僕の存在を思い出したようだった。

全く話についていけない僕の存在は完全に忘れられていたらしかった。


「すまん、エディ。忘れていた」

「ごめんなさい。つい、ことがことだけに仕事モードになっちゃったわ」


言葉の凶器が僕の胸にグサグサと突き刺さった。

ああ、どうせ僕は今日国の駒になったばかりの新人で、部外者だ。

所詮、そうなのだ。

完全にいじけモードに入っていく僕をルーンは苦笑いで見つめた後、再びルリア様に向き直った。


「で、エディのコトですが、俺は彼を巻き込みたくはありません。ですが、シャロンが狙われているとなると、そうもいかなさそうですね。もうこの問題は俺個人のものじゃなくなっている。国家レベルの問題だ。これ以上、私情を挟んではいられなくなっている」

「ええ。今までは危険ということも考慮して全てを貴女に一任していたけれど、もうこうなったらRMKとしても対応せざるを得ないわ。わかってくれてありがとう。約束を守れなくてごめんなさい」

「本当は巻き込みたくはなかったんですがね。もう、誰も。でも、ルリア様には大分お世話になりましたし、これ以上ご迷惑をかけるわけにはいきません」


その一瞬、僕は彼女が泣いた時と同じように儚げな表情をしたのを見逃さなかった。

しかし、すぐにそれを引っ込めると、僕に向き直った。


「あとは、彼の意思次第です」

「そうね。……エディ君、本当に君の決断には感謝している。けど、ごめんなさい。私も貴方にしなくてはならなければいけないことがあるの」


ルリア様はそう言うと、スッと手に持った扇子を持ち上げて、僕へと向けた。

何事だろうと、不思議に思うと同時に、ふと右手首に熱を感じた。

痛くはない。

身に覚えのあるその熱さに、服の袖を捲ってみると、そこには先ほどまではなかったものがあった。

銀色の妖精の紋章……マリアンの王家であるセーレンルード家の家紋だ。


「これは……」

「国への反逆行為を戒める鎖よ。青バラの印にも同じような効果があるけれど、この紋はもっと強制力ある。何と言っても、これはレベル5のために作られたのだから」

「いわば、奴隷紋のようなものだ」


そう言って、ルーンとルリア様は自分たちの紋章も見せた。

彼女たちの腕にも確かに銀色の妖精の舞う姿が刻まれていた。


「作られた……ってことは『無』の魔法ですか」

「そうよ、大昔の奴隷商人が偶然生み出してしまった強力な鎖」


この世界には三種の基礎属性魔法と、僅かな使い手しかいない特殊魔法の他に、もう一つの力が存在する。

それは、「無」の魔法だ。

これは誰にでも使える魔法で、主に実用性のあるものが多い。

例えば、衣装替えの魔法なんかが「無」の魔法だ。

他にもレベル4以上なら、膨大な魔力を消費するものの、瞬間移動魔法が使える。

もちろん、連続使用や長距離となると流石に無理なのだが。

そして、その「無」の魔法の多くは「作られて」いるのである。

つまり、「無」の魔法は人工物なのだ。

自然の力を借りる属性魔法とは違い、人間によって作られた体内にある魔力そのものを使った魔法……それが「無」の魔法だ。

種類は数百にも及び、未だ知られていない魔法や新たに作られつつある魔法を合わせると、軽く千は超えると言われている。

現在もいろんな国の魔法学研究者が競うように「無」の魔法の開発を進めている。

と、「無」の魔法はこんな感じのものであるのだが、この紋章もどうやらそうらしい。


「でも、この紋章にはちょっとした特典もついていてね。危険を感知したり、魔力の消費を抑えたりっていう便利機能をつけて改良してあるの。それに、強制する力も機密情報を故意に漏洩したり、王を殺そうとしたり、反乱軍を作ろうとしたり……っていう、あらかさまな行為がない限りは発動しないわ。だから、普段はそんなに気にしていなくてもいいのよ」

「へぇ〜」


ただ、縛るものだと思っていたが、そんな機能も付いているのは予想外だった。

ルリア様の話に感心したように頷いて、まじまじと紋章を観察した。

どうやら、最低限の人権は保証してくれるようだ。


「さて、エディ君も改めて、私たちの一員になったということで、私とルーンが話していたことについて説明しましょうか」

「えっと、取り敢えず王子が狙われているというのはわかったんですが……」

「そうね、まずは『奴』について説明しましょうか」


「奴」は話を聞いている限りでは、王子を殺そうとしている存在らしい。

その危険人物について、僕は一言も聞き逃すまいとしっかりと耳を傾けた。


「『奴』は巷では『悪魔』と呼ばれている存在のことよ」

「悪魔、ですか?」

「そう。紅い目を持ち、見たこともない魔法を操る大量殺人鬼。それが、悪魔よ。性別も本来の名前もまだ何もわかっていないけれど、五年前のある事件を境目にウォルティに現れるようになったの。」


