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SSSS(プロトタイプ)  作者: 風待月
00 体験入部
9/34

00_061 PM16:45 防衛部の活動

中途半端な日常会話。



 都市防衛部の部室には、意外と来客が多い。

 それが堤十路(つつみとおじ)の感想。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 最初に来たのは、30代と思える男性。


「――最近、妻が冷たいんだ……」

「あのー……先生? それは私に言われても困るんですけど……」


 高等部の教員だった。


「『魔法』でなんとかできないか?」

「や、そんなのムリですから、ご夫婦で話し合うのが一番かと……」

「教師の仕事って忙しいんだ……」

「はぁ……」

「毎日帰りは遅いし、部活の顧問やってると土日も休めないし……」

「はぁ……」

「それを承知で結婚してくれたと思ったのに……」

「や、そうだとしても、やっぱりガマンの限界があると思うんです……」


 飲み屋でのグチを連想する空気に、視線で十路に助けを求めてくる樹里。

 こんな悩み(しかも立派な大人の)にアドバイスできるほど、十路も人生経験豊富ではないが、樹里の意見と合わせて『花束でも持って早く帰って一緒に食事しろ』という結論に至った。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 次に来たのは、高等部の男子学生。


「樹里ちゃ~ん」

「すみません先輩、今日はここに居座らないでください」

「冷たいっ!?」


 樹里からして『先輩』ならば上級生だが、どうやら顔見知りらしい。


「や、今日は人がいるんで、困るんです」

「どーも」

「…………」


 軽く挨拶すると、その男子学生は十路の顔をじっと見る。


「……なんですか?」

「お前とは、なぜか気が合いそうだ」

「……前世でお会いしましたか?」

「違う。そういう意味じゃない」

「だったら?」

「今、ロシア美女が熱いと思いますか?」

「いや……特には」

「……やはりお前とは仲良くできそうだ」

「意味わかんねー……」

「また会おう! アデュー!」


 一見するとモテそうな男子学生、謎のイイ笑顔を残し、遠ざかる。

 その背中を指差し、十路は樹里にゆっくりと振り返る。


「……バカ?」

「…………」


 樹里は否定しなかった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 3番目に来たのは、高等部の女子学生。それほど親しいわけではなさそうだが、どうやら樹里の同級生らしい。


「水野さん、どうしました?」

「えぇと……木次さんだけ?」

「あ、部長は今日いないんです。私でよければご相談に乗りますけど?」

「でしたら、お願いしたいですけど……」


 その女子学生は、気まずげに十路を見てくる。


「……あ。俺、席を外しとくから」

「すみません、堤さん」


 どうやら十路がいたら話せないらしいと気づき、部室の外に出て離れて様子を窺う。

 水野と呼ばれた女子学生本人は、深刻そうに話しているが、樹里は微笑して、ときおり頷いているから、実際はそこまでないのだろう。恋愛相談やその他の『女の子の悩み』だと、十路は推測した。


「頑張ってください!」

「はい……」


 内容はわからないが、意外と短時間で終了。どうやら樹里でも大丈夫だったらしい。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 ちなみに、客が来ない間はと言うと。


「…………」


 樹里は高校生らしく、部室に置きっぱなしのティーンズ雑誌を読み始めた。


「…………」


 仕方ないので十路も、本棚に詰めてあるマンガを手に取って読み始める。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 部室の中に流れる、なんとも言えない時間。ページをめくる音と、遠くから聞こえてくる運動部の掛け声だけが届く。

 樹里はあまり気にしてない。十路はなんとなく気まずい。


「あ、堤さん、麦茶おかわり淹れましょうか?」

「あぁ……頼む……」


 冷蔵庫を開け、麦茶を注ぐ音が新たに響く。

 そしてソファに座る十路の前に、コップが置かれる。


「どうぞ」

「さんきゅ」

「…………」

「…………」

 

 そしてまた、お互い無言でページをめくる。


「……なぁ、木次さん」

「はい?」

「会話のない家庭に育ったのか? 両親の夫婦仲、倦怠期だったのを目の当たりにしたのか?」

「…………はい?」

「いや、なんでもない……」


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 理事長室で話を聞いて、予想をしていたつもりだが、それ以上にショボイ内容。


「ここはカウンセリングルームか休憩室?」

「……否定できませんね。いろんな相談を持ちかけられますし」

「しかしまぁ、よく部外者が来るな?」


 内容にもよるだろうが、相談事なんて普通、よほど親しい間柄でないとできない。


「木次さんは人望あるんだな」

「いえいえ、人望があるのはこの部の部長で、私はそのオマケです」

「ふん?」


 たった2人の防衛部員。樹里を除く残るもう1人。

 話の合間にたびたび出てくるが、どんな人物像なのかは、全く出てこない。


「どんな人?」

「……一言で説明するのは難しい人ですね」

「まぁ、俺の経験上、《魔法使い》は奇人変人が多いしな」


 十路の脳裏に、よくある偏屈そうな老人の魔法使いが思い浮かぶ。

 部員なら学生だろうから、その想像が変だとは理解しているのだが、テンプレートとして。


「誤解されないように言っておきますけど、いい人ですよ? 取っ付きにくいところありますけど、誰にでも親切で面倒見いい人ですから、こうして相談事が持ちかけられるんです」

「ふん?」


 どうも樹里はお人好しな印象があるので、十路は話半分で受け取っておく。

 都市防衛部――《魔法使い》のいる部の代表が、とても普通の人間だとは思えない。樹里のようなタイプの方が《魔法使い》には珍しい。


「私の口からお話しても、多分上手く伝えられないので、実際に会ってお話しするのが一番だと思います」

「その部長は?」

「用事があるらしくて、今日は部室に来れないと思います」


 ならば話せないし、しかも転入を断ったら会う機会も今度ないだろう。

 十路は軽く肩をすくめて、その話を終わらせた時、話の区切りでタイミングよく、携帯電話の着信メロディが鳴り響いた。

 きっと誰もが知っている子供向けアニメ。魔法の国からやって来たちょっとチャームな女の子のテーマ。


「その着信は恥ずかしくないか……?」

「あ、あはは……」


 樹里は愛想笑いで誤魔化して、音の発信源をスカートのポケットから出して、メールを確認する。

 その曲の古さも大概だが、《魔法使い》がその曲を選ぶのはどうだろうと十路は思ったが、それは口に出さなかった。


「……えーと、堤さん。一応『部活』ってことになるんですかね? 今メールで、出稽古を頼まれまして」

「稽古ってなんの?」

「薙刀部の練習です。たぶん、剣道部もってことになるでしょうけど……」

「ふぅん?」

「今は堤さんの案内もありますので、お断りすることもできますけど……どうします?」

「普段は受けてるんだろ?」

「えぇ、まぁ……」

「だったら見せてくれないか?」

「はい」


 樹里は立ち上がり、壁に立てかけてる長杖を手に取った。


1/28 章追加による変更

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