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群青の嘘  作者: 伊田夏生
13/20

誕生日

 一月十二日。天気は生憎の雨。寒い日だった。今日は三学期の始業式だ。でも、キララは今日、学校を休んだ。それには、ちゃんと理由がある。今日はママが死んで、十回目のママの誕生日だ。今までは、学校が終わった後に、お墓参りに行っていた。

 しかし、今年は、十と言う数に引き付けられた。午前中からお墓参りの前に、ある場所に行くことを選んだ。レンにもリュウにも内緒で。二人はママが今日、誕生日のことは知らない。今日は一人になりたかった。ママと二人の時間を過ごしたかったから。

 此処は、ママと幼稚園の帰りに良く来た、秘密基地だ。とは言っても、キララの家から電車で二駅離れた公園の土管の中だけど。小さい頃は二駅だけでも長旅だった。

 この場所は、ママとパパが子供の頃に、よく遊んだ公園らしい。この街でママ達は育った。キララが住む街よりビルが沢山ある街で。広めな公園なのに余り人が来ないため、キララとママの秘密基地になった。

 キララは傘を閉じて土管の中に入った。雨の日にこの土管に入ったのは初めてだ。雨の音が響いている。うるさいくらいに。途中のケーキ屋さんで、ママが好きだったチーズケーキを二個買った。その箱を開けると、


「ママ、誕生日おめでとう。」


っと呟いた。そのケーキを二つ共食べた。残しても仕方ないと思ったから。ふと、この土管の中でママとおままごとをしたことを思い出した。そのおままごとを再現した。しかし、キララの声と雨の音のせいで、少し悲しい気持ちになった。そんな茶番をしながら、時間を忘れて夢中で過ごした。あの頃と同じように。するといつの間にか、雨が止んでいた。

 なのでこの場所に別れを告げて、次の場所に向かった。ママのお墓だ。ママのお墓は山の上にある。去年までは、学校帰りで疲れていたため、バスで向かっていたけど、今年は体力が有り余っていたため、歩いた。途中で、お供えの花を花屋さんで買った。坂道を登っていると、今まで気付かなかった、お地蔵さんを見つけた。お辞儀をして、長い坂道を再び登り始めた。白い息が出るスピードが、だんだん早くなる。もう駄目だ。何度も諦めかけた。しかし、何とか今年もこの場所に辿り着いた。

 ママのお墓にはパパもお姉ちゃんも命日しか来ない。二人はあの日から、誕生日っという言葉が嫌いだ。ママが死んで何年かは毎年二人の誕生日を祝ってあげていた。しかしある年、パパはキララのプレゼントをゴミ箱に捨てていた。お姉ちゃんも誕生日が近づくと、浮かない顔で苦しそうにしている。そんな二人を見ているとキララも辛くて胸が痛い。だから、いつの間にか誕生日を祝えなくなった。

 キララは去年のお盆に此処に来たことが、最後だった。だからお墓の周りは、沢山の草が生えてしまっていた。草刈りをして、お花を供えて、手を合わせて、ママを呼んだ。そして約五ヶ月分の話をした。話したいことは沢山あった。学校での出来事、レンのことやリュウくんのこと。そして、パパやお姉ちゃん、新しいお母さんのことを謝った。ママがいた頃のように、仲良しの家族ではないから。ママの前だと素直になれる。ママは嘘が嫌いな人だったから。そこから何分いや、何時間泣いたかわからない。


「もう、疲れた。死にたい。」


そう呟いた時だった。急に誰かに背後から抱きしめられた。怖かった。だから思いっきり振り払った。振り向くと和田先生がいた。キララは涙が引っ込んだ。先生がキララより泣いていたから。キララは、


「何でいるの?バックハグとか気持ち悪い。」


っと言った。


 先生が、


「気持ち悪くて良い。僕を訴えても良い。けど、死にたい何て二度と言うな。」


っと怒鳴った。そして、


「矢沢くんから聞いた。君の過去の話。」


っと今度は優しい口調で話を続けた。キララは、


「レンには今まで口止めしてたのに、よく話したね。」


っと言うと、


「今、何時だと思ってるの?」


っと言って、時計を見せてきた。時刻は午後五時だった。


「そんなに遅い時間じゃないじゃん。先生、まだ定時じゃないでしょう?上司の先生に怒られちゃうよ。」


っとキララは思わずツッコんだ。先生は、


「心配したんだよ。今日は働き方改革で残業したら駄目な日だから。去年も何回かあったでしょう?どうせだから早退したんだ。」


っと言った。キララは、


「そっか。でも、キララ体調不良で休むって松本先生に伝えた筈だよ。わざわざ探さなくても良かったのに。」


っと、疑問点を伝えた。


「僕も最初は、体調不良って話を信じようとしたよ。あっ、この話は長くなりそうだから吉川さんの家に帰りながら話そう。家まで送るよ。」


っと涙を拭って先生が言った。キララが、


「大丈夫。一人で帰れる。」


っと少し強がった。しかし先生が、


「送らせて。」


っと、真剣な顔で言ってくれた。きっと先生はキララが死なないように監視したいのだろう。それでも良い。大人がキララを心配してくれたことは、何年ぶりだろう。むず痒い気持ちになった。先生のことが嫌いな筈なのに何故だろう。少しだけ嬉しかった。

 そこから、キララの家に帰るまで先生が今日のことを話してくれた。

 キララ達の学校は、小中高校の始業式を毎回、同じ日に行なっている。児童、生徒は午前中には式が終わり下校する。だから、レンは初等部まで、リュウくんを迎えに行って、キララの家に来たそうだ。その途中、レンがリュウくんに、


