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サーザンエンド辺境伯戦記  作者: 雑草生産者
第五章 塩、玉、絹
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七一 「地獄の入り口」の戦い~前

 レオポルド率いるクロス卿派、七長老会議派、北東六部族による同盟軍は「地獄の入り口」と呼ばれる大地の裂け目が北にぐにゃりと湾曲した部分に布陣していた。歩兵連隊一二〇〇余は二段の横列を形成し、湾曲部に蓋をしている。右翼第一大隊は連隊長であるレッケンバルム大佐が指揮を執り、左翼第二大隊は連隊副長であるヘンリック・ケッペン中佐という帝国人士官が率いる。

 ケッペン中佐は元はサーザンエンド辺境伯軍の第四連隊で少佐を務めていた古参士官だ。同盟軍は深刻な士官不足に悩まされていた為、レオポルドは彼を中佐に上げ、連隊副長に任じた。

 歩兵連隊の前には馬防柵と空濠が設けられ、出入り口が一ヵ所のみ開いている。

 戦列の両端には一門ずつカルバリン砲が置かれ、五〇人ずつの南方奴隷兵が護衛している。浅黒い肌の南方奴隷兵はいずれも大身の屈強な男たちで、マスケット銃の他、ムールドのものよりも分厚く大きな半月刀や斧、棍棒などで武装していた。

 湾曲部の奥側にはサーベルやピストルで武装したアルトゥール率いる騎兵連隊七〇〇余騎が控え、更にその奥には輜重兵の他、レオポルドの本陣とそれを守護する精兵一〇〇の近衛部隊が陣取る。

 同盟軍の背後と側面は深さが何ヤードあるかも分からない奈落に囲まれている。そこから敵に攻撃される恐れはないが、逃げることもできない。落ちれば真っ逆さま。命は助かるまい。

 この布陣を取ったレオポルドの意図は敵の攻撃路を正面に限定させ、機動力に勝る敵勢が自軍の背後や側面に回り込まないようにすることが主であった。

 しかし、副産物として自軍の退路を断つ意味合いもあった。同盟軍の将兵は背後や側面に逃げ道がないことを目に見える形で示されている為、生き延びたいならば死に物狂いで目の前の敵を倒すしかなく、彼らの奮起を促す効果が期待できる。

 その上、レオポルドの指示を受けたムールド人士官たちが全軍に触れ回っていた。

「兵士諸君っ。我らが敵クラトゥンの族長にしてムールドの王を僭称するレイナルは卑劣にして残虐なる輩であるっ。奴は敵兵を一人残らず虐殺する人非人であり、捕えた者、降伏した者に一片の慈悲も与えず、惨たらしく恐ろしい拷問にかけ、惨殺するような男であるっ。彼奴の悪行をこれ以上許してはならぬっ。我々は正義の為、我らが兄弟ムールドの民全てを悪から救い出す為に戦うのであるっ。奴に降伏すること、奴に背を向けること、奴を逃がすことは断じて許さぬっ。最後の一兵まで戦い抜き、彼奴に正義の鉄槌を下し、地獄の底に叩き落とすのだっ」

