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SSSS(プロトタイプ)  作者: 風待月
00 体験入部
21/34

00_150 PM21:00 世界の理2

前書き 検証事項:世界観の説明の仕方。


わざとしてみたとはいえ、ここまでが長かったです……

そして文章も長めです。



 完全に陽の落ちた午後9時、修交館学院管理棟・理事長室。

 木次樹里(きすきじゅり)が持ち込んだ材料で作った簡単な夕食を食べつつ、長久手(ながくて)つばめと一緒に見るテレビには、民家に紛れているような小さな工場と、その場を取り囲む多くの車両と警官たちが映っている。


『今日午後7時半ごろ、兵庫県西宮市の精密加工業・三井精機に、覆面で顔を隠した男3人が侵入し、拳銃を発砲し、そのまま工場の事務所に立てこもりました。一時残っていた社員4名の身柄を拘束しましたが、社員1名を残し解放。解放された人質の話では、犯人たちは日本人ではないと思われます。尚、これまでのところ、ケガ人がいるという情報はありません――』


 ニュースキャスターの言葉を確認し、つばめはリモコンで電源を切る。


「あの、つばめ先生。今のニュース、人質になってる人が社員になってましたけど……?」

「誘拐事件でよくある報道管制ってやつ。コゼットちゃんのことを報道すると不都合だから、自粛されてるの」


 面識があるとはいえ、つばめは王女を平気で『ちゃん』付けで呼んで、樹里の言葉尻を捉えて教える。


「それよりジュリちゃん、ケガはもう大丈夫なの?」

「私はすりむいた程度ですから……」


 《魔法》で治療した今は傷跡を残さず消え、盛大に転倒した時にボロボロになった制服は着替え、今は新しいものになっている。


 あれから――十路と樹里が誘拐犯の追跡に失敗し、ケガを負ってから。

 重傷を負って気絶した十路は、樹里が《魔法》で治療して事なきを得たものの、犯人たちの車は完全に見失ってしまった。

 その行方を探知できるほど、《魔法》は便利でもないし、樹里自身そこまで精通していない。

 だから携帯電話でつばめに連絡し、結果、気絶した十路とオートバイを回収し、学校に戻ることになった。


 追跡を振り切ることに成功した犯人たちは、条件の整っている工場に立てこもり、人質はコゼットを残して解放。そして解放された社員の通報により、警察が出動し、ニュースのような現状と成っている。


「主犯は《魔法使い》で、今朝のATM強盗犯と同一人物と思われる。それは多分、武器と仲間を集めるための資金。犯人の要求は《魔法使いの杖(アビスツール)》の修理。そのために《付与術士(エンチャンター)》とまで呼ばれる技術者のコゼットちゃんを誘拐した」


 集まっている情報を口に出して、事件のあらましの推測と確認を行う。


「修理に必要なコゼットちゃんの工具箱は、警察を通じて渡すことになったから、もうそろそろ手元に届いていると思う」

「あんな人の《魔法使いの杖(アビスツール)》を修理する気なんでしょうか……?」

「間違いない。小細工を仕込むかは、わたしじゃわかんないけど」


 脅されているコゼットの状況を考えると、それは仕方がないこと。

 しかし自分が追跡に失敗し、そんな事態になったことを、樹里は悔しく思う。


「あのシルバーのバイクの人は……」

「正体不明。心当たりは今のところなし。不確定要素なのがちょっと不安だなぁ……」

「これからどうなるでしょうか……?」


 叱られた犬のように、樹里は上目遣いでつばめに訊く。


「今回はちょっと複雑だからね。誘拐されたのが、あのコゼットちゃん。それに突発的な自体とはいえ、防衛部の部員が関わって、事態収拾に失敗してるから、警察としてはジュリちゃんを関わらせたくないだろうね」


