表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

 知人に、やたらと人にメシを食べさせたがる人がいた。

 最初は親切心からだと思ったけど、最近年齢を重ねると、なんとなく気持ちが分かるような気がしてきた。

 若い者がガツガツ食べている姿は、見ていて気持ちがいいからだ。


 今の私も段々と食欲が落ち、今までなら軽く食べる事が出来たモノも、正直きつくなってきた。

 そんな身体になる前の、ほんのひと時の出来事です。


「メシにしょうか」

「そっすね!」

「ああ、あそこにするか」

 手打ちそばの店で、店構えも立派だった。

 高そうだなあと思ったけど、知人曰く、何でも遠慮なく食べろと言うので、遠慮しないつもりだった。


「いらっしゃいませ!」

「ふたりです」

「はい、おふたりさま!」

 テーブル席とお座敷があったけど、二人とも背が高いので、テーブル席にしてもらった。

 そのせいか、お座敷が好きな人の気持ちが、実は今も分からない。


「私は、鴨汁せいろでお願いします」

「何だ、何だ。もっと、高いのにしろよ」

「ありがとうございます!でも、これが食べたいので。もちろん、お代わりしますから!」

 ふたりは同じものを、頼むことにした。

 しばらくすると、店員さんが料理を運んできた。

「おお!美味しそうだ!」

 知人はおそばを手繰り、ずるずると頂いていた。

 私も同じように、おそばを手繰ろうとした。

 手繰ろうとしたけど、手繰れなかった。

「うん?」

 はて?どういうことだ?

 私はせいろに載ったおそばを端に寄せ、一本ずつ並べてみた。

 ああ、やっぱり。

 おそばが短いのだ。

 手打ちだからというのとは、次元が違う短さだった。

 それも、ほとんどのおそばが。

 その様子を見ていた知人は、さすがに大人だから黙っていた、訳はない。

 替えてもらったらと助言を頂いたので、店員を呼んだ。

「店員さん!」

「は~い!」

 運んでくれた女性店員ではなく、いなせな職人風の男性店員だった。

「はい、お代わりですか?」

「いえ、これ取り替えてもらえませんか?」

「え?」

 男性店員はおそばを見ると、むしろ嗜めてきた。

「お客さん、手打ちそばなんだから、こんなもんですよ?」

「でも、こんなに短いのばかりだと、おそばとは言わないですよね?箸で掴めないし」

「お客さんが、さっさと食べないからじゃないんですか?そばって、伸びるんですよ?」

 少し、せせら笑っているような感じがしたけど、もしかしたら思い過ごしかもしれない。

 そう思ったら、知人が介入してきた。

「もういい、店主を呼んでくれるかな?」

 知人が独特の凄みを見せつつ、店員に促した。

 男性店員は、無言で踵を返した。

 すると、和服を着た女将さんらしき女性が、小走りでやってきた。

「この店では、こんなそばを出すのかね?」

 私が口を開く前に、知人がどこか怒りを込めて質問した。私の方が、ちょっとびびった。

「ええっと、そんな訳は」

「さっきの店員は、そばなんてこんなものだと言っていたけど?」

「いいえ、そんなことは」

「私のそばは、この通りの長さだけど?どうして、こんなに違う?まさか、残り物をかき集めて出したのか?」

 段々、声のトーンが上がってきたので、さすがにまずいと思ったけど、女将さんらしき女性は平謝りをした。

「すぐに、代わりをお持ちします」


「どうも、すみません」

「いや」

「あ、延びるのでお先にどうぞ」

「ああ」


 しばらくしてから、新しいおそばがやってきた。

 つけ汁も新しいようで、それなりに熱かった。

 念の為におそばを手繰ると、おそばらしい長さだった。

 私はホッとして、おそばを急いで食べた。

 知人の食事は終わっていたから、ご馳走になる身としては、待たせるのは礼儀に反すると思ったからだ。そば湯も、飲んでしまっていたから。

 いつもなら、あと二枚ぐらいおそばをお代わりするのだが、さすがに一枚で終わりにした。

 知人は私と違って、小食だから。


 しかし、あの店員は何で、いちいち反論してきたんだろう?


 私ひとりなら、言い負かせるって、そう思ったのかな?


 でもなあ、事実は事実だし。


 客商売の観点からも、あれはアウトだろう。


 まあ、他でも経験があるけど。


 なんとなく、ここでも私は歓迎されてなかったのかなあと、そう思った。


 後味悪いなあと思うけど、せっかくなのでネタにさせてもらおう。


 ちなみに、そのお店はもうありません。


 閉店の理由は、私は知りません。


 一応、味はそれなりに良かったので、店員の対応だけは残念でしたけど。


 高い店って、本当に怖い。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