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大きすぎた力の代償


「あーあっ、なんてかたっくるしい儀式なのかしら。あんなの疲れちゃうわ。」

「ルリア様、一応大切な儀式ですし、そのようなことを口にするのはどうかと。」


めんどくさそうに言ったルリア様の言葉を、ルーンは困り顔でたしなめる。

しかし、マイペースな彼女は一切、聞く耳を持たなかった。

めんどくさそうに手をヒラヒラと振って、ため息をつく。


「はぁっ、いいのよ。もう終わったことだし。」

「とは言いましても……。」

「もう、ルーンは真面目ねぇ。」


隣ではルーンとルリア様が他愛もない会話がかわしていたが、僕はというとそれどころではなかった。

ここはRMK本部内にあるルリア様の部屋……なのだが、その部屋は恐ろしいまでに散らかっていた。

何百冊という本がいたるところに積まれ、ペンやらお菓子の包み紙やらがカーペットの上に散乱している。

それだけではない。

小銭や服などまで落ちており、人を入れるにはふさわしいとは言い難い有様だった。

僕はそんな部屋を見て、思わず呆然としてしまった。

こんなに散らかっている部屋は初めて見た。

片付けがあまり得意ではない僕でさえ、ここまでにはなったことがない。


ルリア様はそんな部屋の隅にあるソファにだらしなく寝転がり、僕達二人を迎えた。

この部屋を片付けようという気は全くないらしい。

僕はその部屋のあまりの散らかりように入るのを躊躇っていると、ルーンが慣れた様子で中へと足を踏み入れていってしまった。

そうなっては僕も着いていかないわけにはいかず、慌てながらも、慎重な足取りで部屋に入った。

案の定、部屋の居心地はいいとは言えない。

しかし、戻るのも失礼にあたるので、何も言わずにルリア様の前に歩みを進めた。


「まぁ、適当に座ってちょうだい。ちょっと散らかってるけど。」


とは言われても、座れるような場所なんてどこにもない。

大体、散らかっているのもちょっとどころではない、という言葉をなんとか飲み込んで、僕はあたりを見渡した。

ここで下手に何か言って、魔法をぶっ放されても困る。

すると、丁度ルリア様の向かい側にたくさんの本が積まれたソファを見つけた。

あそこなら少し片付ければ座れるかもしれない。

ルーンも同じことを思ったらしく、二人で本をよけていった。

なんとか、二人が座れるくらいのスペースを確保すると、そこに腰を下ろし、ようやくルリア様と向き合う。


「悪いわね。ろくに座る場所もなかったようで。」

「いえ。気にしてませんから。」


とはいいつつも、ルリア様には相変わらず悪びれる様子もない。

ルーンもそれをわかっているのか、何も言わなかった。


「で、話というのは?俺はともかく、エディも連れてこいとのことでしたが。」

「ええ、今回はエディ君に話があって、来てもらったの。ルーンも一応、知っておいた方がいいと思ったし。」

「僕に、ですか。」


一体、まだ青バラに入りたての新人騎士に何があるというのか。

残念ながら、見当はついていた。


「僕の魔力のことですか。」

「あたりよ。君が魔力を手に入れた経緯についても、もうルーンに聞かせてもらったわ。信じられないことだけど、どうやら本当のようね。私が全力で放った魔法も防いでみせたし。……って、そんなに睨まないでちょうだい。悪かったと思ってるわ。」


非難めいた視線を向けていると、ルリア様は困ったように笑った。

さっきルーンがたしなめた時とは反応が違うので、一応彼女なりの反省はしているらしい。

僕もいつまでも睨みつけているわけにもいかず、すみませんと一言ことわって視線を緩めた。


「まぁ、とにかく話を進めさせてもらうわね。ひとつ、質問させて欲しいのだけれど、君が騎士になった理由について、教えてくれない?」

「……言わなくては駄目ですか?少々、恥ずかしい理由なのですが。」

「出来れば言ってほしいわね。大丈夫よ、誰にも言わないから。けど、返答次第では少し強引に探らせてもらうわよ。」


これは言え、ということなのだろう。

脅しをかけているあたり、僕を警戒しているようだった。

しかし、それも仕方のないことだ。

僕はレベル5の力を持っている。

自由に魔法が使える者が少ないこの世界において、僕の存在は一種の「兵器」といってもいいだろう。

それくらいに危険なのだ。

突然に手に入れてしまったこの力は。


「話します。僕にこの国と敵対する意思はありませんから。」

「ありがとう。では、聞かせてもらおうかしら。」

「はい。」


僕はそこで、ひと呼吸おいた。

そして、少し顔を赤らめながらも正直に答えた。


「……守りたいものがあったからです。」

「守りたいもの?」

「大切な人たちとその人達との約束を守るために僕は青バラに入りました。今はまだ、何も果たせちゃいませんけど、いずれはその約束を果たせるよう、大切な人を守れるほど強くなれるよう願ってこの名誉ある騎士団に入ろうと思った次第です。」

