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サーザンエンド辺境伯戦記  作者: 雑草生産者
第四章 縁組
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六四 キスカとの婚礼

 モニスは婚礼の日を迎えていた。

 婚礼はムールド式に則って行われた。というのも、教会は教会信徒同士の結婚しか公認しない為、レオポルドは異教徒であるキスカと西方式の婚礼を挙げることができないのだ。教会式の婚礼を挙げたければ、キスカが改宗せねばならない。彼女は改宗について満更でもない様子であったが、ネルサイ族の族長代理たる彼女が宗旨替えをすることは部族全体に大きな影響を与える事柄であり、そう簡単に行えるものではない。

 ムールドの風習によれば婚礼は日が傾き始めた夕方から行い、基本的には夜を徹して行われるという。料理も酒も山のように供され、全ての客人に惜しみなく振る舞われる。

 また、客人は来る者拒まずの精神であり、親類縁戚は勿論のこと、隣近所の住人から仕事仲間どころか、町の人間殆ど全員が招待される。しかし、招待の有無に関わらず婚礼の会場に来た者は誰もが参列を許され、飲食を共にすることができる。例え、それが異民族であろうとも、異教徒であろうとも、たまたま、通りがかった旅人であろうとも参加の権利を有するのである。

 とにかく、誰でも参加でき、参加を拒まぬというのがムールド式の婚礼である。

 今回の婚礼にあっても、多くの参列者が迎えられた。モニスに避難している人々の殆ど全てが参列しているようで、その人数は数百どころか数千という規模であった。当然、主たる会場である集会所に収まりきらず、周辺の建物の他、野外にまで席が用意された。

 ムールドの料理は絨毯を敷いた床に置かれるものである。そういった絨毯の一つ一つに幾種もの料理を載せた大皿が並べられる。この日の昼までに用意された大量の豪勢な料理である。

 ムールドの料理には必ず登場する羊肉の焼肉は幾種類もの味付けがされたものが並ぶ。香辛料で味付けしたもの、ヨーグルトに漬けてから焼いたもの、果実と一緒に焼いたもの。それぞれ、茹で野菜、ポテトサラダ、細切れにされたキュウリ、トマト、タマネギ、香草のサラダなどが付け合せとして添えられている。

 平焼きのパンはあちこちに山のように積まれ、赤や黄に染められた色鮮やかな肉飯、羊肉と松の実、栗、野菜、干し果物が入った炊き込みご飯が器に盛り付けられる。

 他にも鶏肉のサフランとトマトの煮込み、香辛料がたっぷり入った肉団子、ムールド風の蒸し餃子、牛挽肉と茄子、トマトの炒め物などの料理が供されている。

 スープも羊肉とひよこ豆のスープ、肉団子と卵のスープ、鶏肉に玉葱、ニンニク、ショウガなどの香辛料をたっぷり使ったスープなど幾種類も並ぶ。

 更にナツメヤシの卵焼き、ホウレン草のヨーグルト和えなどの副菜。牛の乳の他、山羊や羊、馬、駱駝の乳をつかった幾種ものチーズやヨーグルト。

 デザートには羊乳のヨーグルト、砂糖を振りかけたザクロ、アンズ、スモモ、イチジクなどの蜂蜜漬け、サフラン入りのライスプティングなどなど。ブドウやリンゴ、メロン、スイカ、アンズ、ザクロ、スモモ、サクランボなど瑞々しい新鮮な果物も器にたっぷりと盛られている。

 いずれも色鮮やかで美しく、見る者を楽しませ、食欲そそる豊かな香りを放っている。

 酒はムールド伝統の山羊乳の酒の他、葡萄酒、麦酒、蜂蜜酒、いくつかの果実酒などが用意されており、婚礼が始まる前から何人かの男たちは杯に注がれた酒を飲み干して、顔を真っ赤にさせていた。

 主たる会場である集会所の一階にある大広間には料理の他、酒や茶、果汁、氷水などが用意されている他、色とりどりの花が飾られ、無数の蝋燭が部屋の中を昼間のように照らしていた。

