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またいつか会う日まで

至らないところばかりかと思いますが、読んでくださると嬉しいです。

☆の前後で視点が一応変化しています。

「…いい人生だったよ。決して良い時代とは言えなかったけど、たくさんの人に出会えて支えられて、目標のために必死に頑張った。まだ、やり残したことばかりだけど次の世代へ意思を託すこともできた。それに、君と出会い…恋をし、愛を知ることもできた。本当に……幸せだった。ひとつ、心残りといえば寂しがりで泣き虫で、我慢しすぎる君をたったひとり置いて逝ってしまうこと。」


そう言って、男は何かを飲み込むように目を閉じた。しばらくして、やせ細り持ち上げる力すらない手を妻のエリーゼへと懸命にのばしたがそれは叶うことはなかった。


その日、戦争と奴隷制度撤廃を解く元革命軍リーダー【斎藤 拓真】御年70歳は息を引き取った。異世界においては長生きしたほうで、一方では転移者として神々からあらゆる能力を受け取っているにもかかわらず短い寿命とも言えることから、転移してからの男の半生が如何に厳しかったかが伺える事実でもあった。


帝国の王は現人神であり、世界を統べるはアーダイン帝国であるべきである。「平民は貴族の所有物、奴隷は替えの効く部品、人間以外は劣等種族なり」との価値観が運びる世界へと、事故で死ぬ運命だった拓真は神々により転移させられた。


戦争ばかり起こし、他者を征服することが当たり前になってしまっている世界をどうにかしてほしいと。


順風満帆の幸せな家庭で育った自分に到底できることではないと一度は断った。しかし、問答無用で神々によって転移させられた。


世界を創世した神々がこれなのだ。その世界で暮らす人々が自己中心的なものばかりなのも世の理なのではないかなどと思いながら、この世界の闇へと足を踏み入れた。


最初は飛ばされた田舎でひっそりと穏やかに暮らしていくつもりだった。そこが革命軍の隠れ集落だともしらずに。


帝国貴族による理不尽な法律、重い税金に徴兵、常に国のどこかでは戦争があり、人族以外の奴隷への扱いは酷いというものではなかった。


そんな中、友人のエルフが革命軍の戦争で捕まった。この世界に来ての恩人でもあり、人の記憶を絵に描くことができるという稀有な力の持ち主でもあった。


唐突に故郷へと帰れなくなったその時の拓真にとって、僅かながら郷里と懐かしい人々に触れさせてくれるかけがえのない拠り所であった。

 

神々から強制的に付与されていたと気づいた力で助けに行ったときには、友は新薬の実験で右半身が麻痺してしまっていた。


繊細な絵を描くことのできる彼の利き腕はもう二度と描くことのできない体になり、命だけでも助かって良かったと言っていた彼が隠れたところで泣いていた姿は、力があるのに見て見ぬふりをし続けた己の罪を責められたような気分であった。


それからこの世界を変えるべく拓真は変わった。生来の争いごとを嫌い、人を思いやり、穏やかだったのを捨て、集団を率いるべく強く気高い正義感に狡猾な思考、人を引き付けるような覇気を身に着けた。現代の知識を活かしてこの世界を改革するために。

 

中世ヨーロッパよりも発展していない文明程度では、持って生まれたカリスマ性を開花させた拓真を中心にひとつとなり、今までにない戦いをする革命軍に為す術をこの世界は持ちえなかった。


今までの弱肉強食が当たり前の世界において、強者だったものが拓真という新たな強者によって虐げられ葬られていくのは気持ちの良いものでは無かった。


しかし、それまで虐げられてきた弱者のために拓真は踏みとどまることもできず、言葉にできない不安を抱えながら進むことしか許されなかった。


自分は何のために戦い、本来の自分はどうだったかなんて、もう分からなくなっていた。ある奴隷商でエルフであるエリーゼにあうまでは。


エルフの寿命は約1000年ほどと言われ、成人は250歳である。寿命の長い弊害で子供は生まれにくく、その上理由はわからないが多種族と結婚すると早死にするエルフが多く、混血児もめったに生まれない。


