僕が出来ること
翌日、学校は臨時休校となった。鳴り止まない電話のせいで先生方は疲れ切った様子だ。それに加えて、校長先生や管理職の先生方は保護者説明会、マスコミへの会見の準備に追われている。僕も担任として、その両方に参加する予定だ。僕は、他の先生方が気を遣って下さって、
「和田先生は電話対応しなくて大丈夫だから、会見のことだけ考えて。」
っと言われた。そのため、職員室に居づらくて、誰もいない教室で一人その準備に取り掛かった。
僕が出来ることは一つだ。僕が知っている情報をありのまま公表すること。吉川家の家庭状況を世間に暴露することだ。吉川家は大企業だ。このスクープによって、世界中に影響を与えるだろう。ただ、当然問題はある。僕が持っている情報は目に見える証拠がなさすぎるため、僕が訴えられる可能性もある。何より一番の問題は、リュウセイくんだ。僕が公表することで、彼が将来、これからの人生で苦労することは目に見えている。まだ小学校低学年の残された彼は、何を望み、考えているのか。僕は彼を傷つけてしまうのではないか。どうしても、何度考えてもその答えは出なかった。
そんな時だった。教室のドアが開いた。
「先生、おはよう。」
っと元気な沢山の声が教室中に響いた。僕は目を疑った。そして、
「何で…。」
っと無理矢理、言葉を放った。
「あのね、レンがクラス全員、学校に集まってって集合かけたの。キララのことで話があるって。レンももうすぐ来るから。」
っと深町さんが答えた。すると本当にドアが開く音がして、
「みんな、おはよう。」
っと教室に入って来た。僕は、その後ろをピッタリくっついている影があることにすぐに気付いた。
「リュウくん、大丈夫、みんな優しい人達だよ。それに、リュウくんに会ったことある人も沢山いるよ。」
っと言うとゆっくり顔を見せて、
「ほんとだ。みんなおはよう。」
っと言った。すると、
「おはよう。」
っと優しい笑顔で生徒たちは答えた。僕は矢沢くんが、リュウセイくんを連れて来た意味がわからなかった。リュウセイくんは混乱している僕の側にやって来て、
「あのね、先生におはなししたいことがあるの。」
っと言った。続けて、
「キララちゃんにぼく、きらいっていっちゃたんだ。レンくんは、ぼくのせいじゃないっていってくれたけど、ぼく、ごめんなさいできなかった。だから、ぼく、キララちゃんのためにできることをしたい。先生にきょう力したい。」
っと真剣に自分の気持ちを伝えてくれた。僕は、
「リュウセイくんの気持ちを教えてくれてありがとう。リュウセイくんが力になってくれたら嬉しい。でもね、リュウセイくんが先生を助けることでこの先、楽しいことが少なくなっちゃうかもしれない。傷ついて沢山泣いちゃうかもしれない。そんなの嫌でしょう?」
っと僕が言うと、
「キララちゃんがね、いつも、こうかいしない人生にしなさいってぼくにいってた。ぼくね、いま、きらいって、いったこと、とってもこうかいしてる。だから、こんどは、大すきだよっていいたい。それにね、なくのもいやじゃない。先生しってる?人はないたぶんだけ、つよくなれるんだよ。ぼく、つよくて、かっこいい大人になるんだ!」
っと言った。僕は、
「なれるよ。リュウセイくんなら。」
っと言って頭を撫でた。それと同時にこの子に優しい時間が続くことを祈った。
矢沢くんが、
「じゃあ、決まり!僕も協力する。」
っと言った。他のクラスの子達は話についていけず、
「どういうこと?」
「協力って何を?」
「そもそも、何で今日集合かけたの?」
っと問いを投げかけた。矢沢くんは、
「そうだよね。ごめん。全部話す。僕たちの秘密。」
っと切り出して今までの過去を包み隠さず話した。
皆んな真剣に矢沢くんの話を聞いてくれた。そして、話を聞き終わると、言葉を失って泣いている生徒が沢山いた。そんな皆んなに、
「もう、キララは戻って来ない。遅いことはわかってる。でも僕はキララが好きだ。キララのためならなんでもしたい。協力して欲しい。」
っと頭を下げた。すると、春山くんが、
「わかった。協力する。何すれば良い?てか、レンがキララのこと好きなの知ってるよ。気づかなかった人いないでしょ。」
っというと、他の皆んなも笑顔で頷いてくれた。僕は、
「皆んな、ありがとう。僕が今考えていることは…。」
っと僕の計画を話した。すると、リュウセイくんが、
「それなら、ぼく、いいものしってるよ!」
っと言うと、矢沢くんも、
「僕も、思い出したことがあるんだ…。」
っと話してくれた。
それから、二時間後、保護者説明会のため僕は一度教室を後にして職員室に向かった。その間に、生徒達に僕の計画の一部を実行してもらった。
短い打ち合わせをした後、保護者説明会の開場の体育館に向かった。
会場は昨日、卒業式を実行したとは考えられないくらい、重苦しい空気に包まれていた。また、殆ど全員の保護者の皆様が出席された。もちろん、吉川さんの保護者もいらした。僕達、教員は卒業式に起こった内容を包み隠さず説明した。その後、この件に関する学校の見解、これからの改善点や生徒への対応を話した。そして、保護者の皆様からの質疑応答際には、
「キララちゃんを返せ!」
っと泣きながら愬える保護者も少なくなかった。僕はその姿を見るたび吉川さんを沢山の方が想って下さっていることを知り、心が痛んだ。一方、吉川さんの父親と母親は、矢沢くんの両親に支えられて座っていた。しかし、僕には悲しい演技をしているようにしか見えなかった。こうして、保護者説明会は予定の時刻より少し伸びて幕を閉じた。




