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青きバラの騎士団〜氷姫と守護者の英雄譚〜  作者: 卯月 桜華
青いバラの紋章を刻む者たち
3/65

旧知の仲

「ふむ、なかなかうまいな。」

「あっ、ああ。結構イケるだろ?」


と返しながらも、つい目がいってしまうのはズボンのポケット。

その中には、寂しいくらいのお金しか入っていない。

今日こなした任務の報酬が入ればかなりマシになるだろうが、そうもいかないらしい。

この女、よく食べるのだ。

見た目は華奢なのだが、その体のどこに入るのかというほどよく食べる。

すでにテーブルの上には十枚もの皿が積み上がっていた。

これではせっかくの報酬が全てパーだ。

まぁ、ルーンが助けてくれなければ今頃はあの世行きだったのだから、何も言えないのだが。


「にしても何だ。お前、貴族なんだろ?名字持ちってことは。」


ようやく腹を満たしたのか、手を止めて息をつくルーンはそう切り出してきた。

一瞬、頷くかどうか迷ったのだが、森にいた時も聞いてこなかったのだから、今回も詮索してこないだろう。

そう思って頷くと、ルーンは「そうか。」とだけ呟いて、窓の外に視線を向けてしまった。

結局、何が言いたかったのかイマイチ分からなかったのだが、逆に聞かれても困る。

素直にそこは納得しておくことにした。

取りあえず、支払いを終えようと、席を立つと、ルーンは驚いたように僕を見た。


「何をしに行くのだ?」

「何って…お金を支払いにだけど?」


突然そう聞かれて、思わず「ハァッ?」と言いそうになるのを必死に堪える。

驚きたいのはこっちだ。

食べたら、金がかかる。

これは酷く常識的なことではないか。

そう思っていると、ルーンは荷物をまとめていた。

不可解な行動に、ようやくルーンが何をしようとしているかに気がつく。

荷物から出したのは、財布だ。


「俺が払うよ。こんなに食べてしまったしな。」

「えっ…そんな。別に構わないよ。君は命の恩人だし。お礼だよ。」

「でも、お前は見習いなのだろう?貴族といえど、お前には事情があるようだしな。見習いの収入などたかがしれてる。懐は温められる時に温めておいた方がいいぞ。」


妙に説得力のある言葉だ。

もしかしたら、本人は何か経験したのかもしれない。

断り続けるのもなんだか悪いような気がして、ついには頷いてしまった。


「まぁ…そういうことなら。」

「いいぞ。先輩のアドバイスは心して聞くもんだ。」


ルーンは満足気に笑うと、ポンと僕の頭を軽く叩いてお金を払いに行った。

何だか同い年位なのに、僕が弟みたいだ。

そんなことを考えているうちに、ルーンはすぐに戻ってきて、店を出る。

外の通りはさすが首都ということもあって、とても賑わっていた。

そう。

ここは通称「水の庭園」とも言われるほど、綺麗な水で有名な国、「マリアン」。

そして、中でも城の立つ首都、「ウォルティ」だ。

綺麗に舗装された石畳の上をカラカラと荷車が行き交い、物流も盛んだ。

人々の顔は常に活気で満ちている。

ここは何年もそうだ。

幸せで平和な国。


「ご馳走様。とっても美味しかった。」

「構わない。ところで、お前はこれから何処へ行くのだ?ドラゴンにやられそうになっていた時、隊長の名を叫んでいた気もするのだが、何処かの騎士団にいるのか?」

「うっ、うん。まぁね。仮入団したばかりだけど、『狼月夜の騎士団』ってとこにいる。でも、帰りにくいな。団長の警告を無視してあの任務を受けちゃったもんだから。」


あの時、警告を聞いとけば良かった。

という後悔が再び湧き上がってくる。

今、こうやって帰ったら、何を言われるのだろう。

何時間も怒鳴り散らされるのだろうか。

嫌な考えを巡らせながら、ルーンを見ると、驚いたことに納得したように頷いていた。