 だけど――と、つばめは軽く首を振る。


「《魔法使い》を渡り合えるのは《魔法使い》だけ。《魔法使いの杖(アビスツール)》の修理が終わったら、警察じゃどうしようもできなくなる」


 相手は人に攻撃的な《魔法》を向けること躊躇しないと、樹里もつばめも見ている。

 もし下手に逮捕しようものなら、多くの死傷者を出すことは確実だろう。


「それまでに逮捕しようって動きは……?」

「篭城事件なんて、積極的に動きはしないだろうね。相手が《魔法使い》だとわかってるなら、余計に」


 状況を見るとかなり悪いが、つばめはあまり悲観している様子はない。

 つばめの普段を知っている樹里でも、本当に楽観視しているのか、それともわざとそういう態度を取っているのかわからない。


「どのみちこの事件は、防衛部でないと片をつけられない。そのうち要請が入るだろうから、それまで休んでおくといいよ」


 つばめは言外に話の終わりを伝え、スマートフォンを取り出して、ゲームで遊び始めた。

 そのいつも通りな様子に、小さくため息をついた樹里は、食器を積み重ねてソファから立ち上がる。


「……堤さんの様子を見てきます」

「あ、それなら、着替えを持っていってあげて」



▽▽▽▽▽



 堤十路(つつみとおじ)が目覚めたのは、高等部校舎の保健室だった。

 もちろん当人はそんなことはわからないので、しばらく混乱したが、気絶する前の出来事を思い出し、そして自分の体を確かめる。

 あの状況なら、背骨を折っていても不思議なかったが、全く異常のない健康体。転倒して街路灯に叩きつけられたのは夢だったかとも思ったが、樹里の医療《魔法》を思い出して納得した。

 夢ではなかった証明に、アスファルトでヤスリがけされて、衣服がボロボロになっている。


 着替えもないので、そのままの格好で十路が向かった先は、校舎裏、都市防衛部の部室。


「やっぱりここにあったか……」


 ガレージを改装した部室の壁際に鎮座している、黒と赤で彩られたオートバイ。

 今はどこかに保管されているのか、十路のものもの樹里のものも、パニアケースが外されている。


「悪いな……納車初日に事故を起こして」


 オートバイのボディを軽くなでて、謝る。

 そして、リアシートの下から車載工具を取り出し、それを使って、転倒事故を起こしたオートバイの様子を確かめる。


 服を抱えた樹里が部室に入ってきたのは、その最中だった


「堤さん……ここに居たんですか」

「あぁ、悪かった。勝手にベッド抜け出して」

「や、それはいいんですけど……体はもう大丈夫なんですか?」

「なんともなし。木次の医療魔法だろ? ありがとうな」

「や、当然です……」

「あれから事件はどうなった?」

「今は膠着(こうちゃく)状態とでも言いますか……」


 抱えていた服をテーブルに置き、樹里も横からオートバイの整備を眺める。


「バイクの様子、どうですか?」

「ボディの塗装がはげた程度だ」


 普通なら、そんなはずはないが、仮に問題があったとしても、車載工具ではできることなど限られているので、十路は工具を片づけながら淡々と話す。


「さすが《使い魔(ファミリア)》。あの程度じゃビクともしない」


 転倒しただけでなく、人を真正面からはね飛ばし、謎のオートバイと激突させて尚、塗装がはげた程度の被害で済ます、恐るべき頑丈さ。

 普通のオートバイには、スロットルはハンドルの右しか存在せず、前輪はただ後輪駆動に押されて動くだけ。しかしこの車体には、ハンドルの左側もスロットルとして動き、それで前後輪を独立させて動かすことで、複雑怪奇な軌道を可能とする。

 派手にエンジン音を響かせても、それは偽装のための音で、実際にはマフラーも不要な電動モーターで駆動している。しかし電動バイクは非力という業界の常識を(くつがえ)し、静止状態から2.4秒で200km/hを突破する、通常考えられないスペックを持つ。

