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群青の嘘  作者: 伊田夏生
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幼少期の思い出

 教師一年目。ある私立の中学校に就職した和田太一。彼は良い教師になろうと一年間必死に奮闘した。そのため担任した三年二組の生徒は立派に成長して卒業する。そう信じていた。

 迎えた卒業式の日。彼は教師になったことを後悔した。

 卒業式の日に何があったのか…?

 そして彼が後悔した理由とは…?

 〈プロローグの続きの物語が今始まる。〉

 


 

 僕は五歳になる年の幼稚園の入園式の日、隣に座ったキララちゃんという女の子が嫌だった。キララちゃんは後ろを向いてお母さんとお父さんに手を振ってみたり周りに座っている子達に話しかけて先生に沢山注意されていたから。僕は人見知りだったから知らない子に話しかけられるのが怖くてたまらなかった。だから大人しくしていた。

 しかし、その入園式の帰り道にお父さんから衝撃の事実を告げられた。


「そう言えば今日、レンの隣に座ってた、同じクラスの元気いっぱいの女の子いただろう。キララちゃんって子。その子とは仲良くしなさい。」


そんなことを言われても僕は仲良く出来そうにないのに。仲良くなりたくもないのに。だから、


「いやだ。ぼく、なかよくしたくない。ずっと、おともだちとおはなししててうるさかったもん。」


っと反抗した。


「でも、キララちゃんのお父さんはヒーローなんだよ。お父さんの会社が無くなりそうな時助けてくれたんだ。キララちゃんと仲良くしたらそのヒーローにレンも会えるよ。」


っと言った。当時の僕は将来ヒーローになりたいと本気で思っていた。だからお父さんは僕の弱みに漬け込んだ。


「じゃあ、なかよくする!」


っと上手く丸め込まれた。

 そして、次の日僕はキララちゃんと仲良しになるために自分から話しかけようと決めた。全てはヒーローに会うために。でもキララちゃんはいつの間にかクラスの人気者になっていた。何故なら、鉄棒の逆上がりが連続で出来たし、足も速い方だった。折り紙も手裏剣が作れていたし、女の子が皆んな羨ましがるような可愛い髪型をしていた。人見知りの僕には入る隙間もないぐらいすぐにいろんな子と仲良くなっていた。対して僕はずっと一日キララちゃんしか視野に入れてなかったため一人だった。帰り際に先生が、


「皆んなともっと仲良くなれたら良いね。」


っと言った。それが悔しかった。その日、お母さんが先生のその言葉を聞いてかなり心配してくれたのを覚えている。

 奇跡が起こったのは、意外にも早かった。それは二日目のもう少しでお昼を食べて帰る時間帯の頃だった。この時間は自由にやりたいことをやって良い唯一の時間である。他のクラスの子達は皆んな外で鬼ごっこをしていた。僕は完全に戦意を失っていた。仲良くなれないと諦めた。だから外にあった椅子に座って幼稚園にある絵本を読んでいた。そんな僕にキララちゃんから話しかけてくれた。


「レンくんだよね。どうして、おそとでほんよんでるの?みんなとあそぼうよ。キララね、レンくんとおともだちになりたい。」


っと一人でいる僕に笑顔で手を差し出した。僕は嬉しかった。人気者の子がわざわざ目立たない僕に話しかけてくれたこと。あと、友達になれたからヒーローに会えることが。

 それから僕達は、キララちゃんが何度も僕を気にかけて話しかけてくれたお陰で仲良くなった。キララちゃんは幼稚園から帰った後も幼稚園が休みの日も時間がある時は何故か必ず僕の家に来てくれた。他にもキララちゃんには沢山友達がいたのに。そのことは今でも不思議だ。そして僕達はキララちゃんからキララに、キララもレンくんからレン呼びに昇格した。

 キララは他の友達には話していない家族の話もしてくれた。キララには四つ離れたお姉ちゃんがいて優しくてお家でいつも遊んでくれる話。お母さんが毎日手作りのお菓子を作ってくれる話。お父さんが休みの日はたまに遠くに連れて行ってくれる話。僕は全部が羨ましかった。僕は一人っ子だ。おやつはいつもスナック菓子だった。お店の定休日は月に数日しかないからお出かけなんてお正月におばあちゃんの家に行くぐらいだったから。あの頃のキララは毎日が楽しそうだった。

 僕は五歳の冬頃、キララがお家に遊びに来てと言うので僕の両親と初めてキララの家に遊びに行った。キララの家は僕の家から歩いて五分位で意外と近かった。僕があれだけ会いたがっていたキララのお父さんはキララが何度も話してくれる話の中で僕が期待していたヒーローと違うことに気付いたため、がっかりはしなかった。キララのお姉ちゃんは本当に優しくて僕が好きな絵本の読み聞かせをしてくれた。キララのお母さんが作るお菓子も僕の予想以上に美味しかった。キララのお父さんも見た目はヒーローとは程遠いが僕が転けそうになった時助けてくれて、中身はかっこいいヒーローだった。

 こんな優しい時間を過ごせた幼少期の僕はとても幸せで毎日が楽しかった。




 

 「大体こんな感じかな。キララとお友達になった話は。」


っと言うと、リュウくんは、


「ありがとう。レンくんがヒーローになりたかったのがびっくりした。なんか、かわいいね。」


っと言った。僕は、


「うるさい。リュウくんだってヒーローとか、戦隊モノのアニメ好きじゃん。それと一緒だよ。」


っと少し恥ずかしくなって言った。リュウくんは、


「そうかもね。」


っと少し僕を馬鹿にするような笑顔を見せた。そして、


「やっぱり、パパとママはぼくのこときらいなのかな。キララちゃんが小さいころのパパとママはやさしそうだもん。」


っと今度は悲しそうな顔をした。僕は、


「そんなことないよ。リュウくんのこときっと大好きだよ。リュウくんのパパとママは恥ずかしがり屋さんなんだよ。だからリュウくんに大好きって言えないだけ。大丈夫。」


っと嘘を吐いた。リュウくんは、


「ほんとに?」


っと僕に質問した。僕はなんとか笑顔を作って、


「うん。」


っと頷いた。心が苦しかった。でもリュウくん悲しむ顔は見たくない。もっと苦しくなるから。話題を変えたくて壁の時計を見ると洗い物が終わってから一時間は経っていた。僕は慌てて、


「ごめん。リュウくん僕そろそろ帰らないと。キララ起こして。ちゃんとお風呂入って歯磨きしてから寝てね。おやすみ。また明日ね。」


っと言って部屋を出た。部屋の中からリュウくんが、


「バイバイ。」


っと言った声が響いた。

 こうしてまだ家には帰れてないけど、今日も僕の忙しないキララとリュウくんと過ごす一日が終わった。

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