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SSSS(プロトタイプ)  作者: 風待月
00 体験入部
11/34

00_071 PM17:35 修交館学院初等部にて

またも伏線投入。

いつ回収することになるのやら。


「やりすぎたでしょうか……?」


 大学部の敷地から、高等部の敷地に戻る階段で、樹里は不安そうに十路(とおじ)に振り返る。


「まぁ、どちらかと問われたら、やりすぎた?」

「やっぱり……」

「むしろ防具もなく、何度も挑み続けた和真(あいつ)を褒めるべき?」

高遠(たかとお)先輩、何回打ってもゾンビみたいに起き上がるから、ちょっと怖くて……」

「そんなに顔面に蹴り入れて欲しかったのか……節操ないのか、ドMなのか、バカなのか……」


 ちなみに敗れた戦士の最期の言葉は『ぱ……ん……がくっ』と、途中で事切れたために、その詳細は誰にもわからない。想像はついたとしても、真実は彼以外知らない。


「それにしても――」

「あー、や。先に言っておきますけど、私は学校内では強い方かもしれないですけど、もっと強い人知ってますから、引かないでくださいね?」


 十路が言いかけた言葉を、先じて樹里がかぶせた――つもりだったが。


「いや、それも驚きはしたけど、そうじゃなくて」


 樹里程度の腕前なら、十路は何人も知っているから、そこまで感じたことではない。


「普通に人付き合いしてるんだな……と思って」

「え?」


 薙刀部の部長も、剣道部の主将も、和真も、ナージャも。

 誰も彼女を《魔法使い》だとは意識しておらず、ごく普通の女子高生と同じように接していた。

 そちらの方が、十路には驚きだった。


 そんなことを考えつつ歩き、校舎裏手の部室に帰った時。


「ねーちゃん!」


 小学生だろう、元気の良さそうな男の子が、呼びかけてきた。


「来て!」

「どうしたの?」

「イオリがジャングルジムから落ちた!」


 言葉足らずな会話だが、それで通じたらしい。


「どこ!?」

「校庭!」


 それだけ聞いて、樹里は駆け出した。


「あ、おい!」


 止める間も、詳しく聞く間もなかったので、十路も樹里を追い、高等部校舎の裏を全力疾走した。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 1分後には2人とも、初等部のグラウンドに到着。

 高等部の校庭とは違い、設置されている遊具、そのジャングルジムの近くに子供たちが数人、固まっている。


「どいて!」


 どうすればいいかわからず、心配そうに見下ろす子供たちの輪を割り、その中心、地面に倒れて泣き叫ぶ女の子の側に樹里が膝をつく。


「木次! 動かすな!」


 2秒ほど遅れて十路も近づく。


「折れてる……」

「左腕からジャングルジムを落ちたんだろう。頭を打ってるかもしれない」

「回路展開」


 樹里が手にした《魔法使いの杖(アビスツール)》の先端が一瞬だけ発光。

 少女の全身を取り囲むように、そして左の二の腕、関節がないのに曲がっている位置に、腕を取り囲むように光る幾何学模様を形作られる。

 EC-Sircit。現代の魔法を行使する際に現れる『魔法陣』で診察。


「頭は……大丈夫。単純骨折だね。キレイに折れてるから、接合だけで十分」


 ひとりごとを呟き、念じるように樹里がまぶたを閉じる。


「実行」


 たった一言。

 それで骨折部位を囲んでいた幾何学模様が、淡く光量を増し、不自然だった少女の左腕が元に戻る。


「医療魔法……」


 初めて見るものではないが、十路は軽く驚く。

 しかし、この手の魔法の使い手で、樹里のような若い者はまずいない。

 人体の仕組みを理解するほどの知識、つまり医者になるのと変わらない勉強が必要なのだから。


「うん。完了」


 満足そうに頷き、長杖を軽く振ると、幾何学模様(EC-Sircit)が消え失せた。

 