 《魔法使い》が使うために作られた特殊な二輪車、それが《使い魔(ファミリア)》と呼ばれる車種。


「堤さんはこのバイクのこと、最初に見た時から気付いてたみたいですね? これって相当珍しいから、知らない人もいるって聞いてたんですけど……?」

「前の学校でいつも乗ってた。走行距離はわからないけど、10000時間は乗ってる」

「え? いつから乗ってるんですか?」

「13歳。中学生になってからだ」


 現在十路は高校3年生の18歳。約5年間で10000時間という数字を達成するには、毎日5時間以上乗っていないと届かない。

 そして普通二輪免許の取得は16歳から。

 私有地で運転するならば免許は不要だし、モトクロスバイクの大会には小学生の部があるくらいなので、ありえなくはないことだが――


「だから単車(オート)で戦うことも、それなりに慣れてる」

「や、普通の人はバイクに乗っても、そんなこと試そうと思わないと……」

「試す試さないじゃない。何回コケてもやらされて、単車(オート)を乗り物にも武器にも盾にも足場にもできるように、訓練させられたんだ」

「…………?」


 その話が本当ならば、オートバイという機械の使い方から、違うことをやらされている。


「……あの……これ、答えたくないならいいんですけど……」


 都市防衛部の部則には『部員の事情を詮索しない』とある。

 しかし禁則事項に触れるとわかっていて、迷った末に樹里は、おずおずと訊いた。


「堤さんが言う『前の学校』って……?」

「木次。怖かったか?」


 十路は工具を袋にまとめながら、逆に質問する。


「人に《魔法》を使うのは、初めてじゃないっぽいけど、《魔法使い》と本格的に戦うのは初めてだったろ?」

「……ドロボウさんを気絶させたことがある程度で、《魔法使い》どころか、私を殺そうとする人と向かい合うのは初めてでした」

「それが普通だろうな。女子高生が荒事を経験するなんて考えないだろうし」


 機械をいじって手についた油を、ジーンズの腿部分で乱暴にぬぐう。穴があいて、もう履くことはないだろうから、汚れ拭き(ウェス)にしても問題ない。


「だけどな、《魔法使い》は、切った張ったが普通なんだ」


 車載工具を収納して、十路が振り向く。

 その顔に浮かんでいたのは、諦観にも似た虚無。

 感情の見えづらい暗い瞳に、樹里は息を呑んだ。


「現実はおとぎ話とは違う。《魔法》は願いを叶えるためではなく、なにかを壊し、誰かを傷つけることにしか使えない」


 この世界には、《魔法使いの杖》を手に、《マナ》を操り《魔法》を扱う《魔法使い》が存在する。

 しかし現実に存在する《魔法使い》は、フィクションの『魔法使い』とは違いすぎる。


「ここはゲームの世界じゃない。《魔法使い(おれたち)》が当たり前に《魔法》を使っても、それが受け入れられる社会じゃない」


 フィクションの中の《魔法使い》たちが、敵を焼き、凍らせる『魔法』を使う相手の多くは、現実には存在しないモンスターたち。

 そんな風に傷つけ、殺して許される存在が、現代社会のどこにいる?

 

「《魔法使い》なんてファンシーな呼び方するのは日本だけだ。俺たちは世界的には《ソーサラー》って呼ばれてる理由、知らないわけはないだろう?」


 多くの人々は、その呼び方を聞いてもなんとも思わないだろう。

 それほど一般化し、ゲームなどではおなじみの名前だが、しかしそれは本来蔑称(べっしょう)である。


「現代社会の《魔法使い》は、生きた軍事兵器なんだ」


 それがこの世界での現実。

 《魔法使い》は考えるだけでなんでもできる。今までの技術では不可能だった新たな技術を作ることができる。だから国は彼らを管理し、生活と行く末を保証する。

 しかし、もっと単純で効果的な《魔法》の利用方法がある。


 それは軍事。

 ゲームや小説や漫画を思い出すといい。生産のために《魔法》を使う者と、戦闘のために《魔法》を使う者、果たしてどちらが多いだろうか。

 だから建前で言い(つくろ)い、国家は《魔法使い》を管理する。特別な学校に集めて教育し、普段はそのような生活と無縁だとしても、いざという時には兵器としようと。

 《魔法使い》は考えるだけでなんでもできる。生まれながらに優秀な兵士と化し、現存する何物よりも強力な兵器となる。

 (ゆえ)に『普通の生活』など、望むべくもない。


「…………」


 《魔法使い》である以上、当然知っている現実を突きつけられて、樹里は絶句して。


「……あはは」


 そして納得し、困ったように笑った。


「そっか……堤さんは、そういう経歴の人だったんですね」


 常人離れした度胸と身体能力だけではない。オートバイを『オート』と略すある組織特有の呼び方。彼は槍術のような武術『銃剣道』を修めたと言っているのを彼女も耳にしていた。