「なるほど。ジオスの所か。」

「団長のこと、知ってるの?」

「ああ、旧知の仲だ。」


ルーンは平然と言ってのけるが、僕は呆然とするばかりだった。

隊長も一つの騎士団の頭をはるほどの実力者だ。

普段は団員に顔を見せず、警告を受けたのだって、たまたまそこを通りがかっただけなのだ。

そんな人と、齢14、5の少女が親しいとはどういうことなのだろうか。


「どうだ、俺も行ってもいいか?久しく話もしたいしな。」

「うっ、うん。別にいいけど、団長となんて、どうやって知り合ったのさ?」

「まぁ、色々だ。」


そうやって、はぐらかすところがますます怪しい。

ルーンはこちらのことなど気にかけない様子で、スタスタと行ってしまう。

その背中を見て思った。

この人は只者ではない。

あの強さといい、知り合いのレベルといい。

あまりにも桁外れなのだ。


「どうした、来ないのか?」


そんなことを考えているうちに、いつの間にかルーンとの差が開いてしまっていたらしい。

ルーンは怪訝そうな表情で此方を見ていた。

僕は慌てて駆け出すと、ルーンの隣に並んだ。

そして、騎士団の本部への道を歩き始めたのだった。





コンコン


「失礼します。」


今まで一度も入ったことの無い、団長室。

それを前にしてドキドキと胸の高鳴る気持ちと、団長の警告を無視してしまった気まずさが混ざり合って、複雑な気分だった。

それに反して、隣に立つルーンは憎らしいほど冷静だから、余計に緊張してくる。

そして、ドアが開くなり、ルーンは軽々と中に踏み込んでしまった。

こうなったら、いつまでも立っているわけにもいかず、僕も中に入る。

中は驚くほど豪華だった。

床は柔らかいカーペットが敷かれ、壁には美しい絵や、高級感溢れる宝剣なんかが飾られていた。

そして、中央の座り心地良さそうな椅子にもたれるは、威厳を放つ団長の姿が。


「おおっ、ルーンじゃないか!久しいな、元気にしていたか?」

「ああ、おかげさまでな。」

「うむ。ルーンも立派になったもんだ。俺があそこにいた時は、まだちびっこだったというのに。」


親しげに話す二人は、一見、親子のようにも見える。

こんなに和やかな雰囲気の中で、ビクビクしているのは僕くらいだろう。


「にしても、どうしてこんなところに…お前も忙しいのだろう?」

「いや、最近はそうでもないさ。平和すぎるからな。連中がサボらないかだけが心配だが…。で、ここに来た理由だったな。」


と、ようやく、団長は僕の存在に気がついたようだった。

すると、無表情のまま、僕の元に近づいてくる。


ポカーン


次の瞬間、気持ちのいいほどいい音がして、僕の頭に団長の拳が飛んできた。


「痛った〜!」


あまりの痛さにうずくまっていると、頭上からは団長の声が降ってきた。


「バカタレ!だから言っただろうが。お前一人では無理だと。」

「ごっ、ごめんなさい。」


必死に謝っていると、意外なことに救いの手を差し伸べてくれたのはルーンだった。


「まぁ、ジオス。そのくらいにしておいてやれ。エディも反省しているようだしな。」

「ルーン、迷惑をかけて本当にすまない。何かできることはないか?お礼がしたい。」

「ふむ。特には思い当たらんが…。そうだ、ジオス。お前と決闘がしたい。」

「決闘!?」


僕が思わず素っ頓狂な声をあげると、再び頭に団長の拳骨が降ってきた。

涙目になりながらも、ルーンをみやると、ルーンはコクリと頷く。


「勿論、寸止めで行う。だが、本気の勝負だ。技の使用も認める。いいだろう?久々に戦ってみたい。」

「ああ、いいだろう。受けて立つ。」


どうやら大変なことになってしまったようだ。




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