そのため、見目の良いエルフは成人すると女は娼館か貴族の性奴隷、男は戦争奴隷となることが多かった。


奴隷商から助けたエリーゼは革命軍の所属となった。奴隷制度をなくしたいのだと、治癒魔法が得意だから役に立つはずだから置いてくださいと、魔法など使ったら死んでしまうのではないかという程弱った体を震わせているのに瞳にだけは強い光を宿らせていた。


その光が汚れてしまった拓真を真摯に見つめる姿になんとも言えない気持ちが湧いたのを覚えている。


エリーゼは革命が進むに連れて、革命の聖女として中心メンバーの一人となっていった。


リーダーとなっていた拓真に近づくにつれ、貴族だからと言って殺すべきではないと主張する彼女と対立するようにもなっていた。


「奴隷から解放され聖女として祭り上げられているからと言って、他の奴隷を見捨てるなんて君は皆がいうような清純無垢とはかけ離れた女みたいだな。残念だよ。貴族どもは同じ人族すら、自分と同じ一人の人間だとすら思っていない。どこからか無限に湧き出す虫だとでも言いたげに扱うじゃないか。あんな性根の腐ったやつらを改心させるなんて無理だ」


「奴隷としての過去なんて忘れたい。でも、悪いことをしたからと言ってすべての人を殺しても明るい未来には繋がらない。私は清純無垢なんかじゃないわ。世の中には悪い人だっているし、良い人だっているって知ってるだけの小娘にしか過ぎないし、他の人に呆れられるような理想を叶えたいと思う哀れなエルフでしかない。それに私は私だけじゃなくてあなたのためにもこの意思を曲げるわけには行かない。…あなたも本当は嫌じゃない、そんな考え方。いつも、眉間に皺が寄っているけど、貴族の処刑の話が出ている最近は特にひどい。今の私はあなたのおかげで心が生きていけるわ。これ以上、あなたの心を殺さないで。少しは頼って。」


革命軍を率いるようになってから眠れなかった。頼れるような仲間を作ることもせず、前に進む以外に道はないというかのようにひたすら貪欲に、哀れさを感じるほどに盲目に。


限界などとっくに超えていたが、痛む胸や疑問にも蓋をして今更何も感じるはずない。


それなのに、出会った頃と変わらない光を宿す瞳に強く焦がれた。何も言えず、ただエリーゼを見つめた。エリーゼはそっと近づき、我知らず零れ落ちる涙を拭い拓真を抱きしめ続けた。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 





「エリーゼ様。この度は誠にお悔やみ申し上げます。革命の英雄たる拓真様もこんなあっけなくいなくなってしまうなど思いもしませんでした。あの方はいつまでも我々を導いてくれるとどこか甘えていた気が致します。来世?というのでしたかな、確か。拓真様の故郷によると、生まれ変わりというのがあると聞きました。いずれあの方は帰ってくると信じて、帰ってきたときにはあの方に任されたものを胸を張ってやり遂げたと言えるように取り組む所存です。なので、エリーゼ様!

いえ、聖女様!どうかご安心くださいませ。」

 

「…大丈夫です、とはいえないですけど、そんな気を遣わないでください。拓真様は幸せだったと言ってくれました。それに約束したんです。残りの人生を前向きに生きるって。」


いつか、帰ってくるからそれまでまたな、って。


「そう、ですか。ですが!何か困ったことがありましたら、是非とも頼ってくださいね。いや、困ってなくても、なんでも、どんな些細なことでもいいので、この不肖新制アーランド使節団、代表マッシュにご相談頂ければどうにかできるように致しますので!」


「それではその時は遠慮なく相談しますね。」


夫の拓真が逝ってしまって、国をあげての葬儀や手続きなどで2週間の時が流れていた。エルフの自分にとっては一瞬のようで、彼がいなくなったことを感じるには長すぎる時間である。


