00_105 PM18:44 インターミッション03
必要があるのか微妙ですが、またも別視点の文章。
短いので連続投稿。
最初は慌てたものの、無理矢理連れ込まれた車が走り出すと、コゼット・ドゥ=シャロンジェは抵抗を止めた。
十路と樹里が1人ずつ、誘拐犯を行動不能にさせたが、車の中には運転手を含めてまだ2人乗っている。ならばここでジタバタする方が危険だと判断した。
(私が誘拐された理由はどちらかしら……? 王女だから? 特殊な技術者だから? それとも――)
誘拐犯たち3人が怒鳴りあう声で、思考は一時中断。早口で慌てた様子なのはわかるが、なにを言っているのか理解できない。
コゼットは5ヶ国語習得。ルクセンブルグ公国の公用語は、フランス語・ドイツ語・ルクセンブルグ語。それに加えて英語と日本語も日常生活に困らないレベルで習得している。
そんな彼女でも理解できない、別の国の言葉を、犯人たちは怒鳴り合っている。
ギャンブルで一攫千金を目論むような、短絡的な行動を行う者は、自分が失敗することを考慮に入れていない事が多い。
どうやら怒鳴っている男はそういうタイプで、スムーズにコゼットを誘拐できず、仲間を2人失った狼狽を、怒りとして吐き出しているのだろう。
そしてハンドルを握っている、やはり覆面をした犯人は、それを諫めている様子。
(犯人たちの身長は高くても190cmはない。体は全員筋肉質。武装はピストル……サブマシンガンも持ってる? 動きは統率が今ひとつ取れていない。スペイン語やポルトガル語の語感とも違う。言葉の雰囲気からすると西・南・東南アジア圏の人間?)
彼女は少ない情報を元に、冷静に分析。
(軍人崩れか、犯罪組織の私兵でしょうか? さすがに私が暴れてどうにかできるとは思えないですね――)
そして現状最良と思える行動をコゼットは取る。すなわち、大人しくする。
突然の自体にも平静さを取り戻し、取り乱さない辺りが、王女の貫禄と呼べるものがある。
(それにしても――)
大人しくしている以外にないのだから、やることを言えば考えること。車に押し込まれる直前のことを思い出す。
(相手が誘拐犯とはいえ、あの2人、街中でムチャしますね……)
顔見知りの女子高生と、今日初対面の青年。
車の中の犯人3人が騒いでいるのも、あの2人が原因だろう。
突然現れた2人乗りのオートバイにより、1人は不可思議な技で感電し、もう1人は躊躇なくはね飛ばされ、見捨てることになった。
誘拐事件をスムーズにやろうなんて甘い考えだが、さすがにあれは想定外だろう、犯人たちの狼狽も理解できなくはない。
(しかし、神戸で自由に《魔法》が使える《魔法使い》をご存じないとなると、どうやら防衛部自体をご存じない?)
ならば――
「――ッ!」
コゼットを強引に車内に連れ込んだ犯人の、小さく舌打ちで思考が止まる。
覆面で顔を隠し、そして彼女は知る由はないが、それは『アイマン』と呼ばれた少年。
彼は座席の下に入れていた金属の塊を、布に包まれたまま手にした。
(あれは――!?)
それを見て、コゼットは人知れず顔色を変えた。
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