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SSSS(プロトタイプ)  作者: 風待月
00 体験入部
28/34

00_205 PM23:55 インターミッション06


 全身鎧の兵士たちが、自身を誘拐しようとした犯人たち8人を、ヘリポートの外れに確保し終えた。

 2人はコゼット本人が。残り5人が十路に気絶されられている。

 意識があるのは、ただひとり。


「ずいぶん静かになさってますのね、グラームさん」


 頭の中で全身鎧の兵士(ゴーレム)に指示を出してこの場から去らせて、彼がずっとかぶっていた覆面を、コゼットは引き剥がした。

 下から出てきたのは、20代中盤と思える、なかなか精悍な顔。犯罪者のふてぶてしさや凶悪さは感じず、むしろ普通の市民として生活を営み、周囲の者に頼りにされていそうな印象の、普通の男性。

 今は力なく座らされ、精も根も尽き果てたと風に、疲れた色を見せている。


「あんた……化け物か……」


 だからこの言葉はコゼットを罵るつもり吐いたのではなく、心の底からのものだろう。


「化け物? それは少々聞き捨てならないお言葉ですわね?」


 だからコゼットは意地悪く、獅子の笑みで応じた。


「あんな些細(ささい)な力で『化け物』呼ばわりなんて、なんて可愛いものかしら?」

「まだ上があるってことか……」

「言ったでしょう? 《魔法使い(わたくしたち)》は生体万能戦略(・・)兵器」


 『戦略兵器』と呼ばれるものに、なにがあるか、調べてみるといい。


「私が全力を出していたら、貴方は神戸市ごと消滅してますわ」

「…………」

「……ふふっ」


 絶句したグラームに、満足げにコゼットは喉の奥で笑う。


 そして問う。


「貴方方のお仲間の《魔法使い(ソーサラー)》――アルマンさんでしたかしら? 彼が勝って逃げられるとは、考えませんの?」


 グラームはこの期に及んでも落ち着いている。 

 勝利を見込んでの態度かといぶかしんだのだが。


「無理だ」


 しかしグラームは潔く否定した。


 コゼットも、樹里が負けるとは思っていない。しかし普通の女子高生に殺し合いをしろと言って、できるものだとも思っていない。

 今は十路が援護に行ったから、多少は安心しているものの、それでも絶対に樹里が勝つと確信できるほどのものはない。

 だがグラームのように、負けると確信するはずはない。


「お仲間ですのに、随分冷たいですのね」

「あいつは……アイマンは、さっき言ったのとは別の意味で、『化け物』になろうとしてる」

「《魔法使い》は考えるだけでなんでもできる。その万能性から増長している意味でしょうか?」

「そうだ……」


 うすうす感じていたが、グラームは他の者とは少々異なる。

 だからコゼットは、疑問を突きつけた。


「『化け物』と評するなら、なぜ貴方は、あの男と行動を共にしてますの?」


 この男は周囲が見えいえて、短絡的な犯罪といった、馬鹿な選択はしないはずのタイプだと思ったから。


「アイマンは……俺の弟だからだ」

「……そう」


 コゼットは納得し、少し悲しげに確認する。


「家族が『化け物』になるのを、止めたかったんですのね……」

「…………」


 明確な返事はなかったが、グラームの口元は自嘲のようなもので少し歪んだ。


 《魔法使い》は生きた軍事兵器。

 《魔法》はなにかを壊し、誰かを傷つけることにしか使えない。


 そして《魔法使い》は《魔法》を使わなくても、なにかを壊し、狂わせる。

 心や、信頼や、人間関係や、社会性を。

 それは人ならざる能力を持つ引き換えのような、《魔法使い》が当然持つ、悲運と呼べるかもしれないもの。

 そしてそれを家族として、彼はなんとかしようとして、共に日本にやってきたのかもしれない。

 それは一般的には家族愛と評する、尊ぶべき感情なのかもしれない。


 しかしコゼットは、小さく息をついて気持ちを入れ替えて、あえて冷たく言い放った。


「――全く同情する気になれないですわ」


 どんな事情や不条理があろうとも、犯罪という手段を選んだのは、彼らの身勝手な選択だと思うから。


「今回は私たちが彼を止めます。そして幸い、取り返しのつく範囲で収められると信じていますが――」


 だけど一歩間違えば、無関係の人間が死んでいてもおかしくはない事件だった。

 そして今、アイマンと相対している樹里が命を落とす可能性も残っている


「本当に『化け物』に堕としたくなかったなら、貴方は彼を殺してでも止める覚悟が必要だあったのですわ」

「…………」


 気さくな王女の雰囲気は微塵もない。

 《魔法使い》として冷淡に言い放つ彼女に、グラームは言い返せない。


 人の気持ちなど、《魔法》と、それを取り巻く社会は、簡単に打ち砕く。

 願うだけで、誰かが共にいるだけで、なにかが叶うのならば。

 コゼット・ドゥ=シャロンジェは、この場所で彼と話していない。


「ま、弟さんのことは、やりすぎない程度にボコって、捕まえますわよ」

「殺しはしないのか……?」

「可愛い部員が殺されたら、すぐには死ねないように治療しながら、いたぶって殺して差し上げますわ」


 真顔で恐ろしいことを言いながら、彼女は指を弾いて、新たな《魔法》を実行した。

 全身鎧の兵士たちが、光を発して分解。同時に彼女が背にしていた場所に巨大な幾何学模様が生まれ、消えていたはずの格納庫が瞬時に復元した。

 建物の外観に隠れてしまっているが、中の機体や設備も、元通りになっているのだろう。


「ですけど、ここでの私たちは、《魔法使い》である以前に学生。そしてこれは部活動。戦争も殺し合いも積極的にする気はありませんわ」


 非現実な現実をいとも簡単に作り上げた彼女は、手にした儀礼杖を放り投げる。それは幾何学模様を纏い、地面と水平に80cmほどの高さで停止した。

 それに彼女は横座りし、宙に浮く。


 空港の方向から戦闘の音が未だ響いてくる。だからこれ以上はかまけていられない。


「貴方はそこで、贖罪でもなさってなさい」


 そして彼女は飛び立っていった。

 杖に座って空を飛んでいくコゼットを見送り、グラームはため息をつき。


「……お人よしだな」


 冷たくも優しい王女を、そう評した。


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