革命をなし、結婚後もやらないといけないことは山積みの中、拓真は生来の穏やかな性質を取り戻し、忙しい日々の中、奴隷だった頃や革命期が夢だったかのような幸せな家庭を彼と築いた。


町を笑顔の子供が走るのを眺めたり、好きなお花を一緒に植えて育ててみたり、湖畔まで出かけてピクニックをしたり、彼の故郷について聞いたりなどどれも小さいようで大きな幸せな時間。


残念ながら子には恵まれなかったが、愛し愛されながらお互いに支えあい、仕事以外では片時も離れなかった。私と離れたくないから仕事の引き継ぎをすると後継者を連れてきた時には流石に笑ってしまった。


彼は片時も離れない離れたくないと言葉で、行動で常に示してくれる。いずれ自分が死んでしまったあとのことを心配して、たくさんの友人を作ろうともしてくれた。そんなことしなくても大丈夫なのに。


種族による寿命の差はどうしようもない事実。人間を好きになったのだから、分かっていて一緒にいるのにふとした時に彼が見せる悲しい表情にこちらまで胸が痛くなる。


あなたが好きになった女は、あなたを安心させてあげられないほど弱いのかしら。失礼しちゃうわ、なんて思いながら本当はすごく嬉しかったが、悲しい表情は似合わないからあなたといられて幸せよ、と気持ちを込めてそっと手を握る。


一緒に居られなくなる未来への不安を埋めるかのように、寄り添うようにいつまでも、この時間が終わりませんようにと。


しかし、終わりは突然に近づいてきた。この世界の人間と比べても長生きで元気だと言えるようになって頃、拓真は肺炎になった。


老衰した体はみるみるうちに体力を奪われ、あっという間にベッドでの生活を余儀なくされた。しばらくして病症が回復しても、一度失った体力はなかなか戻らなかった。戦闘の際には誰よりも俊敏に動くことができ、体力のあったのを知っているからこそ時の残酷さを感じる。


エルフにとっての50年は長い人生の中でほんの一部でしかないというのに本当にあなたがいなくなってしまう。そう思うとどうしても、泣きたくなった。


覚悟なんてとっくにできていると言っていたが、そんなことできていなかった。彼のそばで泣く訳にはいかなかったから、彼の最後の瞬間まで必死に笑顔を貼り付けた。






帰ってくる。必ず、君の元に帰ってくると約束する。前に話しただろう?転移ができるんだから、輪廻転生くらいあるさ。辛かったら忘れてもいい、俺が覚えておくから。…幸せになってくれ、幸せを諦めないでくれ、君の笑顔が何よりも大好きだから┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

目が覚めると隣には今日もあなたが居ない。

先程までの夢の中では、抱きしめてくれたその背中をちょうど抱きしめ返すところだったというのになぜ目覚めてしまったのか。


今見てる世界の方が悪夢のようなのに、隣のシーツの冷たさがこちらの方が現実だと無情にも訴える。


「おはよう。あなたが居なくなってもう3ヶ月も経ってしまったのに、いつ帰ってきてくれるのかしら。このままじゃ、あなたがいないことが日常になってしまうじゃない。」


ベッド横に置いてある彼の写真に話しかける。夢で見た思い出だったり、その日の出来事や面白かったことなどを話すことが、最近の日課である。もちろん、早く帰ってきてとちょっとした文句を言ったりもする。


写真に拗ねて見せたところで何も反応は無いけれど、モヤモヤが少しだけ解消されて気分が良い。


支度したら朝日を浴びるためにも散歩に出かけることにした。そのあとは、湖畔でのんびりするのも日課のひとつだ。


太陽の光を浴びることは健康になれるからと、たまには湖畔でのんびりするのもいいと言って釣りをするのも拓真が始めた日課である。


今日も昨日もその前もあなたと過した日々と変わらない毎日を過ごしているというのに、今日も今日とてあなたはいない。


拓真がいない生活とは、何をすべきなのだろうか。


あなたがいたからこそ、日常は成り立っていたのだとこの3ヶ月で充分過ぎるほどに理解した。

 

