冷酷なアーヴィン(1)
「は、初めまして。セシ…ファネット・ディミトリアと申します。」
アーヴィンは何も言わずセシルをじっと見つめていた。
アーヴィンに見られてハッと気付くセシリア。
(私今物凄く汚い格好してる…)
髪はボサボサ、服は泥がつき所々に血痕が服に染み付いている。
(顔だけでも洗えば良かった…ソクラテスも何か言って欲しかった…)
「あ、あの…申し訳ありません。急だったものですから服も何も持って来ていなくて…こんな格好で侯爵様の前に立つ事をお許しください。」
(荷物なんてきっと送られてこないだろうからこの服しかないなんて言えない…どうしよう…)
「…構わん、今着替えるものがなければ此方で用意しよう。その格好はあまりにも酷い。」
「も、申し訳ありません…。」
「それと、結婚式は挙げるつもりはない。婚姻の書類だけ記入して貰いたく今日は貴方を呼んだ。」
「はい…。」
(ファネットお義姉様が聞いたら逆上するだろうな…ここにいるのが私で良かったのかも。)
「では、私はどちらに記入すれば宜しいでしょうか?」
私が書類に近づこうとするとアーヴィン様もソクラテスも目を大きくして私を見ていた。
「わ、私何か失礼な事申し上げましたか…?」
「いや…失礼した。ソクラテス、2人で話をする。席を外せ。」
「承知いたしました。」
ソクラテスが部屋から出て行き私はアーヴィン様と2人になった。
「ファネット嬢、この婚約は契約結婚だ。3年後には離縁してもらう事を承知の上で婚姻の書類にサインして欲しい。君を愛する事もないし求める事もしない。その代わり離縁した後は家が一軒ほど買えて衣食住には困らない位の慰謝料をしっかり払う。」
「家…ですか!?」
(もし元の世界へ帰れなかったら田舎に家を買って住むのも悪くなさそう…!)
私はキラキラした目でアーヴィン様を見てるとまたアーヴィン様は困っている様な戸惑っている様な表情をしていた。
「あの…やっぱり私何か失礼な事申し上げましたか…?」
「いや…そうではないんだ。他のご令嬢は憤慨していたんだが…」
「他のご令嬢…?」
「いや、すまない。何でもないんだ。それと契約結婚が成立した後は君とは一緒に食事をする事も寝所を共にする事もない。私とは会わないよう部屋も離れている。」
戸惑っていた表情は一瞬で元に戻り、淡々と話すアーヴィン様。
(それは…誰にも殴られたり嫌味を言われる事なく1人で過ごせるという事かしら…それならありがたいわ!)
「承知しました。ありがとうございます!」
「あ、ありがとう?」
私は凄い速さでサインをした。
「それでは、アーヴィン様失礼いたします。」
私は足早に部屋を出た。