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サーザンエンド辺境伯戦記  作者: 雑草生産者
第一四章 戦争と和平
218/249

二一一

 翌朝、日が上ると共に帝国軍将兵は見慣れぬ奇妙な物体が敵軍の上空に浮かんでいることに気が付いた。

 巨大な球体のそれは地面とロープで繋がれており、球体の下に吊るされた籠のような物には人間が数人乗っているように見られた。

 帝国軍の兵士たちは「一体あれは何だろう」と不安げに話し合った。カロン軍の兵隊が来ている軍服が不吉とされる黒色なこともあって、敵は悪魔の軍隊で、あれは地獄から持ち込まれた兵器なのではないか。魔女の秘密道具なのではないか。天空の星を引きずり下ろしてきたのではないか。などと大真面目に語る者も少なかったが、確かな答えを言える者は誰もいない。

 正体が分からないのは帝国軍の将軍たちも同じであったが、分からない物を気にしていても仕方がないと割り切り、注意しつつも予定通りに作戦を進めることとした。

 日が上ると帝国軍の実質的な総指揮官である近衛長官のクロジア辺境伯スタックホルン大将は北側の帝国軍左翼に配置されていたフェリス人軽騎兵に北東方向へ進み、カロン・フューラー軍の側面に進出するよう命じた。

 フェリス人軽騎兵の役割はその機動力を活かして、カロン・フューラー軍の右翼側面或いは後背を脅かすことである。カロン・フューラー軍はフェリス人軽騎兵を抑える為に予備の騎兵を動かすに違いない。

 正面には歩兵を前進させて圧力をかけ、次々と増援を送り込んで押し込んでいけば、兵力に劣るカロン・フューラー軍は押し寄せる帝国軍歩兵を防ぐ為に予備兵力のほとんどを投じることになろう。

 そこで右翼の騎兵を南の側面に展開させれば、これを迎撃する余力はあるまい。どうにか兵を割いて当てたとしても、それでは前面が薄くなってしまう。薄くなった戦線に最後の切り札である重騎兵をぶつければ戦線が崩壊するのは避けられまい。

 フェリス人軽騎兵はこの一連の作戦の第一手なのである。

 フューラー地方とヴィトワ川を挟んで南西に位置するフェリス地方は、帝国本土と南部の境であるグレハンダム山脈の北側にある内陸の乾燥した平原地帯で、農耕に向かない地域が多く、フェリス人の八割以上は遊牧を営んでいる。乗馬に秀でた者が多く、土地柄が貧しいこともあって、大陸を横断する隊商の警護や荷物の輸送に従事したり、傭兵として雇われ外国へ出稼ぎに行くことも少なくない。

 異教徒異民族ながら帝国に臣従し、有力な部族の族長は帝国子爵や男爵に任じられ、その他の部族の長は帝国騎士に叙されており、勅命が下れば従軍することが義務付けられていた。

 ヴィトワ川の戦いにおいてフェリス人たちは子爵や男爵は数百騎、騎士たちは数十騎といった騎兵を率いて従軍し、その総勢は一万騎に及んだ。これはフェリス人としてはかつてない空前の規模の軍勢であった。

 ずんぐりとした小型のフェリス馬に跨り、サーベルや手槍、或いは弓矢を携え、革の鎧を着込んでいる者もいるが、ほとんどの兵は軽装である。

 フェリス人軽騎兵の大軍勢が動き出すと共に中央及び両翼の前衛部隊合わせて一万五〇〇〇余の歩兵も前進を始め、帝国軍砲兵隊が砲撃を開始した。

 ずらりと砲門を並べた一〇〇門の大砲が次々と火を噴く。砲煙と共に吐き出された一〇〇個もの砲弾は不気味な音を響かせながら湿り気を含んだ朝の空気を切り裂き、カロン・フューラー軍前面の草地に突っ込んで土塊と草木の破片を宙に舞いあげ、醜い穴ぼこを作り上げていく。

