二人の母
王族が出て来るファンタジーとか、時代劇の場合、正室と側室がいて「腹違いの兄弟」ってのは結構ありますけれども、現実は少ないですね。「腹違い」は、私の周囲ではゼロです。なぜなら離婚して子供を引き取るのは母親が多いから。そして、私の周囲には3組います「種違いの兄弟」を育てている家庭が。浮気騒動でマスコミを賑わせている某アイドルさんトコも「種違いの兄弟」みたいですね。
えーと、それじゃ、最終回。はっじまっるよ~♪
あの訪問を終えて、サウエルバッハ伯爵家と頻繁に連絡をとっていた。
やり方は簡単だ。
「ママの後ろのレラって人が、連絡したがっている」
と、でも言えば、普通に手紙のやりとりができる。必死で除霊しても、効き目なんてないんだよ。
とりとめのないやり取りの中に記載されている分数のようなものは、サウエルバッハ伯爵家の計画の進捗状況である。そして今日、いつでも決行ができる準備が整ったという100/100の分数が記載されていた。
さて、あとは、私の合図だけか……日程とか、どうしようかな。
計画実行のGoサインは私に任されていた。
まったく、10歳児の戯言かもしれないのに、よくぞ信じてくれたものだ。
そんなことを考えながら、王城内を歩いていると……
弟が泣いている。
「どうしたの、アルフ」
「あのね、パパより、ねぇさま方が強いって言ったら、怒られたの」
「……そんな、つまらないことで」
父が隣室からやってきた。
「ふん、俺を10歳の娘より弱いと言った、アホ息子め」
「……わかりました。お父様。勝負いたしましょう」
「はぁ?マルグリット?お前が俺に勝てるとでも思っているのか」
「やってみないとわかりません。弟は、嘘をつく子ではありませんし」
「よろしい。では、練習用の剣を持って中庭に出ろ。傲慢な娘に実力を教えてやる」
そうして、私と父は中庭に出たのである。
大人げない男だ。
騒動に巻き込まれた王城の騎士団長が、父用に練習用両手剣、私用に練習用片手短剣を手渡す。
「ひっ、姫様……なにとぞ手加減を」
練習で私の実力を知っている騎士団長が言う。
「はっ、何を言う。10歳の娘になぞ、負けるものか。よろしい、マルグリット。全力で殺す気でかかってきなさい」
「わかりましたわ♪お父様♪恨みっこなしですよ」
そして騎士団長はしぶしぶ
「はじめ」
の号令をかけた。
父は両手剣を上段に構える。私は片手短剣を胸の位置に構えた。全身を防御魔法で覆いながら。
「ゆくぞ、次期国王である父を小馬鹿にしたことを、痛みをもって思い知るがよい」
「はいはい、どうぞ」
振り下ろされる、両手剣はとても片手短剣で受け止められるものではない。
だから私は、短剣を手放して踏み込んだ。両手剣が短剣を打ち飛ばす。ちょうど、バットとボールのように。
「なっなにを。をいっソコは」
短剣の代わりに私が掴んだのは、父親の股間。
「いくわよ。グラップラー・ファイヤぁあああああああ」
手の中で、掴んだモノが、ジュウジュウと焼ける。
「ぎぃやぁあああああああ」
断末魔のような悲鳴が聞こえる。
「まだ、まだぁあああああ」
私は手の内の炎を止めない。火力全開だ。
「………」
声も出せず、泡を吹いて、父は倒れた。
「ひ、姫様……そこまでっ。救護班」
大急ぎで治癒術師が集められた。
父の股間は重症のようだ。
「ねぇ・・・さま。すご。こわ」
近くで観戦していたアルフが股間を押さえていた。
「ふんっ、アルフを嘘つき呼ばわりしたお父様の股間を、こんがりシャウエッセン&白子焼きにしてやったわ」
治癒術師達が駆けつけてきて「子種がぁ~」「世継ぎがぁ~」と叫びながら、必死にお父様を治療していた。
そうして、私はサウエルバッハ伯爵家にGoサインを出した。
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重症で面会謝絶となった第一王子アレクサンダーを差し置いて、王の謁見の下、ビスコンティエ侯爵に対して、サウエルバッハ伯爵の談判が行われた。私はこっそり侍女の控室から覗いている。
「王よ、このとおり娘の宝石箱から、王家との婚約の証が出て参りました。また、こちらもアレクサンダー王子から娘への手紙になります」
「ええい、そのようなものを、今更でっち上げおって」
伯爵の追求に、キレる侯爵。
「ならば、そちらには婚約の証は、ございますかな」
「……ありませんわ。レラが他界してバタバタしておりましたもの。不問でしょう」
伯爵の問いにロベリアが答える。
国王は、頭を抱えていた。そして、提出された宝石と手紙を確認する。
「……確かに息子の字であり、この宝石も正室となる婚約者に代々渡すものだ。12年前の裁定は、間違いであったといえよう」
「が、しかし。レラは戻って参りません」
「事故死だって、言ってるでしょう」
「そもそもの動機が無いではないか。王子に捨てられた貴様達が恨んで行った犯行に違いないではないか」
そして、ようやく王様が口を開く。
「……よろしい、サウエルバッハ伯爵家を侯爵家に格上げし、ビスコンティエ侯爵家を伯爵家に格下げしよう。死んだ娘への供養とするが良い。我が息子が迷惑をかけたの」
「なっ、それは、あんまりです」
伯爵となった、ビスコンティエ侯爵が怒りを表す。
「ビスコンティエ家は、何も失っておらぬではないか。娘は息子の嫁であるし、これから繁栄すればよい」
「……ははっ」
しぶしぶと頭を下げるビスコンティエ元侯爵
「それとじゃな、サウエルバッハの娘を側室に迎える話も白紙にさせていただこう。今後は侯爵家として婿を取るのがよかろう」
そう、話した王の表情は暗かった。
そして、今回の談判は終了した。
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談判の数日後、私はサラと2人でお茶を飲むことになった。
「姉様、この度はありがとうございました。サウエルバッハ家が格上げされたし、私も自由に婿取りができます」
「いえいえ、お義母様。当然のことをしたまでですよ」
「もう、姉様の義母にはなれませんねぇ。ふふふ」
「ん~ちょっと残念かな」
「そうですか。母親が二人欲しかったと?」
「いやぁ、母親は二人になったんだけどね」
「え?どゆこと?」
私は説明した。王城の治癒術師を総動員しても、こんがりシャウエッセン&白子焼きにした父の股間を修復することはできなかったのだ。
その代わりに性転換魔法を使用して、どうにかこうにか命に別状のない治療を行うことができた。
「つまり?お父様がお母様になったってこと?」
「そうなのよ、父1母1が、父0母2になったのよ」
「酷い男だったものね……ざまぁ」
「そうね……二枚舌男……ざまぁ」
そうして、私とサラは、お茶を飲み干した。
(おわり)
「お兄ちゃん(父のムスコ)は、おしまい!」ってタイトルにするかどうか悩みました。「六部殺し」ならぬ「局部殺し」な話でした。
それにしてもまぁ、局部殺しなんて異名を王国内も隣国にも轟かせたマルグリット王女は、お嫁に行けるのですかね?
握り魔法の腕前をさらに上げて、こっそり冒険者とかしそうですね。腹の肉のタプンツェル姫と対決させたりしたいかも。でも、それはまた別の機会で。
1話~4話まで、読んでくださって、ありがとうございました。
「シンデレラ」→「死んでレラ」のネタを書きだしたら、引きずって4話構成になったのはナイショです。