転生、犯人(ほし)の子
ざまぁ小説を考えていると、童話の「シンデレラ」が頭によぎって仕方なかったのです。本編とは全然関係ないのですけれども。
おっと、いきなり脱線しましたね。それでは本編をよろしくどうぞ。
※柴野いずみ様主催の「ざまぁ企画」参加作品です。
「死んでレラ」
「痛っ」
そう言って彼女は、ガラスの靴を鈍器にして、私を殴打する。
魔法使いのおばあさんからのプレゼントだったガラスの靴と私の頭蓋骨が割れる。
「このっ……、よくも、私のアレックを」
割れたガラスの靴が刃物となって、私の動脈を切り裂いた。もう、声も出ない。
「ざまぁ……泥棒ネコ、死ねっ」
かつての親友の歪んだ笑顔が、私の見た最後のビジョンとなった。そうして侯爵家自慢の石畳階段を私の体は血を噴き出しながら転がり落ちた。
そう、私、サウエルバッハ伯爵令嬢のレラは、この時絶命した。ビスコンティエ侯爵令嬢のロベリアの手によって。原因は難しくない。フレスベルグ王家のアレクサンダー王子がロベリアとの婚約を破棄して私との婚約を発表予定としたからだ。
昨日、王子は私に話した。
「ロベリアとは既に話がついている」と。
アレクサンダー王子を巡って、すれ違いが多かった親友と話し合いに来たのに、聞く耳ももたずに私は殺されてしまった。
そうして、黒いモヤの中に私の意識は吸い取られた。
これが、死というものか。
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ところが、私は再び呼吸を始める。目は良く見えない。
「オギャー、オギャー」
私は呼吸をしているのだろうか、発声しているのだろうか。
「一人目は、王女か」
「ええ、アレック」
聞き覚えのある声がしたけれども、私は再び眠りに落ちた。
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声を出したり、体を動かしたり、見たり、聞いたり。
私は普通の赤ん坊を演じて3年の歳月が過ぎた。
驚いたことに、私はレラだった頃の記憶を残したまま、第一王子アレクサンダーと王子妃ロベリアの娘として生まれたのだった。
「犯人の子……ですか、そーですか」
そんなことを考えながらも、王女として、蝶よ花よと育てられている。
両親が王族の公務で忙しいのも幸いした。なんてったって、私の前世は、今の父アレクサンダーにたぶらかされ、今の母ロベリアにブチ殺されたレラ・サウエルバッハである。
ちょっと両親への感情が複雑すぎて、懐くこともできない。
「マルグリット様、朝食の時間です。お支度を」
「はぁ~い」
「王女なのですから『しばし待て』で良いのですよ」
今の私は、フレスベルグ王家のマルグリット王女である。王様の孫でも、直系の場合、王子とか王女になるんだって。
3歳児とはいえ王族を相手にするメイドの対応は凄く丁寧だ。前世の伯爵令嬢の時は『お姉さん』みたいでフランクだったメイドさんを思い出す。
メイドに着替えさせてもらい、朝食のテーブルへ導かれると、久々に父と母と一緒に朝食をとった。
「よろこべ、マルグリット。もうすぐ君はお姉ちゃんだぞ」
「弟か妹が生まれるの?」
「そうよ、よく知っているわね。賢いわ」
母ロベリアのお腹は、少し膨らんでいた。
そっか、コッチの家族でもお姉ちゃんになるのか。
前世の私が死んでから5年くらいが経つ、歳の離れた妹は元気かな。今はもう12歳くらいだろう。
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さらに7年の歳月が過ぎた。
私も10歳となり、家庭教師をつけられたり、王族御用達の学校に通ったりしている。無事生まれた弟、アルフレッドも元気いっぱいだ。
前世の因縁もあり、父・母と距離を保ってしまう私にとって、弟は本当の家族に思えて溺愛してしまう。
屋敷で弟を可愛がっていると、両親が激しく喧嘩をしていた。
「君一人だと皇太子妃の仕事が多くて、母親として子供と触れ合えないだろう。理解してくれよ」
「貴方が側室を迎えるのは問題ないわ。ただし、サウエルバッハ伯爵家のあの娘だけはやめて」
「どうしてだ、サラ・サウエルバッハは、19歳で若いし家の格も充分だろう。正室でも問題ないくらいに」
「貴方が、私を捨てて婚約者にしようとしていた姉のレラ・サウエルバッハとソックリの容姿だからよ」
「……あの時は、申し訳なかった。レラに強く言い寄られて、気の迷いだったんだ」
「私がレラを殺して、お父様のビスコンティエ侯爵が、サウエルバッハ伯爵の追求を必死に躱したのを忘れたの?石畳階段から落ちてガラスの靴が刺さった事故で片付けたけれど」
「あれは事故じゃなくて……レラは、君が殺したのか」
「何をいまさら。知ってるでしょうに」
へぇ、妹が側室にねぇ。それより、私は強く言い寄ったりしていないんだけどコイツ、嘘ばっかり言いやがって。二枚舌の結果として私は殺されたのか。でも、私の話を聞かずに、ブチ殺してくれたロベリアを許すこともできない。
かと言って、今、二人を毒殺でもしようものなら、私とカワイイ弟は両親を失うのか。
複雑な感情と共に、10歳児にあるまじきドス黒いことばかりを考えていた。
そして、父と母の会話が続く。
「……ますます、レラの代わりにサラ・サウエルバッハを幸せにしたいと思ってしまうのだが」
「そうですか、結局貴方は、レラに未練タラタラなのよ」
私は弟を連れて両親のところに歩み寄る。
「ねぇ、二人目のお母さんって、どんな人?忙しくない?アルフレッドと遊んでくれる?」
「……二人目のお母さんは、来ないわ。私一人で充分でしょ」
「また、ガラスの靴で殴って、破片で斬って、階段から突き落とすの?」
「どっ、どうしてそれを」
「いつも、ママの後ろにいる女の人が、教えてくれたのよ」
誰もいないけどね。
「レラッ、そこにいるの」
取り乱す母。代わりに父が聞いてくる。
「……なんだマルグリット?それは霊魂か何か?」
「わかんない、時々出て来るの。今は消えちゃった」
そもそも、何も見えていないけれども。
「そうだな、サラ・サウエルバッハの話をしている時、どんな顔をしていた」
「んとね?パパの話の時は、すごく笑ってて。ママの話の時は、すごく怒ってたわ」
母が涙を流す。
「レラ…私を恨んでいるのね。当然よね」
そりゃそーだ、ぶっ殺してくれましからね。私の事。
まぁ、父の二枚舌も許せないけどね~。
「よし、レラの遺志もある。サラ・サウエルバッハを側室にするぞ。良いか」
「……わかったわ」
おお、これで久々に前世での妹と会う事ができる。
最初は「ホラー」ジャンルで考えていたんですよ。見えない霊の話をでっちあげでやってるわけだから。
でも、これは流石にホラーじゃないし……カテゴリー詐欺になりそうだし……
仕方ない、群雄割拠の激戦区「異世界恋愛」ジャンルに行くしかないか。
こわいよー激戦区こわいよー魑魅魍魎だよー。これぞホラー?