価値とは
金のように価値が変わるロボットの作品です
異世界ダラード
■荒廃した砂漠
ビート「オラオラ、このビート様がお通りだぞ」
砂漠用チューンを受けたバイクがモヒカンの人を乗せて走っている。
バイクに乗っている人は数人おり、さながら暴走族のようだ。
ガンマ「ビートキャプテン! あそこにプレミアディフェンダーの残骸がありますぜ」
プレミアディフェンダーとはこの世界に存在するロボットだ。
時価が常に変わるまるで金属の金のようなロボットなのだ。
ビート「本当か、ガンマ。いいパーツが手に入るといいがな」
すぐさま残骸のある場所にたどり着く一同。しかし、
老プレミアディフェンダー「お前らに我のパーツを手にする資格はない」
と残骸が喋りだした。そうプレミアディフェンダーには人格が存在するのだ。
ビート「こんなにボロボロでもプレミアディフェンダーは喋れるのか」
と感心するビート。
ビート「しかしどうして、俺たちを否定する? 故障したあんたを再利用するいいチャンスじゃないか」
老プレミアディフェンダー「お前らには愛がない。金だけが必要ならよそを当たれ」
ビート「やれやれ平行線だな。ガンマ、いいからパーツとっちまいな」
ガンマ「お頭、プレミアディフェンダーには言い伝えがありますよね。意に反する者には死を……大丈夫なんでしょうか」
ビート「んなもん迷信に決まってらあ。早くパーツ取れよ」
ガンマ「は、はい……」
ガンマが残骸に手を触れた瞬間、雷が彼の体を撃ち抜いた。そしてゆっくりと崩れ落ちた。
ビート「ガンマ! ま、まさか本当に」
老プレミアディフェンダー「素人どもが……死にたくなかったら去れ!」
怖じけづいた暴走族たちは散り散りに逃げていった。
■三日後砂漠
リュード「やれやれ、また死んでらあ」
まるで平気な顔をして少年・リュードがプレミアディフェンダーの残骸の前にいた。
リュード「しかたない。埋葬してやるか」
ガンマの死体を砂の中に埋めてやるリュード。
リュード「墓はないけどしょうがないよな、まったくこれで何人目だよ。馬鹿ばかりだな」
老プレミアディフェンダー「少年よ」
プレミアディフェンダーの声が語りかけてきた。
老プレミアディフェンダー「貴公は私の価値に興味はないのか? 莫大な財産になるやもしれぬぞ」
リュード「だってプレミアディフェンダーは自分が気に入った者しか契約しないんだろ。俺は器じゃない。殺されちまうよ」
老プレミアディフェンダー「儂が貴公を気に入ったとしてもか?」
リュード「えー、ないない。俺は市井の一般人だぜ。もっとふさわしい乗り手いるだろ」
老プレミアディフェンダー「……その謙虚さが儂は気に入ったのだがな」
リュード「そう言ってくれるのは嬉しいけどな。あんたを修理する金もないししょうがないよ」
老プレミアディフェンダー「そうか……」
リュード「おっと学校行かなきゃ先生に叱られちまうよ」
リュードは砂漠から立ち去った。
老プレミアディフェンダー「そろそろ儂も復活せねばならんからな。あの子を選ぶしかあるまい」
老プレミアディフェンダーがそう呟く。
■二日後砂漠プレミアディフェンダー前
バイクでビート一味がやってきた。沢山メンバーを引き連れている。
ビート「プレミアディフェンダーさまよぉ、パーツを取るのはダメでも壊す限りには問題ないらしいじゃねえか。ガンマの仇とってやるから覚悟しろ!」
ビートたちが鉄パイプでプレミアディフェンダーをバキバキに壊していく。
老プレミアディフェンダー「儂を殺すか。それもよかろう」
リュード「おい!」
大きな声にビート一味が振り向く。
リュード「その人を殺すのをやめろ!」
リュードだった。
ビート「ガキか。人じゃない機械だろうが。こっちは頭にきてんだ。お前も殺すぞ」
