ヌヴェル31 立春大吉
「ええか、みんな。今日は立春や!昨日の豆まきで追い出されたリベンジをする日や!」
節分の夜も更け立春の日となる丑三つ時、多くの鬼たちの前で大鬼が弁舌をふるっている。
「そこで、みんなに必勝法を授ける」
興奮していた鬼たちが黙り、静寂が拡がる。
「追い出された家には、必ず<立春大吉>と墨書きした半紙が玄関のガラス戸に貼られてる。こういうやっちゃ」
大鬼が見本(ちょっと拙い字で書いてある)を見せる。
「家の中に入って振り返ると、やっぱり<立春大吉>という字が見える。こういう風に」
大鬼が半紙をひっくり返すと、鬼たちの驚きの声が漏れ拡がった。
「ええか、この字面は左右対称やね。所謂シンメトリーちゅうやつや。今までの俺たちはそれを見て、あれ?まだ入ってなかったんやと思って、また戸を開けて結局外へ出てしまってたんや。わかるか。そんなせこい罠にかかったらあかんで!」
大鬼は、一同を見渡し、声高に続ける。
「ええか、家の中に入ったら<立春大吉>という字は無視せえ!そしたら、またぬくぬくと家で過ごせるようになるからな。わかったか!」
オー!という大歓声が上がった頃、東の空が白み始め、立春の日となった。
節分の日に、無病息災・魔除けを願って鬼を追い払う豆まきをした翌日、立春の日には、鬼が再び家に入ってきても、大鬼が言っていたように勘違いして外へ出て行ってしまうように<立春大吉>と墨書きした半紙を玄関のガラス戸に貼っておくという慣習があった。
村人・平蔵「それにしても、今年は<立春大吉>の効果がなかったんとちゃうか?」
村人・留吉「ほんまやなぁ。どこもかしこも病人出たり、何某かの災いがあったりしてるもんなぁ」
村人・平蔵「無事やったんは、又八の家ぐらいとちゃうか?、おまえ、どないしたんや?」
村人・又八「おれとこか?いやぁ、<立春大吉>って書かなあかんのを何て書いたらええんか忘れてしもてな」
村人・留吉「それで、どないしたんや?」
村人・又八「左右対称の文字やっていうのは覚えてて、まあ何でもええやろうと・・・」
村人・平蔵「どない書いたんや?」
村人・又八「高市早苗・・・と」