一緒に植えた花はとっくに綺麗なピンク色の花を咲かせて、種を付けようとしている。

 

まだ3ヶ月、もう3ヶ月。


どれだけの時間がかかるのか、そもそも転生なんてことが出来るかなんて全く分からない。でも、あなたはいずれ帰ってくるのだ。そう約束したのだから。そうしてあなたが居ない日々を消化する。

 

1人は寂しいから早く帰ってきてと強く思いながら。







あなたが居なくなって1年たった。

まだ1年、もう1年。

エルフの私にとっての1年なんてあっという間のはずなのに、今まで1番長い時間だった。


いないというのに彼がいた生活と同じように日々を過ごすことは、より一層の喪失感を感じさせるだけの日常となってしまった。代わり映えのしない毎日に本当に時が過ぎているのか疑わしくなってしまうほどに。


何か新しいことを始めてはどうかとマッシュさんは言ってくれたけれど、この生活を変えてしまったら本当の意味であなたが死んでしまう気がするのだ。




あなたが居なくなって1年と半年。

最近奴隷だった時の夢を見る。あの時の夢など助けられてからも数回しか見なかったというのに、今更夢に見るなんて不思議な気分だ。


夢の中の私はあなたに助けられたことこそか夢で、奴隷のままあの時代の未来を生きている。あなたが惹かれたと話してくれた強い光を宿す瞳など持たないどころか、その瞳は暗くよどんでいた。


目が覚めても夢の中でもどこにもあなたがいないせいか、ぼーっとすることが増えて食事も忘れそうになってしまう。いつ帰ってくるのかな、本当に帰ってこれるのだろうか、本来ならばあなたはこの世界にいないはずの人なのに。





あなたが居なくなってからもうすぐ3年。

一緒に過ごした生活を良く夢に見るようになって、寝ていることが多くなった気がする。


そのせいであんまり日課通りに過ごせてないことが困ってしまうけれども、夢の中だけでもあなたに触れてもらえることが嬉しいからか、なんだか起きている時間がすごく辛い。





あなたが居なくなってから3年を少し過ぎた。

夢の中で思い出ばっかりに浸っていたせいであなたの3周忌の墓参りに行けなかった。寝ていた私をマッシュさんが心配して起こしてくれるまで、その事にも気づかなかったなんてどうかしてる。


もう日も暮れて今日は行けそうにないから明日は必ず会いに行く、なんて言い訳をしてまた夢の中のあなたへと私は会いに行く。




あなたが居なくなって3周忌のお墓まり。

英雄だった彼の墓石は見晴らしの良い丘にぽつんとあって、国で有名な職人が作っただけもありすごく目立つ。しっかりと管理されているから綺麗だけれど、軽く掃除をして墓石に手を合わせた。もちろん、この国に手を合わせる習慣などないけれども。


あなたとの思い出は夢にも見るし、思い出すようにもしているからまだ記憶に新しいものばかりだ。それなのに、今まで忘れていたかのようにあなたの言葉を思い出した。

 

「辛かったら忘れていい。」


彼が病床の中での言葉だった気がする。


このままもし自分が死んでしまって、俺との記憶が辛いだけで足枷になるくらいなら忘れてくれって。

 

そんなことできるわけないのに忘れたくないからあなたを夢に見るというのに、こんなに会いたいと思うのに終わりの見えない時間が情けない私を蝕んでしまった。


きっと今の私は、夢で見た奴隷の彼女と同じように暗く淀んだ瞳をしている。


「こんな私なんてダメ。拓真が今戻ってきたら愛想を尽かして出ていっちゃう。」


きっとそんなことは無いけれど、そう思わないとまた夢の中に戻ってしまいたくなりそうだから、墓石に誓うように呟いた。


彼が死んだこと以上に毎日が、日々が、変わらないように大切にしてきた分今更なにかを変えていくのは、大変かもしれないけれど約束を守るためにも私は変わらないといけないから。