 両軍の彼我の距離三マイルは中々に遠く、視力が悪くなければ辛うじて敵軍の姿が朧気に見えるといった程度で、歩兵の行軍速度では接敵するまでに一時間以上はかかる距離である。

 大砲の射程もぎりぎり届くか届かないかといった距離で、案の定、帝国軍砲兵の砲撃はカロン・フューラー軍の前に広がる草地を不格好に耕す程度の働きしかできていない。

 それでも休まず猛然と砲撃を続ける砲兵の脇を、きっちりと横列を作った帝国軍歩兵が進んでいく。

 軍楽隊の奏でる穏やかな調べの行軍曲に合わせて歩兵たちは朝露で濡れた草地を一歩一歩踏みしめ、砲煙で白く煙る向こう側で待ち構えている敵軍へと歩を進める。


 迎え撃つカロン・フューラー軍の総司令官キスレーヌは帝国軍の詳らかな動きを速やかに把握することができていた。

 帝国軍が畏怖の視線を向けていた空飛ぶ球体の正体は羊毛や藁を燃やした煙を詰めた巨大な絹の袋であり、後に気球と呼ばれるようになる代物である。これに吊り下げられた籠には数人の兵が乗り込み、望遠鏡を携えた観測係は敵方の動きを観察し、相方の伝令係に帝国軍の配置や動きを知らせる。

 伝令係は観察係から伝えられた内容を記録した紙を滑車の付けられた紐に括り付けてから手旗を振って下に合図を送る。地面で待機している兵たちが紐を引くと滑車の働きによって括り付けられた紙が地上に届くという仕組みである。

 この観測部隊は既に数月に渡って訓練を繰り返しており、気球の操作、観測、伝達などの方法に習熟していた。

 滞空時間は一時間にも満たないものの、カロン・フューラー軍はこれを合わせて八つも用意しており、交代で常に一つは空から帝国軍の動きを観察していた。

 この観測部隊によってフェリス人軽騎兵軍団の動きを察知したキスレーヌは予備の騎兵部隊のうち第一フューラー騎兵連隊、第四フューラー騎兵連隊、フューラー外人傭兵騎兵連隊を右翼後方へ移動させた。指揮官を務めるのはフューラーでも古い貴族の家柄であるツェーゲンデルム家の貴公子ベルロー伯ヘルマン六世である。

 キスレーヌはこの部隊とは別にフェリス人軽騎兵連隊に別命を与えて右翼後方へ移したが、それ以外に兵を動かす様子はない。

 カロン・フューラー軍が次の動きを見せたのは帝国軍歩兵が一マイル半もの距離を歩いた頃であった。

 気球部隊から敵軍との彼我の距離を聞いた砲兵隊長は直ちに砲撃を命じ、間もなく砲声と共に散発的に三発の砲弾が帝国軍歩兵の横列めがけて飛んでいき、何十ヤードか離れた草地に穴を掘った。

 気球に乗った観測係が三発それぞれの着弾地点と敵部隊の距離を確かめると伝令係はそれを記録した紙を下に送った。地面に立って望遠鏡を覗き込むよりも遥かに正確なその報告は直ちに砲兵隊長に送付され、砲兵隊長と砲兵士官たちは次に撃つ大砲の角度を細かに調整してから砲撃を命じる。

