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勝利の証明 〜剣術5〜

「ハァ……。もう次の試合か」


現在の勝ち残り人数は三十人。

もう既に当初の四分の一になっている。

そのせいで試合のまわりが早く、僕の体にはにわかに疲労が残っていた。


だが、それもお互い様で。

相手だって、強敵二人を倒してきているのだ。

ハンデは五分五分。

いや、むしろ偶然で勝ってきた僕の方が体力の消耗は少ないだろう。

これから試験を少しでも有利に進めていくには、この試合も勝っていきたい。


「そこまで!」


前の試合が終わり、スタンバイしていた僕は立ち上がった。

今まで試合をしていた人が降りてくるなり、入れ替わりで舞台に上がる。

やがて少し遅れて、相手も向かい側から上がってきた。


「遅れてすみません!」


威勢の良い声を上げて、舞台に上がってきたのは、僕よりも少し幼い少年だった。

見た目からすれば、年は十二、三才。

僕でもここの試験を受けるには幼いと言われているのに、それよりも幼いというのは、正直驚いた。

それも、もう二回戦を勝ち抜いてきている。

僕のように偶然が続いてきたとは思えないし、彼はかなりの実力者なのだろう。

もしかしたら、物心つく前より、英才教育を受けていたのかもしれない。


「よろしくお願いします!」

「よろしく」

「双方、剣を構えて」


そう指示されて、剣を構える手つきも随分と手慣れたものだ。

本当に幼い頃から、剣術の修行に励んできたのが分かる。

幾ら年下といえど、油断は出来ない。


「行きます!」

「ハッ!」


同時に地面を蹴った僕らは、舞台の中央でせめぎ合った。

相手の攻撃を剣で受け止め、払うと、反撃しようと剣を突き出す。

それを防がれて、相手のカウンターをステップでかわす。


体格差はあまりないため、攻撃の威力に差はない。

だが、やはり経験の差が目に見えている。

一見、接戦のように見えるこの試合も、よくよく見れば僕は防戦一方だった。

何とか攻撃を受けずに済んでいるものの、振るわれる剣との距離は紙一重。

一瞬でも気を抜けば、あっという間に隙をつかれて、決められてしまうだろう。


「ハッ、ヤアッ!」


一発一発、丁寧に打ってくる。

反撃のチャンスを伺うも、なかなか隙は見えない。

打開策を見つけなければ、いつまで持つか分からない。


冷静に相手を見ろ。

気付くべき点に目をつけろ。


自分にそう言い聞かせ、攻撃をよけることも意識しながらも、相手を観察する。

剣の扱い方はやはり上手い。

僕が稀に繰り出す反撃にもきちんと反応できている。


やはり、完全に隙はない……と、思われたが。


「剣『だけ』の試合だと思ったら、大間違いだっ!」


僕は相手が決めにきた突きの攻撃を、思い切りしゃがんでよ避けた。

それには相手も驚いたように、一瞬目を見開く。

だって、普通はそうなのだ。

試合中、しゃがんで避けるという手段は中々とらない。

何故なら、その後の態勢に隙が生じてしまうからだ。

その時の攻撃は避けることが出来ても、大体はその後には決められてしまう。

多くの場合、この避け方は間違いでしかない。


が、僕は片手を地面につくと、それを支えに思い切り彼の足を払った。

彼は足を取られて、その場で見事に尻もちをつく。

完全に隙だらけの状態。


その間に僕は剣を逆手に持ちかえると、トドメをさすべく、彼の胸に向けて剣を突き立て……ようとした。

突き立てようとした……その時だった。


岩甲剣(がんこうけん)


不意にそんな短い言葉が耳に入った。

その瞬間、僕の剣は大きく軌道を外れ、剣先は地面に跳ね返される。

僕はその返ってきた反動にのるようにして、バックステップで彼との距離をとった。

そう、剣の軌道は逸れてしまったのではない。

「わざと」逸らしたのだ。


「へぇ。やるじゃないですか。咄嗟に剣の軌道を逸らすなんて」

「やらなきゃ、『負けていた』からね。間に合って良かったよ」


もし、あの時。

もし、あの一瞬。

間に合わなかったり、彼の声が聞こえていなかったら。

恐らく、僕は本当に負けていただろう。


岩甲剣(がんこうけん)