「模範解答ね。そう思うようになったキッカケは?」

「……ある人と出会ったからです。」


そこで、何と無くチラリとルーンを見た。

すると、同じタイミングでルーンもこちらを見て、目が合う。

思わず気恥ずかしくなって、慌ててルリア様に向き直ると、ルリア様は何かを悟ったのか、ニヤニヤと笑っていた。


「ふーん、なるほどねぇ。若いっていいわよね。」


あきらか、何かを勘違いしている。

その間違いを訂正しようと口を開いたのは、ルーンが先だった。


「そっ、そんなわけないでしょう!俺たち、ただの友人同士ですから。」

「あらあら、恥ずかしがらなくていいのよ?私も40近いけれど、一応女なのだから。なんだって、相談してちょうだいね。」

「だから、違いますっ!大体、俺は色恋沙汰よりも剣を振る方が似合う性分なものでっ。」


いつもは冷静なルーンが、珍しく取り乱していた。

頬をやや赤く染め、必死に否定している。

こうして見ていると、彼女も年頃の少女なのだと感じさせられた。

僕はそんなルーンの様子にクスリと、笑みを零した。


「お前も何笑ってるんだ。」

「いや、ルーンもこうして見ると、普通の女の子なんだなって。」

「ううっ、お前って奴は。そういうことを言うと、余計に怪しまれるだろうが!」


そういうものなのだろうか。

僕はこういうことに関して、どちらかというと疎いタイプなので良く分からない。

首を傾げていると、ルーンは呆れたようにため息をついて、ソファにもたれかかった。

小さく笑みを浮かべていることから、怒っているわけではなさそうだが、僕に呆れているようだった。

呆れられたところでどうすればいいかも分からないのだが、これが「乙女心」というやつなのだろう。

そこまで深くは追求せずに、ルリア様に向き直った。


「あら、痴話喧嘩はもうよろしいかしら。」

「ルリア様、からかわないで下さいよ。それはともかく、話ってなんですか?」

「ああ、そうね。すっかり忘れてたわ。話さなきゃね。」


相変わらずのマイペースさだ。

しかし、それにも慣れてきたせいか、もう呆れることすらできない。

そのペースに合わせて話を聞くことにした。


「まずは、おめでとうと言わせてもらうわ。青バラはこの国、最強の騎士団。よく入れたわね。」

「ありがとうございます。」

「さて、君は青バラであるという、かなり貴重な存在であるけれど、それだけじゃないのは貴方もわかっていることでしょう。君はこの国で七番目のレベル5よ。生きているなかでね。」

「……はい。」


その言葉にこの力の凄さを再び痛感する。

手に入れてしまった瞬間はそこまで深く考えることはできなかったが、あれから一ヶ月が経ち、ようやくその認識も間違っていたことに気がついた。

そのことに少しの不安を覚えて、情けない事に声が僅かに震えた。


「君もこんなに恐ろしい力を唐突に手に入れてしまって、さぞ不安に思っているでしょう。けど、私はそんな君に言わなくちゃならないことがある。聞いてちょうだい。」


ルリア様はそっと悲しげに目を伏せた。

今まで傍若無人に振舞って彼女からは考えられない程の真剣な表情に、僕は居住まいを正し、固唾をのんだ。


「君はきっと、狙われることになる。望んで手に入れたわけではないその力を疎まれて。」


わかっていたはず、だった。

なんとなく、予想できていた。

でも所詮、その「つもり」だった。

ルリア様の言葉は思っていた以上に重く、僕の心を「不安」という名の鎖で縛り付けた。

怖い。

純粋な恐怖を覚えたのはいつ以来だろう。

しかも、こんなに大きな恐怖に。

僕は震えの止まらない手を握り込んで、それでも言葉の続きを待った。


「でも、私達は君を簡単に死なせたり、他国に取られたくはない。それはこの国を守るためでもあるけど、私には純粋に同じ境遇の仲間を見殺しにはしたくないという思いがある。この後のことを聞けば、そんなこと、綺麗事にしか思えないと思うけど、この話の先を聞く覚悟はあるかしら。」