 この一連の動きもまたこれまで数月に渡って繰り返し訓練されてきた行動である。

 また、これらはキスレーヌに報告されるよりも先に実施されていた。彼女は敵軍が一マイル半の距離まで接近したらこのように行動するよう予め命じていたのである。

 次の三発は先よりもだいぶ帝国兵の近くに着弾し、これも先と同じように観測と報告がなされ、次の大砲の角度がまた調整され、同じように砲声が轟く。

 次の三発のうち二発は見事に帝国軍歩兵の横列に突っ込み、不運な兵士を何人かバラバラにして吹き飛ばした。

 この結果に満足した砲兵隊長は残りの大砲の射程を彼是と調整し、一斉砲撃を命じた。

 未だ発砲せず発射準備万端の大砲はまだ七〇門以上ある。そのうちの四〇門は両翼の端、中央寄りに配置されており、合わせて八〇の砲門が帝国軍中央の歩兵に向けられている。

 七〇門以上の大砲が一斉に火を噴き、七〇以上の砲弾が同じような軌道を描き、次々と帝国軍中央の先頭を行く連隊の横列に降り注ぐ。

 砲弾の直撃を受けた人間の体が地面に叩きつけた果実のように弾け飛び、バラバラになった手や足が宙を舞う。地面に当たって跳ねた砲弾が兵士の頭を吹き飛ばし、手足を捥ぎ取り、小銃の破片や銃剣が後ろを歩いていた下士官の首に突き刺さる。着弾の衝撃で飛んだ小石が中隊長の顔面に当たって眼球を潰す。

 断続的に続いた砲声と着弾の衝撃音が止むや否や彼方此方で絶叫や悲鳴が響き渡り、少し遅れて叱咤や怒声が続く。

「憶するなっ。臆病者どもめっ。隊列を崩すなっ」

 騎乗の連隊長は怒声を発し、部下の動揺を鎮めようと躍起になる。恐怖から背を向けて逃げ出した兵士を目にするとすかさずその背に向けて短銃を発砲して殺した。

「逃げ出す者は射殺するっ。進めっ進めっ。歩みを止めるなっ」

 恐怖と動揺から暫し歩みを鈍らせかけていた連隊は連隊長以下士官と下士官の叱咤によって再び歩き始める。

 敵軍との距離が一マイルを切ると再び三発の砲弾が飛んできて、そのうちの一発が何人かの兵士を倒した。数分して再び三発の砲弾が飛び、更に数人を殺した。

 その数分後、またもや七〇門以上の大砲が火を噴き、七〇以上の砲弾が一〇〇〇人程の横列に吸い込まれていくように次々と飛んで行った。

 阿鼻叫喚の地獄絵図が再現され、数十人の兵士が倒れ傷つき、更に数人が敵前逃亡を図って撃ち殺され、死んだふりをして地面に伏せていた一人が中隊副長のサーベルで突き殺された。

「糞っ。我が軍の砲兵は役立たずかっ。何処を撃っているのだっ」

 死んだふりをしていた卑怯者の血で濡れたサーベルを拭いながら中隊副長が吐き捨てるように言い放つと馬を寄せてきた中隊長が声をかける。

「我々の連隊は一方的に撃ち込まれているが、後列には無傷の兵が何万といる。それに両翼の歩兵も無事だし、側面には味方の騎兵が回り込む。我らが持ちこたえれば勝機は遠くないぞ」

「そろそろ、フェリス人も敵の側面を脅かす頃でしょうか」

「あぁ、間もなくだろう。敵が一万の騎兵を食い止めることができるか疑問だな。この戦、案外早くに決着するかもしれんぞ」

 帝国軍の士官がそう言い合っていた時、フェリス人軽騎兵一万騎はカロン・フューラー軍の北側に展開し、その側面を突かんと南に進路を向けようとしていた。


 カロン・フューラー軍右翼側面である北側に進出し、進路を南に向けたフェリス人軽騎兵の大軍の前に立ちはだかったのはベルロー伯が指揮するフューラー軍の三個騎兵連隊二四〇〇騎である。

 揃いの灰色のバフコート(もみ革製の短い上着)を着込み、つばの広い帽子を被って、サーベルと短銃を腰に提げている。

「諸君っ。敵は一万騎だが恐るるには足らんぞっ。憶するなかれっ。この旗を見よっ。この旗の下に我はいるぞっ。決して目を離すなっ。この旗に続けっ。この旗を追えっ。我に続けっ」

 交差したサーベルが描かれたフューラーの軍旗を高々と掲げ、よく響く声で兵に呼びかけながら軍勢の先頭を意気揚々と進むのがベルロー伯である。

 若々しい空色の上着に白いレース飾りを付け、煌びやかな金色の胸甲を着込み、帽子に大きな白い羽飾りを立てた伯はかなり目立ち、更に大きな軍旗まで掲げているので、かなり後方からでも伯の居場所を知ることができた。

