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群青の嘘  作者: 伊田夏生
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ひとひらの想い

 そして、いよいよここからが本番だ。僕はすぐさま教室に向かった。教室のドアを開けると、矢沢くんが、


「先生、これでいい?」


っと僕がいない間に計画を進めてくれていた。僕は、


「ありがとう。」


っとお礼を告げると、僕は、リュウセイくんが持って来たあるものを目にした。そして、気付いてしまったんだ。彼女のもう一つの秘密を。


「行きたい場所があるんだ。」


っと言って、ある場所を矢沢くんと訪れた。

 こうして、記者会見の時間になった。僕は時間寸前で学校に戻った。すると、他の先生に、


「何処にいたの?探したんだよ。」


っと怒られてしまった。僕は、


「すみません。」


っと謝ると、記者会見の手順の原稿を渡されて会場に入る。席に着くと原稿通りに会見が進んで行った。そして、校長先生が学校の見解を説明する時、僕はマイクを手に取った。


「此処では、学校の見解ではなく、担任である、私の見解を説明させていただきます。」


っと僕が話し始めると、他の先生方は、動揺されて、


「どうしたの?」


っと小声で声をかけられたが、無視をした。僕は話を続けた。


「まずは、こちらをお聴きください。」


そう言うと、矢沢くんが録音したという音声を流した。その音声は、吉川さんを家から追い出そうとお父さんがしていたこと、お母さんがそれに同意しているような内容だった。


「この音声は吉川輝星さんのクラスメイト、僕が学級担任をしている生徒が録音したものです。もちろん、録音は何の証拠にもなりません。ですが、彼女の父親、母親が彼女の死の原因を作ったと考えています。他にも、こちらをご覧ください。」


そう言うと、僕のクラスの生徒達が製作した動画を後ろのスクリーンにより、流し始めた。

 その動画には、吉川さんが、小学生の頃こっそりお姉さんとやっていた交換日記が映し出された。

 吉川さんの内容は、


「お姉ちゃん、今日初めてリュウくんが歩き始めたよ!」


とか、


「お姉ちゃん、レンが作ったご飯すごくおいしいんだよ!」


という何気ない内容だ。しかし、姉の麗良さんが書いた内容は、


「キララ、元気そうだね。お姉ちゃんはしばらく帰れないけど、必ずキララを守るから何かあったら、すぐ知らせるんだよ。」


とか、


「キララ、生活費足りてる?パパが渡してるお金、少ないんでしょ?お姉ちゃんのバイト代、今度届けるね。」


っというような優しさに溢れた内容だった。

 その動画を流した後、


「この動画から分かるように、吉川さんの家庭環境は良くない。このことを証明するために、今日はある人に来てもらいました。入ってきて下さい。」


っというと、体育館の扉の向こうから吉川麗良さんが姿を現した。


 

 今日、リュウセイくんが、


「ぼく、むずかしいかん字まだわからないからいままで、よめなかったけど、キララちゃんとおねえちゃんの、ひみつのノートあったから、おねえちゃんが、わる口かいてるとおもって、もってきた。」


っと言って、見せてくれた。僕達はそのノートを見て驚いた。まだ幼い字の吉川さんに対して、丁寧で読みやすいように書かれた字のお姉さん。そこには、子供と思えないような気遣いで溢れていた。どうやら、彼女は、吉川さんを守るため、誰にもバレないように嘘を吐いていたようだ。まさか姉妹でこんなにも嘘吐きだとは思わなかった。僕は、お姉さんに会いたくなった。

 それで、動画の制作を他の生徒にお願いをして、僕は矢沢くんの案内でお姉さんの大学に向かった。お姉さんは大学で結構有名人らしく、学生に聞くと、大きなキャンパスにも関わらず、運良くすぐにお姉さんがいる場所がわかった。僕達がお姉さんに今までのことを聞くと、


「遂にバレたか、キララのためだと思ってやってきたこと、本当は私の勝手な自己満足に過ぎなかったよね。結局、良いお姉ちゃんにはなれなかった。レン、わざと傷付けるようなこと言ってごめん。キララを守れなくてごめん。リュウくんにも謝りたい。大人として恥ずべきことに対してちゃんと責任を取らせて欲しい。だから協力する。」


っと話してくれた。矢沢くんは、


「酷いよ、ウララちゃん。僕には本当のこと話して欲しかったよ。ウララちゃんのこと苦手になっちゃってたよ。でも、ウララちゃんが優しいお姉ちゃんであり続けてくれたみたいで良かった。陰で見守っててくれてありがとう。」


っと笑顔で言葉を交わした。こうして、お姉さんが協力してくれることになった。


 そして今、


「輝星の姉の吉川麗良です。和田先生の言う通り、輝星は両親から酷い扱いを受けていました。輝星はいつも邪魔者だとか、厄介者だとか言われていました。私は妹を助けるために今までこっそり証拠を集めてきました。しかし、それは、盗聴のようなものばかりで物的証拠にならないため、こっそり弁護士に相談しています。」


っと時折、涙ぐみながら話した。そして、最後に、


「輝星の死と学校は、何も関係がありません。私達家族の問題です。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」


っと頭を下げた。どうやら、今まで矢沢くん達は彼氏の家でお姉さんは暮らしていると考えていたようだが、実は弁護士を探し回っていたり、その費用を稼ぐため仕事をしていたようだ。


 こうして、僕達はやるべきことを、今出来る最低限のことを果たした。僕の生徒達は、凄くやり切った顔をしていた。思い返せば、文化祭の時より一致団結していた。その姿を見て、生徒達が成長したことが嬉しかった。しかし、それと同時に、僕は罪悪感で押し潰されそうだった。此処に吉川さんがいないから。誰よりも皆んなで団結することを望んでいた彼女を僕は守れなかった。そんなことを考えていると、僕が落ち込んでいることに気付いたように、矢沢くんが、


「先生、本当にお世話になりました。僕先生のおかげで夢が出来ました。和田先生みたいな先生になることです。だから先生、その時はまた宜しくお願いします。」


っと笑顔で頭を下げた。僕はこんなに単純で良いのかと思うくらい、今までの気持ちが嘘のように晴れやかになった。

 もちろん吉川さんがいなくなったという現実から逃げた訳ではない。彼女と同じくらい大事な人が夢を持ち、少しずつ大人になろうとしていることが嬉しかった。

 僕が経験した教師という道は楽ではない。しかし、この一生忘れられない大きな悲しみを背負った彼は、大人を罵ることはしなかった。僕はどれだけ彼の目を真っ直ぐ見れただろうか?

僕はどうしようもなく情け無い大人だ。僕がやるべきことはまだあるはずだ。これからも悲しむだけでは駄目だと矢沢くんの言葉で気が付いた。彼女のような子供が犠牲にならないように。前を向こう。少しずつ、一歩ずつ踏み出そう。どれだけ時間が掛かっても、君達の笑顔が大好きだから。守ってみせる。この命が尽きるまで。

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