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間食 異色な夢からの夜食(?)、それだけ。(パート1)

 今回は閑話です。

『──おおおっようやく出番がきましたか……って間食? 本編じゃないんですね…………』


 んっ…………あれ、この感じ、なんか前にも似た感覚になったことがあるような。

 どこまでも続く暗闇の向こう側から聞こえてきた声は、聞き馴染みはあるのに口調には余り馴染みがない、モヤモヤする違和を感じる。

 それに、布団を被っているとはいえ、異様なまでの静かさだ。


 まさか──っ!


 勢い良く布団を押し退けて起き上がると、目の前に広がっていたのは、いつも通りのなんら変わりない自室だった。

 

 あれ夢? 気の所為か……。

 

 一瞬、()()()()と同じ異世界(?)への扉が開いたような感覚に包まれたが、今回は本当に夢だったらしく、私の体はベッドの上だ。

 月は雲に隠れているのか、カーテンの隙間から見える外は暗く、町も寝静まっているらしい。

 どうやら太陽が昇ってくるまでにはまだ時間がありそうなので、私は欠伸あくびをしながらめくれて乱れている掛け布団に手を伸ばした。


「あれ、せっかく来てあげたのに、話もせずにもう寝ちゃうんですか…………」


 !?


「どうです? 目、覚めました?」


 不意にはっきりと耳に届いた声に驚いた私は、首にダメージを負いそうな勢いで顔を向けた。

 すると、ベストタイミングと言わんばかりに雲の切れ間から光が差し込み、人影をぼんやりと映し始める。

 

「あなたは──っ!」


「お久しぶりですね、私のこと覚えてますか? って言っても先日は夢落ちにしたので記憶が曖昧あいまいですよね。……最早もはや読者さんも覚えているかどうか……」


 月明かりを反射させているブロンドの髪に、金色の十字架が付いたネックレス。

 確か……。


「えっと、ごめん名前忘れちゃった!」


 見た目やどこであったかは覚えているけれど、名前だけがぽっかりと抜けている。


「直球で言われちゃうと寂しいですね……。マリヤです、マリヤ。記憶に鍵は掛けていないので頑張って思い出してくださいね」


 マリヤさん……そうだ、確かにそんな名前だった。

 名前を思い出させて貰えたのを皮切りに、あのときの出来事が昨日のことのように私の中を駆け巡っていく。


 フルネームは確か、マリヤ・ラムマロンさんだったかな。

 突然私を呼び出した~とか、集落がどうとか、結局間違いだった、とか。

 異世界に転生できた~、って喜んでいた私を余所に、振り回した挙げ句に「もう来ないでください」みたいなことも言われたんだっけ。

 ……あれ、なんか思い出したら思い出したで、あんまり良い思い出じゃなくない? これ。

 ダメだ、考えるほど微妙な気持ちになってくる。

 

「って言うか……そこ、座りにくくない?」


 記憶のことは一旦置いておくことにした私は、マリヤさんの居る場所に疑問を持った。

 無邪気な子供のように足をパタつかせて前のめりに座っているそこは、出窓だ。

 出窓とは言っても、奥行きは写真立てや小物を置ける程度だし、幅もそんなに広いものではない。

 いくら何も飾ったりしていないとはいえ、そもそも座るための場所ですらない。


「あぁ、ちょっとお洒落かっこいい感じを決め込んで登場したかったので、つい。ごめんなさいね」


 そう言うと、小さくジャンプするように「よっ」と声を出して飛び降り、私の足元に腰を下ろした。


「それでですね、今回はちょっと謝罪をしたくて、こうして夢をお借りしました」


「夢を……借りる?」


 謝罪したいとかそんなことよりも、そのフレーズが気になって仕方がなかった私は、咄嗟に訪ねた。


「ええ。今は私のスキルを使用して、あなたが見ている夢の周波数に波長を合わせることで、干渉してお話している状態です。あなた視点ではそうですね、明晰夢めいせきむみたいなものです。でも私にとっては現実で……って難しいこと言ってもややこしくなるだけですね」


 うーん、なるほど?

