表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/65

眠い朝と愛馬 〜馬術1〜

「これより、二日目、馬術の試験を始める。」


ルーンの女性にしては少し低めの声が、朝の広い草原に響き渡ると、受験者たちの間には緊張感が張り詰めた。


今、僕たちがいるのは、ウォルティから少し離れたところにあるフォーロ草原。

ここが今日、二日目の試験会場である。

先程までは、朝早くに叩き起こされたせいで不機嫌そうにしている者や、眠そうに目をこすっている者が多かった。

しかし、今はそんな雰囲気から一転。

ルーンの声が合図になったのか、皆は既に気合十分で、殺気だっていた。


だが、そんな中で。


「ふぁ〜あ。眠い」


僕はというと、まだ目をこすっていた。

というのも、昨日は全くと言っていいほど眠れなかったせいである。

その理由は、やはり昨晩のことで。

あの突き放すような、冷たいルーンの表情が忘れられなかったのだった。

ベットに入ってうずくまっていても、その表情が頭から離れず、とうとう朝を迎えてしまったというわけだ。

意識は朦朧としていて、このまま馬に乗っても落馬してしまうことは目に見えている。

それがわかっていても、どうしても睡魔には勝てないのだった。


「では、ルールを説明する」


ルールか。

聞いとかなきゃな。


しかし、分かるだろうか。

説明されている最中ほど、眠くなってしまうのだということを。


ああ、もうダメだ。

眠い、眠すぎる。


とうとう、聞くことを放棄して、寝てしまいそうになる……その時だった。


バッシーン!


「いったぁ!」


突如、誰かに思い切り背中を叩かれて、僕は飛び跳ねた。

眠気も忘れて、大声で叫ぶ。


「もう、バカね!」


背後を振り返ってみれば、そこにいたのはあの女騎士、アリエだった。

彼女は仁王立ちして、あきれ顔で僕を見つめていた。


「アッ、アリエさん!?」

「アリエで良いわ。にしても、あなた、ルールを説明されてる最中に寝てるなんてどういう根性してるのよ」

「ええっ! えっ〜と」


さっき、叩かれて叫んだせいで、相当視線が集まっている。

それなのに寝ていたことを暴露されて、周りからはかなり鋭い視線が飛んできていた。

中には、笑いを押し殺したような声も聞こえる。

僕は顔が熱くなるのを感じて、必死に逃げ場所を探していた。

しかし、アリエがそれを許さない。


「逃げようとしないの! もう、しょうがない子ねぇ。あっ、皆さんすいません。フィラ様も、どうぞお話を続けてください」

「あっ、ああ。そうさせてもらう。」


人前ではいつも冷静なルーンでさえ、この状況には戸惑っていた。

でも、とりあえずは皆、元の話を聞く態勢に戻ってくれたことに、ホッとする。


「で、あなた」


が、まだホッと出来ないことがあることに気がついて、僕はビクッと体を震わせる。

アリエは厳しい眼差しでしばらく僕を見つめていたけれど、やがて、フッと視線を緩めた。


「寝てたことに関するお説教はまだ……一度しか会ってないあなたにするのもどうかと思うから、今回は見逃してあげるわ。ただし、私もあなたもこの騎士団に入って、今度何かあったら、そのときは覚悟しておきなさいよね」

「うっ……はい」


有無を言わせない口調に、僕は頷くしかなかった。

アリエはそんな僕を見て、満足そうに笑うと、聞きそびれたルールを説明してくれた。


話をまとめると、どうやら勝ち残り戦になるようだ。

それぞれに設定されたスタートポイントから出発し、敵を倒して行く。

そして、最後の一人になれば勝ち、ということらしい。

相手を倒した人数によって、順位が変動することもあるようだが、とりあえずは生き残ればいいらしい。

ようは、馬をどれだけあやつり、動け、尚且つ相手を倒せるかが評価されるということだ。

使用するのは昨日と同じく木剣。

しかし、昨日と違うのは、魔法が禁止だという点だ。

最後に明日、三日目の魔術の試験を受ける権利をえられるのは二十人。

つまり、今日は十人が削られることになる。


「で、このマップに書いてあるのがあなたのスタートポイントよ。他者には見えない魔法がかかってるみたいだから、私には見えてないわ。安心してね」

「ありがとう、アリエ」

「うん」

「それでは、馬に乗ってもらおうか」


アリエからカードを受け取るのと、ルーンが説明を終えるのはほぼ同時だった。

その瞬間、背後からは複数の馬の蹄の音がして、その場にいた全員が背後を振り返った。

そこで目にしたのは、丘の上に並ぶ三十もの馬たち。


「あっ」


その中に、見覚えのある馬の姿を見て、僕は思わず声を上げた。

僕の愛馬、リリアの姿だ。


「今回はお前たちの乗り慣れているであろう、馬を用意した。本物の戦があれば、そんな余裕などは無いだろうが、今回だけは特別だ。存分に自分の馬を操って欲しい」


そう話すルーンの顔は、眠気の覚めた目で改めてみると、いつも通り冷静だった。

まるで、昨日あったことなど、大したことでもないかのように。

僕の胸は、そのことに少しだけズキリと疼いた。


「では、それぞれのスタートポイントへ向かってくれ」


とりあえず、気持ちを切り替えなければ。

試験に集中しなければ。

そう自分に言いつけるほどに、また脳裏にあの表情が浮かぶ。

それでもなんとか振り払おうと、僕はリリアの元に走った。

忘れろ、今は集中するんだ。

僕は呪文のように唱えて、足を進める。

そんな僕をリリアはどこか心配そうに待っていた。

僕がリリアのそばにたどり着くなり、リリアは顔を寄せてきた。


「リリア、ごめん。心配かけて」


集中しろ、集中しろ。

こんなのじゃ、この試験は勝てない。

僕が雑念ばかり抱えていちゃ、リリアの力を最大限に引き出すことなんてできないじゃないか。

僕はそっとリリアを撫でると、彼にまたがった。

マップを確認して、スタートポイントへと向かう。


「リリア、頑張ろうね」


スタートポイントへ向かう途中、僕は何度もそう呼びかけた。

でも、分かっていた。

今、本当に頑張らなくちゃいけないのは僕自身だってこと。


ようやくスタートポイントに着くと、僕はもう一度リリアに同じことを言った。


「リリア、頑張ろう」


するとリリアは人の言語を理解したかのように、小さくいなないた。

それはまた、「頑張ろう」と励ましてくれているようで。

馬なのに、その表情が心なしか優しく微笑んでいるようにみえた。


僕はそんなリリアの様子に、思わず笑みをこぼす。


リリアがこんなに張りきってるんだ。

自分も頑張らなくちゃ。


第一、試験に受かって、青きバラの騎士団に入れば、これからもルーンと話す機会はいくらだって出来る。

そしたらいつかきっと、彼女も話してくれるかもしれない。

それに僕だって、いつかきっと……自分の全てを知ることが出来るかもしれない。


僕は「よし」と気合をいれると、気持ちを集中させた。

やがて、気持ちを切り替えが出来ると、頭の中にルーンの声が響いた。


『これより、二次試験、馬術を開始する。それでは君たちの健闘を祈る』


ルーンの声が消えた瞬間、空に赤い花火が打ち上がった。

試験開始の合図だ。


僕は手綱を握り、リリアの足を進ませる。

試験に受かるため、青きバラの騎士となるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