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黄昏の草原 〜馬術3〜

僕は頭で考えるよりも早く、リリアを一直線に走らせていた。

それを三つの視線が追いかけてくる。

このままだとマズイ。

僕の中の第六感がそう告げていた。


しばらくそのまま走り続けていると、ふと、背後に三つの影が現れた。

三人は並行に並んで走っていた。

互いの存在に気がついているはずなのに、戦おうとはしない。

三人は間違いなく僕に向かって、一直線に近づいてきていた。

それを見て、僕はその三人の意図に気がついた。

そして、小さく舌打ちする。


「協力してるのか。三対一という、有利な状況に持ち込むためにっ……!」


嫌な予感は的中していたのだ。

三対一。

それはどう考えてもとても不利な状況だった。

なにしろ、取り囲まれれば、もう逃げ場はないのだ。

三方向から突き刺されて、終わり。

上手く立ち回れなければ、失格になってしまうのが目に見えた。


けど、そんなのはごめんだった。


「だって」


これはもし戦争にでもなれば、起こりうる状況なのだ。

僕は自分にそう言い聞かせて、己を奮い立たせる。


この状況を打破できなくてどうする。

これを打破できなきゃ、戦場では命を落とすことになるんだから。


僕は必死に思考を巡らせ、打開策を練ろうとした。

とにかく逃げ続けていてもしょうがない。

何か、仕掛けていかなければ、ただのジリ貧だ。

僕は大体の考えを纏めると、一旦リリアを止めた。

そして、今度は三人に向かって、一気に突っ込む。

相手は今まで逃げ続けていた僕が急に突っ込んできたことに驚きながらも、その顔には笑顔を浮かべていた。

取り囲むチャンスだと思ったのだろう。

彼らは三方向に分かれて、側面と正面から僕を挟みこもうとした。


が、僕は彼らと接触する寸前、進路を大きく左方向に変えた。

その時、左側面から挟む予定だった受験者に一発攻撃を仕掛けて、馬から引きずり下ろす。

相手は完全に油断し切っていたようで、微かな抵抗を見せるものの、呆気なく青い光となって消えて行った。


まずは一人目。

合計三人目を撃破だ。


「なっ……なに!」


残った二人は、一人が消えたことで、笑みを消した。

代わりに真剣な表情で、僕を睨みつけてくる。

僕はその睨みに怯むことなく、剣を握る手に力を込めた。

一人倒したとはいえ、まだ僕の劣勢は変わらない。

気を抜くのはまだ早かった。


「野郎ッ!」


今度は二人一斉に真正面から襲撃してきた。

力で押し込むつもりだろうが、剣筋が見え見えだ。

こちらが思っているよりも、彼らは先ほどの男の失格に動揺しているのかもしれない。

僕は片方の男の攻撃を弾き返し、もう片方の攻撃をリリアを動かすことで避ける。

すると、攻撃を外した方が大きくバランスを崩した。

それを僕は確実に仕留めて、残る一人に意識を集中させる。

最後の男は、危険と判断したのか、一度距離をとった。


「やるな、お前」

「おや、一人目の人が落ちた時には動揺していたわりには、今は落ち着いてますね」

「当たり前だろう。お前には感謝してるぜ。俺は奴らより順位を上げることが出来たんだからな」


ニヤニヤ笑いを浮かべる男に、僕は冷ややかな視線を返す。

それでも、彼は涼しい顔で受け流した。

どうやら、やられた男達に対してなんにも思っていないようだった。


「さてさて、お前をそろそろ馬から引きずりおろさなきゃなぁ。残念だが」

「落ちるのはどっちなんでしょうね」

「生意気いうなよ、ガキが!」

「汚い言葉は、青バラにふさわしくないんじゃないですか!」


突進してきた彼の攻撃を僕はあえて迎え撃つ。

体格差を考えて、不利な状況になるのは想定済みだが、ここは競り合った。


「悪りぃな、ボウズ! 魔法も使えねぇ今は、大人の俺の方が有利なんだよ!」

「そうですね」

「生意気もそれまでだ」


相手は一気に体重をのしかけてきた。

剣はギリギリと押され、僕側に傾いてくる。

でもっ!