 やばい……全然何を言っているのか分からない。


「あ~、やっぱり分かってないって顔してますね。ほら、そこに置いてある時計とかどうですか? 結構夢感あると思いますよ」


 そう言って、私の後ろを指差すマリヤさん。

 時計? 時計なんて別に…………。


「うおっ!? 何これ気持ち悪っ!」


 恐る恐る振り向いて、ベッドボードに置いてあったデジタル時計を手に取ると、そこには数字どころか、文字かどうかすら分からない記号らしきものが表示されていた。

 例えるとすれば最近流行っている生成AIエーアイ、あれで生成された画像に写っている奇妙な文字のようなものだ。


「これで分かってもらえました? では、そろそろ本題に入りますね」


「あ、はい」


 衝撃的なビジュアルに気を取られていたため、余りにも簡素な返事が出てしまう。

 気色悪い時計のような何かを元の場所に戻して、ベッドの縁に移動して話を聞くことに。


「……あのときはごめんなさいね。勝手な都合で向こうに呼び出した上に、適当な理由を付けてこっちに還したりして。それに、鑑定したときもいろいろと失礼なことも言ってしまったし…………本当にごめんなさい!」

  

「いえいえっ、確かに突然で何が何だか分からないことだらけだったけど、私としてはその……あれが夢だったとしても異世界に行けて楽しかったんだ! だからその」


「そういってもらえると助かります。ですがこれは私の落ち度が招いたことなので、本当にすみませんでした……」


 立ち上がって深々と頭を下げるマリヤさんは、あのときの自信満々な豪快さとはまるで雰囲気が違っていた。


「そ、そんなに謝らなくても私は全然気にしてないから、だから顔を上げて、ね?」


 その言葉でようやく顔を上げてくれたが、すごく申し訳なさそうにしょんぼりとしている。

 しかし、人に謝られることに慣れていない私には、これ以上どうすれば良いのかよく分からない。

 どうしたものか……と悩んでいると、ふと視界に一つのぬいぐるみが映った。

 これでどうにか明るい雰囲気になれ!

 

「ねぇねぇ、これどう? 可愛いでしょっ」


 私はきっしょい時計のふりした化け物の横で鎮座している、おにぎり型のぬいぐるみを差し出した。

 もちもちした感触で、表面おもてめんにはゆるかわなにっこり顔が付いている。

 なんとも愛らしいお気に入りのこの子。


「……可愛いけど、これがどうかしたの?」


「あいや、どうということはないんだけど、元気でるかなぁと思ってさ~。暗い顔してると楽しくなくなっちゃうでしょ?」


「そうね、暗いのはこの物語の雰囲気に合わないものね。あなたも容赦してくれたみたいだし、気が楽になったかも。ありがとう」


 物語?

 そう言うと表情に柔らかさが戻り、抱き込んだぬいぐるみをむにむにと弄り始めた。

 なんと言うか、行動の端々で見た目のわりにどこか幼さを感じる人だ。


「そう言えばさ、集落……だっけ? そっちはあれからどうなったの?」


 私は思い出した記憶の中にあった、一つの大きな危機について訪ねた。

 魔獣の所為せいで食料難になって討伐隊が……みたいな話。


「あー、あれですか。あれは作者さんが上手い具合に都合よく事を運んでくれたので、もうなんの心配もないんですよね~、感謝感謝ですよほんと」


「作者……さん?」


 さっきも読者さんがどうとか物語がどうとか言っていたけど、一体なんのことだろう……。


「あっごめんなさい、私今変なこと言いましたね。気にせず、どうか忘れてください。あなたがそこに干渉しちゃうといろいろと問題が発生しちゃいますので、下手するとこの世から消されるかも……」


「ひぇ……わ、分かった。考えないようにするよ」


 なぜだか分からないけれど言葉の重みが異様で、一瞬、心臓を冷たい風が撫でるような感覚に襲われた。

 どうやら、掘り下げることは許されないらしい。


「そ、そうだ! 夢ってことはさ、何か変わったこととかできちゃったりするの?」


 恐怖心を煽られた私は、話の流れを強引に変えた。


「一応あなたの想像力、妄想力次第ではなんでもできると思いますよ。例えば……何か思い浮かべてみてください」


 何か、か。

 急に言われてもパッと思い付かないんだけど…………あっ。

 思いの外パッと浮かんだそれをしっかりと脳内で型どっていくと、突如、太ももの上にほんわりと温もりが与えられた。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます! 


 次話(パート2)は「明日、正午頃」の投稿を予定しておりますので、是非続きもお楽しみください!

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