約束の日まで精一杯生きて言うのだ、会いたかったと。



そう前向きに考えられるようになるまでに彼が亡くなって3年の歳月を要し、学校の教師をしないかとマッシュさんに話を持ち掛けられたのも懐かしい。


治癒魔法や薬学について学校で教師をするようになって30年の歳月がたち、昨年からは学校の卒業生であるアリシアが弟子兼住み込み家政婦として一緒に暮らすようになった。


夜は治癒魔法や薬草の研究をすることが多くなったことで朝日を浴びての散歩は辞めてしまったし、早起きすることもなくなった。湖畔に出かけたのももうずいぶんと前だ。


教師をするようになって、貧しい子たちも通える学校ができたことに驚いたし、誰にでも分かりやすく教えるために四苦八苦したり立派に育った子達が卒業していったりとどれもこれも大切な思い出ができた。


いつか彼に会ったら教え子たちの話をすることがほのかに楽しみだったりする。最近は、時より感じるあなたが過ごした世界からの旅人たちについて調べている。


異世界にあると話してくれたショーユ、ミソ、米というものが市場で出回るようになったのだ。


本物かどうかなんてわからないけれど、私だけしか知らないと思っていた単語を身近で耳にすることになんだか寂しいような気もしつつ人間の文化の進みに驚いてしまう。


どうやら交流国の王子が直々におすすめしているものらしく、その王子は米というものを発見し、その他の物の生成も色々と主導しているらしい。


どうやって彼の国の王子がそれらについて知ったのかいつか聞いてみたいとも思っている。


あながちその王子というものが異世界からの転生者で、あなたも既にこの世界に生まれ直していたりしたらいいのになんて思う。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 






車にひかれて死んだと思ったら異世界転生して、しかも王子だった件。なんてどこのラノベだよとツッコみたくなるようなことが起きた。


少々強引な神様にせっかく戦争がなくなったのに転移者が早期引退したせいで、文明の進みが遅れたから同じ世界出身者代表としてどうにかしろや的なことを言われ、強制赤ちゃんだったのを懐かしめるくらいにはこの世界にもなじめた。


日本食が懐かしくて醤油、味噌、米のために奔走したことも今では良い思い出だ。


奴隷制度や身分差別など僕が生まれる前に革命によって解消されつつあるというのに、虐げられていた猫耳獣人のリリアを助けたことでいい感じの仲だったりもする。


まぁ冒険譚とかその他もろもろは置いておくとして、今僕の目の前には耳の長いとびきり美人なエルフがいると叫びたい。異世界有名種族といってもいいだろう、あのエルフである。


名をエリーゼ様というらしいが、革命軍の聖女と言われていた人らしい。エルフは革命後の世界では生き残ったほとんどが人間に見つからないどこかに隠れたらしく、めったにお目にかかれない種族なのだ。


長い耳がぴくぴくしているのが、なんともかわいらしい。


まあ、もちろんリリアにはかわいいしっぽと肉球があるのでリリアのほうが圧勝なのだが。


「つまり、醤油や味噌というものを製作をしている私が異世界について知っているのではないかということですか」


「お願いします。何でもいいんです、知っているなら異世界について教えてもらえないでしょうか、特に転生について」


なぜ醤油、味噌から異世界についてたどり着いたのかとか、転生について知ってどうするのかとか疑問はあったが僕が転生していることはリリアにも話せていないことなのだ。


わざわざ他国にいる僕に聞きにくるくらいなのだから、どうやらエリーゼ様自身が転生者というわけでもないのだろう。


知識を悪用しようするものがいるのを知っていて仮にも王子という身からして、申し訳ないがそうやすやすと話すことはできなかった。


エリーゼ様自身にその気がなくてもだ。そう思ってしまう程には、この世界はまだまだ平和と言えなかった。


「異世界、転生ですか。残念ですが、心当たりがありませんね。ちなみに、醤油や味噌などの知識は城の書庫にある古書に作成方法が載っていまして、私はそれを実現したにすぎないのです。」


