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群青の嘘  作者: 伊田夏生
19/20

理想の家族


 私の名前は吉川麗良よしかわうらら。私は小さい頃から家族が大好きだった。ママがいてパパがいてキララがいる、しょうもないことで笑い合える日常が好きだった。いつから決まっていたのだろうこの最悪の結末は。私が壊したのかな?あの日のことは良く覚えている。忘れたくても忘れられない。

 

 

 十歳の誕生日、ウララは学校に行くと沢山の友達にお祝いされた。当時流行っていた髪飾りや文房具などプレゼントをいっぱい貰った。ウララは嬉しくて、大切に鞄にしまった。

 帰ったら、家族に見せびらかそう。でも、キララは羨ましがって泣きそうだな。仕方ないから、少しだけ貸してあげようか。

 そんなことを考えながら一日を過ごしていた。五時間目が始まって少し経った頃、担任の先生が授業中にも関わらず教頭先生に呼ばれた。すると、クラス中が騒ぎ出して、


「先生、何かしたのかな?」


とか、


「授業潰れないかな。」


とか、小学生が考えそうなくだらない会話をした。しかし、ウララ達が考えた予想は全部外れていた。担任の先生が、


「吉川さん。」


っと手招きをした。ウララは、


「はい。」


っと返事をして先生達の方へ駆け寄った。先生は、


「落ち着いて聞いて。」


っとドラマでしか聞いたことのないような前置きをして、


「あのね。吉川さんのお母さんと妹さんが事故にあったみたいなの。詳しいことは分からないけど、お父さんが迎えに来て下さるようだから、帰りの準備して教頭先生と職員室で待ってて。」


っと告げると教頭先生がウララの背中を押して帰りの準備を手伝ってくれた。ウララは頭が真っ白になっていた。友達が、


「ウララ、何かあった?大丈夫?」


っと話しかけてくれたがウララは、


「ちょっと今日帰らなきゃいけないみたい。バイバイ。」


っと素っ気ない返しをしてしまった。クラスメイト達はウララの雰囲気を察したのかそれ以上は何も聞いて来なかった。

 教頭先生と職員室に入ってすぐにパパが迎えに来た。パパは先生方に挨拶するとウララの手を引いて車に乗った。車の中のパパはとても動揺しているようで声をかけられなかった。

 病院に着くと受け付けに向かった。そこでママとキララのいる場所を聞くとパパはウララのことを忘れたように走り出した。ウララはパパについて行くことに必死で、病院の先生や看護師さんに走っていることを注意されたが無視してしまった。パパがある病室に入った。ウララもパパに続いて病室に入った。そこには、顔に白い布を被せられベッドに寝転んでいる大人の姿があった。それがママだと気付くのに時間はかからなかった。ウララが、


「パパ…?」


っと話しかけると、パパはウララを苦しいほど抱きしめて泣き崩れた。その姿はまるで助けを求めている子供のようで、切なくて、苦しくて、どうしようもない絶望を感じた。ウララも出せる限りの力を込めてパパを抱きしめ返した。

 そうしていると、担当医の先生がやって来て、


「吉川さん。最善を尽くしましたが奥様は残念ながら…。」


っと言葉に詰まった。パパはウララを抱きしめた手を離して、


「何でだよ!医者なら助けろよ!」


っとやり場のない怒りを声に出した。パパは今までウララやキララがどんな悪戯をしても叱ったことがなかったため、パパが別人になったように感じた。パパはその後すぐ、


「すみません。」


っと髪をかき分けながら謝った。先生は、


「いえ…。」


っと返した後、


「もうすぐ、娘さんの方の担当医も到着しますので、その後、娘さんの病室にご案内します。」


っと言った。その後の記憶は曖昧で、次に思い出せる記憶はキララの病室に入った時だ。パパはキララの今の状況と治療法についてキララの担当医から説明を受けるため、病室を後にした。

 ウララはキララを心配するより、


「ママを返して。今日はウララのたん生日なのに。」


っと沢山の線や器具をつけられたキララの姿を見ていたのに、怒りを不安を全てキララにぶつけていた。最低だった。

 それから、パパと家に帰ると飾り付けられたいるはずのないママの気配を、愛情を感じられる家の姿を見てパパと二人でまた泣いた。

 翌日もパパは警察署や役所に手続きに向かった。ウララもママのお通夜や葬式のため暫くの間、学校を休んだ。

 あの日からパパは泣いてばかりいた。だからキララのお見舞いには行こうともしていなかった。ウララも行けなかった。それどころか、誕生日の飾り付けを片付けられなかった。片付けてしまうとママとの思い出がなくなってしまいそうで不安だった。とにかくこの時は、学校にも行けず引きこもった。

 ただ何となく一日を過ごす中である日、キララが目を覚ましたという知らせをパパから聞いた。嬉しかった。嬉しかったはずなのに素直に喜べなかった。パパが、


「何でだよ!輝星だけが助かっても意味がないんだよ!」


っと初めて声を荒げた姿を見たからだ。

 ウララは、沢山考えた。このモヤモヤの正体は何なのか。まだ幼かった頭で、必死に。でも答えは出なかった。キララの病院に行けば何かわかる気がして、その日の夕方一人で病院に向かった。そしてキララの病室の前に着きドアを開けるとキララがニコニコしながらウララの方を見た。ウララはその笑顔を見て、