 今までも彼の経歴を推測するヒントはあった。

 予備知識がなれけばわかるはずないが、しかし納得すれば推測できなかったのが不思議なくらい。だから樹里は渇いた笑いをこぼした。


「俺が昨日までいた学校は、須走(すばしり)だ」


 須走という地名は、元は小さな村の名前だったが、合併により今は住所に小さく残すだけ。

 その地名を残す場所は富士山麓。静岡県御殿場(ごてんば)市近く、陸上自衛隊富士駐屯地近辺。


「防衛省立須走育成校。仕方がなかった進路とはいえ……最悪の場所だったよ」


 それは陸上自衛隊の《魔法使い》養成機関。

 名目上、日本は国軍を持たない国だ。テロを(たくら)む危険な《魔法使い》の侵入に対応するなど、国防上の必要性があろうとも、このような性質を持つ機関は半ば非公式。

 知識と経験から殺傷能力を発揮する《魔法使い》に、軍事知識を持たせ、戦闘経験をさせることで、正真正銘の人間兵器を作りあげる。

 実態を文章で並べればB級映画に出てきそうな学校に、彼は所属していた。


「座学でやることは普通の内容じゃない。物理化学は術式を作るために大学レベルの知識を詰め込まれた。歴史と言えば軍事史による戦略戦術。情報の時間は無線やインターネットの電子対抗手段(ECM)対電子対抗手段(ECCM)の勉強、技術の時間には爆発物の設置から解除方法も実施と合わせてやらされた。体育の時はもっぱらナイフか素手の戦闘術、本物を使った各種状況による銃撃戦。15歳の時に一般隊員に混じってレンジャー訓練も受けた。最悪なのは長期休暇の時だ。修学旅行と称して、海外の民間軍事会社(PMC)に研修に行かされて、本物の戦争に参加した」


 義務教育年齢で軍事に携わるなど、普通ならばありえないが、別段不思議なことでもない。

 《魔法》が軍事的手段を使われること考えると、対抗手段に《魔法使い》を使うしかないのだ。

 例え、まだ子供だとしても。綺麗事を並べていたら、最悪、国が消滅する可能性もある。

 表沙汰にはされていないし、《魔法使い》全員が十路と同じ進路を取るわけではないから、それが異常であるという良識が、政治や軍事の世界にも残っているのかもしれない。

 しかし、十路当人にとっては、そんな良識はなんの慰めにもならないだろう。


「その時、《魔法》で人を殺しまくって……嫌気がさした時、俺は《魔法》が使えなくなった」


 そして彼は人を殺せない兵器となった。

 そして育成校を退学させられた。

 いくら貴重な人的資源であろうとも、役目を果たせない軍事兵器に、存在価値はない。だから廃棄されるのは当然のことだ。


 彼の家族である南十星(なとせ)は、それに怒っている。

 顔も知らない大人たちの身勝手な理由で、家族を連れて行って人生を狂わせ、そして今度また勝手な都合で十路は捨てられたのだから。

 しかし本人は醒めている。

 相手は政府や国家機関。文句を言ってどうにかなるものではないし、それは仕方のないことだと思っている。


「…………」

「引いただろ?」


 なにも言えなくなった樹里に、十路は当然だと皮肉めいた笑みを浮かべて、自分の(てのひら)に目を落とす。

 今は機械油に汚れた手は、見えるはずのない血にまみれている。

 『普通の生活』なんてありふれたものさえ、持つ事ができなくなった手。

 だからこそ、堤十路はそれを渇望する。とても小さくて、大きな願いを。


「……そんなこと、ないですよ」


 十路の右手が、樹里の両手に包みこまれた。

 武骨な男の手とは違う、女の子らしい小さく細い、白い手。


「木次……?」

「堤さんの事情を聞いてしまったから、私がこの部活に入部している理由、少しだけお話ししますね」


 重い話の後なのに、樹里は照れくさそうにはにかむ。


「都市防衛部部則第4項『学生らしくあれ』」


 『《魔法》を悪用しない』『自主性に責任を持つ』『部員の事情を詮索しない』『学生らしくあれ』

 それは4つある部則のうち、最も意味のなさそうな項目。


「学生は、普通に学校で勉強して、普通に友達と遊んだりして、普通に生活していればいいんです」


 だけどそれは、彼女たち《魔法使い》――生きた軍事兵器には、最も大きな意味を持つ。


「学生のやることに、戦争や人殺しは、含まれていないんですよ」

「……そうか。あの項目は、そういう意味なのか」

「はい。だけど《魔法》を使える人間には、どうしても義務が生じます」

「大いなる力には、大いなる責任がある……そんなことを言ってた映画があったな」

「それは事実です。だから私は《魔法使い》として、だけど兵器としてではなく別の形で、誰かを助けるためにこの力を使いたい……その願いを叶えるために、私はこの部に入部しています」