「それでは、その本だけでも見せていただけないでしょうか」


「申し訳ございません。現在では一部のものしか見れないようになっておりまして、この国のものではないとなると難しいかと。」


まだ諦めたくないと顔には書いてあったが、僕が困った顔だったのに気付いたのか何事かを呟いて諦めてくれたようだった。


そもそも、古書は日本語で書かれているから読めないとは思うが書かれたものを実現させ他国と渡り合おうとしている現在では、国書並みの扱いになっているのだ。


この国のものでもおいそれと見せることは叶わない代物となってしまっている。僕が読むまでほこりを被っただけの読めない紙の集まりだったはずなのに、たいした出世である。


この世界は定期的に異世界の知識を持つものが出現していることはこの書物と僕の存在からも分かっているが、だからといって他の転生者やもしかしたらいるかもしれない転移者に会いたいとは思っていない。


僕は一度死んですでにこの世界の住人でしかないし、表立って転生者として何かを成し遂げたいわけでもないのだから。


僕の周りのありがたくも大切だと思える人たちのためにも、何かに巻き込むわけにも巻き込まれるわけにもいかないのだ。残念ながら神様からのチートなんていうのももらってないしね。


そのあとしばらく城に滞在したエリーゼ様は国に帰っていった。リリアと俺の姿に何かを重ねてみていたのか、滞在中に酷く懐かしそうに僕らを見ていたのが印象的だった。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 





醤油と味噌で成り上がったとのちのち言われるようになる国の王子に会って、この世界にある異世界に繋がるような代物を探す旅に出てみようと思った。


教師としてのあれこれを弟子に引き継いだりと思った以上に旅に出るまでに時間がかかってしまったけれど、旅に出て世界中を周った。時間だけはたくさんあったから、ゆっくりと旅の目的を探すことにした。


彼と出会い、一緒に過ごした国を離れるのはとても寂しかったけれど私たちをよく知る人々は亡くなってしまったし、国の名前も変わってしまったからちょうど良かったのかもしれなかった。


旅にでて種族差別や貧富の差が思った以上に残っていて悔しい思いをしたり、異世界の人の痕跡を所々で発見して、それらの多くが私には読めない言葉だということも知った。


あの王子様に謀られたことにも気づいたけれど、その時はもうとっくにこの世からいなくなっていたから確かめることもできなかった。


砂漠で満点の星空を見たり、不正を働いていた地域債務管の悪事を暴いたり、人間の女の人の出産に立ち会ってそのご家族としばらく過ごしたり、エルフの隠れ里に行って求婚されるなんてこともあった。


たくさんの出会いや別れを繰り返して、辛いことも楽しいこともたくさんたくさん経験したしあなたと過ごした時間の何倍もの時間を生きてきた。


それなのに不思議と何をしていても最後にはあなたに会いたいという気持ちに戻ってきてしまう。


長く生きていて思い出も思い出せないものがあるけれど、あなたが恋しくて仕方がないことだけが色あせない。


これじゃなんだか呪いと同じねなんて思うこともあるけれど、やっぱりあなたを諦めたくない思うのだ。

800年という中のほんの瞬きのような50年が一番幸せな時間だったのだから。


あなたがいない人生を生きることにいつの間にか慣れて、今ではこの日々が日常になってしまったけれどもまたあなたに会う日まで、私はずっと待ち続ける。



小説を書いてみたいと思って始めましたが、読み専が小説を書くのは厳しいなと今回すごく実感しまいした。そもそも書き上げられる小説家のみなさんすごすぎる。


いつかは頭の中にあるアイデアをしっかりとした小説として保管できるくらいには成長したいです。

ありがとうございました。

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