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SSSS(プロトタイプ)  作者: 風待月
00 体験入部
6/34

00_040 PM16:15 長久手つばめ

伏線というか、ごまかしというか。

これちゃんと理解してもらえる文章になってるのか不安ですが。

「いやー! よく来てくれたねー!」


 重厚なオーク材を使った机の席に座る、この理事長室の主は、30歳に届くかどうかのスーツを着た女性だった。

 軽くパーマのかかったショートカットヘア、折り目もたったスーツを着こなし、見た目はキャリアウーマン然とさせているものの、どこかまだ子供っぽさを残しているので、社会的地位を持っているようには見えない人物。


「改めてはじめまして。修交館学院理事長、長久手(ながくて)つばめです。ちなみに29歳独身」

「はぁ……はじめまして、堤十路です」

「うん、知ってる」

「そりゃそうでしょうね」


 言葉だけ聞けば、とりあえずちゃんとした会話をしているのだが、実際は違う。


「つばめ先生……いい加減、ゲームはやめてください」

「あ゛ーーー!!」


 この部屋に入って、なぜかエプロンをつけた樹里が、会話中もいじっていたスマートフォンを、つばめの手から取りあげた。


「がえ゛じでーーー!! お゛がーーーざーーーん!!」

「誰がお母さんですか! あとまたゲームで課金しまくらないでください! 電話代6ケタに突入したらケータイ取り上げるって言ったでしょう!」

「うぐ……!」

「いまお茶淹れますから、ちゃんと堤さんに説明してください」

「おやつは?」

「帰りがけにカステラ巻き買ってきました」

「わーい☆」

「おやつの時間には早いですから、ひとつだけですよ」

「えー……」


 一介の生徒が学校最高責任者に、説教して、世話している。

 その姿、さながらお母さん。


「あの、木次(きすき)、さん……?」

「ツッコミはなしでお願いします……」

「……了解」


 そういう性格に見えない樹里が目上の相手に怒鳴り、やたらプライベートな会話をし、部屋の隅のティーセットでお茶を入れるのに慣れているのを詮索しようとしたが、先じて封じられた。

 どうやら彼女にとって不本意なのが、顔色を見てうかがえた。


「それで、長久手(ながくて)理事長……どうして俺をこの学校に招致したんですか?」


 応接セットに移動して口火を切ると、樹里が淹れたお茶が前に置かれた。


「ん~、なにから説明しようかな」

「じゃあ、3つだけ質問しますから、イエスかノーで答えてください」


 エプロンをつけたまま、樹里もつばめの隣の席に座る。普通ならいち学生が一緒に話を聞くものではないが、それをつばめは止めはしない。


「俺が《魔法使い》なのと関係がありますか?」

「イエスだね」

「俺が通っていた学校と、なにか話し合いがありましたか?」

「それもイエス」

「俺になにかさせようとしていますか?」

「一応だけど、イエスだね」

「そうですか」


 それだけ聞けば十分とばかりに、十路が席から立ち上がった。


「え? 堤さん?」

「それでは俺はこれで失礼します」


 驚く樹里は無視し、軽く一礼し、十路はそのまま部屋を出ようとしたが。


「別にいいけど、これからどうするの?」


 つばめの言葉で、扉のノブに手をかけたところで、動きが止まった。


「《魔法使い》は色々大変だよ?」

「…………」


 十路が振りかえると、つばめはこちらを見ないまま、涼しい顔でお茶を飲んでいた。


「トージくんが《魔法》の使えない、出来損ないであってもね」

「え……?」


 樹里が驚きの声を上げ、十路の顔を見てくる。

 《魔法》の使えない《魔法使い》なんて、聞いたことがないから。


「堤さん。《魔法》が使えないって、本当なんですか?」

「まぁ……な」

「つばめ先生。まさかとは思いますけど、部活のこと、全然お話ししてないんですか?」

「まぁね~」

「やっぱり……なにか変だと思ったら……」


 つばめは素知らぬ顔で、お茶請けの菓子をほうばり始める。


「部活って、なんのことですか?」

「ふぉれがキミをこのガッコーにしょうひしたリユーらよ」


 手でソファに指し示され、座るよう促されたが、口の中に菓子が入ったままでなにを言ったかわからなかったので、十路は視線で樹里に続きを促す。


「……つばめ先生が顧問で、私も部員なんですけど、この学院には、特殊な部活動があるんです。堤さんがこの学校に招致されたのは、その部活に入部する事が条件だと思います」

