ヴェリエール侯爵(2)
「此方が執務室です。旦那様は毎日此方で仕事をしております。旦那様は神経質なお方ですので此方にはあまり近寄らないようにお願いします。」
「は、はい。」
ソクラテスは無駄のない説明で淡々と話していく。
(この人、とても冷たく感じたけど歩幅を私に合わせてくれてる。きっと良い人なんだわ。)
セシリアは少しホッとした。
「此方がファネット様の部屋となります。長旅も疲れたでしょうから少し此方でお休み下さい。旦那様が休憩の時間になりましたらお呼びいたします。」
「ありがとう…うわぁ!すごく素敵なお部屋ですね。本当にこのお部屋を使わせて頂いてもいいのでしょうか?」
一気にテンションが上がったセシリアを見てソクラテスは目を丸くした。
「あ…急に大きな声で失礼しました…」
「…いえ、お気に召されて光栄でございます。ファネット嬢、私にはどうか敬語ではなく普通にお話し下さい。」
「あ…ごめんなさ…じゃなくて、そうするわ。」
ソクラテスは救急箱を床に置きそのまま部屋を出た。
(ふう〜。疲れた…少し横になろう…)
セシリアはそのままベッドに横になると直ぐに眠ってしまった。
「ーーー様。ファネット様。」
誰かに呼ばれたような気がして目を開けるとソクラテスがベットの横に立っていた。
「ファネット様、お休みの所申し訳ありません。旦那様がお待ちになられています。」
「え!?あ、はい!」
ガバッと起きて寝ぼけながら返事をするセシリア。
(どうしよう髪の毛もボサボサで服も汚れてる…なんなら血の跡まで…でも着替えもないしこれでいくしかない…侯爵様ってどんな人なのかしら…お義父様と同じくらいの年齢とかかしら…?失礼のないようにしなきゃ)
執務室まで来るとソクラテスはドアを開ける。
「ファネット様どうぞ中へ。」
中へ入ると若い男性が1人立っていた。
「初めまして。アーヴィン・ヴェリエールだ。この家の当主であり、これから貴方の夫となる。」
整った顔立ちに綺麗な赤色の髪、エメラルドグリーンの瞳。
その姿は絵に描いたような格好良さだった。