リュード「自業自得なのに、最低だなお前ら」
ビート「んだとこら、お前らこのガキも殺せ」
リュード「殺されるもんか!」
リュードが砂をすくって暴走族の目にかけて目潰しする。
リュード「ほらほら、もっと苦しめよ」
完全にリュードのペースだ。しかし、
ビート「仕方ない。このバイクで轢き殺してやるぞ」
リュード「く、くそっ。やられる」
リュードはバイクに乗ったビートから逃げるのが精一杯になった。
逃げても逃げても追いかけてくる。
リュード「(どうする? どうすればいい?)」
老プレミアディフェンダー「(少年よ)」
老プレミアディフェンダーが頭の中に語りかけてきた。
老プレミアディフェンダー「少年よ、儂と契約しろ。そうすればこの者たちなど儂が蹴散らす」
リュード「俺なんかでいいのか?」
老プレミアディフェンダー「ああ、貴公は乗り手にふさわしい」
リュード「わかった。契約する。どうすればいい?」
老プレミアディフェンダー「儂の真の名を呼べ……ディライガーと」
リュード「わかったよ。……ディライガーッ」
ビート「なんだあ何のおまじないだあ? おかしくなったのか?」
ディライガー「それが儂の真の名よ。悪漢どもよ儂が相手をしよう」
残骸だったはずのプレミアディフェンダーが人の形を取り戻していく。
そして、
ディライガー「ディライガー参上!」
ヒーローのような見た目へと巨大化変身し、暴走族たちを見下ろした。
ディライガー「さあ、捻り潰すか」
ディライガーが敵である暴走族をつまんでは投げ、ボコボコにしていく。
ビート「そ、そんな馬鹿な」
ビートも完全に戦意を失っていた。
ディライガー「今回は殺しはしまい。お前らの仲間を殺したのは事実だからな。もうやるでないぞ」
ビート「ひ、ひぃっわかりましたぁ」
暴走族たちはまた逃げていった。
リュード「ディライガーだっけ? ありがとう」
ディライガー「礼を言うのは儂のほうだ。庇ってくれてありがたかったよ」
リュード「どうしてもっと早く復活しなかったんだ? できたんじゃないの?」
当然の疑問だった。あんなにあっさり変身できるなら自分は必要なかったんじゃないか?
ディライガー「貴公だよ。貴公が契約を結んでくれたから復活できたんだ。プレミアディフェンダーは契約者がいないと真の力を発揮できないんだよ」
リュード「そうなのか」
ディライガー「それより相談がある。儂と一緒に旅に出ないか?」
リュード「え?」
ディライガー「今、この世界に危機が迫ろうとしている。それを食い止めに行くのだ」
リュード「そんないきなり言われても」
ディライガー「軍資金なら問題ないぞ。この剣を売ればいい」
背中から剣を取り出すディライガー。
ディライガー「一億プレミアにはなろう」
リュード「はい?」
ディライガー「……どうしたその顔は」
リュード「あんまり高くてピンと来ないからさ。一億プレミアって……一生遊んで暮らせないか?」
ディライガー「甘い。甘いぞ少年。贅沢三昧を尽くせば一億プレミア等すぐになくなるのだぞ」
リュード「そうなのか……闇が深いなあ」
ディライガー「とにかく、儂と一緒に旅に出よう。そちらの準備ができるまで待つから」
リュード「……わかったよ。リエコおばさんに相談してみるから」
リエコおばさんとは育ての親だ。リュードの両親は早々と早世している。
■リュードの自宅・台所
ふくよかな女性が調理をしている。そこにリュードが帰ってきた。
リュード「あの、リエコおばさん」
リエコ「あらお帰りなさいリュード。今日もプレミアディフェンダーのところに行ってきたのかい?」
リュード「ああ。そうなんだけど俺たち旅に出る事にしたんだ」
リエコ「……何があったんだい」
リュードは事情を話した。
