00_100 PM18:32 接敵機動
妙なところで切っているので、今回は短いです。
今までも文章量はマチマチですが……
日が暮れはじめた国道2号線を西に進む途中。
意図的に追突事故を起こした車は、駆動音に異音を混じらせているが、日本の技術の優秀さを示し、動きには支障がない走りを見せている。
十路は無理をせず、100m以上の車間距離を取って、それを追跡する。
ちなみに樹里は、そのオートバイの後部座席で、長杖を脇にかかえてやりにくそうに、携帯電話をいじっていた。
『木次、どこまで介入する気だ?』
今まで多少丁寧に『さん』付けで樹里を呼んでいたが、もうそんな余裕はない。無線を通して呼び捨てる。
『本当なら俺たちが、こういう事に首を突っ込むのはよくない』
『私たちが一般人だからですか?』
『それもだけど……』
警察に限らずだが、組織は外の人間の介入を嫌うことが多い。自分たちのやり方とは違う人間に、状況を荒らされたくないからだ。
更に一般市民が凶悪と予想される事件に関わると、余計な被害を増やすことにもなるからだ。
しかし十路が言いたい意味は、少し違う。
《魔法使い》はその能力ゆえに、刑事事件を含む普通の人間の生活に触れることは、原則禁じられているからだ。
『それに事件に巻き込まれてるのは外国の要人。外交上の問題もあるはずだから、俺たちが介入するのは余計好ましくないはずだ』
『大丈夫です。今、つばめ先生にメールしましたから』
『いや、理事長に連絡したところで、なにも関係ないだろ?』
『学校では防衛部はなんでも屋と説明しましたけど、固い言葉で説明すると、少し意味が変わるんです』
固い言葉、つまり公式な発表。
『有事の際には警察・消防・自衛隊に協力し、事態を解決する民間の高度緊急対応部隊』
『部隊? どこまでやる気だ?』
『場合によっては戦闘行為まで。許可されているというより義務です』
『準軍事組織……!? 日本国内だぞ!?』
その言葉で、この部活動の存在に、ある程度の納得もできる。
《魔法使い》は国家に管理される人材。しかし樹里は普通の生活を送っている。
それが許されている理由が、これなのだろう。
政府機関に組み込まれていない理由、修交館学院自体や理事長であるつばめの正体に、若干の疑問は残るが、なんらかの超法規的措置や裏取引があると考えると納得できなくもない。
そしてふと、つばめがコゼットの出迎えを『お願い』した時のことを思い出す。
こんな事件になる可能性があったからこそ、樹里と一緒に十路を行かせたのではないだろうかと。
『とは言っても、こういう事態は私も初めてですけど……』
『……色々言いたいことはあるけど、どうするんだ? 俺たちで王女様を取り戻す気か?』
『それができればベストですけど……』
『現状、木次の《魔法》でどうにかできる方法は?』
『や、普通の《雷撃》だと車に効果ないですし、有効な手段となると、周囲の被害と人命を保障できません……』
『おい……中間どころの丁度いいのは?』
超強力な射出式スタンガンの他は、ミサイルしか持っていないような状況に、十路は複雑な気分になる。オートバイの後ろに乗って、自分のベルトを片手で掴んでる少女が、普通の女子高生ではないという再認識と共に。
『あぁもう……! 《魔法》が使えても、こういう時には全然役に立たないなぁ……!』
『《魔法使い》はそんなもんだ』
それでも一応、対応策の為に確認を取る。
『木次。王女様の安全は第一として、犯人の確保と解決の迅速さ、どっちを優先するべきだ?』
『スピード優先で。《魔法》の使用を許可されてるのは、淡路島の『塔』を中心とした半径130km圏。この街を出られると、私はなにもできなくなるんです』
『となると……大阪まで行かれると面倒になるな』
救出には大問題が一つ。既に樹里が《雷撃》で行動不能にしていた誘拐犯は、銃を持っていた事。他の犯人が持っていないのを期待するのは間違いだ。
現状としては十路たちが不利ではあるが、有利な点もある。
誘拐犯の反応から察するに、十路たちは正体不明のイレギュラーな存在であり、《魔法》についても詳しくない。
『最終確認だ。俺、基本的にトラブルに巻き込まれるのはご免なんだ』
ここで、なぁなぁ主義発揮。
先ほど誘拐を阻止しようとした空気はどこへやら、十路の空気はいつも通りの怠惰な野良犬。
『や、誰でも誘拐事件に巻き込まれたくないと思いますけど……』
『王女様がどういう理由で誘拐されたかはわからない。だけど早々に傷つけられることはないだろうし、むしろ強引に俺たちがしゃしゃり出ると、巻き添えくらう可能性がある』
『う……確かに』
『それでも俺と木次でなんとかするべきだと思うのか?』
『…………』
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