「ほーら、もう大丈夫だよー。それともまだ痛い?」


 地面に寝たまま泣いていた少女を抱き起し、樹里が笑いかける。

 どうやらこういう光景は、初めてではないらしい。心配そうに見ていた周囲の子供たちは、ほっとしたように顔をほころばせるだけで、驚いた様子はない。

 無造作に人前で《魔法》を使ったというのに。

 それも十路には驚きというか、不思議であったが、なによりも不思議に思っていたことに、一つの結論が出た。


「木次さんって、本当に《魔法使い》だったんだな」

「信じてなかったんですか!?」


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


「や~、大したことなくて、よかったです」


 ジャングルジムから落下し、骨折した少女の治療を終え、樹里は部室に帰って来た。


「…………」


 眉根に皺を作る十路を連れて。


「あのー……堤さん? さっきからどうしたんですか?」

「…………」


 訊ねても十路は返事しない。

 またも壁に立てかけた、樹里の《魔法使いの杖(アビスツール)》をジッと見て、微動だしない。


「堤さーん……?」


 反応しない十路の背後に近付き呼びかけた、その途端。

 ほんの少しの衝撃と共に、体が軽く落下した。


「え?」

「あ!?」


 樹里の声の意味は疑問。十路の声の意味は後悔。


「え? え? え?」


 自分になにが起こったのか、理解できず樹里は狼狽。理由不明で倒れかかった体、上体に回した十路の腕一本で支えられていた。

 必然的に顔が体に近づき、今までは意識してなかった十路の匂いが鼻に届く。


(わっ……なんだか安心できる匂い……)


 新陳代謝が活発な高校生男子の匂い、しかも夏が近づき汗が流れる梅雨の時期でも、不思議と不快な気持ちにはならない。


「…………スマン」

「や、いえ……?」


 そんなこと樹里が考えてるとは当然知らず、気まずげに無理矢理立たせ、怯えたように十路が距離を取る。


「俺の不注意だ……悪いクセが出た」

「癖?」

「前の学校で身についたクセ……」


 背後に立った樹里を、反射的に足払いで地面に倒し、拳か蹴りを叩きこもうとして慌てて制止した。

 とりあえずは何もなかったと、ため息をついて安心し、次もまたあるかもしれないと思うと、十路は暗澹たる気持ちになる。


「誰かれ構わず抱くクセですか……?」

「俺どんな犯罪者だよ!?」


 しかし何も知らないというのは、ある意味幸い。的外れな回答に、暗い気分は吹き飛んだ。


「わからなかったら、それでいい……ともかく悪かった」

「はぁ……? まぁ、いいですけど……」


 奇しくも同時に、2人がそれぞれに同じ評価を下した。


(堤さんって、変わった人だなぁ……)

木次(きすき)って、変わった娘だな……)


 十路への評価はそのままの意味で。樹里への評価は抜けているという意味で。


「それで、私の《魔法使いの杖(アビスツール)》がどうかしましたか?」

「あー……いや、いい。なんでもない。言おうかどうしようか迷ったけど、いま言うことでもないかと思って」

「?」


 迷っていた雰囲気から、深刻な話をしたいのではないかと想像していたが、そう言われると訊き返せない樹里。

 十路が考えていたのは、グラウンドで樹里が医療魔法を使った件。

 あんなに簡単に、人前で魔法を使うことを注意しようかとも思ったが、周囲の子供たちが驚いた様子もなかったので今更なのだろう。

 そして『抱きつき癖』疑惑で、真面目な話をする気分でもなくなった。

 だから話を変えた。


「あー……それでまぁ? 防衛部の活動って一通り見せてもらったってことになるのか?」

「まぁ、そうですね。どうでした?」

「……そうだなぁ」


 活動内容はカウンセリングルーム+α。《魔法》を使う事があっても小さな治療程度。医療魔法は十路は使えないし、そもそも十路は《魔法》自体が使えない。

 部活動としては存在理由が不明。《魔法使い》などという、世界で一番面倒な人種を使うほどでもない。

 こんな部活動の入部が、転入の条件にされる理由は、やはり不明。

 そこまではプラスマイナスゼロの様相だが、自身への問題で、大きなマイナスだと十路は思う。

 無意識の行動とはいえ、樹里を傷つけようとしたのが大きな精神的ダメージ。


「転入は、や――」

「おー、いたいた。ジュリちゃーん」


 転入はやめよう、と宣言しようとしたが、部室につばめが入ってきたことで遮られた。


「まずコレ」

「? なんです? これ?」


 つばめの手から渡されたのは、合金製のケース。今はオートバイの後部に積みっぱなしにしている、十路の荷物と同じ物に見える。


「ジュリちゃんのケース。今日からコレ使って」

「へ?」

「あとトージくん、お願いがあるんだけど」

「は? 俺もですか?」

「うん。トージくん、体験入部中でしょ?」

「まぁ、そうなりますけど……」

「ってことは、『部活』ですか?」

「うん。2人一緒の方が丁度よさそうだし」


 樹里は部員として問題なくても、十路は現状では部外者。それでなにが丁度いいのか疑問だが。


「理事長……俺になにさせる気ですか?」


 十路の問いに、つばめは笑みを浮かべる。

 邪悪ではないが、イタズラ心を秘めた小悪魔の笑み。


「ある人を迎えに行って欲しいの」


1/28 章追加による変更

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