 この言葉に下士官たちが「応っ」と唱和し、兵士たちも続いて同意の声を上げた。

 このようなことを何度も繰り返す。隣に立つ仲間と共に何度も声を上げ、足踏みし、手にした武器を掲げる。この行動は無意識のうちに兵たちに一体感を与え、団結させる。

 兵たちが鬨の声を上げる中、レオポルドとキスカ、バレッドール准将ら士官たちは騎乗で全軍の前に進んでいた。

「サーザンエンド辺境伯っ。レオポルド・フェルゲンハイム・クロス閣下に万歳三唱っ」

 歩兵連隊の士官が叫び、下士官たちが命令を唱和する。

「辺境伯閣下っ。ばんざーいっ。ばんざーいっ。ばんざーいっ」

 兵たちの歓呼に包まれたレオポルドは硬い笑みを浮かべながら、羽飾りを付けたつばの広い灰色の帽子を手に取り、兵たちに向かって振った。

「気が早いぞ」

 戦列を抜けた後、帽子を被り直しながら彼は苦々しげに呟く。

 彼はまだ辺境伯の椅子を手に入れていないのだ。まだ座れるかすら怪しい段階である。確かに気が早すぎる万歳だった。

「良いではないですか。それで兵の士気が上がるなら」

「上がるのか」

 バレッドール准将の言葉にレオポルドは首を傾げる。

 歩兵戦列の五〇ヤード前に出た所で一行は停止し、望遠鏡を覗き見た。

 視線の先、同盟軍陣地から一マイルほど南には大量の人馬が蠢いていた。その数一万騎以上。ムールド王を自称するレイナルが率いるクラトゥン族を中心とするムールド諸部族の連合軍である。色とりどりの旗が掲げられ、風に靡いている。おそらくは、それぞれの部族が一族の象徴を描いた旗を揚げているのだろう。

 殆どが半月刀や短弓を装備した軽騎兵で火器の類は殆ど所持していない。鎧兜なども装備せず、何割かが革の胸当てを装備している程度である。クラトゥンの兵は顔面の殆どを薄い布で覆って、顔を見せないようにしている。クラトゥン族の男は他人に素顔を見せない風習があるらしい。

「陣形を整えているんでしょうか」

「連中に陣形という概念はあるのか」

 副官の言葉にバレッドール准将は顎を擦りながら言い、キスカを見た。

「勿論、陣形の概念はあります。矢形にしたり、両翼を開いた形にしたり、円形にしたり」

 彼女は心外そうに答えた。

「しかし、今のところ、ごちゃごちゃと寄せ集まっているだけに見えるな。まるで引率者のいないガキの集団だ」

 アルトゥールが言った通り、クラトゥン族軍はまるで陣形というものをつくれていなかった。彼らが今いる地点に到着したのはもう四半刻は前のことだ。

 キスカは少し考えてから口を開いた。

「レイナルの軍勢はクラトゥン族が中心ではありますが、他の多くの諸部族も加わった連合です。しかも、レイナルの勢力は急激に拡大しましたから、まだ、部族間の連携が十分ではないかもしれません」

 彼女の推論に士官たちは納得して頷く。

「また、今までムールドではこれほどの大軍が組織されることはありませんでしたから、大軍を用いた戦術というものに彼らはまだ不慣れなのでしょう」

 それでも、彼らがこれまで勝ってこれたのは相手もまたムールドの部族軍だったからだろう。組織力や統率力では同じくらいの相手であり、白兵戦であればいくらか陣形が歪であれ、十分に統率が行き届いていなくとも、単純に数の多い方が勝つのは自明の理というものだ。

「それは我らにとって好都合というものだ」

 レオポルドはいくらか機嫌よさそうに呟いた。

「しかし、いくら敵が烏合の衆をいくらかマシにした程度で我が軍が組織力と火力に優れていたとしても、五倍の戦力差を覆すのは難しいのでは……」

 ムールド人士官が遠慮がちに言った。

「君は火器の本当の強さを知らんのだ。いいかね。これからの時代。戦争は火力なのだよ」

 不安げなムールド人の士官にバレッドール准将はそう言って、ニヤリと笑った。

「では、そろそろ、こちらから仕掛けますかな。大人しく敵の準備が整うまで待ってやる必要もありますまい」

 准将はそう続けて、レオポルドを見た。

 同盟軍はアルトゥールの率いた中隊を収容して陣形を整え直し、砲兵も砲撃の準備を終えている。こちらは攻撃の準備が万端整っている状態なのだ。敵の視察も今終えた。

 レオポルドは黙って頷くと馬首を返す。士官たちもそれに続き、将校団は陣営へと戻って行った。

 レオポルドたちが本陣に引き上げていくのを見送った後、バレッドール准将は歩兵戦列のちょうど中央辺りに陣取った。

「着剣せよっ」

 准将の命令で歩兵連隊の兵たちは腰の銃剣を取り、マスケット銃の先端に取り付けた。銃剣はかつてはプラグ式の銃口に挿すタイプで着剣すると発砲ができないという不便があったが、現在では銃口に括り付けるような形で装着するソケット式(リング式とも)の銃剣が普及し、着剣したまま装填、発砲ができるようになっている。着剣した銃は短い槍として用いることができ、これにより銃兵の白兵戦能力は格段に向上した。

