表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神之樹  作者: Uyu
2/2

第一話ー適合者ー

「ねぇ、陽葵(ひまり)お腹すいたぁー」

「今任務中でしょ。それにちょっと前に食べたばかりじゃない」

「私もお腹すいた」

瑠奈(るな)まで……。もう少し我慢して」

「ここってちょっと前までは栄えてたんでしょ? 食べるものくらい何かあるんじゃない?」

「あったとしてもこんなところにあるものなんて食べられたものじゃないでしょ……って天鬼(あまね)?」

「天鬼なら食べ物探してくるって行っちゃったよ?」

「はぁー!?」


 ここは荒廃都市ナーテル。かつて最も強く神樹を信仰したこの地は異形の誕生と共に廃れ 、本来の姿はもはや見る影もなくなってしまった。

 人影は皆無、異形が跋扈(ばっこ)し時折唸り声のようなものすら聞こえる。

 この地はただの人が立ち入るにはあまりに危険な地と化したのであった。

 そんな危険地帯に私達は調査員として派遣された。

 未だに謎の多い神樹を調査してこれ以上ナーテルと同じ惨劇を繰り返させないようにするのが私達アジャスタの役目なんだって。

 

 うーん、やっぱりこんな街に食べられるものなんてあるわけないかぁ。

 今までの調査でも食べるものどころか人が住んでた形跡すら一切見かけなかったし。

 ほんと、こんなに荒れ果てた街が周辺都市の中で一番栄えてたなんて信じられないな。

 まぁ、異形が彷徨(うろつ)いてたらこんな惨状にもなるか。

 そんなことを思いながら廃墟の窓ガラスにうっすら映る自身の姿を見て前髪を直した。

 動きやすさ重視で短くしてるけど、たまには髪伸ばしてみようかな。思い切って黒髪にしてみちゃったり。

 っと、そろそろ二人のところに戻らないと、陽葵は怒ると怖いからね。

 それにもしこのことが後で報告されたら……。

 考えただけでもゾッとする、早いところ合流しよう……ってあれ?

 『気配探知』が上手く発動しない。

 ノイズがかかったみたいになって陽葵と瑠奈の気配が探れない。

 なんとか気配を探れないかと四苦八苦してると私のスキル『危機感知』が発動し、同時に大地を裂く怒号が走った。

 私を襲ったのは自分と同じく一対の角を額に生やし自分の何倍もの巨体を持った異形、鬼妖(オーガ)だった。

「っぶなー。鬼妖か、ついてないなぁ」

 楽観的な言葉とは裏腹に赤い瞳にしっかりと鬼妖の姿を見据えた。

 鬼妖って大きい上に皮膚が装甲みたいに硬いから刃が通りにくいし、何より再生力が尋常じゃないんだよな。

 私一人で対処するのは少し厄介だけど、気配探知で二人の居場所も探れない今、私一人でやるしかない。

 ――スキル『日輪』。

 スキルの発動と同時に刀を納めていた鞘が深紅に染まっていく。

 抜刀すると黒の刀身に猛々しい炎が宿った。

 これで斬ると同時に焼いて鬼妖の自己再生を妨害する。

 私が刀を構えると鬼妖は大きく咆哮を上げ私に向かって猛進してきた。

 大きく右腕を振りかぶり私の脳天を目掛けて振り下ろす。

 その攻撃は大地を大きく裂いたが、私はそれを受け流しつつ側面から右腕を切り飛ばした。

 瞬間鬼妖はさらに凶暴性を増し、周囲の廃墟を巻き込んで見境なしに暴れ始めた。

 周囲には土埃が舞い、絶えず鬼妖の暴れる音が響き渡る。

 こうなると迂闊に攻められないんだよな。

 下手に攻撃を受ければそこそこのダメージになるし。

 せめて土煙さえなければ隙を見て切り込めたのに。

 やっぱり定石通り脚から切って動きを封じた後に仕留めるって動きを取るべきだったな。

 さてと、ここからどうしようか。

 すると轟音が止み、徐々に煙が晴れていった。

 出血死してくれたのかな、なんて淡い期待は一瞬にして打ち砕かれた。

 煙から現れたのは切り飛ばしたはずの右腕を見事なまでに完全修復した鬼妖の姿だった。

 足元を見ると未だに断面が燃え続ける腕の破片が転がっていた。

 どうやら傷口の炎が自己再生を阻害していることに気付き、自ら腕を引き千切って再生を促進させたらしい。

「マジか、これだから鬼妖を相手にするのは面倒なんだよな」

 しかもさっきの攻撃でこっちの力量を完全に把握しちゃったみたいだし。

 こうなった以上迂闊に隙が生まれやすい大振りの攻撃なんてしてくれないだろうな。

 とりあえず手頃な廃墟に身を隠して死角からの攻撃を企てよう。

 いくら警戒しててもただの鬼妖なら死角からの不意打ちには対処できないはず。

 鬼妖の視界から外れ、刀を鞘に収めて体内の魔素を練り始める。

 こうなった以上一撃でヤツを仕留めるしかない。

 狙うのは首の一点のみ。ただ刎ねれば確実に息の根を止められる分、他の箇所と比較してもかなり皮膚が硬い。

 さっき腕を切り落とした時の火力じゃ足りない。

 より密度の高い魔素を練り上げて物陰から機会を窺う。

 やるなら、今!