「あなたの汚い言葉使いもここまでになりそうですよ」

「はっ? 強がりも大概にしな。これ以上は惨めなだけだぜ」

「じゃあ、強がりかどうか、待機ポイントに転送されたら、じっくり考えてみてくださいっ……と!」


僕は競り合わせていた剣を外すと、落ちてきた剣にもう一度剣をぶつけた。

落ちる剣の起動は僅かに変わったものの、このままだと直撃する。

そこで、僕は身を屈めた。

そして、身の動きで剣をかわすと男の懐に拳を入れた。


「ぐはっ!」


お世辞にもパワフルとは言い難いパンチ。

だが、これでも僕だって男だ。

それなりの力を持った拳は見事に男の無防備な腹に突き刺さった。

攻撃が外れたせいでバランスも少し崩れていたところに入ったパンチは、男を馬から引きずり下ろすには十分だった。

三人目の男は苦しげな表情のまま、青い光に包まれて消えていった。

僕は男を殴った反動でバランスを取り直すと、フッとため息をついた。

なんとかあの不利だった状況を完全に打破することが出来た。


「おじさん、武器は剣だけじゃないってことだよ」


消えていった男に言葉が届いてるわけないのに……。

と冷静さを取り戻しつつある頭で思っていると、段々、今までの強気な言動が恥ずかしくなって、自虐的な笑みを浮かべた。

どうしてこう、戦いになると熱くなるのだろうか。

自分でも普段との違いに驚くほどだ。


僕は考えるのをやめて、あたりを見渡した。

もう残りはかなり少ない。

僕を入れて、5、6人だろうか。

もう、ここまで来てしまった。

アリエの姿ももちろんあり、今は男二人を相手に圧倒していた。

相変わらずの無双っぷりだ。

他の場所でも一対一の対決が行われており、現在は僕を見ている相手はいない。

だが、それもアリエが試合を終えるまでのことだった。

しばらく休憩するつもりで、もう一方の試合も気にかけつつ、アリエの試合観戦をしていたのだが、その試合はあっという間に決着が着いてしまった。

勝者はアリエ。

僕は呆然とアリエの姿を見つめていた。

なにしろ、たった三十秒足らずで、二人を失格に追い込んだのだから。


その後も僕はアリエから目が離せなかった。

すると、アリエもこちらの視線に気がついて、振り向いた。

視線がぶつかり合う。

その表情は真剣そのもので、強気な瞳が「負けない」と言っていた。

あの、剣術で戦った時とは違う、初めから敵意がむき出しのアリエ。

もう「しょうがないわねぇ」と呆れ顔で言う、アリエとは違った。

ただならぬ雰囲気が感じられて、僕も気を引き締める。

そして、同じ意を向こうにも伝えた。

負けたくない。

それも二度、同じ相手に。


次の瞬間、戦いは始まった。

互いに相手をめがけて、全速力で駆け出す。

僕は剣を抜きながら、再び強気に戻った自分のことを考えていた。

異常なまでの興奮と、勝ちたいという意欲。

それが今の僕を駆り立てている原因だった。

けど、だからといって、冷静さを欠いているわけでは全くない。

むしろ、冷静すぎるほどに冷静で、相手をいかに倒すかを常に考えていた。


やがて、そんな僕とアリエの剣がぶつかり合った。

僕はひたすらに戦った。

アリエの攻撃に魔力を使っていた時ほどの威力はない。

しかし、相手の急所を的確に狙ってくる、素早い攻撃は健在だった。


「ねぇ、エディ」


僕が必死にアリエの攻撃をさばいていると、不意に声をかけられた。

僕は油断なく、剣を弾き返しながらも、顔を挙げた。

すると、そこには優しい笑みを浮かべたアリエがいた。

先ほどの闘争心をむき出しにしていた彼女からは想像ができない位に、穏やかな笑みを浮かべた彼女に僕は一瞬、油断しそうになる。

だが、決してそれを狙っての攻撃はしかけてこなかった。


「ねぇ、エディ」

「なに……?」

「やっぱり、あなただ」

「えっ?」


この時はまだ、この言葉の意味を理解できなかった。

次の瞬間、際どい突きが入って、それを必死に防御することで、精一杯だった。


そうして、試験は間も無く終わりを迎えようとしていた。

黄昏の草原は夜を迎えようとしていた。

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