1話 俺だけが知っている
優奈に別れを告げてあの場を去った後、俺は帰宅するために、駅前のバスターミナルでバスが来るのを待っていた――が、さっきから何度も腹が減って『グゥー』と鳴っている。
あんなことがあった後でも、腹が減るもんなんだなぁ……。
俺はズボンのポケットからスマホを取り出し、時刻を確認すると、19時27分だった。
俺は頭を悩ます。
うーん。バスの発車時刻が19時45分だけど……家まで20分ぐらいかかるんだよな~。
「…………食って帰ろ」
そう呟くと、俺は駅周辺の飲食店を見に歩き出した。
★
駅周辺の飲食店を一通り見たが、これと言って食べたい物がなかった。
俺は辺りを見回すと、すぐ近くにあったファミレスが目についた。
「ここでいっか……」
俺はファミレスの扉を開き、入店した。
入店すると、可愛らしい制服を着た店員に「いらっしゃいませ! 一名様ですか?」と聞かれた。俺が「はい」と答えると、店員は「右奥のテーブル席へどうぞ!」と言ってきたので、俺は「あっ……はい……」と返事をして、右奥のテーブル席に移動した。
右奥のテーブル席に座った俺は、立て掛けてあるメニュー表を手に取って見た。
「おー……バラエティ豊富だな」
メニュー表には、ハンバーグやステーキ、パスタにドリア、丼ものやライスプレート、麺類にサラダ等々……和、中、洋、すべてが揃っている。
「ん~……どれにしようかな?」
しばらく俺は、メニュー表をペラペラとめくり、どれにするか考えた。
「これにしよ……」
俺は卓上に置いてある、呼び出しボタンを押した。
「ピンポーン」
呼び出しボタンを押してから、わずか数秒で店員がやって来た。
俺は思わず「速っ……」と呟いてしまった。
「ご注文をお伺いします」
「あっ……えっと……デミグラス煮込みハンバーグとライスの中で……」
「かしこまりました」
そう言うと店員は、ハンディターミナルを操作して、厨房の方へ行ってしまった。
俺は席を立ち、ドリンクバーコーナーで水を汲みに行った。
俺は、水の入ったグラスを手に持ち、席に戻ってきた。
グラスを卓上に置き、席に座ると、俺はスマホのアルバムを開いた。
アルバムには、優奈との思い出写真が次々と出てくる。
「遊園地……水族館……スカイツリー……動物園……。あぁ……この時は、楽しかったなぁ……」
俺はしばらく写真を眺めた。
「けど……もう不要だ。こんな写真……」
そう呟くと、俺は優奈との思い出写真を全て削除した。
俺は「はぁ……」とため息をつき、上を見上げる。
「眩しー……」
天井のライトが、輝かしいほど光っている……が、そんなことはどうでもいい。
「明日……行きたくねぇなー……」
俺は、今になって後悔している――辻島を殴ってしまったことを……。
辻島玲哉。あいつは頭が良くて、運動神経も抜群。しかも……イケメンだ。
頭が良くて、運動神経も抜群で、イケメン……あいつのことを初めて知った時、俺は思ったよ――『男として完璧な奴だな~』って。
けど実際、男として完璧なのは、その3つだけだった。
ある日、俺は帰宅する途中で偶然見かけてしまった。路地裏で辻島と不良二人が、後輩の生徒にカツアゲしていたのを……。
その光景を見て、俺は思った――『とんでもないクズ野郎じゃねぇか』と。
学校では、気持ち悪いほど笑顔で、誰にでも優しく接していたけど……それは表の顔。
実際は、後輩にカツアゲをするようなクズ野郎なんだと、俺は知った。
その日から2か月後、放課後に学校の屋上から、飛び降り自殺をして亡くなった生徒がいた。
その生徒の名は――鷹村旭。1学年の生徒だ。
そう。この生徒は……辻島たちにカツアゲをされていた人物だ。
恐らく辻島たちにしょっちゅうカツアゲをされて、しんどくなったから自殺をしたのだろう――いや、絶対にそれが原因だ。
俺はこの事を知ったとき、辻島たちに増悪を抱いた。
自殺して亡くなった生徒と、一度も話したことはなかったし、俺自身が辻島たちにカツアゲをされたわけではないが、カツアゲをして自殺に追い込んだ辻島たちのことが、許せないと俺は思った。
けど、だからと言って俺が、辻島たちを地獄に導くことはできない。
辻島たちが路地裏でカツアゲをしていた証拠があるわけでもないし、辻島たちがしょっちゅうカツアゲをしていたのが原因で、鷹村旭は自殺したと教員や警察に言ったところで、証拠がないから絶対に信じてもらえない。
でも俺は、今も辻島たちに増悪を抱いているし、許せないと思ってる。
それと、俺は決心している――俺が辻島たちを絶対に地獄に導かせてやる、と。