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プロローグ3

この回、少し残酷な描写を含んでおります。

お気をつけください。

「ふっ〜、あっついね。シャロン、少し休憩しない?」

「確かに暑いねぇ。じゃあ、あの木の下で休憩しようか。」

「うん!」


僕が彼女の案に賛成したことで、目の前の少女は輝かんばかりの笑みを浮かべた。

その眩しさは十二の月のうち、最も暑いとされる夕緑の月の太陽よりも眩しかった。

少女は青く長い髪をなびかせながら、大きな木の元へと走っていく。

僕はそんな彼女を眺めながら、額の汗を拭った。

やはり、ミルネは元気だ。

こんなに暑いのになんて元気なのだろう。


「おーい、シャロン。早く早く!」


少女、ミルネは木の下にたどり着くと、僕に向かって大きく手を振った。

ピョンピョンと飛び跳ねるその様子に疲れは感じさせない。

対照的に僕はグッタリと足を引きずりながらも、なんとか木の下へたどり着く。

その後は、そのまま座り込んでしまった。


「もうっ。シャロン、いっつもお城に篭りすぎなのよ。本ばかり読んでないで、ちょっとは外で遊ばなきゃ!」

「うっ……。わかってるよぉ。」


彼女の言うことは最もである。

最近は城に篭りすぎている。

もう少し体力をつける必要があるだろう。

だって、なにしろ。


「シャロン、将来は私のお嫁さんになってくれるんでしょ。そんなんじゃ、私のこと守れないじゃない!」


という約束をしてしまったのだ。

これを彼女は信じて疑わないし、僕もそのつもりである。

まぁ、今思えば幼い子供同士の約束に過ぎないのだが。

当時はそう思っていた。


「まぁ、いいわ。これから頑張ってくれればいいもの。ねぇ、シャロン。」

「なぁに?」

「悪い事、ってなんなのかなぁ。」

「えっ?」


急な問いかけに僕は正直戸惑った。

彼女は僕の隣に腰を下ろすと、僕の答えを待つ。

その横顔は10歳の少女とは思えないほど、大人びて見えた。

そんな真剣な彼女に、僕は迷いながらも答えを口にした。


「どう……なんだろうね。物を盗むとか……人の嫌がることをすること、なんじゃあないかな。」

「じゃあ、どうしても手に入れたい物がある時、犠牲が出てしまうのはイケナイこと?」

「犠牲?」

「そう。自分の欲望のために、他人を苦しめてしまうこと。その欲望がより沢山の人の為になるのなら、それも必要なことなんじゃないかって。」

「かもしれないね。けど、僕は嫌だなぁ。」


必要なのかもしれないけど。

と、続けてミルネの表情を伺う。

ミルネは僕の言葉を意外そうに聞いていた。


「だってさぁ、それで幸せを手に入れたって、全然嬉しくないだろう?それが例え、必要なことだったとしても。」

「そう……そうよね。やっぱり、いい事ってわけじゃあ、ないよね。」

「でも、なんで?どうしたんだよ、急に?」

「ううん。ちょっと聞いてみたかっただけ。深い意味はないの。」


そう言って、笑顔を見せたミルネ。

しかし、それは取り繕っているようにしか見えない。

その言葉を真実として受け取ることは出来なかった。

でも、それ以上に、ミルネの表情は痛々しくて。

深い追求は彼女を傷つけてしまうような気がした。


しばらく、沈黙がおりた。

何か話さなきゃ、と思うのになんと言えばいいのかわからず、口を開いては閉じてを繰り返した。

その間、ミルネも何も言わず、太陽を見上げて眩しそうに目を細めていた。


そうして、どれだけの時が経っただろうか。

長い沈黙を打ち破ったのはミルネの方だった。


「あ、あのさ!」

「ふっ、ふあっ!なに?」


あまりに唐突に大声で話しかけてきたものだから、僕は驚いて情けない声をあげてしまった。

ミルネは赤い顔をして、もじもじとしていたが、何か意を決したように口を開いた。


「あのっ……あのね。お嫁さんにしてくれるって約束にさ、もうちょっと約束を付け足してもいいかな?」

「いっ、いいけど。」

「……もし。もしもだよ。私がね、いなくなっても悲しまないでほしいんだ。約束して?」

「えっ、それどういうこと?」


まさか、遠いところへ行ってしまうのだろうか。

僕がショックを受けていると、ミルネは僕の手をギュッと握ってきた。


「ねっ、お願い。」


それは僕に縋ろうとしているようだった。

目にはかすかに涙を浮かべ、身を寄せてくる。

嫌だ。

君がいなくなるなんて。

本心ではそう叫びたかった。

でも、これ以上彼女に辛そうな顔をさせているわけにもいかない。

僕の中では凄まじい葛藤があった。

その中で、出した答えは。


「わかった。わかったよ。」