 上座には主役である花嫁と花婿の席があり、中央には通路。その両側に賓客の席が設けられている。

 大広間にいるのは辺境伯家一族のアルトゥールや侍従長レッケンバルム卿、法務長官シュレーダー卿、名門ジルドレッド家の一族、バレッドール准将、ルゲイラ兵站監らクロス卿派の高官たちやその家族。親帝国主義ムールド諸部族である七長老派の族長一族や長老たちが、花や草、鳥や獣の刺繍が入れられた絨毯に座っていた。椅子に座る風習である帝国人たちは絨毯の上に直に座ることに慣れていないようで、些か居心地悪そうにしていた。

 客人たちはいずれも華やかな盛装に身を包んでいる。

 将軍たちは金色の刺繍やラインの入った緋色のビロードの辺境伯軍近衛連隊の軍服を着込み、腰には装飾が施されたサーベルを提げ、胸には誇らしげにいくつもの勲章を下げている。

 婦人たちは青や緑、黄色、桃色と色とりどりな絹で仕立てられ、当世風に胸元を大きく開け、襟や袖に白いフリルをあしらったドレスに身を包み、髪を飾り、金細工や宝石でその身を輝かせていた。

 ムールド人たちも常の地味な色合いの衣ではなく、赤や青、緑や白、橙色の華やかな服を身に纏い、長老や族長は金色の縁飾りがされた長衣をうちかけ、腰には半月刀を提げている。婦人たちは誰も彼も薄い面紗をかけていた。

 花婿であるレオポルドは緊張した面持ちで落ち着かなさそうに上座に着いていた。

 絹の白いシャツの上に他の将軍たちとよく似た緋色のビロードの上着を羽織っていた。その上着の襟や袖は白いフリルで飾られ、金色の縁取りやライン、金のボタンが煌めく。履いているのは騎兵将校用の長くぴっちりした濃紺のズボンと短めの革製乗馬ブーツ。ベルトには精微な細工な施された儀礼用サーベルを提げ、銀の鎖を飾っている。

 先程から落ち着かなさそうに貧乏ゆすりを繰り返し、視線を花嫁が登場する通路の先にやっていた。

「レオ。落ち着きなさいよ」

 見かねて近くの席に座ったフィオリアが控え目ながら尖った声を発する。

 彼女もいつもと比べればずっと華やかな衣服を着ていた。淡い緑色の長袖、長いスカートのワンピースを着て、赤いリボンで髪を飾っていた。首には銀細工の首飾りを掛けている。貴族の御婦人方に比べればずっと控え目だが、清楚な印象の衣装である。

「そうはいってもな……」

「こういう場なんだからこそ、しっかりしないと」

 そう言われて、緊張が緩和されることなどありやしない。努めて貧乏ゆすりをしないようにしつつも、硬い表情で黙り込んでいた。

 部屋の中は蒸し暑く、客人たちは茶や氷水で喉を潤しつつ、ハンカチで汗を拭き、帝国人の婦人たちは洋扇で自らを煽いで暑さを凌いでいる。

 そろそろ、花嫁はまだか。と文句の一つも言いたくなり始めた頃、屋外でわっと歓声が上がった。花嫁は別の建物で衣装を整え、多くの客人に花嫁衣装を披露しながら、主たる会場へと向かってくるのだという。

 楽しげな歓声が響き、鉦や平鼓、太鼓が打ち鳴らされ、ラッパが吹かれる。

 花嫁が近付く気配にレオポルドは身を一層硬くさせた。

「今からそんな緊張されていては身が持ちませんよ」

 フィオリアの隣に座った第二夫人となることが決まっているアイラがにこにこと微笑みながら言った。花の柄の入った淡い桃色の衣を身に纏い、薄空色の面紗をかけ、真珠の首飾りを巻いていた。