「よいか。十分に敵を待ち構えるのだ。訓練を思い出せ。十分に引き付け一斉射撃をお見舞いしてやるのだ」

 准将は兵たちに言い聞かせるように指示を出す。伝令がそれを兵たちに伝える。

 ちょうど、その時、戦列の両端に据えられたカルバリン砲が火を噴いた。

 カルバリン砲は蛇のように長い砲身を持ち、三マイル以上の長い射程を誇る中口径の大砲である。一八ポンドの砲弾を撃ち出し、歩兵や騎兵を粉砕する。精度は非常に悪く、初弾を狙い澄ました場所に命中させることは殆ど奇跡に近い。

 とはいえ、今回の標的は非常に大きい。一万騎の敵勢の真ん中にぶち込めばいいのだ。大体の距離さえ合っていれば一万のうちの不幸な幾人かに命中するだろう。距離を測り、砲の仰角と火薬の量を調整する時間は十分にあった。

 撃ち出された一八ポンドの鉄の塊は空気を切り裂き、敵勢の数ヤード前に着弾し、土を巻き上げ、小石を散らしながら跳ね、瞬く間に人間の体を粉砕し、馬の脚をもぎ取っていく。弾け飛んだ石や木の枝は周囲の兵に襲いかかり、皮を突き抜け、肉に食い込み、骨を砕く。

 そこかしこで悲鳴が上がり、混乱した馬が嘶く。

 遠くから聞こえる喧騒を聞いた同盟軍の将兵が一斉に歓声を上げる。砲兵は速やかに次弾を装填する。

 先制攻撃を受け、クラトゥン族軍は全体的な陣形を整えることを諦めたようだ。このまま、整列に時間をかけ、その間に砲撃で一方的に叩かれてしまうことを恐れたのだろう。

 軍隊の整列にはよく訓練された西方諸国の軍隊でも時に数時間もの長い時間を要する。数千数万という人間を指揮官が頭に思い描いたように並ばせるのは大変骨の折れる作業なのだ。これを不慣れな軍勢が敵の砲撃を受けながら行うというのは至難の業といえる。早々と諦めたのは正解かもしれない。

 クラトゥン族軍一万騎の群れから一〇〇〇騎ほどの騎兵隊が飛び出してきた。白地に真っ赤な星形を描いた旗を掲げている。一〇〇〇騎は矢形の陣形を取って突き進んでくる。

「パレテイでしょう」

 前線から来た伝令の報告を受けたキスカが言った。

「パレテイ族といえば西部の有力部族だったな。先頃にクラトゥン族に降ったという」

 レオポルドが記憶を探りながら言った。

「臣従の証として先陣を賜ったか。或いは忠誠を示せと押し出されたか。どちらかでしょう」

 キスカの言葉にレオポルドは頷く。

 本陣には更に伝令が駆け込んできて続報を告げる。パレテイ族一〇〇〇騎の後には更にいくつかの小部族の混成部隊が続いており、向かってくる敵勢の合計は三〇〇〇騎を下らないという。それだけで敵方が自軍の兵力を上回っている。

