片割れ 2
文字は書けたほうがいいなーとは思うが……そう、私は勉強が大嫌いだ。
正直、高校時代もいい点数をとったことがない。
英語なんてもってのほかで、むしろ日本からでないから覚えなくてもいいじゃん。というタイプだった。
文字については今後ゆっくりやっていこう……と言いながら一度もやった試しがないことはテスト勉強などで十分に分かっているがやりたくないのはやりたくない。
ようやくこちらの通貨には慣れたが、それでも時々混乱してわからない時もある。
それに加え、迷子になったら困るので知っている場所にしかいかないせいだ。
ゴシュナイトさんが帰ってこない日は二人分のご飯を作る。
一人暮らしをするために料理を少しはやっていたので、その辺のスキルはなんとかある。
それでも毎日となるとレパートリーに限界がくるので、週に一度おばさんに頼み込んで料理を習わせてもらっていて、なんとか形になってきているところだ。
自分が不器用じゃなくてよかったとしみじみ思う。
街も二ヶ月も入れば覚えてはくれる。
だが家の中でお店を出している人はいいが、たまに広場や公園で不定期にお店を広げる人に「見ない顔だね」と言われる事もある。
一応と自己紹介もするが微妙に警戒されるのはなぜだろう。
けれど、ゴシュナイトさんの名前を出すと急に態度もかわる。なぜ?
一応騎士という立場でもあり、街を守っているという役割もあるから知っている人からしてみれば有名なのかもしれない。
あまり仕事については深くは聞いていないからはっきりしないが。
さすがにそこまで彼らのテリトリーに踏み込むつもりはない。
「ヨミ?」
「はい、ただのヨミです。はじめまして」
そして久しぶりに「誰?」みたいな顔をされた。
たまたまそこに広げられていたのはアクセサリーとかの類で、思わず足が止まってしまった。
店員は結構若い青年。染めてないとわかるくらいに綺麗な赤い髪だった。
ヘアバントもしているがそれにされている模様の刺繍が細かくてすごいなーと思う。
自分と同じくらいの年齢だと思ったが、年齢詐欺には前例があるのでどうだろう?
これでも一応女の子なので綺麗なものには興味はある。買わないけど。
「最近この街に来たんです」
「へぇー」
まるで品定めされている感覚に、少し足を止めたことを後悔した。
やはりとっとと去るべきだったか、ちっと舌打ちをしかけるがここは穏便にさろうではないか。
「私、忙しいのでこれで」
「おい、俺の名前も聞いてけよ」
「全力でお断りします」
ほら、二度と会わないかもしれない。ここを通ったのも気まぐれだっただけだし、たぶん二度と通らない。
すると吹き出したような声が聞こえて、声がした方を見れば赤髪の青年は肩を震わせている。
結構冷たく言い放ったつもりなのだが……この反応は、もしかしてこの人はいじめられるのが好きなのだろうか。
SかMかと聞かれたら後者なのだろう。
これは決してスイカが好きかメロンが好きか、という問題ではない事だけははっきり言っておく。
ちなみに私はどっちも好きだ。けれどトウモロコシが一番好きです。
もしそうなら、一人でこんな人があまり来ないような所で店を出しているのもそのせいなのかもしれない。
追い詰められるのが好きかもしれない、色々と将来が大変だろうに。
「……また会った時にでも教えてください」
今度こそ本当にその場を後にした。
何か叫ばれたけど聞こえなかった事にして、今度は寄り道せずに真っ直ぐに家へと帰っていった。
「おかえり、ベリルくん」
「ただいま、ヨミ」
夕飯の支度をしていると鞄を背負ったベリルくんが学校から帰ってきた。
声をかければ、にこりという効果音付きで返事が返ってくる。
この際呼び捨てなんて気にしない。自己紹介したときに自らヨミと呼んでと言ったのだから悔いなどない。
一応双子の姉しかいなかったので、下の子というのが新鮮だったせいもあるかも。
ちなみに私の事をヨミと呼び出したのも夕奈だった。
何故そんなことになったのかわからない。気が付けば浸透していた。
とはいえあだ名というのはそういうものだろう。
高校時代には名前に掠りもしないあだ名の子もいたのだからまだマシなほう。
「ヨミ?」
「あ、ごめん。もうすぐできるからね」
手が止まっていたらしい。
考え事をしているとつい全ての動作が止まってしまう。気を付けなければ。
ベリルくんは私の言葉にうん、と頷いて2階にある自分の部屋へ上がっていった。
「これ、なに?」
「ん?……なにこれ」
偶然と言えばおかしな話だが、晩ご飯の準備を手伝ってくれると言ったベリルくんが置きっぱなしだった買い物かごを倒してしまった。
それを慌てて拾ってはくれたが、変なものが入っている事に気がついてそれを私に見せてくれた。
よくよくみれば綺麗なガラス細工で出来た花のブローチ。見覚えのない花で名前がわからない。
だが微妙に見覚えがあるのは気のせいだと思いたいところだが残念なことに見覚えがあった。
「これ、あのお店のだ……」
あの赤髪青年が開いていたお店の物だった。
覚えているのは無理もない、だってこれをみて私の足が止まってしまったのだから。
なんで入ってるの?と考えていると、もしかして、私無意識に泥棒したのか?と困惑と不安になる。
いや確かに綺麗だたし、ほしかったけど、そんな道を外すことをしようとは思わない。
「どうしたの?」
「え、えー……ま、間違えて入ってたみたい!今度返しに行ってくるね!」
ぎこちない笑みを浮かべながら私はそれを後ろに隠す。
いやいや、私は悪いことなんてしない!なんて言い訳の常套句なんて思ってみる。
とりあえずベリルくんの意識を誘導させるために出来たばかりのオムライスの上にソースでネコを描いてみることにした。
だが、どう見ても猫にならない。むしろ地球外生物にしか見えないがやってしまったので元に戻らない。
そういえば、昔から美術だけはダメだった事を思い出した。
反応を恐れながらもベリルくんにそれを見せる。
どうか、叫びませんように。なんとも小心者だろうか。
「ボヨスジャ!」
「……?」
え、今なんて言いました?ボヨ?え?なんだって?
困惑していたせいか、それが何かを聞けず分からないでいると、ベリルくんは嬉しそうに地球外生物が描かれたオムライスを食べ始めた。
よくわからないがどうやら喜んでくれたようだ。
とりあえず今は泣かれなかったのでこれでよしとしよう、と言い聞かせる。
細かいことは気にしない、気にしたら駄目だ。だってここは異世界だから。
そういえば、今日の王国通信を最後まで読んでいない。
それを読んでさっきのことは忘れてしまおう。