ディミトリア伯爵家(1)
「セシリア!なんでこんな所にいるのよ!私の視界に入らないでって言ったわよね!?」
思いっきり頰を叩かれた拍子に床に倒れるセシリア。
「ファ、ファネットお義姉様…私はここを通らなければ自室に…」
「うるさい!!何でアンタなんかが私に口ごたえしてんのよ!名前も呼ばれたくないわ気色悪い…」
背中を足で何回も蹴られ、踏まれるセシリア。
「い、痛い…やめてお義姉様…」
「だから…アンタが私の目の前にいるのが悪いんでしょ!?異世界の人間の癖して何でまだここに居座ってるのよ!」
セシリアを踏みつけているファネットの後ろから静かに歩いてくる侍女。
「ファネットお嬢様、旦那様がお呼びでいらっしゃいます。早く行きましょう。」
ファネットの侍女、メイサはこの光景に見慣れている為セシリアが流血していようがセシリアの事は無視をする。
「そうね、時間に厳しいお義父様だからもう行くわ。」
ファネットは最後に強い力で背中を踏み、そのまま父のいる執務室へと向かった。
「ゔ………」
痛みで声が出ないセシリア。何とか立ち、よろめきながら廊下を歩く。
廊下にいるメイドはクスクスと笑いながらセシリアを蔑む。
「あの子まだ元の世界へ戻ってなかったの?」
「あの子だけなんですって?自分の本当の名前を思い出せないの。」
(私だって…私だって元の世界へ戻りたいよ!何でこんな所に飛ばされてしまったんだろう…辛い…けど負けたくない!)
私は今年14歳、日本に住むごく普通の家庭で育った女の子だった。ここに来る6年前までは。
6年前、学校帰りに急に異世界へ飛ばされ気付いたらこの世界、マハルト国に来ていた。最初は私以外に4人同年齢の男の子と女の子が一緒に転移していた。
私達は年齢が近い事、自分の名前を忘れてしまっている事が同じ共通点としてあった。
私達は何故か異世界の文字も言葉も分かり教養が少しあった事からそれぞれが子宝に恵まれない貴族の養子となった。
ある日突然自分の名前を思い出した仲間の子は光に包まれ居なくなった事から、自分の名前を思い出すと元の世界へ戻れるということが分かり、他の子達も次々に名前を思い出し元の世界へと戻っていった。
私はディミトリア伯爵家に引き取られ優しい義母と少し厳しい義父に育てられたが数年後に義母が亡くなり、2年経つと義父は新しい義母と義姉を家に連れてきたが、そこからが地獄の始まりだった。
義父は領地を離れて仕事をすることが多く、義母と義姉と3人での生活が殆どだった。
異世界者である養子の私を嫌う義母と義姉は義父がいない時は軟禁状態で部屋から出してくれなくなった。
義父が帰っている時は私を見かける度に目立たない所を狙って体罰をするような日々を過ごしている。
今日は久しぶりに義父が帰って来ていて私も久しぶりに部屋から出られた。だけど…また義姉に会ってしまってこの有り様…。背中が痛くて上手く歩けない。
(何で私は本当の名前を思い出せないの…早く本当のお家に帰りたい。絶対に名前を思い出して帰ってやる!)
私は気合いを入れ根気で歩いた。
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