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群青の嘘  作者: 伊田夏生
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叶えたい夢

 教師一年目。ある私立の中学校に就職した和田太一。彼は良い教師になろうと一年間必死に奮闘した。そのため担任した三年二組の生徒は立派に成長して卒業する。そう信じていた。

 迎えた卒業式の日。彼は教師になったことを後悔した。

 卒業式の日に何があったのか…?

 そして彼が後悔した理由とは…?

 〈プロローグの続きの物語が今始まる。〉

 それからもう一つ、新たに気になる生徒がいる。春山凛太郎はるやまりんたろうだ。彼は無断欠席や遅刻が多い。どうやら二年生の頃からのようだ。そのことについて、三者面談をさせて貰おうと、何度か保護者に電話をしたが、両親共お忙しいようで、なかなか連絡がつかない。だから、二年生の頃の担任も苦労したようで、何度か春山くんと二者面談をしたらしい。彼の両親は芸能人だ。母親は日本の賞を独占するぐらい有名な女優、森本愛もりもとあい。父親は二十代までアイドルとして活躍して、今はその大手芸能事務所の顔として、情報番組などで活動している、春山駿太郎はるやましゅんたろう。芸能人に疎い僕でも名前を知っている二人だ。その息子が僕のクラスにいると考えると緊張する。

 しかし、春山くんは天然でおっちょこちょいな性格で、多くの人に好かれている。それに加えて、両親譲りの容姿だ。きっと、学校中の女子にモテているだろう。男の僕でも確かに話しかけやすい。

 そんな彼の両親が忙しいため、三者面談は諦めて、彼と放課後二人で話すことにした。


「春山くん。早速だけど、二年生の頃から遅刻と欠席が多いみたいけど、何か理由があったりするのかな?」


っと切り出すと、春山くんは、


「去年の担任の先生にも話したんだけどね。俺、小さい頃から何度もお父さんのライブの映像を観たんだ。キラキラしてて、凄くかっこよくてそれで俺もダンスを習い始めたんだ。だから、リズム感には自信がある。毎日、色んな曲を踊っている夢を見るし。それで、朝もリズムで目覚まし時計に頼らなくても、起きられる気がしたんだ。でも、実際は失敗が多くて、成功するのが難しくて大変なんだ。もう少しで、コツを掴めそう何だけどなぁ。」


っと言った。ツッコミ所が多い話だ。


「えっと…。朝起きるのにリズム感は関係ないと思うよ。生活習慣を見直した方が良いかもね。ご飯を食べる時間とか寝る時間とかをなるべく同じ時間にしたら良いよ。その時間の感覚に慣れるまでは、目覚まし時計を使わないといけないけど。でも、体が慣れたら、体内時計が整って、規則正しい生活が出来るようになるよ。どうかな?」


っと、とりあえずアドバイスをした。そうしたら春山くんが、


「リズムって関係ないんだ!先生俺初めて知った。でも、今までの努力無駄じゃん。先生って頭良いんだね。去年までの担任は、俺が理由を話したら笑ってきたんだ。馬鹿にされた気がして、ムカついて、その先生とは話さなくなった。だから、そんなこと教えてくれなかった。先生ありがとう。」


これで彼の中で何かが解決したみたいだ。それにしても、可愛い理由だったな。去年の担任の先生が笑ってしまったのもわかる。彼らしい理由だ。

 しかし、まだ欠席が多い理由の質問の答えは返ってきてない。でも、何となく想像が出来る。


「じゃあ欠席が多いのは、朝寝坊しちゃって面倒になってそのまま休んじゃうの?」


っと質問した。彼は、


「違う。俺は寝坊しても学校には行ってる。欠席が多い理由はまた違う。それも、俺の不注意。心配しないで。これからは、もっとちゃんと気を付けるから。」


っと言った。この子は何か嫌なことがあると、すぐ顔に出る。わかりやすい子だ。僕には、説明出来ない理由がありそうだ。やはり、無断欠席が何回もあったため、保護者に報告した方が良さそうだ。僕は、


「わかった。今度から気を付けてね。」


っと言って、春山くんを帰らせた。

 その面談をした日も、電話をしたがやはり出られなかった。普通、これだけ学校から電話をしたら心配になって、折り返しの電話をするのが礼儀だろう。もしかして、息子に興味がないのか。春山くんはこんなに良い子なのに。段々と腹が立ってきた。仕方ない、次の職員会議で先生方の許可を得て家庭訪問でもするか。