 鬼妖がこちらに背を向けた瞬間を見逃さずに、一気に間合いを詰める。

 赫式単刀術――『緋扇』。

 高密度の魔素で練り上げられた炎を纏い赫く燃えた刀身は扇を思わせるような軌跡を描いて鬼妖の首元へと吸い込まれていった。

 しかしその刃は鬼妖に触れずに空を切った。

「こいつ! これも避けるのか……!」

 生存本能からくる動きのせいか、今まで戦ってきた鬼妖よりも明らかに戦闘能力が高い。

 すかさず大地を震わす打撃の嵐が私に襲い掛かる。

 流石に身の危険を感じ防御の構えを取ろうとすると突如鬼妖が光の鎖によって拘束された。

「やっと見つけた。」

 呆れたようなセリフに振り向くとそこには腰ほどの長さの深く赤みを帯びた髪を風になびかせた狼耳のアジャスタがいた。

「陽葵!」

「まったく、ちょっと目を離すとすぐに厄介ごと引っ張ってくるんだから」

 再会早々お説教モードだけど、無事でよかった的な言葉の一つでもかけてくれてもいいんじゃないかな。

 でも応援に来てくれたのはめちゃありがたい。これで難なく鬼妖の処理ができそう。

「動きは封じたから、今のうちにとどめ刺しちゃって」

 この言い方、この後鬼妖よりも厄介なお説教タイムが始まる予感がする。

 とりあえず、こいつの処理をしなくちゃ……。

 息を整え、再び魔素を練り上げて刀を構える。

 赫式単刀術――『緋扇』。

 今度はしっかりと首を切り飛ばし鬼妖の命の息吹を刈り取った。

 さてと、今すぐこの場から逃げたいけど、逃げたら後が怖いのでここは大人しく謝っておこうか。

「すいませんでした!!」

「はぁ、今は調査任務中だから説教はしないであげるけど、次勝手な行動したら長官に報告するからね」

 あのー、陽葵さん? 目の奥が全然笑ってませんよ?

 陽葵の額に無いはずの角が見える。

 いつの間に私のを移植したんだろ。

 ……調査終わりに陽葵の好きなスイーツでも買って帰ろう。

「おーい、天鬼無事ー?」

 声がした方へと視線を上げると瑠奈が廃墟ビルから飛び降りてきた。

 軽やかに地面に着地し、何事もなかったかのように乱れた髪を手櫛で軽く整える。

 少し青みがかった肩ほどの銀髪が日没の光を反射し赤みを帯びたものになっていた。

「その言葉そっくりそのまま返したいんだけど、結構な高さあったよ?」

「いつも通り、別に何ともないよ」

 いくら猫霊(シャト)に適合してるっていってもこれは人間離れし過ぎだと思う。

 頭の猫耳も相まってもはや人間か猫かわからなくなってきた。

「慣れてはきたけど、普通に登場できないの? 見てるこっちがヒヤヒヤする」

「これが一番効率いいんだから仕方ないでしょ。それにしても今回は少し時間かかってたね」

「いつもならあそこまで手こずらなかったんだけどね。まぁそれでも陽葵のサポートもあったし鬼妖一匹だったから。それくらいじゃやられませんよ」

 とは言ったものの鬼妖の攻撃力は私より若干劣るくらいで一人で対処するのには少し骨が折れるというのが本音だった。

 鬼妖は今までに確認されている異形の中で一番の戦闘力を持つ。

 一番楽なのは犬獣(コボルト)あたりかな。

 あいつらは集団で行動するけど私達とあまり体格差がないから私的には狩りやすい。

 瑠奈みたいな遠距離から射撃するタイプの戦闘スタイルだと的は大きい方がやりやすいんだろうけど。

「それにしても天鬼はよく異形に遭遇するわね」

「ほんとになんで私ばっかりこんな不憫な目に遭うんだろう……」

「日頃の行いのせいじゃない」

 おっと?

 陽葵に言われるならまだしも、瑠奈に言われるのは少し納得いかないな。

 私ほどじゃないかもしれないけど瑠奈も普段から割と自由な行動してると思うんですけど。

「もうそろそろ日が落ち始める頃だし、今日の調査はここまでにしましょうか。いつも通り崩壊の危険性の低そうな建物を見繕いましょう」

 こうして私達は周囲の廃墟で野営することにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