4話 俺はさっきから勝手な思い込みをしている
「あー、気持ちよかった……」
そう呟きながら俺は、男と描かれたのれんを手でかき分けて男湯を出ると、サラサラの髪でショートヘアの優衣さんが先に待っていた。
「待たせてしまってすいません」
「いえいえ。私もさっき出てきたばかりなので……」
「そ……そうですか……」
「はい……」
俺は優衣さんの顔を近くで見て思った。
めっちゃかわいー……。まさか、こんな超絶美少女が、俺に惚れているなんてなぁ……。この後、優衣さんに『私……あなたに惚れてしまいました。私と……お付き合いしてくれませんか?』なーんて告白されたらどうしよ~?
「エヘッ……エヘヘヘヘヘ……」
「ん? どうかしました?」
優衣さんにそう言われた直後、俺の体がビクッとした。
「い……いえ! なんでもないです!」
「そう……ですか……」
「ゆ……優衣さん、腹減ってますか?」
「えっ……あっ、はい」
「んじゃあそこで飯食いませんか?」
「食事処……七福……いいですね! ここで食べましょう!」
俺たちは七福と描かれたのれんをかき分けて、店内に入った。
「いらっしゃいませ! 2名様でよろしいですか?」
「はい」
「こちらの席にどうぞ!」
座布団が敷いてある木製の椅子に、俺たちは座った。
「何食べようかな~?」
テーブルに置いてあるメニュー表を取ろうとしたが、一つしかないため、俺は優衣さんに「先に選んでぞうぞ」と言うと、優衣さんは「ありがとうございます」と言って、メニュー表を手に取ってめくり、「どれにしようかな~?」と呟いて選んでいる。
俺は優衣さんが選んでいる姿に見とれてしまった。
すると、店員がお冷やを持ってきた。
「お冷やになりま~す!」
「あっ、どうも……」
「珍しいですね! 高校生カップルが、この銭湯に来るなんて……!」
カ……カップル!? た、確かに優衣さんは俺に惚れているけど……この後、優衣さんに告白されたら俺……なんて返事するか決めてなかったー!! ど、どうする!? 優衣さんと付き合うか? 付き合わないか?
優衣さんに告白された時の返事は、即断即決だった。
最愛の優奈に浮気されて、俺は……自分は恋愛に向いてないんだと思った。女と付き合うのはやめようと思った。恋愛が嫌いだと心の底から思った。
だから、もちろん。俺は……優衣さんと……付き合うに決まってんだろ~!!
こーんなにも可愛い超絶美少女に告白されて――『優衣さん……ごめん。俺は決めたんだ。自分は恋愛に向いてないから、女と付き合うのはやめようって……』なーんて言う俺は、バカでアホとしか言いようがないだろ!?
胸は、あの優奈よりは小さいけど……顔は超絶美少女だし、何もないところでつまづいてしまうどんくさい人だけど、優しそうだし……優衣さんと話してて思ったけど、この人は裏の顔がないと思うんだよな~。なんていうか、表の顔と裏の顔を使い分けれない人だと思う。優衣さんと初めて出会ったときから思ってたけど、優衣さんって……天然でまぬけなんだよ! 考えて行動してんのかな? 優衣さん……。
「お二人はなぜ、この銭湯に……?」
「俺が誘ったんです」
「な……」
何かを言おうとした店員は、何かを察したかのような顔で「なるほど~」と呟くと、俺の耳元でこう囁いた。
「夜の営み、ですよね?」
「!? ち……違いますよ!」
「え~、本当ですか~?」
「本当ですよ! てか、俺たち今はまだ付き合っていませんし!」
「……へぇ~、そうなんですか~。お二人さん、今はまだ付き合ってないんですね~!」
店員は『今はまだ』をわざとらしく強調して言うと、満足げな顔で「お二人さん、ごちそうさまで~す! ご注文がお決まりになりましたら、お呼びくださ~い!」と言って、ウキウキしながら厨房に入って行った。
俺は優衣さんに話しかける。
「変わった店員ですね」
「…………そ……そう、ですね……」
「ん? どうかしました?」
「い……いえ、なんでも……」
「ん……?」
なぜか優衣さんはメニュー表で顔を隠していた。
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