プロローグ
新連載になります。
バイトの帰り道、高校二年生の俺こと桑原海人は、傘を差しながら彼女の濱辺優奈が、同じクラスの辻島玲哉にキスをしているところを偶然目撃してしまった。
「な……んで……?!」
俺は差していた傘を落とし、雨に打たれながら驚きのあまり腰を抜かした。
優奈が……辻島に……キスをして……。
俺は歯を食いしばって地面を叩いた。
なんで……なんで優奈と玲哉が一緒にいるんだよ!? なんで優奈は玲哉にキスしてんだよ!? なんで……なんで……。
俺はあいつらを見ながら涙を浮かべていた。
なんで優奈は――あんなにも幸せそうなんだよ……。
優奈は俺の初めてできた彼女だった。
美少女と言っても過言ではないほど可愛くて、胸もそこそこ大きくて、とっても優しくて……優奈が彼女になってからは、毎日が幸せで満ちていた。
優奈と喧嘩をしたことは一度もなかったし、デートの時は毎回俺に『手、繋ご!』ってニコニコしながら言ってきた。
けど、今俺が見ているのは、それらすべてが夢だったのではないかと思ってしまう――いや、夢だと思いたい光景だ。
「玲哉くん……大好き……」
「僕もだよ……優奈ちゃん……」
今度は玲哉の方から優奈にキスをしている。
俺はそんなあいつらを見て、吐き気を催した。
「うっ……!」
俺は、生まれて初めて絶望を味わった。
そうか。これが絶望か……。いろんな感情が入り混じって、ぎゅっと心が締めつけられる。
「浮気、してたのか……優奈……」
俺は歯を食いしばり、拳を強く握った。
「どうして……どうして浮気なんかしてんだよ? 優奈……!」
俺は怒りの感情を抑えされず、立ち上がり、傘を差さずに雨に打たれながら、キスをしている優奈たちの方へと歩き出した。
あぁ……これが夢であってほしかったなぁ。
俺は立ち止まり、キスをしている優奈たちに声をかけた。
「おい……」
優奈は後ろを振り返って俺を一目見ると、息を呑んだ。
「か……海人……!?」
「あれ~、奇遇だね~! 桑原~……。こんな土砂降りの雨の日に傘も差さずにどうしたの~?」
「……ウキウキウキウキうるせぇんだよ。黙ってろよ……猿」
そう言うと辻島は、額に青筋を立てて睨みつけてきた。
「あぁん? 桑原~、お前今、この僕に向かってなんて言った?」
「聞こえなかったのか……? あっ、そっか。猿は耳掃除をしないから、耳くそがたまってて聞こえづら――」
すると辻島は、俺の頭部を目掛けて上段回し蹴りをしてきた。
俺は咄嗟に辻島の上段回し蹴りをガードする。
「カッチーン……」
「カッチーンはこっちのセリフだ。猿……」
「玲哉くん……!」
「優奈! お前、どうして浮気してんだよ……?」
俺の問いに、優奈は下を向いて答えようとしない。
「おい! 黙ってないで答えろよ……!」
「ブッ……ブハハハハハハハ……! 桑原~、お前……知能猿以下じゃ~ん!」
「黙れ……」
「やーいやーい! 優奈ちゃんがなんで浮気したのかも分からない、知能猿以下のお猿さ~ん! ブハハハハハハ……!」
この瞬間、俺の怒りのボルテージが最高潮に達した。
俺は左足を強く踏み込み、腰を回転させ、体を押し出すようにしながら、辻島の顔面を右拳でぶん殴った。
「グァッ……!?」
俺に殴られた辻島は、二歩三歩後ずさりをすると、鼻血が出ていることに気づき、鼻を押さえて俺の方を向いた。
「これ以上俺を怒らせたら……半殺しにするぞ……猿」
そう言うと辻島は、なにも言い返さずに黙っている。
俺は優奈の方を向いた。
優奈は辻島が鼻血を出しているのを見て、唖然としている。
「優奈……」
俺が声をかけると、優奈は体をビクッとさせて、恐る恐る俺の方を向いた。
「もう一度聞く。どうして浮気をしたんだ?」
「…………ごめん」
「いや、ごめんじゃなくて……浮気をした理由を聞いてんだよ」
「…………海人」
「ん……?」
「私……もう海人のことが好きじゃないの」
優奈が浮気をした理由を聞いて、俺は――微笑みながら納得した。
俺への熱が冷めたってことか……。
「そっか……。うん。優奈が浮気をした理由を聞けて良かったよ。おかげで気持ちがスッキリした……」
「あっ……うん……」
「優奈……今までありがとう」
そう言って優奈に別れを告げると、俺は落とした傘を拾いに行き、その場を去った。
あぁ……今日の天気が雨でよかった……。だって、優奈が浮気をした理由を聞いた時、俺は――涙をこらえることができなかったから……。
こうして俺と優奈の関係は、最悪な形で終わった。
ご拝読頂きありがとうございます。
本作品を読んで「面白かったな~」「この先どうなるのかな~?」と気になった方は、下の☆☆☆☆☆の評価とブックマークをしてくださると嬉しいです!
明日は2話投稿します。