 彼女は幾日も前から機嫌がよく、ここ数日、料理や会場の飾り立て、花嫁衣裳の細工の手伝いなどに精を出していた。今日も朝から笑顔が絶えることがない。敬愛するレオポルドとキスカの婚礼は彼女にとって喜ばしいものであるらしい。この婚礼が済めば、次は自分の番であるということも、喜びの内なのかもしれない。

「というか、いい加減、見苦しいです」

 アイラの更に隣に座ったソフィーネが刺々しい声を放つ。白い修道服に身を包み、いつも携えている長大な十字剣はない。こちらは何だか不機嫌そうな、いつも通りの無表情だった。

 相も変わらず手厳しい彼女の言葉にレオポルドは苦笑する。ただ、そう言われたおかげで少し緊張が和らいだ気がした。

 歓声が上がってから、たっぷり四半刻は待った後、ようやく花嫁の姿が通路の先に現れた。

 花や鳥、獣などの美しい刺繍の入った緋色の綺羅を纏い、その上に羽織ったゆるやかな打掛けには金糸でこれまた精微な刺繍が施されていた。その柄は組み合う竜と獅子という花嫁衣裳には些か不似合いな勇猛なものである。

 薄い桃色の面紗をかけ、見事な金細工の首飾りを巻いていたが、それには七色の宝石がはめこまれている帝国の大貴族ですら易々とは手にできないであろう稀代の品であった。

 彼女の銀細工のような髪には金色の髪飾りが付けられ、麝香じゃこう白檀びゃくだん竜涎香りゅうぜんこうなどの香がたきこめられていた。

 切れ長の目元はタールで縁取られ、唇は紅で染められ、いつも凛々しい顔立ちが、今夜は艶っぽく窈窕たる雰囲気があった。漆黒の闇のように黒い瞳が一瞬レオポルドを捉え、すぐに伏せられた。

 すらりとしたしなやかな体つきに胸は高く張り、胴はほっそりと括れ、腰は魅力的な丸みを帯びている。

 キスカの見事な花嫁姿に人々は思わず息を呑み、その姿に目は釘づけになった。普段、ムールド人を見下し、キスカに対しても良い感情を抱いていないレッケンバルム卿すら一瞬彼女の姿に見惚れたほどで、そのことに気付いた卿は直後に咳払いをしてから、

「馬子にも衣装とはこのことであろう」

 などということを口の中でもごもごと言っていた。

「これは、なんと美しき花嫁かっ。楽園の姫君とは、正に彼女のことであろうっ」

「かように麗しき乙女を妻とする男は、なんと幸せなことかっ」

 アルトゥールが声を上げて花嫁を称賛すると、顔面に大きな傷跡がある将軍ことバレッドール准将も声高らかに彼女を褒め称えた。

 他の客人たちも口々に花嫁の美しさ、そんな可憐な乙女と連れ合う花婿は幸福であると囃し立てた。

 花嫁は足取りもゆるやかに、音も立てずに客人に囲まれながら通路を進んでいき、花婿の元へと向かう。

 レオポルドは花嫁を迎えるべく立ち上がった。目の前に立った彼女の手を取ると、一瞬無言で見つめ合った後、隣に座らせた。

 頃合やよしと見たレオポルド室事務長のレンターケットが声を張り上げた。

「さてさて、お集まりの皆様方。今宵は我らが主、サーザンエンドの正統なる統治者レオポルド・フェルゲンハイム・クロス閣下とネルサイ族の族長代理キスカ・ナイフ・アリとの婚礼であり、フェルゲンハイム家とムールド諸部族との同盟の証でもあります。ここにおられる皆々様がこの婚礼の証人であり、同盟の証明者であります」

 フェルゲンハイム家の後継者であり、サーザンエンドの正統なる統治者であるレオポルドとネルサイ族の族長の地位を相続する権利を有したキスカとの婚礼は、正しくサーザンエンドにおける帝国の代理人であるフェルゲンハイム家とムールド諸部族の同盟を象徴するものである。