「キララ。なんであんたが助かったの。よくもウララのたん生日、めちゃくちゃにしてくれたね。あんたのせいでママが死んだ。キララが死ねばよかったのよ。」


っと心ない言葉を放ってしまった。しかしその後すぐはっとして、キララの目を見ると潤んでいた。ウララはどうして良いか分からずその場から走って逃げてしまった。

 違う、違うよ、キララ。こんなことを言いたかったんじゃない。ごめんね。不器用なお姉ちゃんで、


「生きててくれてありがとう。」


って、


「大丈夫だよ。」


って、


「大好きだよ。」


ママみたいに言いたかった。なのに、キララの安心し切った笑顔にむかついて一瞬の判断で声に出してしまった。

 家から帰ると、パパが、


「麗良、何処に行ってたんだ!麗良もパパを置いて行くのか?パパから離れないで、側に居てよ。」


っと抱きついて来た。ウララは、


「ごめん、パパ。キララの所に行ってたの。でもキララに、ひどいこと言っちゃって、ママはキララのせいで死んだんだって。最低だよね?キララにちゃんと謝らないと。」っと言うと、


「麗良は間違えてない。そうだよ!全部、輝星のせいだ。」


っと言うと、不気味に笑った。ウララは全身に鳥肌が立った。


「怖い。」


パパのことを産まれて初めてそう感じた。

 それから、キララを悪者にして過ごすようになったパパは狂ったように仕事をした。そこで、明らかにお金目当てであろう、今のお母さんに言い寄られて何故か結婚した。

 ウララはその後、キララにちゃんと謝った。キララは、


「気にしないで。」


っと言ったけど、キララは優しいから本当はウララの顔なんか見たくないはずだ。物凄く傷付いたことを隠している。だからウララは、ずっとキララの側にいることを諦めた。代わりにキララと交換日記を始めた。離れてもキララを出来るだけサポートしたかったから。キララから離れてパパの動きを観察して、なるべくキララとパパ達が接触しないよう働きかけたりもした。離れた場所からキララを守ろうとしたのだ。最初は元通りのパパに戻ることを期待したが、いつまで経っても現実逃避をするパパに、次第に腹が立って来た。それから、虐待の証拠を少しずつ集めた。いつか世間に公表するために。そして、あえてレンくんやリュウくんの前では酷い姉を演じた。キララには味方がいるから大丈夫だよっと伝えたかったから。しかし、少しやり過ぎたようだ。ウララは思いっ切り嫌われた。でも、キララだけは、


「お姉ちゃん、何でそんな悪役みたいな演技するの?レンとリュウくんから誤解されてるよ。」


っと私の嘘を見抜いた。ウララは、


「別に二人に好かれたいわけではないからいい。キララは余計な心配しなくて良いの。」


っといつも適当に誤魔化した。

 ウララが自分のことを私と呼ぶようになったのは、戒めのためだ。もう二度と間違えない。もう少しだ。証拠は何とか十分すぎる位揃った。だから、次は弁護士を見つけて、この事実を公表する。金銭面は心配ない。今までのアルバイトで貯めたお金があるし、ママやパパが小さい頃に私のために作ってくれた通帳には、結構な額が入っている。そんなことに使ったら、ママに天国で怒られそうだけど。それでも良い。大事な家族が幸せになるためなら何だってしたい。そう決めた。

 なのに、キララはあの日、飛び降りた。まただ。また私は大切な人を失った。もっと早く行動を起こすべきだった。強い後悔に襲われた。そんな時だったレンと和田先生が私の前に現れたのは。

 報われた気がした。今までやってきたことは間違えてない。そう言ってくれていると感じた。だからこそ、自分に出来ることをしたい。後悔だらけの今までに終止符を打ちたい。覚悟を決めて会見に臨んだ。

 


 会見後、会場から出ると、リュウくんがいた。私を嫌っていたはずのリュウくんは、小さな足で、小さな手を開いて私に駆け寄ってきた。私もしゃがんでリュウくんを受け入れた。


「おねえちゃん、キララちゃんのために、たたかってくれてありがとう。いままで一人ぼっちにしてごめんね。これからは、おねえちゃんといっしょにくらしたい。おねえちゃんとえがおでいたい。」


っと言ってくれた。

 そうだ。私はこれを望んでいたんだ。家族で寄り添いあって、笑いあって過ごす生活を。目の前の愛おしいと思える存在を今度は間近で守りたい。守って良いんだって嬉しく感じた。

 何があっても、リュウくんが大きくなって、


「お姉ちゃん、うざい。」


って言っても大人になるまでこの子を育てる。キララとレンくんが今までリュウくんに与えた愛情より大きな愛でリュウくんを包み込む。大丈夫。もう私に怖いものも、恐れるものもない。ママ、キララ見ていてね。今度こそ良いお姉ちゃんになるから。


「私は絶対、後悔しない。」

 

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