「どういう部活?」

「《魔法使い》として、誰かの願いを叶える……という部活です」

「…………は?」


 馬鹿げている。


「願いを叶えるって……?」

「だって《魔法使い》は、誰かの願いを叶えるのが本業じゃないですか」


 物語に描かれる『魔法使い』は、確かにそういう役割の者がいる。

 しかし現代社会に生きる《魔法使い》は、そんな存在ではない。


「大体、そんな簡単に《魔法》が使えるはずないだろ?」

「ここは実験都市ですから、普通の人と《魔法》の関わりの検証実験という名目で、特例として許されてるんです……まぁ、かなりの裏技ですけど」

「『杖』は?」

「それも特例で、私たちは自分専用のものを持ってるんです」


 存在自体は周知のものとはいえ、一般人が《魔法》と携わることは普通ありえない。

 しかしどうやら冗談ではなく、樹里の言葉は本当であることを理解して、十路は絶句する。

 その方法はなくはない。《魔法使い》ではない普通の人間たちが作った決まりの中で、不可能ではないと、十路も理解はできる。 

 だが、普通はそんなことを実行しようと考える人間はいない。


「……部の名前は?」

「……都市防衛部といいます」

「……とりあえず3つ、ツッコミたい」

「想像できる第1のツッコミに返すと、この名前をつけたのは、つばめ先生です……」


 中ニ臭の漂うセンスはこの人か、と菓子をほうばるつばめを横目で見やる。


「第2に、要はなんでも屋です……」


 過激なチーム名でも活動内容は町内探検だったりする、小学生レベルのセンスだと認識を改めた。


「第3に、名前だけでなく、内容にもあまり《魔法》要素はありません……」


 最近はサンタクロースを信じない、夢のない幼稚園児も増えてるらしい、と、センス以前の現実を考えさせられてしまう。

 そして樹里がツッコミを的確に予想したわけではなく、同じことを誰もが訊くのだろうと思うと、複雑な気持ちになる。


「入部した感想は……?」

「あはは~……一言で表すと、人生の転換期ですね~……」

「悪かった。訊いてはいけないことを訊いてしまったらしいな……」


 しかし、目を泳がせる樹里を見る限り、後悔はしているようだが、退部する意思は感じられない。

 そうなると考えられるのは、樹里も十路同様に、交換条件の義務として入部しているか、それとも不利益以上の利益があるかのどちらか。


 口の中を茶で洗い流し、つばめが会話に加わる。


「――どう? 転入して、入部してくれない? ここでの生活の一切を、こっちで面倒見るし、途中で辞めるのも自由だから、悪い条件じゃないと思うけど?」


 部の名前や活動内容はともかく、ただの条件と捉えれば、破格の好条件。

 しかし、ただの交換条件だと理解している。


「そっちのメリットは……?」


 だから、どんな無理を吹っかけられるか、十路は警戒する。


「ぶっちゃけ、人数が足りなくて廃部の危機」

「は?」

「5人以上の部員が必要なんだけど、防衛部は、ジュリちゃんともう1人しか部員がいないんだよね」

「この学校の最高責任者はあなたですよね? それで、理事長が顧問ですよね? なのに廃部の危機?」

「組織のトップが率先して決まり破っちゃいけないでしょぉ?」

「……ビミョーに恥ずかしい名前変えたら、入部希望者来るんじゃないです?」

「それはイヤ」

「だったらムリでしょうね……」


 嘘をついていると考えるほどではないが、交換条件が余りにも小さいものだから、つばめが口にしていない事情があると疑う。

 この招致の話はあまりにも怪しすぎる。

 しかし――


「入部すれば、トージくんの望みも、叶うかもしれない」

「俺は、出来損ないの《魔法使い》ですよ?」

「それでも、だよ」

「…………」


 つばめの言葉に、十路の心が揺れ動いた。

 それが絶対に叶うはずのない願いでも。

 つばめの笑みが悪魔のそれに見えても。


1/9 修正

1/19 表現修正

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