 ベルロー伯はフェリス人軽騎兵の群れが眼前に迫り、互いの顔まではっきりと見え始めると高々と掲げていた軍旗を左右に振った。一呼吸置いてから馬腹を蹴った。

 すかさず傍らに控えていた喇叭兵が突撃の合図を高らかに吹き鳴らし、後に続く騎兵たちは一斉にサーベルを抜き放って掲げて叫び、馬腹に蹴りを入れた。

「主よっ。ご照覧あれっ。我らを守り給えっ」

 フューラーの三個騎兵連隊二四〇〇騎は互いの鐙が擦れる程に密集し、巨大な灰色の塊になって地響きを轟かせながら敵の大軍へと猛然と突っ込んでいく。

 迎え撃つフェリス人軽騎兵軍団は逃げることなくフューラー騎兵の突撃を受け止めた。というよりも、逃げることができず突撃を受けてしまったと言うべきであろう。

 軽騎兵というだけあって、彼らは軽装で乗る馬の体も小さく、持久力と俊敏な動きに優れるが騎兵突撃は得手ではない。小部隊で行動し、突進してくる敵をヒラリとかわして敵の側面や後背に回り込んで、短弓や石弓で射るというのが伝統的な戦い方である。

 しかし、この時、彼らはフューラー騎兵の突撃を避けることができなかった。それはあまりにも大軍で、統一した指揮系統が存在しなかった為である。

 この軍団はフェリス人の小領主やその名代が率いる数百騎から数十騎の部隊の集合体で、帝国軍総司令官はその中の誰かを総指揮官に任じることをしなかったのだ。

 従軍する百数十人もの小領主たちの関係性は極めて複雑で、姻戚関係や友好関係にある者、対立している者、本家や分家、何人もの領主を支配下に置いている有力者もいれば、独立を貫く者もいる。

 辺境地域に関心の薄い帝国高官が彼らの関係性を理解しているはずもなく、上手く調整もせずに誰かを総指揮官に任じようとすれば必ず他の誰かが反発するだろう。

 そのような面倒事を避けた結果、軽騎兵軍団は子爵や男爵或いはその名代を指揮官とする十数個もの部隊に分割されることになり、総司令官の命令はその各部隊に等しく伝達されることとなっていた。

 となれば細かく複雑な命令を伝達し、実行させることは不可能で、軽騎兵軍団は「敵の側面或いは後背に進出すべし」という単純明快な命令しか受けておらず、敵の突撃を受けた時、どう対応すべきかといった指示は全くなかったのである。互いの複雑で微妙な関係性もあって、部隊間の連携も不十分であった。

 フューラー騎兵の突撃を受けた先頭の部隊が伝統的な戦い方に従って咄嗟に敵を避けようと馬首を返しても、前方の状況を理解していない後続の部隊は前進を続けたので、引き返す兵と鉢合わせになり立ち往生する状況が各所で発生してしまった。

 このような状況でフューラー騎兵の突撃を受ければ混乱は必至であろう。

 避けることもできず一回り体の大きいフューラー馬の体当たりをもろに受けたフェリス馬は簡単に転倒し、乗り手は地面に身体を打ち付ける。落馬してしまってはもう彼にできることはできるだけ身を小さくして真上を通り抜けていく数百騎の馬蹄が不運にも自分を踏みつけないことを祈るしかない。馬蹄に踏みつけられれば頭蓋は砕かれ、臓物は潰れ、骨は簡単に折られてしまうだろう。

 フューラー騎兵がフェリス人軽騎兵の軍団をナイフでバターを切るように分断し、そのど真ん中を食い破って貫通してしまうと、ベルロー伯は掲げていた軍旗を振り回し、三個騎兵連隊をまとめ上げ、一頭の大きな肉食獣を振り向かせるかの如くぐるりと転回させ、バラバラに砕け散り、為す術もなく右往左往していたフェリス人軽騎兵の群れに再び突進していった。