 こうしてなんとか、先生方の許可を得て今日、家庭訪問に行く。季節は五月の終わり。来週には六月になる。そして、再来週には期末試験が始まる。外を歩くだけで汗をかく。いつの間にか、春が去って、夏が訪れようとしていた。住所を携帯で確認しながら、何とか春山くんの家まで辿り着いた。芸能人が住みそうな高層マンション。ある程度は想像していた。家賃はきっと、僕が住んでいる家の倍以上の相当な額だろう。羨ましい。そして、何とコンシェルジュまでいた。これは想定外だった。コンシェルジュの人に名刺を見せて要件を伝えると、どうやら中に入れるようだ。春山くんの家は、タワーマンションの最上階らしい。きっと、展望台のように景色が綺麗なのだろう。こうして、何重ものセキュリティを通過して、エレベーターで最上階まで行き、玄関のチャイムを鳴らした。すると、その部屋から出てきたのは、僕のクラスの生徒、佐野麗桜さのれおと、田村先生のクラスの双子の妹、佐野美桜さのみおだった。


「先生いらっしゃい。」


二人が声を揃えて言った。流石、双子だ。そうだ、そんなことはどうでもいい。


「あれ何で?春山くんの家だよね?」


っと聞くと、


「そうだけど。俺らも、ここのマンション住んでるの。階は二個下だけど。だからよく、生存確認しに二人で来てるんだ。あっ、リンなら帰って来るの遅いよ。ダンス教室行ってるから。」


っと佐野くんが言うと、


「違うよ、レオ。家庭訪問に来てるんだから、リンのママとパパに用があるんだよ。あっ、でも先生、リンママもパパも残念だけど、今日帰って来ないよ。」


っと、今度は佐野さんが言った。僕が、


「ちょっと待って。何で春山くんの家の事情、そんなに詳しいの?生存確認ってどう言う意味?」


っと聞くと、


「何か長くなりそうだからリンの家より、俺とミオの家で話すか。先生ちょっと待ってね。ミオ、戸締まりするよ。」


っと言うと、急いで部屋の奥に向かった。

 佐野兄妹はそれぞれ子役から活躍してた芸能人だ。今も、モデルや役者として活躍している。両親は確か、銀行員だったはず。

 暫く経つと、戸締まりが終わったのか、部屋から出て、佐野兄妹の家に案内してくれた。


「先生。ここが私達の家。ママとパパはまだ帰って来ないからゆっくりしてね。私は自分の部屋で勉強するから、話はレオと話してね。」


っと言って、佐野さんは玄関からリビングとは違う方向に行ったようだ。


「先生、そこのソファー座って良いよ。あっ、そうだ。何か飲み物いる?」


っと聞かれて、


「お構いなく。それより、さっきの僕の質問に答え欲しい。」


っと言うと佐野くんは、


「あっそうだった。リンと俺らは幼馴染なんだ。小さい頃からずっと三人で遊んでた。家も同じマンションでダンス教室も学校も一緒。まぁ、俺は明日仕事があるから、今日はダンス教室休んでるけど。リンのママとパパとも結構仲良いんだ。だからリンが元気にしてるかとか。ちゃんと家綺麗にしてるかとか。リンママも、パパも、仕事が忙しいから、帰りが遅くなる日とか、帰れない日に、良くメールしてるんだ。あっ、生存確認ってこれのことね。」


っと言った。思わず僕は、


「えっ。春山くんのお母さんメールしてるの?メールって、どれぐらいで返して下さってるの?僕、何回か三者面談させて頂きたくて、お母さんとお父さん電話してるんだ。でも、電話に出て下さらないんだけど。」


っと、愚痴のように漏らしてしまった。すると、


「俺のメールは仕事の合間に返してくれてるよ。たぶん、リンママも、パパも、学校の電話番号登録するの忘れてる気がするな。二人共、大人なのに抜けてる所があるから。俺から、学校の電話番号登録するように言っとくよ。」


っと言ってくれた。なるほど。春山くんの天然でおっちょこちょいの所は、両親からの遺伝なのか。でも良かった。これで両親どちらかと連絡が取れるようになれば。そう思っていると、


「先生。この前リンと面談してたよね。もしかして、リンから聞いた?リンのオーディションの話。あいつ、全然、ママとパパに話してないみたいだからな。この前、一次審査の合格通知届いたのに、見せてないって言ってたから心配してたんだよ。次の審査は、保護者のサインがいるから。良かった。これでリンも芸能人か。」