それは剣に与えられた衝撃を、相手に跳ね返すという「地」の魔法を使った剣技だ。

あの時、もし彼がかざしていた剣に、剣を突き立てていたら。

その時ははね返った衝撃に身動きがとれずに、そのまま呆気なく負けていただろう。


やはり、彼は侮れない。


「小さい頃から……なにもかもを犠牲にして、磨いてきた剣術で負けるわけにはいかないんですよ」


そう言うと、彼の剣は淡く光だした。

一回戦で戦った青年よりも優しく、少し薄い茶色い光。

彼の瞳もまた、その光と同じく強い光をたたえていた。


「僕だって、もう。運や偶然だけの勝者でいたくないから」


僕はそれに対して、笑った。

例え、彼が何を抱えていようと。

勝たなくてはならない理由があろうとも、僕だって負けたくはない。

もう、偶然や運に頼った勝利は嫌なのだ。

自分の力でこの試験を勝ち抜いてきたことを証明したい。


僕は強く、剣を握った。

途端、剣は群青色の光を纏って、さらにその周りを水流が渦巻く。


「水の魔法、ですか」

「水の魔法をなめてもらっちゃあ、痛い目みるよ」

「いくら水の魔法に自信があろうと、勝つのは僕ですから。怪力岩(かいりきがん)!」

守水流(しゅすいりゅう)


先に攻撃を仕掛けてきたのは向こうだった。

こちらに向かって素早い動きで攻めてくる。

僕もそれを見て、自ら相手に向かっていった。


「守水流で真っ向から行くつもりですか。ですが、守水流は所詮防御用の剣技。僕の怪力岩を甘く見ないでくださいよ!」


近づいてくる、茶色い閃光。

僕はスピードを緩めずに、彼に向かって突っ込んでいった。

振り上げられる彼の剣に垂直になるように構えながら。

当然、このまま相手に剣を振り下ろされれば、上からの力の方が強い。

僕の剣は弾かれてしまうだろう。


「僕の勝ち、ですよ」

「どうかな?」

「えっ?」


茶色い光と、青い光がぶつかり合う瞬間。

僕の剣は、彼の剣の下で滑るようにして抜けた。

その剣が触れ合うわずか一瞬の間に、ぶつかり合った剣の下を僕が通り抜けて、剣は離れる。

そう、僕は彼の攻撃を受け流したのだ


「水流剣と守水流の併用!?」


守水流で怪力岩を防ぐ。

だが彼も言っていた通り、守水流は防御用の魔法だ。

当然、完全に押し切れるはずがない。

じゃあどうするか。

簡単な話だ。

押し切れないのならば、押し切れない分の力は受け流せばいい。


そう考えたのだった。


そして、彼はそれを一瞬で理解した。

それは褒められるべき点であろう。

だが、気がついたところでもう遅い。

受け流し、後ろに回った僕は、すで彼の背に剣を当てていた。


「そこまで!」


審判の声が響き、彼もそれを理解したようだった。

その場に、ガックリと膝をついてうな垂れていた。


そして、僕は。


「そうか。ようやく勝てたのか」


ポツリとつぶやき、自分の手のひらを見つめる。

この手で。

この手で、ようやく勝つことができた。

己の力で勝てたのだ。


その喜びを噛み締めていた。


「エディ」


ふと呼ばれて顔を上げてみれば、そこにはルーンがいた。

彼女は笑顔で振り向く僕を、呆れたように笑っていた。


「ようやく、納得できたか」

「うん。ようやく、ね」

「そうか。良かったな。おめでとう」

「ああ。でも、何で僕の元に? 仕事に戻ったんじゃないの?」


三回戦の前、ルーンは自分の仕事があるからと言って、仕事に戻ったはずだった。

大変なはずなのに、また僕のところへ来たのはなぜだろう。

僕が不思議に思っていると、ルーンは僕のそんな心境を見透かしたのか苦笑した。

そこには少し陰りが見えた。


「ああ。今は仕事の真っ最中だ。三回戦を勝ち抜いてた者は抽選があるからな。迎えにきた」

「抽選?」

「そうだ、四回戦を戦わずして勝ち抜く者を決めるためにな」


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