「キララは何で今日休んだの?」


っと聞いたらしい。リュウくんは、


「キララちゃん、ぼくといっしょに学校いったよ。」


っと答えた。

 確かに、キララはリュウくんを初等部まで送った。その後、家に戻って私服に着替えて出かけたから。

 その食い違う話から、レンはキララが何かを企んでいることを予想して、急いでキララの家に向かった。案の定、キララは家にいなかった。だから、


「リュウくん、お家で待っててね。僕ちょっと用事思い出したから。すぐ帰るから。」


っと伝えて、レンはキララの家を出た。しかし、リュウくんはレンが思っているより大人だった。キララが家出して、レンがそれを探しに行った。そう考えたリュウくんも、家を飛び出した。二人を探すために。リュウくんはいつの間にか、戸締まりのやり方を知っていた。でも、リュウくんには行く宛がなかった。なので取り敢えず、中等部までの通学路を辿ったようだ。そして何とか中等部まで辿り着いた。それから、中学校の中を一通り探したそうだ。和田先生が挙動不審な動きをするリュウくんを、偶然見つけた。先生が、


「どうしたの?」


っと聞くと、泣き出して、


「キララちゃんがいないの。」


っと言ったらしい。

 そして先生は前もリュウくんに会ったことを思い出して、


「前も此処で会ったよね?確かリュウセイくんだっけ?吉川さんの弟だよね。」


っと聞くと頷いて、


「あのね。キララちゃん、ぼくとあさ学校にいったのに、レンくんが休んだっていったんだ。それでおうちにかえったら、いなかった。だからさがしてるの。」


っと言った。先生は、


「そうなんだ。心配だね。矢沢くんは今、何処に居るのかな?リュウセイくんのお姉ちゃんがいなくなったこと、お父さんとお母さんに連絡して来るね。」


っと言うと、


「パパとママにいったらだめ。キララちゃんいじめられるから。でんわするなら、レンくんにして。レンくんもいま、キララちゃんをさがしてるから。」


っと泣きながら必死に言った。先生が、


「矢沢くんの携帯番号は知らないから、矢沢くんのお母さんに電話するなら良い?矢沢くんに来て貰うように。」


っと聞くとリュウくんが、


「いいよ。」


っと言ったので、レンが学校に忘れ物をしたことにして、今すぐ学校の教室に来るようにお母さんからレンに伝えて貰った。レンならキララを探すついでに学校に来てくれると思ったそうだ。本当に約一時間後には学校に来た。先生はその間に、こっそりリュウくんを教室に連れ込んだ。

 そして、教室に入って来たレンは凄く驚いたそうだ。


「何してるのリュウくん。お家に居てって言ったじゃん。先生、どう言うことですか。」


っと怒鳴った。リュウくんが、


「ごめんなさい。でもね、先生がたすけてくれたんだ。だからレンくん先生をおこらないで。ぼくがわるいから。」


っと再び泣き出した。レンは、


「リュウくん、寂しかったんだね。一人にしたこと、今怒ったこと、ごめんね。先生、どう言うことか説明して下さい。」


っと言うと、先生は、


「まず、矢沢くんが説明して。吉川さんが今、行方不明のことリュウセイくんに聞いた。そのことを、吉川さんのご両親に連絡するっと言ったら、リュウセイくんは吉川さんがいじめられる。そう言った。その理由、矢沢くん知ってるんでしょう?僕は君達を守りたい。吉川さんを探す手掛かりになるかも知れない。教えて。君が知っている吉川さんの全てを。」


っと聞くと、レンは、


「先生のことを信じている訳ではない。でも、今はキララの安全が最優先だ。だから話す。でも、くだらない同情で僕達の関係を壊したら先生を訴えるから覚悟して。」


っと先生を睨んだそうだ。そしてレンは今までのキララとの昔話をした。

 話を終えると先生は涙目になったらしい。リュウくんが後に教えてくれた。そして先生は、


「此処からは大人の仕事だ。僕が吉川さんを連れて帰る。心当たりがある場所を教えて。」


っと聞いた。レンは、


「僕も探す。先生のこと信用してないから。」


っと言った。しかし先生は、


「でも、リュウセイくんをこれ以上、連れて歩く訳にはいかないでしょう?だから二人で吉川さんの家に居て。」


っと言った。レンは納得していない様子で、


「わかった。大体近くでキララが行きそうな所は全部調べた。だからまだ調べられていない、キララのお母さんのお墓か、その途中の道にある本屋さんにいると思う。」


っと話した。その後付け加えるように、


「キララに何か合ったら先生のせいだから。」


っときっぱり言った。先生は二人を学校から送り出すと体調を崩したことにして早退したそうだ。

 こうして今に至るそうだ。先生は温厚なレンに何をしたらそんなに信用をなくしたのか謎だ。でもこうしてキララを見つけ出した。レンと先生は案外息が合うのかもしれない。

 キララ達が家に着くとレンに怒られた。リュウくんは、


「ぼく、わるい子でごめんなさい。」


っと泣いた。そんなリュウくんを抱きしめながら、


「違う、悪い子はキララだ。キララこそ心配かけてごめんなさい。」


っと謝った。先生が、


「吉川さん、矢沢くんが言った通りお墓にいた。」


っと言うとレンが、


「キララ、何でお墓に行ったんだよ。行くなら僕かリュウくんに言ってから行ってよ。」


っと不貞腐れた声で、愚痴を言った。キララは、


「今日、ママの誕生日だったの。二人だけでお祝いしたくて言わなかった。でも、反省してる。心配してくれてありがとう。」


っと笑顔で言った。先生は、


「これで僕のことも、少しは信用してよ。じゃあ僕は帰るね。矢沢くんも早めに家に帰るんだよ。」


っと帰って行った。

 キララは、あの日以来初めて信用しても良いそんな大人に出会った気がする。キララの家族を救ってくれるのではないか。そう期待した。


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