っと言った。


「えっ。そんな話、今初めて聞いたけど…。」


っと僕が驚いていると、


「ごめん。リン、先生に相談したなかったんだ。仕方ない。もう、次の審査再来週だから強引だけど、リンのママとパパに僕からも頼んで来週、時間取ってもらうか。だから先生、後よろしく。良い知らせ待ってるね。」


 こうして、春山くんの家への家庭訪問が佐野くんの家への家庭訪問になって終わった。しかし、これから波乱な予感がする。オーディション受けてたなんて、学校にも報告して欲しいんだけど。とりあえず明日、管理職の先生にも報告しないと。

 そして数日後、春山くんのお母様から連絡があり、佐野くんがお願いした週に、面談が出来ることになった。それが、今日だ。春山くん本人は、保護者が入った面談を、最初は嫌そうにしていたが、佐野くんからオーディションの話を聞いたことを話すと、面談を承諾してくれた。そして、無断欠席が多い理由も話してくれた。全ては、佐野くんの対応のお陰だ。放課後、春山くんの両親がいらした。どうやら十分しか時間が取れなかったようだ。簡単に僕が挨拶をして、話が本格的に始まった。


「今日お越し頂いたのは、凛太郎さんの無断欠席が多いことが心配だったためです。しかし、その件に関して、凛太郎さんから理由を聞きまして、学校側としましては、保護者の意見を伺った上で、判断しなければならない理由でしたので、お呼びしました。つきましては、凛太郎さんご本人から、お話して頂きます。」


っと、僕が切り出した。

 心の中で春山くん、頑張れと想いながら。


「俺さ。レオとミオの入ってる事務所のオーディション受けたんだ。アイドルとして、もっとダンス上手になりたくて。だけど、アイドルになるには、歌も練習しないといけない。そう考えて、学校勝手に休んで、お父さんがアイドルやってた時の、メンバーに歌を習いに行ってました。学校休んでごめんなさい。後それで、一次審査の顔写真と必要事項送って合格したんだ。それも、勝手に送ってごめんなさい。次の審査は保護者のサインがいるからサインして欲しい。」


っと春山くんが言うと、お父様が、


「お前が俺のメンバーに会いに行ったこと、俺が気付いてないとでも思っていたか?メンバーから連絡を貰っている。平日に会いに行っていたことは、想定外だったが。そして、お前がアイドルになりたいことも、知ってた。リンが言い出すのを待ってたんだ。」


っとおっしゃった。

 続いて春山くんが、


「じゃあ僕の夢、応援してくれるの。」


っと、笑顔で聞くと、


「親としては応援する。アドバイスもする。でも芸能界の先輩としては応援出来ない。お前だけ特別扱い出来ないから。親の力を頼らず、自分の力で仕事を手に入れろ。社会人としての自覚を持ちなさい。大事なことを隠すな。その覚悟と責任を背負えるならサインする。」


っとおっしゃると今度はお母様が、


「小さい頃、甘えん坊で、自分の意見が言えなかったリン。今こうして夢を語ってること、ママ嬉しい。リンは世界一かっこいいから、きっと良いアイドルになる。ママも応援する。あっ、だからファン一号は絶対ママだからね。」


っと子供のような泣き声で、話された。春山くんが、


「自分の力で頑張る。絶対お父さんより、凄いアイドルになる。お父さん、お母さんありがとう。」


っと言い切った。良かった。

 最後にお父様が、


「うちの息子がご迷惑をおかけしました。電話にも出られず、すみません。先生方には、これからもご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いします。」


っと、ご丁寧に頭を下げて下さった。僕は、


「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。僕より、佐野くん達に感謝してあげてください。二人が凛太郎さんの夢について教えてくれたので。」


っと話すと、笑顔でもう一度頭を下げられて、保護者のお二人が帰られた。そして残された春山くんも、


「先生これから頑張るから、応援してね!」


っと、楽しげに教室を出て行った。

 この調子で、僕のクラスの生徒全員が笑顔で卒業して欲しい。僕は、いつの間にか、生徒の笑顔に仕事のやりがいを感じていることに気付いた。きっと、この仕事は僕にとって天職だ。だから、生徒にとって良い先生にならなくては。そう心に誓った。

 〈和田太一の教師としての物語はまだ続く。〉

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