紅い目に見たこともない魔法、殺人鬼という明らかに不気味な存在を思い浮かべて、僕は身震いした。

まさか、この平和だと言われていたマリアンにそんな恐ろしい奴がいるなんて思いもしなかった。

ルリア様の話はまだ続いていた。


「その五年前に起こった事件というのが、さっきからも何度か出てきていたヴェルエーヌ家の一家残虐事件よ。ヴェルエーヌ家、聞いたことない?」

「いえ、わからないです」


そんなに有名なのだろうか。

ルリア様は僕の返答が意外だったようで、あらと言うように首を傾げた。


「ヴェルエーヌ家はその事件が起こる前まではエーレル家と並ぶほど強力な貴族だったのだけれど」

「すみません。僕は世情には疎いもので」

「そうだな。エディは俺と会った時も、俺がエーレル家の者だと気がつかなったしな」


とはいえ、エーレル家の名やその大きさまでは知っていた。

その家にいる娘の名がフィラ・エーレルだということも、顔がわからなかっただけであって、知っていた。

だが、ヴェルエーヌ家というのは全く聞き覚えがなかった。

いくら僕が病を患っていたとしても、それくらい強力ならば、貴族の常識として知っていたはずだ。

なのに、どうして。

僕自身、わからないという事実に首を傾げていると、ルーンがさりげなくフォローしてくれた。

いや、フォローというよりは、少し皮肉も混じっていたが。

ルリア様はなんとなく事情を察したらしい。

それ以上の追求はせずに、ヴェルエーヌ家について説明してくれた。


「ヴェルエーヌ家は五年前、何者かに家族全員を殺されてね。その時の当主はもちろん、その夫人や子供、召使いまで一人残らず殺されていた。私も初めて現場を見た時、その凄惨さには目を疑ったわ。みんな粉々にされていた。もう誰かもわからないような、肉片に成り果てていた。当主の娘、ミルネ・ヴェルエーヌは幸い、原型は止めていたけれど、生きてはいなかった。」

「なんて……」


それ以上はもう言葉が出てこなかった。

なんて、ひどいのだろう。

殺すにしたって、そこまでしなくたっていいじゃないか。

絶句する僕の隣で、ルーンも当時のことを思い出すように苦々しげに語った。


「そのミルネ・ヴェルエーヌは俺の幼なじみだった。小さい頃は俺とシャロンと彼女の三人でよく遊んでいたものさ。彼女はとっても面倒見が良くてな。俺は当時、やんちゃばかりしていて、反対に女々しかったシャロンと怒られっぱなしだった。とはいえ、自分の地位に三人とも窮屈さを感じていたせいか、すぐに仲良くなった。でも、俺は二人の間に後から入れてもらった身だ。俺よりもシャロンの方が当時はショックを受けていたに違いない。なにせ、婚約者だったんだから。俺には計り知れない辛さがあったことだろう」

「ルーン。」


そうはいっているが、ルーンも相当ショックだったに違いない。

彼女は怒りからか、悔しさからかはわからないが、肩を僅かに震わせていた。


「それだけじゃない」


まだ、あるのだというにだろうか。

悪魔という奴はどれほどの人を悲しませれば気がすむのだろう。

まだその現場を目にしていない僕でさえ、気分が悪くなったというのに。

もう、本当に狂っている。

悪魔という名が相応しいだろう。


「俺の師匠も殺されたんだ。それも、今までで一番残虐な方法でな。」


ルーンはそのエピソードも語ろうとするが、これ以上の言葉が出てこないようだった。

必死に歯を食いしばって、溢れ出す感情を押しとどめるので精一杯のようだった。


「すまん。これ以上は無理だ。でも、わかっただろう? 俺がこの事件にこだわっていた理由」

「うん。もう十分に伝わったよ。ありがとう、辛いはずなのに話してくれて」

「いや、いいんだ。悪魔の恐ろしさが伝われば、お前の二の舞は避けられるかもしれないだろう?」

「うん。僕も気をつけなきゃね。ヴェルエーヌ家という名すら知らないけど、今回のルリア様の話じゃ、その危険もあるかもしれないってことだろうしね」


そこで、ルーンの背においていた手を離すと、ルリア様に向き直った。


「今回、このことを話したのは用は、僕たちに王子を守れということを言いたかったのでしょうね」

「ええ。そうよ。本当に危ないものだし、私も心苦しいのだけれど、貴方達に行ってもらうしかないの。今、王子は外交のために他国にいる。そこへ行って、シャロン王子を守って欲しいの」


ルリア様は本当に苦しげだった。

でも、彼女の立場上、そう言わなければならない。

それが、彼女に課せられた重い責務なのだから。


「わかりました、行きましょう」


何よりも、ルーンをこれ以上この事件に関わらせたくはなかった。

聞いている限り、彼女はたくさんのものを悪魔に奪われている。

彼女の独白にあった「色々」はもしかしたら、このことなのかもしれなかった。

そうだと思った以上、もうこの事件は僕も無関係ではない。


ルリア様はハッキリとそう告げた僕に、微笑ましいものを見るような視線を送った。

そして、笑顔で頷いた。


「任せました」


運命の歯車は音をたてて回り始めた。

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