「結納の品として、レオポルド閣下はキスカ様にムールドの支配権を譲渡することをここに表明されます。これも皆様が証人であります」

 二人の結婚において最大の障害となっていたのは結納の問題であった。花婿の家から花嫁の家に納められる品については、ムールドでは結婚の成立を証するものであり、これ無くしては婚礼は成らない。一般的には羊や馬、駱駝などの家畜や現金、宝石などの形で納められ、これは花嫁の財産となる。ムールドでは夫婦であっても財布を別々に持っているもので、結納の品は結婚後の妻の大事な財産となるものなのだ。

 ただ、レオポルドの場合、家が破算しているせいで財産といえるものは殆どなく、なおかつ、ムールドでは最上層に位置する家柄の娘との婚礼となれば生半可な結納の品では形にならない。

 身も心もレオポルドに捧げる覚悟を固め、彼の忠実なる奴隷を自認するキスカとしては結納の品など不要と考えていたが、そうはいかぬのが因習というものである。

 そこで、レンターケットが考え出した妙案が、先の言葉の通り、ムールドの支配権を結納の品とすることであった。

 諸侯にとって統治する土地は正しく財産である。サーザンエンド辺境伯の場合、ムールドを含む帝国南部半島の中央部一帯、サーザンエンドと称される地域が支配領域であり、財産となる。この一部を結納の品として花嫁に譲渡するというわけだ。結納の品としては豪華極まりなく、なおかつ、今現在のレオポルドの財布が痛むことはない。

 問題としてはレオポルドとキスカが離縁などすればサーザンエンド辺境伯領からムールド地域が分離されてしまうということと彼女が没した後の相続を如何にするかということである。ただ、キスカはレオポルドから離れる気など欠片もなかったし、彼女の死後、ムールドの支配権は彼女の子、つまり、二人の子に相続されるわけであるから問題はないように思われた。懸念材料としてはレオポルドに異母子ができた場合、相続問題がややこしくなる危険性があることだが。

 当初、この結納にレッケンバルム卿ら帝国貴族の一部は反発する意向を示していたが、まだ農耕も可能でいくつかの都市もあるサーザンエンド北部と中部に比べ、荒涼とした砂漠めいた荒野が広がるムールドにそれほどの価値を感じていない彼らは最終的にこの結納に同意した。

 その後、レッケンバルム卿の挨拶で乾杯の発声が為され、数千人による大宴会が始まった。

 花嫁と花婿の元には帝国貴族諸卿と婦人方、将軍や士官たち、ムールド諸部族の長老たち、ムールドの婦人方が次々に挨拶に訪れ、花嫁の美しさを褒め称え、二人の結婚を祝い、二人が末永く幸福であらんことを願っていった。ひっきりなしに客人が訪れる為、二人の前には長蛇の列ができ、二人は料理を食べるどころか、飲み物を口にする暇すらなかった。

 挨拶が一段落すると、花嫁は退出し、衣装替えをして再び現れた。

 今度の衣装は花柄の刺繍がされた更紗に黄金の縁取りをした青絹の打掛で、それには金銀や宝石で色鮮やかに飾られていた。面紗は薄いサフラン色をして、髪には月と星を模った金の飾りを付けている。

 この衣装の美しさも人々の称賛を呼び、囃し立てられ、彼女は顔を朱に染めて、通路を進み、再びレオポルドの隣に座した。

 二人はようやく少し落ち着くことできた。アイラが気を使って、料理を持ってくると、二人は大人しく、それらを口に運んだ。食事の後、キスカは氷水を口に含み、レオポルドは葡萄酒で喉を潤した。

 そうしていると再び衣装替えとなり、キスカは席を立つ。衣装替えは婚礼を行う家の裕福さにもよるが、数度行われることが一般的で、今回の婚礼では三度行われることとなっていた。故に次の衣装が最後である。