「敵が一挙に全軍を押し出してこないのは伏兵や別働隊、罠の存在を恐れているのかもしれんな」

 レオポルドが顎を擦りながら一人呟く。

 兵に余力があるのだから、万が一に備えて十分な量の予備兵力を手許に残しておくことは賢明な判断といえるだろう。

 パレテイ族を先頭とした三〇〇〇騎の軽騎兵が突き進む間にも同盟軍の砲撃は続いている。

 同盟軍の砲兵隊は砲の仰角を水平に近くし、こちらに向かってくる三〇〇〇騎の密集した群れを目標にして砲撃を行った。

 撃ち放たれた砲弾は先頭を行くパレテイ族の戦士を木端微塵に粉砕した後、何人かの手足をもぎ取っていって、地面に落ちると土を巻き上げ、小石を飛び散らせながら、何度か跳ね回って更に何本かの馬脚を圧し折っていった。飛び散った犠牲者の四肢、撒き散らされた小石は凶器となって周囲の騎兵たちに襲いかかる。肉に食い込み、骨を砕く。

 密集陣形に打ち込まれた二発の砲弾によって十数騎もの騎兵が倒れ、更にそれ以上の数の兵や馬が負傷した。

 火器をつかった戦闘に慣れていないパレテイ族の騎兵たちはちょっとした恐慌状態に陥った。馬や駱駝は大砲が放った大音量に驚き、悲鳴を上げながら乗り手を振り落すような勢いで混乱している。

「敵軍は混乱しているようです」

「まぁ、ムールドでは火器が普及していないからな。初めて聞く砲声に馬が驚くのは無理もあるまい」

 副官の報告にバレッドール准将が呟いた。

「攻撃の絶好の機会ではありませんか」

 別の士官が意見を述べると、准将は彼をじろりと睨んだ。

「半マイル以上先の敵に攻撃をしに、わざわざ歩いて行く気かね。馬鹿者」

 士官は不満げな顔でなおも続ける。

「歩兵連隊ではなく、騎兵連隊を出すのです。敵に一撃を与え、反撃される前に反転すれば宜しいのでは……」

「そう上手くいくものか。かような曲芸の如き戦術を取れるほど我が軍の練度は高くあるまい」

 バレッドール准将はそう言って鼻を鳴らす。

「我々は大人しくここに陣取って敵が向かってくるのを断固として迎え撃つのだ。一兵たりとも退かず、この線を守り抜くことが肝要である」

 准将は士官たちに言い聞かせるように説いた後、望遠鏡を覗き込んだ。

 やがて、パレテイ族の指揮官が配下の騎兵たちの混乱を鎮めることに成功する。さすがは立つ前から馬に乗るとか鞍が揺り籠代わりとか云われる遊牧民なだけあって、混乱する馬たちを宥め、陣形を組み直し、前進を再開する。

 そこに再び砲弾が飛び込み、阿鼻叫喚の地獄絵を再現する。肉片が飛び散り、血が噴き出る。バタバタと数騎が倒れ、腕や脚を失った人馬が悲鳴や呻き声を上げながら地面をのた打ち回る。

 しかし、今度は前進を止めなかった。倒れた仲間、傷ついた仲間を踏みつけることも厭わず、パレテイ族の騎兵隊は突き進む。既に距離は半マイルを切っている。数千もの人馬の集団は土煙を上げながら突進してくる。彼らの掲げる剣や槍、斧が陽光に反射してキラキラと輝く。あと数分もすれば敵勢は目前まで迫っているだろう。

「第一列、構えぇっ」

 バレッドール准将が号令をかける。士官、下士官たちが部下に命令を伝達し、前の列に並ぶ兵たちは肩に担いでいたマスケット銃を一斉に構えた。

「よく狙え。外せば次の瞬間に奴は貴様らの首を掻き切っているぞ」

 准将は馬上から敵を睨みつけながら、兵たちに声をかえる。

「命令があるまで決して発砲するな。よく引き付け、必中の一撃を食らわせやるのだ」

 再び砲声が轟く。十数騎がバラバラに粉砕され、悲鳴と怒号が響き渡る。

「狙えぇっ」

 歩兵戦列に緊張が走る。敵は既に二〇〇ヤードよりも近くに迫っている。敵兵の顔も表情も見えてきた。こちらを遥かに上回る数の人馬が一体となって地面いっぱいに突進してくる。刀を振り回し、槍を構え、斧を振りかざし、こちらを殺そうと迫ってくる。