 きっと樹里は人を殺したことがないだろう。

 だからその言葉は、なんとも子供じみた、現実の見えていないセリフと思える。

 しかし十路はそれを馬鹿にすることはできない。

 人を殺さない兵器の価値のなさと、非殺を実現することの難しさを、身をもって知っているから。


「私は、あなたような人だからこそ、歓迎します」


 神に祈るように、胸に抱くように、十路の手を包みこむ力が強くなる。


「強制はできません。だけどどうかこの場所で、あなたの願いを少しでも叶えてください」


「…………」


 十路は自身を受け入れる言葉に、呆然として動けない。


「…………」


 樹里は安心してもらいたくて、体温を与えるように手を握り。


「――ふぇあ!?」


 不意に自分のしていることに気づき、樹里は顔を赤くして手を離した。


「あ!? や!? えぇと!? その!? すみませんでした!?」

「あー……いや、別にいいけど……」


 顔を赤らめる純情な樹里に、十路も戸惑う。


「木次はもう少し男を警戒した方がいいと思う」

「え? そうです?」

「初対面の俺となんの抵抗もなくしかもスカートで2人乗り(タンデム)するし、平気で俺の体に触ってくるし」

「や、2人乗り(タンデム)は慣れてるのと、仕方がなかったのもありますし、手を握ったのは半分無意識で……」

「あとパンツ全開でヒップアタック顔面にカマしてくれるし」

「あれは不可抗力です! ってゆーかそれは忘れることになったじゃないですかぁ!」

「木次の性格から推測するに、たぶん誰にでも同じようなことをして、男に『気がある』と勘違いさせてる気がする」

「あの、私はどういう人間だと思われてるのでしょう……?」

「例えるなら、誰にでも人懐こく尻尾振って、番犬としては役に立たない(ワンコ)?」

「ワンコ……」


 十路は苦笑。樹里は軽い落胆。軽口で先ほどまでのシリアスな空気は霧散したが、その中で少しだけ、真剣に十路は話す。


「……木次。どうして俺を受け入れようとする?」


 ただ《魔法使い》という同族意識だけではないはず。

 普通ならば、『人を殺したことのある人間』に、そんな事は言えない。


「色々ですね。失礼なのは承知で言いますけど、堤さんを見ていられないっていう、哀れみの気持ちもありますし……」


 樹里は首を軽く傾げて言葉を選び、そして笑顔を浮かべて答える。


「あとは、堤さんの匂いですかね?」

「は?」

「私、鼻が利くんですよ。それで堤さんの匂いをかいだ時、『この人の匂い、なんだか安心するなー』って思ったので」

「匂いで判断って……やっぱり(ワンコ)?」

「やっぱり私って犬っぽいんでしょうか……」


 樹里のお人よし加減がここまでのレベルだと、十路としては呆れるしかない。


「それに、これでも少しは人を見る目は持ってるつもりです。堤さんが、好きで誰かを殺す人だとは、到底思えません」

「当たり前だ……あんなの誰が好き好んでやるか」

「だったら信用できますよ」


 生きた軍事兵器(まほうつかい)としてはあまりにも純真な樹里に不安を感じ、同時に十路は、その純真さを自身にも向けてくれることを嬉しくも思う。


 ならば彼は考えてしまった。

 《魔法使い》は願いを叶える存在だと、この少女が言うならば、《魔法使い》である自分は、彼女の願いを可能な範囲で叶えようと。

 いつものトラブルご免のなぁなぁ主義は、少しだけなりを潜めて。


「木次。事件の現状の詳細と、防衛部としての対応を聞かせてくれ。俺はどうすればいい?」

「え? や、堤さんみたいな人に、力を貸してもらえるのはありがたいですけど……いいんですか?」

「俺は体験入部中だから、参加するに決まっている。それに《魔法》を使えない《魔法使い》でも、荒事には前の学校で慣れてるから、力にはなれる」

「トラブルに巻き込まれるのはご免って言ってませんでした?」

「放置した方が大きいトラブルになるなら、その限りじゃない」

「あはは……確かにそうですね」


 樹里はひとまずテーブルに置いた服を手に取り、十路に差し出した。


「お話しする前に、服を着替えてください。今の格好、ボロボロですし」

「……この服、誰の?」

「つばめ先生が用意した新品ですけど?」

「また理事長か……」


 つばめの策略めいたものが見え、十路は軽く顔をしかめながらも、新品の服を受け取った。


当方、情報は足りないよりは、余るくらいでいいと考えている人間です。

でもこれは長いとも思ってます。要反省。


1/17 ルビ修正 誤字修正

1/27 章追加による文章修正

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