ディミトリア伯爵家(2)
痛みを抑えながらゆっくり歩くセシリア。
義父の執務室を通り過ぎようとしていたら、ファネットの大きい声が聞こえた。
「いやよ!!…なんで、、何で私がヴェリエール侯爵家に嫁がなきゃいけないのよ?!」
つい怒鳴ってしまったファネットを睨みつける義父ノーラン。
「ひ、酷い噂しかないじゃないですか…次々に花嫁が逃げていくという噂、冷酷な態度、女性にも容赦なく手を上げるって聞いてるわ…。そんなの耐えられない!それに私には今お慕いしている男性もいますのよ!」
「ファネットこれは仕方のない事だ。彼方からの申し出なのだから断れない。ディミトリア家の長女を嫁にと言う事だ。5日後にはあちらに着くようお前にはすぐにでも向かってもらう。」
「なんで…なんで私が…!?嫌よ!」
「ファネット!!何度も言わせるな。」
「…分かりました…お義父さま。」
ファネットはふらつきながら部屋から出た。
(ファネットお義姉さまが…結婚?しかも直ぐに家を出る…?)
つい立ち聞きをしてしまったセシリアは執務室から出てきたファネットと目が合う。
ファネットはセシリアを思いっきり睨みつけた後、何かを思いつきニヤリと笑って自室に戻っていった。
執務室からノーランが出てくる。
「セシリア…。家にあまり居られなくてすまない。」
「お義父さま…。謝らないで下さい。お義父さまの顔が見れただけでも私は元気になれます。」
ノーランはセシリアの頭を優しく撫でる。
「これからまた出掛けないといけないから良い子でいるんだよ。」
「はい…分かりました。」
(お義姉さまも嫁がれる事になって、お義父さまもお仕事に行かれる。この家には私とお義母さまだけになるのね…2人にいじめられるよりはマシだけど…怖いわ。)
セシリアもこの先の不安を抱えながら自室へと戻った。
◇
◇
◇
部屋で背中の怪我を治していると侍女のメイサの声が扉の向こうから聞こえた。
「セシリアお嬢様。ファネットお嬢様が家を出られるので見送るようにとの事です。」
「ファネットお義姉さまがですか…?分かりました今行きます。」
セシリアはメイサと一緒に玄関まで行くと玄関には腕組みをして不満そうなファネットと義母が立っていた。
「遅い!いつまで待たせるの!」
「あの…お義母さま、ファネットお義姉さま…申し訳ございません。」
「まぁいいわ。これで貴方に会うのも最後だもの。お母様、私良い事を思いついたの!私、お母様とも離れたくないですし、お義父様は勝手に縁談を持ってくるし散々な気持ちだったわ。でも…この使えないと思っていた異世界人が役に立つ時が来たじゃない!ね?お母様どうかしら?この義妹に行ってもらう事にしませんか?どうせ私の顔なんて向こうは知らないんだし。
アンタにはこれからファネットととして向こうに行って貰うの。」
「良いわね!ファネット貴方天才じゃない?そうしましょ!!ホラ、アンタ早く馬車に乗りなさい!!」
「え…でもそんな事したらバレて…」
「うるさいわね!!つべこべ言わずに乗るんだよ!」
ファネットに足を踏まれるセシリア。
「い゛…っ!!」
「あら…そんなのじゃ緩いわ。こうするのよ!」
セシリアは義母にバシンと扇子で何度も思いきり叩かれる。
「きゃぁ!!」
うずくまったセシリアの体を2人は蹴り続ける。
「やめて…ください…。」
「なんで…いつもいつも!お義父様はこいつにだけ態度が違うんだよ!腹立たしい!」
どんどんと激しくなるファネット。
「ま…ってこれ以上は…」
(もう…視界がぼやける…意識が…)
「カハッ……」
みぞおちを蹴られた時に激痛とともに意識をうしなうセシリア。
「ファネット…もうやめなさい。これ以上は死んでしまうわ。このまま馬車に乗せちゃってちょうだい。後…ベールも付けておいて。」
セシリアは意識のないまま馬車に乗せられた。
「はぁ…やっと邪魔な存在がいなくなってスッキリしたわ!」
「そうね!ファネット、今日はお祝いしちゃいましょ!」
「やったぁ!こんなに幸せな気分は久しぶりだわ。」
義母とファネットは幸せそうに笑って部屋に戻っていく。
侍女メイサはその2人の姿を見届けた後にこっそり馬車の中に救急箱を置く。
「私はこれくらいしか出来ないわ。」
馬車が出発した後、メイサはファネット達の後を追った。