 騎兵の集団突撃の迫力は非常に大きなものがある。士気の低い軍隊などは騎兵突撃が目前に迫っただけで算を乱して敗走してしまうほどだ。

 また、その突撃の衝撃に耐え切れず、戦列が崩れれば、それも歩兵にとっては壊滅的な打撃となる。白兵戦においては速力と高さで勝る騎兵に歩兵は太刀打ちできないのだ。

 あくまで戦列を崩さず、騎兵突撃を阻み、押し返さなければ勝利はない。

 彼我の距離は一〇〇ヤードを切った。

 バレッドール准将は腰のピストルを抜きながら怒鳴った。

「第一列撃てぇっ」

 連隊の士官、下士官たちが同じように怒鳴り、戦列に並ぶ兵たちはマスケット銃の引き金を引いた。

 連続した数百の銃声が鳴り響き、撃ち放たれた鉛玉はパレテイ族の騎兵たちに襲い掛かった。騎兵は歩兵以上に大きな標的である。まず命中しないということはない。

 射撃された馬は悲鳴を上げながら乗り手ごと倒れ込み、弾丸に貫かれた騎兵は馬上から落ちて地面に叩きつけられる。頭を撃ち抜かれた兵はガクリと力を失い、馬にもたれかかる。腕や脚に穴を開けられた者は思わず武器を取り落とし、呻き声を上げながら馬首を返す。

 一度の一斉射撃で数百騎もの騎兵が撃ち殺され、或いは負傷して馬から落馬し、或いは武器を取り落とした。

「第一列は膝立ちっ。第二列構えぇっ」

 矢継ぎ早に繰り出される命令に歩兵たちは条件反射の如く反応する。

 第一列は膝立ちになり、銃剣を装備したマスケット銃を短槍のようにして構える。その後ろに立った第二列がマスケット銃を構える。

「狙えぇっ。撃てぇっ」

 再び一斉射撃が繰り返される。更に数百騎の騎兵が倒れた。

 歩兵戦列の前には濛々と白煙が漂い、火薬と血の臭いが鼻を突いた。

 更にそこへ止めとばかりに砲弾が撃ち込まれる。今度は散弾だ。麻袋に鉄球や小石などを詰め、それを撃ち出すのだ。小さな鉄の球や小石が銃弾のように雨霰と騎兵たちに浴びせられる。鉄球や小石は彼らの身体を貫き、粉砕し、吹き飛ばす。

 二度の一斉射撃と大砲の斉射により、同盟軍歩兵戦列の前には一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図が現れた。

 パレテイ族騎兵隊の半数は死傷し、その後ろの中小部族の混成部隊も少なくない犠牲を出していた。

 それでも一部の騎兵は突撃を敢行した。空濠を飛び越え、馬防柵に取りつくも、そこまでだ。第一列の歩兵が馬防柵に辿り着いた敵を銃剣で突き殺す。或いは士官がピストルで撃ち殺し、下士官が槍で突く。

 一ヵ所だけ馬防柵が切れている出入り口があるが、その幅はわずか五ヤードほどに過ぎない。ずらりと並んだ銃剣を乗り越えようとして、馬が突き殺され、地面に落ちた乗り手に容赦なく止めの突きが食らわされる。

 突撃の勢いは欠片もなく消え去り、一斉射撃に戸惑い、馬防柵を乗り越えられず、前進を躊躇っている間に同盟軍歩兵連隊第二列は再装填を完了する。

「撃てぇっ」

 三度の一斉射撃により、更に多くの騎兵が命を落とす。

 堪らずパレテイ族は馬首を返した。他の諸部族もそれに倣い、クラトゥン族軍の第一陣は一〇〇〇騎近い死傷者を出して撤退した。

 バレッドール准将は自軍の死傷者を下げさせ、油断なく歩兵に再装填を命じた。

 何はともあれ、まずは敵の先陣を追い返すことに成功した。

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