リエコ「そうかい……世界が危機なのかい。わかった。そういう事なら行っておいで」
リュード「いいの?」
リエコ「淋しくはなるけどきっと帰っておいでよ。待ってるからね」
お許しが出た。
さあ、旅支度をしなくては。
■砂漠・ディライガーの待つ場所
リュード「待ったかいディライガー」
ディライガー「待つのは慣れているよ。心配いらない」
リュード「で、俺たちはどこに行けばいいのさ」
ディライガー「この国の王様に会いに行こう」
リュード「ええっ!?」
ディライガー「心配いらない。私なら顔パスだ」
リュード「そ、そうなのか」
ディライガー「さあ、行こう」
リュード「ちょっと待って。大きいままじゃ目立ってしょうがないよ。何とかならないの?」
ディライガー「それもそうだな。では人間サイズになるか」
リュード「そんな事もできるの?」
ディライガー「ああ、プレミアディフェンダーが価値がある証拠だよ」
ディライガーの体が人間サイズに縮んでいく。そして人間の姿へと変わる。いけてるダンディーなオヤジになった。
ディライガー「さあ、今度こそ行こう」
■砂漠の国ユーシアンの居城・王の間
王様「よく来てくれたな、ディライガー。何年ぶりだ?」
ディライガー「もう数えるのはやめたからわからんな」
王様「今の相棒はその子という訳か」
リュード「あ、あのすみません。自分なんかが城にあがっちゃって」
王様「謙虚な子だな、お前が気に入る訳だ」
ディライガー「ああ、そうだ」
王様「ところでお前の、ディライガーの時価だが十二億プレミアがついてるぞ」
リュード「じゅ、十二億?」
王様「ああ、子どもには刺激の強い話だったかな」
ディライガー「儂が復活した事は魔王たちはとっくに知っているのかな?」
王様「たぶんな」
ディライガー「では仲間集めをせねばな。魔王たちに対抗するには儂だけでは力不足だからな」
王様「それなんだが、ちょっと困っていてな」
ディライガー「何がだ」
王様「それは……」
少年の声「父上、ディライガーが来城したとは本当ですか!?」
王の間にずかずかと入り込んできたのは金髪の美形な少年だった。
王様「静かにしないか、我が息子ザイル」
ザイル「静かにしてられますかこれが! ディライガーと言えば伝説のプレミアディフェンダー、この国の宝ではないですか!」
ディライガー「元気な息子さんだな」
ザイル「あなたがディライガーですか? どうか、私のバディになってください」
ディライガー「あいにくだが私にはもう相棒がいる。この子リュードだ」
リュード「ど、どうも……」
ザイル「こ、こんな弱そうな少年が相棒ですって! ありえない。断じてありえない!」
王様「これ、リュード君に失礼ではないかザイル。謝りなさい」
ザイル「いいえ父上、ディライガーにふさわしいのは私という自負があります。ここは決闘というのはどうでしょう。ディライガーの乗り手を決める決闘です」
ディライガー「無欲な心優しいリュードを否定する息子さん……私にふさわしい訳がない」
王様「す、すまん。ディライガー謝らせるから呪いだけは勘弁してやってくれ! お願いだから」
ディライガー「もう遅しですな」
ザイル「こ、これは、首から下が動かない」
リュード「首から下が石になってる……こんな事もできるのかい? ディライガー」
ディライガー「リュード、君を馬鹿にした報いだよ。王様、この呪いは一日で解けるので心配はいりませんからな」
王様「それなら安心じゃな」
ディライガー「おっと本題に入らなくては……さっき私の時価が十二億プレミアと言いましたか」
王様「ああ、それが?」
ディライガー「私の時価を超えるプレミアディフェンダーが魔王の味方につく事はありえますかな」
王様「ないとは……言いきれんなあ」