 二度目のフューラー騎兵の突撃を前にして、フェリス人たちは戦いを避け、あっという間に馬首を返して思い思いの方向へと退却を始めた。

 そもそも、辺境に住まう異民族で異教徒のフェリス人は神聖帝国に対する忠義心などほとんど持ち合わせていない。神聖帝国の侵攻に遭い、敵わない為に臣従しただけで、何の恩義も感じていないのである。

 皇帝や帝国政府は辺境には無関心で、一時金や税を課すか宣教師を派遣して布教を許可するよう求める以外に何らの介入も支援もしてこなかった。

 それどころか、フューラー公が健在であった頃は、帝国本土との通商・通行の安全を図るべく、公はフェリス人に様々な援助を与えたり、フェリス人の間の揉め事や厄介事を仲介したりと様々な関与をしていた為、年配のフェリス人の中には帝国よりもフューラーに親近感を覚える者も少なくなかった。

 それでも命令されるがままに兵を出したのは義務であったからである。

 言われるがままに従軍し、戦った。それでもう十分に義務は果たしたのではないか。損害が大きくなる前に兵を退こう。帝国側が優勢になればその時に再び戦場に戻ればいいではないか。という考えに至る領主は少なくなかった。

 退却する兵が出始めれば、敵前に取り残されるのは御免だとばかりに、追従する者も続出する。

 そうして、一万騎という空前の大軍であったフェリス人軽騎兵軍団は戦闘の序盤には早くも戦場から姿を消してしまったのだった。

 この事態はフェリス人軽騎兵の戦い方、フェリス人領主たちの考え方を理解せず、ただ一万の騎兵と駒のように考え、命令を出した帝国軍の過ちであることは言うまでもない。

 その一方、フェリス地方の隣国である為、その内情や特性を十分に知り尽くしているレイクフューラー辺境伯はキスレーヌにその情報を事前に提供していた。

 キスレーヌはフェリス人軽騎兵軍団の実態が諸領主から動員されたまとまりのない烏合の衆であり、軽騎兵という特性からして正面からの突撃には極めて弱体であることを理解した上で、気球部隊によりその動きを正確に把握し、勇猛果敢なベルロー伯に十分に訓練された三個騎兵連隊を与え、フェリス人軽騎兵にぶつけたのである。

 フェリス人軽騎兵軍団の早すぎる戦線離脱は帝国軍にとっては思ってもみない事態であったが、その実は至極当然の成り行きというものであった。

 とはいえ、帝国軍の四万もの歩兵はほぼ無傷であり、中央の重騎兵及び右翼の騎兵合わせて一万騎も健在である。帝国軍の優位は未だ揺るぎないと言えよう。

 クロジア辺境伯は右翼の騎兵五〇〇〇騎に南東へ移動し、敵軍の南側面に展開するよう命令すると共に更に一万五〇〇〇の歩兵及び砲兵隊に前進を命じた。

 帝国軍の動きを見たキスレーヌは左翼指揮官のゲーテン元帥に長々と命令を発した。

 まず、左翼第一陣の第二フューラー歩兵連隊及び第三フューラー歩兵連隊に敵歩兵の攻撃に備えて防備を固めさせること。

 次に第二陣のフューラー軽歩兵連隊及びフューラー猟兵連隊は南向きに展開させて、帝国軍騎兵に備えること。

 本営のフューラー近衛歩兵連隊及び第一フューラー歩兵連隊は適切に前線部隊を支援すること。

 また、左翼の大砲四〇門を適切な位置に再配置し、歩兵を支援させること。

 その上で可能な限り長く戦線を維持し、敵右翼の攻勢に耐え、敵を引き付けること。

 続いて右翼後方に移動させていた自軍のフェリス人軽騎兵連隊に命令を送る。彼女は帝国軍よりも遥かにフェリス人軽騎兵の使い方を心得ていた。

 キスレーヌの本営から伝令が走り去った直後、前線で何百も重なった銃声が響き渡った。

 遂に歩兵同士の銃撃戦が始まったのである。

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