00_000 6月2日のはじまり
この小説ページを開いてくださってありがとうございます。
個人的な実験として書いてますので、この話は一般的に推奨される書き方と違い、ある程度読んで頂かないと、理解できない内容になっています。
「歯ぁ食いしばって腹に力入れろよ!」
「え!? ちょっと堤さん――!?」
堤十路の人生における願いは、普通に生きること。
心身健全・学業大成・金運招福・大願成就。いずれも高望みなんてしていない。
風邪で寝込んでも入院しなければOK。100点は無理でも赤点取らなければ問題なし。裕福でなくても借金なく生活できればいい。
ついでに明かすと、恋愛成就なんて願望も全く持っていない。
何事もほどほどで十分。出る杭は打たれる。過ぎたるは及ばざるがごとし。
当然、揉め事なんてまっぴら。
基本は待ち、受身の姿勢。トラブル解決不可能なら逃げることも躊躇しない。男らしくないという文句は聞き流す。
だから家族からは『なぁなぁ主義』と言われてる。
そんな彼が――否、普通なら誰でもそうだろうが。
「轢いたーーー!?」
街中でオートバイに乗ったまま、人間に突っ込むことになるとは想像もしていなかった。
推定体重70kgの物体に、車体+2人の人間=350kg超の重量が、それなりの速度でまともに激突。はねられた男は、カエルが潰れたような声を上げて吹っ飛んだ。
しかしブレーキをかけながらの衝突なので、死ぬほどではないだろう。
「よし」
「平然と人身事故を起こす堤さんが怖いです……」
「前の学校で何回もやったから慣れた」
「どんな学校ですか!?」
「そんなことより――」
残るもう1人が、人身事故を正当防衛と証明してるので、なにも問題ない。
仲間がオートバイにはねられるという突然の事態に、呆気に取られた男の手には、黒光りする金属の塊。
我に返った瞬間、それを向けられるのは、想像にかたくない。
「あっち、木次の担当でいいのか?」
「え!? あ、はい!」
リアシートに乗った学生服の少女が、構えた長大な杖を男に向けた途端、空間に淡く光る幾何学模様が描かれる。
それはあたかも『魔法陣』
「実行!」
その一言で小規模ながら、超常の落雷が発生し、残る男に直撃。
手にしていた金属塊を取り落とし、薄い煙を上げて崩れ落ち、見ていると不安になる痙攣をする。
「……そのエゲつなさで、俺が人をはねたの、文句言われたくない」
「ちゃんと手加減しましたよ!?」
「銃が暴発したらどうする気だったんだ?」
「えーと……結果オーライということで……」
「それで、どうすればいい?」
「追ってください!」
「了解」
はね飛ばしてうめいてる男と、感電してうめいている男は、誰かがなんとかしてくれるだろうと判断し、十路はオートバイを発進。
「やっぱりかよ……!」
堤十路の人生における願いは、普通に生きること。
揉め事なんてまっぴら。
家族からは『なぁなぁ主義』と言われてる。
だから。
《魔法使い》の少女を後ろに乗せて、誘拐犯をオートバイで追いかけるなんて、目標から真逆の時間は望んでいなかった。
1/11 修正
1/20 文章追加