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群青の嘘  作者: 伊田夏生
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卒業までのカウントダウン

 吉川さんの問題が解決した。とはいえ、最初は吉川さんがあれだけ悩んでいたことが、こんなにあっさり解決するものなのか疑っていたが、吉川さんのご両親が昨日、学校に来て下さった。


「和田先生が私達のことを心配して下さったと輝星から聞きました。この度はご迷惑をおかけしました。先生のお陰で子供達と向き合うことが出来ました。有難うございます。」


っとご丁寧に挨拶された。その言葉や吉川さんの表情から、本当のことだと思う。僕は安心した。これで何の心残りもなくこの子達を送り出すことが出来るから。そうだ、卒業式に向けてこの子達に何かサプライズしよう。手紙、思い出ビデオ、歌、何が良いだろうか?これから忙しくなりそうだ。

 今日は二月一日。中学入試の日だ。この学校は内部進学者が多い為、入試の日はこの日一日だけだ。僕は、卒業式のことばかり考えていた為、この日のことを一週間前まで忘れかけていた。職員室の隣の席の田村先生が、


「和田先生、入試の監督って面接担当ですよね?私は試験監督でした。来年はどんな子が入学して来るか楽しみだなぁ。」


っと話してかけて下さったお陰で何とか思い出した。

 入試当日の在校生がいない学校は、とても静かな時間が流れていた。三年生が卒業した後に入って来るであろう子供達の顔はとても幼く感じた。しかし、面接での声は震えている子が多く、大人さながらの緊張感に包まれていた。僕はどうしても三年生の子供達と比べてしまう悪い癖がついたようだ。それだけあの子達のことを可愛いがっているということなのだろうか。

 そして、入試の当日が終わると、採点の日という地獄の一日がある。


「この学校は内部進学者が多い為、採点の数も他の中学校より少ない方だよ。」


っと他の中学校で勤務された経験がある何人かの先生がおっしゃっていたが、このテストでこの子達の学校生活が決まる。だから、真剣に向き合った為に疲れた。思い返すとこの日が一番就職して時が経つのが長く感じた。

 こうして、来年入学して来る子供達が決定した。その子供達の中にはどうやら三年生の弟や妹もいるそうだ。僕のクラスの生徒が楽し気に教えてくれた。

 三年生の生徒達の話題は卒業式が近づくにつれて卒業の話題ばかりになっているようだ。まだ学年末試験も残っているが正直、真剣に勉強している子は少なそうだ。

 僕の予想通り、学年末試験の平均点は多くの教科で過去最低点だった。教師としては悲しかったが、吉川さん、矢沢くん、小林さんが僕の教科で満点を取ってくれた。この三人のようにちゃんと最後まで勉強してくれる生徒がいることが嬉しかった。

 卒業を間近に控えたある日、三年生を送る会が盛大に開かれた。この会は、在校生である生徒会の生徒が中心に学年別パフォーマンス、スライドショーや、吹奏楽部の演奏、そして目玉である演劇部とコラボした教員劇は大いに盛り上がった。そして最後には三年生の学年団で歌をプレゼントした。すると生徒達から逆に色紙のプレゼントがあったりと在校生のお陰で感動に包まれる会になった。

 こうして、何とか明日は卒業式だ。泣きそうな顔の生徒が、


「先生、卒業したくない。もう一年先生のクラスが良い。」


っと言ってくれた。僕は、


「嬉しいこと言ってくれるね。ありがとう。でも、泣くのは、まだ早いよ。」


っと言った。何だか僕も泣きそうになった。



 小さい頃から憧れてた教師という職業。ドラマに出てくるような生徒に慕われる先生になりたかった。僕は頭が良い。だから生徒にとって良い先生になれた。ドラマに出て来る生徒想いのかっこいい教師に。僕が生徒に一年間指導して来たことは正しい。僕はもう大人だ。間違えてない。間違えるはずがない。この子達の卒業式はきっと良いものになるだろう。僕にとって教師になって初めての卒業式。生徒の成長した姿に感動して涙を流したりするだろうか。



 卒業式前日は黄昏ながら、在校生に教室の飾り付けを手伝ってもらった。いよいよ明日は、僕にとっては一年、生徒達にとっては三年の集大成の日だ。さぁ最後の締めくくりにかかろう。

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