ディライガー「ならばそのプレミアディフェンダーを全て私達の味方にする事が最初の目標でしょうな」
王様「そうなるのかのう」
ディライガー「だからこの国には私たち二人への全面協力をお願いしたい」
王様「そういう事ならわかった。協力しよう」
ディライガー「ならそういう事で。行くぞリュード」
リュード「う、うん。いいのあれ?」
リュードがザイルのほうに顔を向ける。
ディライガー「自分勝手な王子様にはいい薬だよ」
■城下町茶屋
ディライガー「君たち人間は私たちプレミアディフェンダーと違って食事を取る必要がある事をすっかり忘れてたよ。お団子お腹いっぱい食べていいぞ」
リュード「……」
ディライガー「どうしたリュード」
リュード「この国の人たちだって裕福じゃないだろ。自分だけがお腹いっぱいになっていいのかなって」
ディライガー「やはりリュードは優しいな。あのザイル王子に爪の垢でも煎じて呑ませたいくらいだ」
リュード「あの、プレミアディフェンダーはお腹すかないのかい?」
ディライガー「リュードは知らないか。プレミアディフェンダーは無限炉を持っていていつまでも稼働できるんだ。だからこそプレミアがついてるのさ。原子炉と違い放射能も出ないしな」
リュード「そうなのか」
ディライガー「そうなんだよ」
リュード「……」
ディライガー「お団子がダメならお汁粉にするか?」
リュード「お団子がいいよ」
ディライガー「そう! 戦う前は腹ごしらえしないとな」
■ホテルの一室・ツインベッドの部屋
ディライガー「ところでリュード、君に確認しておきたい事があるんだ」
リュード「なんだい? ディライガー」
ディライガー「私の時価を知って売りたいと思わないのかな。十二億だぞ」
リュード「だって、ディライガーは自分の命の恩人だよ。売ってお金にしたいなんて思えないよ。自分が乗り手にふさわしいか、そっちのほうが心配だからなあ」
ディライガー「君のような無欲な少年に会った事は二百年生きていて初めてなんだがな。何か裏があるんじゃないかと逆に心配でな」
リュード「そっか。苦労してきたんだねディライガーは」
ディライガー「お金が欲しくないのかい?」
リュード「欲しいよそりゃ。でも俺は十二億の器の男じゃないよ。自分にはディライガーの剣の一億プレミアだって手に余るからな」
ディライガー「なら君の魂に直接訪ねていいかな」
リュード「そんな事もできるの!?」
ディライガー「ああ、さあ私の目を見てくれ。魂に直接聞くから」
リュード「わかったよ。ディライガー」
■リュードの心の中
ディライガー「どうだ? お金が欲しくてしょうがないだろう? 私を売れば一生遊んで暮らせるぞ」
リュードの魂「お金より大事な事があるってリエコおばさんが言ってたよ」
ディライガー「そうか。それはなんだい?」
リュードの魂「仲間……友達……綺麗事かもしれないけど家族もそうだな」
ディライガー「本当にお金はいらないのかい?」
リュードの魂「お金が欲しいのも嘘じゃないけど……本当に欲しいのはお金だけじゃないよ。仲間との絆は値段がつけられないからな。ディライガーとできた絆はお金より宝だと思うんだ」
ディライガー「合格だよ、リュード。君の言葉に嘘は一切ない。君に会えて幸せだ」
■再びホテルの部屋
リュード「あ、あれ? 俺どうしたっけ?」
ディライガー「覚えていないか、リュード。君の魂の真実を見極めたのさ」
リュード「あ、そうか。ごめん覚えていないよ」
ディライガー「合格だよリュード。これからもよろしく頼む」
リュード「あ、そうなんだ。こちらこそよろしく」
ディライガー「さて、私達が次の目的地に向かう準備をしなくてはな。そのためには休息が必要なのだろう、人間は。もう寝てしまいなさい」
リュード「わかったよ。おやすみなさいディライガー」
第1章了