第二話 『非』日常へのカウントダウン
『自由の島』。此処はそう呼ばれている。英語ならThe island of freedom、イタリア語ならL'isola della libertà、といった感じで国ごとに呼び名は違うが、それでも基本は『自由の島』だ。
西暦1945年8月15日。この日は俗にいう『第二次世界大戦』に日本が敗北を認め、終戦した日だ。この島はその後日に、世界首脳会議で決められた和平条約の内容の1つ、『平和の作り手』計画が発端となり実現されて出来た島で、新しい世の中の形として実行されそれから約105年間の歳月をかけて『創られた』総面積およそ10000平方キロメートルの人口島だ。(日本の総面積が約37万くらいだから約37分の1くらいか?)
10000平方キロメートルなんてどれくらいか分からないと思うそこのキミ。大丈夫大丈夫。ダイ○ョーブ博士並に大丈夫だよ。なんせこの島に住み始めて俺もかれこれ4年経つが、未だこの島の全容はつかみ切れてないのだから。
なんせこの島が出来てからまだ10年程しか経ってないらしいしな。現在は西暦2064年。俺もこの島に来たのは中学一年生くらいの頃だし、つかみ切れてたら逆に怖いかな?
まあ、そんなこんな考えながら走ってたらあっという間に俺の通っている学校無駄に広い「防人学園」の高等部昇降口でおろしたてのオニューの上履きに履き替えているところだ。現在時刻は8時26分くらいだ。俺の普通の両脚よ。よくやってくれた。褒めてつかわす。
…さっさと講堂に行くか。あ、でもカバン教室に置いてこなきゃ。でも、俺何組?
既に入学式や始業式時に必ず張り出されるクラス分けの表もどうやらお片付けされちゃったみたいだし…仕方ない、持って行こう。
これまた馬鹿みたいにどでかい講堂の重々しい扉を開くと、中は賑わっていた。四方八方から初等部の児童や中等部の生徒、そして高等部、大学部の連中もガヤガヤと話していて正直騒がしいな。
出席簿を付けている先生に確認を済ませてから、適当に二階の何時もの場所に向かうとそこには見知った面々が先回りしていた。
「よう龍! 遅かったなぁ。もうそろそろ始業式始まるトコだぜ?」
宮本錬夜。俺の悪友その1だ。クールでニヒルな二枚目を気取っているだけで、空回りしている三枚目バカ。今日も相変わらず目つきが悪く見える…が、本人はしきりに「これが俺のノーマルだっつうの!」と言っている。
「おはよう龍。龍がこんなに遅いなんて珍しいな。どうかしたのか?」
そしてこっちの爽やかな笑顔を浮かべているイケメンは俺の悪友その2。真田綾人だ。成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群、温厚柔和…と見せかけて熱いところもある、友達思いetc.etc.…と、あるある尽くしの超モテ男だ。
「ボーッとしてたら何時の間にか時計のヤロウがフライングしてたんだよ。おかげで新学期早々遅刻するトコだったぜ」
「それはただ単に、龍が弛んでるだけじゃないの? 龍ってば結構抜けてるところあるし。」
「聞き捨てならんな穂菜実。俺は今日も朝早起きして何の役に立つのかも分からん武術を訓練してきたんだぞ。どこが抜けてるって言うんだ。」
「うーん…と、顔?」
随分と失礼な事を可愛い笑顔で言ってきているコイツの名前は城煉而穂菜実。俺との関係はいわゆる、幼なじみだ。綺麗な翡翠色の髪をショートカットにして切りそろえており、出るところは出ていて、絞まるところは絞まっている理想的ないい体つきをしている。前に俺が何の気無しに「お前、いいカラダしてるな」って言ったら俯いて赤面していた事は記憶に新しい。
「りっクンおっはよ~☆ 元気してるぅ~?」
「お前は朝から無駄にハイテンションだなあ…林檎。」
またまた出て来た俺の少ない貴重な女友達の1人迦楼羅林檎その人が、朝からハイテンションでお迎えしてくれた。穂菜実程ではない普通の女子高生らしい普通の体つきをしており、茶色の腰まで届く長い髪を左右に結っている。(ツーサイドアップだったっけ?)…ああ、なんつーのかな? この、ちょっと…メンタルポイントが吸収されていく感じ?
俺は朝はあまりテンションの高い方ではないので(むしろ低い方の人種だ。夜型人間ですし。)朝にコイツとエンカウントするのはあまり頂けない。去年は同じクラスだったから毎朝顔を合わせてたけど…未だに慣れん。
「………おはよう。………龍」
「背後にいきなり現れるのにはもう慣れてしまったな…おはようカナ」
「ん…」と言って再び魔術書みたいな分厚い本の読書に戻って行った彼女は愛宮哀。俺はカナと呼んでいる(とゆうか呼べと言われた。)。中等部の子と見紛う程身長が低く、藍色のショートにアホ毛がピョコンと立っていて、子供みたいな体をしている。(言うと怒る。)しかし、頭の中は知能指数170の超天才。去年だけでどれだけ錬夜の赤点危機を救った事か。彼女に勉強を教わってからすぐテストに臨むと最低でも30点は点数が上がる。アインシュタインかっつーの。
「今日からまた学校かあ~。春休みも短いようで極短だったな」
「日本語おかしいぞ錬夜」
「ねねね! 今日みんなヒマ? ヒマだよね!?」
「何でだい迦楼羅さん?」
「どっか行こうとか?」
「うん! 今日始業式とクラス確認しか無いし、終わったらみんなで久々に遊びにいこーよ!」
「おっ、いいね~行く行く! どうせヒマだし。」
俺何組だか分からないから返答出来ん。
「僕も行かせて貰うよ。春休みはずっと勉強ばかりしていたし、そろそろ羽休めしたいな。」
「お前、春休み中ずっと勉強漬けだったのかよ…」
頭さがるわあ~。流石は学年次席…の前の席。俺や錬夜とは次元が違う。
「ほなみんわぁ~?」
「私も別にいいよ。特に用事も無いし。」
「カナたんどうぞっ!」
「…私は行けない。今日はちょっと呼ばれている。」
「ええぇ~カナたん行けないのぉ~?」
「無理言うなよ林檎。先約があるんだからそっちを優先させてやれよ」
林檎が諦めきれないようだったので俺がそう言うと「じゃありっクンは来るよね?」と涙目で聞いてきた。まあ、俺もそんな特に予定があるわけでもないし頷こうとしたところで
「…龍も呼ばれている。伝えるようにも伝言を頼まれた」
「え、そうなのか?」
誰から呼ばれてるんだろう…先生かな?
「ええぇ~りっクンも来れないのぉ~?」
「すまんな林檎。そう言う事らしい」
全く予想だにしていなかったが、俺にもお声が掛かっているんじゃしょうがない。でも…
「カナ。俺たちは誰に呼ばれているんだ?」
「…それは言えない。詳しい事は今日の放課後に」
それだけ言うとカナは再び本に目を向けて喋らなくなった。ホント…誰が呼んでるんだろ?
となりで喚く林檎をみんなで宥めながら考える。そうこうしていると始業式が始まったので俺は寝ないように校長先生のありがたい長いお話を右耳から左耳へ受け流す準備を始めた。
俺の日常が『非』日常に足を突っ込むまで、あと1時間と約30分。
ここら辺りでお気に入りとか感想が欲しいところですねェ…