「続けてください。」


怖いと感じているのに、僕はその答えに迷わなかった。

自分でもびっくりするような、ハッキリとした声が出た。

ルリア様もそのことに驚いたのか、軽く目を見開いた後、頷いた。


「そう言うのなら、言いましょう。君にはこれから、国のために動いて欲しいの。この国の平和のために、動いて欲しい。もちろん、青バラの騎士で有ることと同等の意味ではない。それよりも、もっと重くて、厳しいものよ。この国の駒になれば、きっと君は後悔するでしょう。こんなことしなくてはならないなら、こんなことを知らなくちゃならないなら、と思うことでしょう。しかし、君に用意された道は二つにひとつよ。何処かの国の駒となるか、死ぬか。」

「……。」


何も答えられなかった。

選ぶべき答えも、何をすべきかも理性ではわかっている。

けど、そんな重い選択肢を突きつけられて、そう簡単に答えられる訳がなかった。


「すぐに選べ、とは言わない。私もその辛さを知っているから。まだ、貴方の力のことを知っている人物もほんの一握りだし、急かされることもない。だから、少し時間をあげましょう。一週間後、もう一度ここに来なさい。その時に答えを聞くわ。……でも、いい答えを期待しているわ。」

「……はい。」


僕はその時、頷くだけで精一杯だった。






どうしてこうなってしまったのだろう。

僕は夕焼けに照らされ、オレンジ色に染まったRMK本部を振り返って、そんなことを思った。

今だに信じられない。

こんな選択をさせられることになってしまったなんて。


「エディ。」


隣からはルーンが心配そうな声をかけてくるが、僕はその場で足を止めたまま、動かなかった。

ルーンも足を止めて、僕と同じように大きな屋敷を見上げる。

そして、ポツリと言った。


「辛い……よな。こんないきなり、重い選択をさせられて。唐突に手に入れてしまった力のせいで。」

「うん。正直、今は物凄い不安だ。もう、どうなってんだか、わからないよ。」


情けないよね、と自嘲気味に笑うと、ルーンは首を振った。


「そんなことない。誰だってそうなるさ。俺だって、そうだった。」


そう言われて、今更ながらルーンもこの選択をさせられたのだと、気がついた。

自分のことで一杯一杯で、そこまで気が回らなかった。

しかし、ルーンは懐かしそうに目を細めて、優しく言う。


「あの頃の俺はもっと弱かった。そりゃあ、もう。今よりずっとな。何より小さかった。その選択を迫られた時、俺は八歳だったんだからな。」


残酷だ。

十六の僕でさえ、こんな選択を迫られて辛い思いをしているのに、彼女はそれを僅か八歳のときに経験しているのだ。

そんなの、酷すぎる。

力を手に入れたのはただの偶然だというのに。

にも関わらず、ルーンは笑顔を浮かべた。


「でもな、俺はこうやって駒になってでも生きることを選んだよ。だって……。」

「だって?」


「……なぁ、お前の一週間後、ここに来る前の時間、空いてるか?」

「えっ。あっ……ああ。空いてるけど。」


ルーンの答えを聞こうと期待していたのに、唐突に話を変えられて、戸惑った。

答えながらも首を傾げていると、ルーンは相変わらず答えないまま、満足げに頷いた。


「よし、じゃあ。その日は俺のうちにこい。場所は王城に近いし、すぐにわかるだろう。」

「えっ、じゃあ僕の質問は?」

「その時に答えるよ。その前にお前も考えるんだ。それに、そのことをご両親にも相談しなきゃなんないだろ。」


ルーンはそう言って、トンッと軽く、僕の背中を叩いた。

まぁ、確かにそうだが、聞けばもうすこし悩まずにいられるかもしれないのに。

と不服に思いながらも、不躾に聞くこともできなかった。

彼女だって、こんな選択を迫られたのだ。

そして、その記憶は嫌なものに違いない。

そんなものを思い出して、言うのには心の準備がいるのかもしれない。

ここは何も言わずにルーンの言葉に従うことにした。


こうして、僕は眠れない一週間を過ごし、ついに決断の日を迎えたのだった。

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