00_055 PM16:00 インターミッション02
今回はちゃんとインターミッション。
シリアス成分挿入?
「探したぞ……」
神戸市郊外、今は事務所も店舗も入っていない、荒れた雑居ビルの一室。
中身が入った麻袋が2つ、部屋が転がって以外、部屋の中にはなにもない。
「面倒を起こしてくれたな……?」
黒ずくめの男が、気だるげに日本語で語りかける。
黒いライダースーツに、濃い色の入ったシールドのフルフェイスヘルメット。日中でこの格好はかなり怪しいが、人目は目の前の男以外にいないので問題ない。
身長は170cmを少し超えたところ、声の雰囲気からすると若い男、体にフィットしたスーツのラインから、それなりに鍛えているのはわかるが、それ以上の情報は得られない。
「どーゆーつもりだ、アイマン」
「……放ってオイてくだサイ」
『アイマン』と呼ばれた相手の男は、まだ10代半ばと思えるアジア系の顔立ち。服装には変哲なく、浅黒い肌は、175cmほどの筋肉質な体と相まって、日本人ボティビルダーと言えば通用しそうだが、なにより言葉のイントネーションが明らかに違う。
彼は奇妙な荷物を持っている。
金属の塊。1mを超える棒状のものだとはわかるが、火事場から拾ったように破損がひどく、元の形状が想像できない。
そんなガラクタにしか見えないものを、アイマンは大事そうに抱えていた。
「アナタ、私と、もう関係ナイ」
「まぁそうだな。俺もお前も使いっぱしりだし、大事なことは知らされていないから、お前がなにをしようと、関係性を疑われることはないだろう」
黒ずくめの男が、グローブに包まれた手で、首筋をポリポリとかく。『困ったな』とでも言うように。
「だけど状況は把握しておきたいんでな。後で痛い目みたくないから、俺は平和な時間を割いて、お前を探してたんだ」
「……修理しマス」
アイマンは抱えた金属の塊を示す。
「あぁ、お前を解雇する時に、ぶっ壊しちまったヤツか」
黒い男としては挑発のつもりはなく、ただの事実確認で言っただけだが、その一言でアイマンの目付きが変わり、手にした金属の塊を男に向けた。
人を射殺せそうな視線だが、それを受けても態度は変わらない。
「よせよせ。お前じゃ俺を殺れねぇから」
「――っ」
その言葉は真実なのだろう、眼光は弱まりはしないが、悔しそうにアイマンは小さく舌打ちする。
「で、なにする気だ? 『それ』を新しく手に入れようにも、お前が盗んだ金額じゃ、とても足らないぞ」
「……コの人に頼みマス」
ズボンのポケットから、アイマンは写真を取り出して見せる。
写っているのは、見目麗しい金髪碧眼の女性。日本人の感覚なら、年齢は20歳を超えている。穏やかな微笑みを浮かべ、しかし凛とした空気を放っている。隠し撮りされたものではなく、被写体の女性はカメラを向けることに慣れてるらしい、視線を向けている。
それを見て黒い男は、ヘルメットの中で人知れず顔をしかめた。
「今、トウキョウにいるケド、今日帰ルと聞きマシタ」
「……その女は、確かにそいつを修理できる腕を持っている。だけど、止めた方がいい」
「アナタ、ジャマしまスカ?」
「……そのつもりだったが、やめた。どうやらお前は知らないらしいからな」
「……? どういうコとデスカ?」
「そこまでは教えてやる義理はない」
黒い男が冷たく拒否した時、外が賑やかになる気配が室内に届いた。
「仲間か?」
「ハイ、手伝ってモラいマス」
部屋の扉が開かれて、談笑しながら入ってきたのは、アイマンと同郷と思える者たち11人。その多くはアイマンと変わらない年頃。
緩んだ空気が黒い男を見た途端、一瞬で緊張して、荒くれ物のものに変わる。
しかし、アイマンが知らぬ言語で声をかけると、警戒を残しつつも、とりあえず納得はしたらしい。敵対しようとするのは止めた。
そしてアイマンは、部屋の隅に置かれていたズタ袋を男たちの前に放りだした。
重そうなその中身を見て、男たちが口笛を吹いて狂喜する。
ただ1人だけ、大人しくその様子を眺めている例外もいるが。
「――グラーム」
どうやらそれが1人醒めた男の名前らしい。歳は他の者よりもやや年嵩で落ち着いた様子を見せ、軽くアイマンを見た以上の反応を見せず、壁際に背中を預けて待機する。
大人しいグラーム、口々に歓声を上げている多数の若者、それを眺めるアイマン。
その対比をヘルメットの男は眺め、小さくため息をつく。
(盗んだ金を12人で頭割りしても、連中の国なら10年やそこらは平気で遊べるだろうからな……)
部屋の隅に置かれた、もうひとつの麻袋の中身を推測。
(どこのヤツから仕入れたのか知らないが、あの程度の銃火器なら、高くても2000万もあれば揃うだろうし……)
しかし、と黒い男はヘルメットの中で思う。
(どうやってそれだけの大金を換金する気だ? マトモな手段じゃ疑われるだろ……)
裏社会の人間として生きるには、アイマンは知らないことが多すぎる。
これも忠告する気はない。やはり解雇されるべき人間であったと、黒い男は改めて納得した。
「アイマン、様子は見させてもらうが、止めはしない。俺たちにまで厄介が及ぶようなら、しゃしゃり出るが、この調子だとそうならないだろう」
騒いでいた男たちが一斉に目を向けてくる。
しかしそれに構わず黒い男は、部屋の出口へ歩く。
「じゃあな」
「オ世話になりマシタ」
言葉を交わして、黒ずくめの男はビルを出た。
1/8 修正、文章追記
1/28 つじつま合わせのために表題時間変更