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 とある観光地の、喫茶店での出来事です。


 観光という程ではありませんが、温泉に入ったり美術館を見学したりと、まあそれなりに満喫した時に起きた出来事です。


 車を運転しながら山道を抜けようとしたら、急な大雨に遭遇し、ちょっと怖くなったので退避場所を探しました。


 今と違って、山中だからコンビニはもちろん、ドライブインだってそうそうはありません。


 雨が小降りになるまで、どこでもいいから退避出来ないものだろうかと、正直気持ちも焦ってきました。


 そんな中、通り道にちょっと大きい喫茶店を見つけたので、そこで休憩することにしました。

 良かったと、安堵しました。


「いらっしゃいませ!お一人ですか?」

「ええ、そうです」

「では、お好きな席へどうぞ」

 私はもちろん、眺めのいい窓際の席に陣取り、雨に煙る山々を見ながらコーヒーでも楽しもうと思いました。

 そう、楽しもうとしました。

 いや、本当に楽しみたかった。


 メニューを見たら、意外に美味しそうなメニューが用意してあるので、ついでにそれも頂こうと思いました。

 ケーキにしようかホットケーキにしようか思案していたけど、一向に店員が来る気配がない。

 当然、しばらくしたらお水を持ってくるだろうと踏んでいましたが、いつまで経っても来ない。

 ちなみに、客は私ひとりで、新たな客が来る気配もない。

 なんとなく、嫌な予感がした。


 いえ、怪談話ではありませんよ。


 とは言え、景色がいいので、しばらくぼ~としていました。

 土砂降りも屋内から見ると、結構いい感じに見えるからです。

 都会と田舎の、違いかもしれませんね。

 そんな感じでのんびりしていたので、まあ、そのうち来るだろうと思っていました。


 だけど、本当に来ない。

 時間は計っていなかったけど、15分は経過したと思う。

 

 さすがの私もたまりかねて、店員を呼ぶことにした。

「すみません!注文お願いします!」

「は~い、少々お待ちください!」

 良かった。人が居た。

 昔、こういったお店に入ったら、無人だったことがあったので、店員が客を置いてどこかに行ったのかもしれないと、そう思っていました。

 外の雨に気を取られ、つい外に様子を見に行ったなんて、ありえるからです。


 だが、返事はすれども一向に来ない。

 何だか、本当に怪談じみてきたような。


 気を取り直して、もう一度メニューを見直すことにしました。


 う~ん、この際だから、食事も済ませてしまおうか。


 帰りは高速のパーキングエリアで食事を済まそうと思っていたので、これ幸いと思いました。

 当時は今と違って、高速のパーキングエリアの食堂は、本当に食堂であり、トラックの運ちゃん御用達の感じでした。

 普段なら気にしませんが、その時は何と言っても旅行気分だったので、パーキングエリアは敬遠したいと思いました。 


 そうだ、生姜焼き定食にしよう。

 喫茶店の生姜焼き定食なんて、ディープだと思ったからです。

 

 しかし、店員は来ない。

「あの~」

 返事はない。

「すみません!」

 返事はない。

 あれ?

 念のためにカウンターまで見に行くと、本当に無人だった。

 

 周囲を見渡すも、本当に誰も居ない。

 さっきの人は、どこへ行った?


 1.買い出し

 2.ストライキ

 3.家に帰った。

 4.実は休業


 ずいぶん昔だが、とあるお店で食事中に、その店の店員(多分店主)に唐突にこう頼まれたことがあります。

「お客さん、ちょっとそこまで買い出しに行くんで、留守番頼めないかな?」

「ええ、いいですよ」

 というか、断れないでしょう。

 正直、そのちょっとそこまでがどのぐらいか分からないけど、小一時間留守番をしたことがあります。

 お客さんが来たら、どうしようかと不安でしたけど、幸い誰も来ませんでした。

 この店、大丈夫かと、むしろ心配になったぐらいにです。  


 小一時間程経ったら、その店員が戻ってきました。

「あれ?お客さんまだ居たんだ」

 おい!

「いいのに、帰っても」

 だったら、最初から言えよ。

 というか、カネ払ってないし。

 それで帰ろうとしたら、ああ、これやるよとメロンを貰いました。

「いいんですか?」

「どうせ、余りもんだし」

 メロンが余り物になる街って、どうよと思いながら、うきうき気分で戻りました。


 いやあ、留守番もいいなと。


 その日は知人の別荘を借りていたので、一晩冷蔵庫で冷やして、翌日に頂きました。

 いやあ、美味しかった。

 皮まで美味しくて、これこそがメロンなんだと思いました。



 ああ、いかん。

 閑話休題。 


 それで喫茶店の話に戻しますが、やはりどこにも居ない。

 雨も小降りになったし、諦めて帰ることにしました。

 生姜焼き定食のことを考えたら、お腹が空いてきたからです。


 でも、あの店員はどこに行ったんだろうか?


 一応、外に出て入口を見ると、営業中の看板が出ていましたが、24時間出しっぱなしも珍しくないので、あまり信用は出来ません。


 しかし、店は煌々と灯りが灯してあったので、どう見ても絶賛営業中にしか見えませんでした。


 私は小雨の中、小走りに車まで戻り、店の駐車場を出ようとしつつ店内を見たら、店員がとある扉から出てきました。


 多分ですけど、トイレにこもっていたのかもしれません。


 今更引き返せないので、店を後にしました。

 

 後にバイパス道路が開通した時に近くを通りましたが、そのお店はもう無くなっていたそうです。


 バイパス道路開通のお陰で、すっかり景色が変わりました。


 前来た時に在ったお店はどうなったんだろうと、消息が気になりましたけど、あっさりとしたものでした。


 新しい道路が出来たら、お客がまったく来なくなったから、すぐに閉店したとのことでした。


 地元の観光協会で、聞いた話です。


 生姜焼き定食が食べたかったなあと、その時は思いました。



 ちなみに帰りは、高速のパーキングエリアで食事をしましたが、かつ丼を頂きました。


 だって、生姜焼き定食が無かったんですから。


 とまあ、歓迎されたのかされていなかったのか、よく分からない話しでした。


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