肯定、だった。

だって、行かないで欲しいというその思いは、僕のワガママにすぎないのだ。

彼女がそうと決めたのに、僕の自分勝手な意思で困らせるわけにはいかない。

と、わかっていたから。

彼女を想うのなら、これが最善策だと知っていたから。


「ありがとう。」


しかし、この約束を数年後、後悔することになるなんてこと、知る余地もなかった。





僕はそんな夏の日の思い出を刹那、思い出していた。

あたりは炎に包まれ、黒い煙が視界が覆う。

熱が肌をジリジリと焦がす中、僕はある扉の前に立っていた。


「ミルネ。」


愛しい人の名をカラカラにかわいた喉から絞り出す。

ああ、探さなきゃ。

あの青髪の少女を。

まだ、お別れするわけにはいかない。

君が言った、「もし」があってはならないのだ。


もう何度だってこの扉の先にある悲劇を見てきたはずなのに、僕は操られるように扉に手をかける。

遠くではそれを止めようとするもう一人の幼馴染の声が聞こえているというのに、この手は扉を押し開けた。


「……っ!」


扉を開けた先に見えたのは一面の赤だった。

炎の赤。

零れるワインの赤。

そして、「血」の赤。

僕が探し求めていた少女もまた、その赤の中で横たわっていた。


「ミル……ネ。ウソ、だ。」


僕はもつれる足を懸命に動かして、少女の元へ駆け寄った。

しかし、彼女はそれに応える様子もなく、ピクリとも動かない。

彼女を揺り動かそうとして、ふと彼女の腹部に目がいった。

そこには深々とナイフが突き刺さり、赤黒いシミが広がっていた。


「うっ……わぁ。」


思わず口元を抑えて、ギュッと目を瞑る。

嫌だ。

こんなのは受け入れられない。

きっと、きっと何かの悪い夢だ。

昨日まで自分に笑いかけてくれていた少女がいなくなってしまっただなんて、信じられない。

だって、これまで僕は君を守る為に頑張ってきたのだ。

あの約束を交わした二年前から。

なのに、こんなのって……。


「シャロン。」


そんな時だった。

聞き覚えのある声が耳に届いた。

僕は思わず目を開けて、もう一度ミルネを見た。

動かなかった彼女は今、かすかに目を開けていた。

痛く、辛いはずなのに、笑顔を浮かべていた。


「ミルネ!」

「ゴメン、ごめんね。約束、お嫁さんになる……って。守れなく……なっちゃった。」

「何言ってんだよ!なってくれるんだろう?死ぬな!お願いだ、死なないでくれ。」


必死に懇願するものの、彼女の呼吸は苦しげで、もう助かりそうにないことは誰の目にも明らかだった。

今、こうやって会話ができていること自体、奇跡に近かった。


「シャロン。あの…ね。もうひとつ、約束……したよね。悲しまない……そう言って、くれた。」

「ゴメン、無理だよ。君がいなくなっちゃ嫌だ。王にだってなれない。」

「相変わらず……ダメだなぁ。シャロンは。物語じゃあ……そんな王子様、いないよ?」

「ああ、ダメな王子だ。だから、君にいて欲しい。」

「……ごめんね。もう……無理、みたい。だから……最後に聞いて?ワガママ……私の、最後のお願い。」


目の焦点がもうだいぶ合っていなかった。

握った手も徐々に冷たくなっている。

それでも、彼女は言った。


「守って……これ以上、私や……シャロンみたいなひとを……ださないように。きっと、悪魔は……。」

「悪魔?一体……。」

「あの子は……全てを……壊す。私のことも、わからなく……。守って……この国を……。君なら、出来る。」

「ミルネ!待ってくれ。いくなっ!」


クタリ、彼女は首を横に向け、それきり動かなくなった。

薄く開いた目ももう、何もうつしていない。

死んだ。

ミルネ・ヴェルエーヌが死んだ。

それを受け入れることは出来なかった。

信じたくはなかった。


「うわぁあああああっ!」


ただ、狂ったように叫び、その事実を拒んだ。

愛しき彼女がいなくなってしまった。

王家に生まれ、大人から過度な期待や嫉妬ばかりを受けてきた僕にとって、その例外たるミルネの存在はあまりにも大きすぎて、その彼女の死は受け止めることが出来なかった。

周りが炎に囲まれて、天井が焼け落ちてきても、僕は彼女の遺体から離れられなかった。



結局そのあとどうやって助かったのか、何も覚えていない。

助かった後もただ、抜け殻のような日々を過ごした。


そうして、ようやく彼女の死を認識することができたのは、それから三年も後のことだった。

残酷描写ありのタグをつけた方がよろしいいのでしょうか?

ご意見があれば、是非お願いします。

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