 最後の衣装はぴったりとした薄紫色の絹織物の上に淡い緑色の薄衣を羽織り、淡い灰色の面紗をかけ、精微な銀細工の首飾りを巻き、真珠のピアスを付けていた。

 前の衣装ほど華麗で豪奢ではないが、身体の線が目立つ衣装で、彼女のスタイルの良さが一際引き立つ。

 再びレオポルドと並んで座ると、キスカは果汁で唇を濡らしてから、久方ぶりにちらりとレオポルドの顔を窺った。

「ちょっとっ。レオ。さっきからむっつり黙り込んでないで、言うことの一つや二つあるんじゃないのっ」

 見かねたフィオリアがキンキン声で怒鳴った。

 レオポルドは困惑しきった顔でキスカを見つめる。キスカの方も朱に染めた顔で彼を見つめ返す。

「今宵の君は、なんというか、今まで見た何よりも、その、綺麗だ。美しくて、可憐で、見つめる目が離せないほどだ。美の女神よりも、楽園の姫君よりも、君の方が勝っていよう。君のような美しい花嫁を妻に迎えることができて、俺は世の誰よりも幸福だと思う」

 レオポルドの歯の浮くような台詞にフィオリアは呆れ、ソフィーネは白けていたが、アイラは、

「あらあら、私にもそんなことを言って欲しいものですわ」

 などと言って微笑んでいた。

 さて、肝心の言われた本人はといえば、火でも噴きそうなほど顔面を真っ赤にして、俯いてしまった。

「何だ。こういうことを言えばよかったのだろう。俺は何か間違ったか」

「そんな気障なこと言わなくても、本心を言えばいいのよ」

 いくらか自棄になったレオポルドが言うとフィオリアが呆れた顔で言った。

 すると、彼は葡萄酒の入った杯に口を付けながら、ぼそりと呟く。

「……さっきのも本心だ」

 これを耳にしたキスカは更に体温を上昇させる羽目になった。手で顔を煽ぎつつ、氷水を呷るように飲み干し、いくらか下品だが氷をバリバリと噛んだ。

「ところで、君の花嫁衣装は本当に見事だな。特に最初の竜と獅子の模様は見事だったぞ」

「あれは、私が意匠したものです。ちょっと、勇猛すぎる題材だと伯母たちには言われていたのですが……」

 レオポルドの称賛の言葉にキスカは照れながら応じる。

「いや、よかったと思う。君らしい」

 これは褒め言葉なのか。と、彼女が首を傾げていると、レオポルドはふと彼女が着ている絹織物を見つめた。

「この絹織物は何処で手に入れているんだ。まさか、ムールドでは生産できまい」

 絹織物は非常に高価な品で帝国本土では上流の市民ですら中々手にできないものである。だが、キスカの花嫁衣裳にはふんだんに使われており、他のムールドの婦人方の中にも着ている者が少なくない。

「ええ。これは東方大陸からの品です」

「東方からの渡来品がここまで来るのか」

「東の港町に荷揚げされたものを隊商が荒野の道を運んでくるのです。そのうちの半分は更に西に進んで山脈を越え、西の港町から帝国本土へと行きます」

 キスカの説明にレオポルドは衝撃を受けた。南部経由の絹織物は半分が南部で消費され、帝国本土へ行くのはその残り半分ということは帝国人の多くが知らない事実であろう。勿論、東方大陸から帝国へと繋がる貿易路は南部経由だけではないが、かなりの量の絹織物が南部で買われていることは間違いない。おそらくは帝都での価格とムールドでの価格にはかなりの差があるだろう。

「キスカ。レンターケット。こんな場で申し訳ないが、東の港町について調べて欲しいんだが」

 レオポルドが隣に座るキスカと、たまたま近くにいたレンターケットに言うと、二人は顔を見合わせた後、すぐに頷いた。

「しかし、閣下。その前に為すべきことがありますよ。新婚の夫婦にとって初めての夜はとても大事な夜になるはずですからな」

 レンターケットの言葉に、初々しい新婚の二人は顔を真っ赤に染めたのだった。

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