2話 俺は曲者たちと出会う
「まだかな……?」
ボソッと呟くと、俺は店内を見渡した。
俺が入店したときは、そこまで混んでいなかったが、その後に続々と客が入ってきたのだろう。今の店内はほぼ満席で、ホールの店員があちこち歩いて注文をとっている。
そんな店員を見て、俺は呟いた。
「大変だなぁ……」
スマホで時刻を確認すると、ちょうど20時だ。
「水、汲んでこよ……」
そう呟くと、俺は空のグラスを手に持ち、席を立とうとした。
すると――。
「お待たせいたしましたー! デミグラス煮込みハンバーグとライスのちゅ――うわあ!!」
顔は見ていないが、女子高生かと思われる店員が、何もないところでつまづいて、持っていた料理が、俺の方に飛んできた。
俺は思わず声を出す。
「えっ……」
飛んできた熱々のデミグラス煮込みハンバーグとライスは、見事に俺の顔に付いた。
「熱ー……!!」
俺は目をつぶった状態で、顔に付いている熱々のハンバーグを必死に手で取ろうとする。
「痛てててて……。ハッ……! あっ……ヤバ……。も、もももも……申し訳ございません!」
「水! 水は……!?」
あっ……俺……水、全部飲んで無いんだった……。
「申し訳ございません! 申し訳ございません! 申し訳ございません! 本当に申し訳ござ――」
「わかった! わかったから! 早く水を持ってきてくれ!」
「か……かしこまりました!」
顔に付いた熱々のハンバーグを手で取り、目を開けると――顔、手、制服の上下、髪の毛にまでデミグラスソースとライスが付いていた。
そんな姿の俺を、店内にいる客全員が見ていた。
「あっ……」
俺は恥ずかしすぎて顔を真っ赤にし、女子高生店員が水を持ってくるのを待った。
しばらくすると、女子高生店員が戻ってきたのだが……俺はまず、女子高生店員が手に持っているものを見て、唖然としてしまった。
「えっ……!?」
それともう一つ、何もないところでつまづいてしまうどんくさい女子高生店員が、超がつくほどの美少女だったことに驚愕してしまった。
「はあ……!?」
「よいしょ……よいしょ……よいしょ……よい――うわあ!」
超絶美少女女子高生店員は、また何もないところでつまづき、手に持っていた、目一杯水の入った清掃用のかと思われる古びたバケツが、俺の方へ飛んできた。
「ま、またかよぉぉぉぉぉぉぉ!」
「――バシャ!」
見事に顔から水をかけられ、制服や床はびしょびしょだ。
だがしかし、そのおかげと言っては語弊があるが、いろんなところに付いていたデミグラスソースとライスは、水で流れた。
「痛たたたた……。ハッ……! また私……つまづいちゃった……」
すると、厨房から顔がいかつい男の店員が、俺らの方へやって来た。
「て……店長……」
「えっ……」
この人が……店長……。
顔がいかつい店長は、びしょびしょになった俺に、深く頭を下げて謝罪してきた。
「うちのスタッフが重大なミスをおかしてしまい、大変申し訳ございません」
顔がいかつい店長から、謝罪をされたのだが……俺は思ってしまった。
もしかしてこの店長……いや、絶対にオカマだろ! この店長!
なんてたって、謝り方の癖が強すぎる……!
それと、オカマ特有の声のトーン!
顔がいかつくて、謝り方の癖が強すぎるオカマの店長と、何もないところで二回もつまづいてしまう超絶美少女女子高生店員……曲者揃いだな。このファミレス……。
「あっ……いえ、お気になさらず……」
そう言うと、曲者の店長は、客の俺がいる目の前で、曲者の超絶美少女女子高生店員に、小さな声で告げているのを、俺は聞いていた。
「優衣ちゃん……」
「は……はい……」
「アータが頑張ってお仕事しているのは認めるし、称賛するわ」
「あ……ありがとうございます!」
「うん……。けどねぇ、これ以上アータをここで働かせられないわ」
「えっ……? どう……して……?」
「だって、アータ……どんくさいからよ」
「えっ……?」
「アータがどんくさいせいで、たくさんのお客さんに迷惑がかかっているし、お店にも迷惑がかかるの。だからね、優衣ちゃん……アータ、今すぐここを出てってちょうだい。今月働いた分のお金は、給料日にアータの口座に振り込んでおくから……。そう言うことだから、今までありがとね。優衣ちゃん……」
そう告げると、曲者の店長は、厨房へと戻って行ってしまった。
「あっ……て……」
超絶美少女女子高生店員は、下を向いて落ち込んでいる。
そんな超絶美少女女子高生店員を見て、俺は思った。
――愚者、と。
ジャンル別日間ランキング9位、日間総合ランキング144位になっていました!
ブックマークや評価ポイントをしてくださってくれた読者様、ありがとうございます!
明日からは毎日1話ずつ更新します!(休日は2話更新するかも……)