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群青の嘘  作者: 伊田夏生
12/20

二人の事情

 僕、和田太一は三年二組の担任として吉川さんと矢沢くんの家庭状況を改めて調べた。あの運動会の日、吉川さんの弟さんに会った日から、僕なりに一生懸命に。学校にあった資料や、二人の初等部から中等部までの歴代のまだ勤めていらっしゃる担任の先生方に話を聞いたりもした。そこでわかったことは、吉川さんの母親は義理の母親だということ。矢沢くんの家は吉川グループが経営する和菓子屋さんだということ。そしてどちらのご両親も感じの良い方だと、僕が聞きに行った先生方は口を揃えておっしゃった。

 僕は、これだけ二人が家族がらみの付き合いだったことが以外だった。てっきり子供達だけの繋がりだと思っていたから。

 僕はこれ以上のことを調べなかった。クラスの雰囲気を取り戻すことと家庭環境はやはり関係ないと考えたから。

 しかし、ある日の朝のホームルーム二人は学校に来ていなかった。今日、僕のクラスで休みの連絡があったのは佐野麗桜くんだけだった。佐野くんはどうやら何かの撮影で休むようだ。僕は、


「吉川さんと矢沢くんの行方を誰か知りませんか?」


っと聞いた。すると足立さんが、


「キララは多分休む気がする。私の初等部の妹、昨日の運動会の振替休日で今日学校休みって言ってたから。」


っと言った。僕は、


「どういうこと?初等部が休みでも、中等部は普通通りで休みではないじゃん。」


っと聞くと、


「だから、キララの弟のリュウくん初等部の一年生なの。キララはリュウくんのこと溺愛してるから。何かリュウくんのために休みそう。」


っと言った。それを聞いた原さんが、


「わかる。キララなら休みそう。」


っと言った。僕には納得出来ない理由だった。とりあえず保護者に電話して事情を尋ねよう。それより、


「矢沢くんは?誰か事情聞いてない?」


っと質問した。誰も知らないようで、


「珍しくない?レンがサボりって。」


っと小林さんが言った。確かに吉川さんが学校を無断で休むことは何度もあった。しかし、矢沢くんが無断で学校を休むことは、僕が知る限り初めてだった。今までなら、休む時は必ず保護者の方が連絡してくださるか、矢沢くんが前の日に休むことを報告してくれる。だからこそ心配だ。

 僕は一時間目は授業が無く空いていた。だから、まず僕は矢沢くんの家に電話した。電話に出られたお母様は、


「学校にいつもの時間に行かせましたけど。蓮に電話してみます。」


っとおっしゃった。僕はもしかしたらと思って、吉川さんのお父様に電話した。お父様は、


「すみません。体調不良で休ませていただきます。」


っとおっしゃった。僕は、


「ちなみに、矢沢蓮くんってお宅にいらしてないですか。」


っと聞いた。


「蓮くんも休んでいるんですか?すみません。私、会社にいるのでわかりません。」


っと話された。僕は心配だったが、そこで一時間目の終わりのチャイムが鳴った。僕は二時間目、授業が入っていた。だから職員室を離れなくてはならなかった。二時間目の授業中も僕は二人のことを考えていた。授業が終わると急いで職員室に帰った。三時間目も幸いにも授業が入っていなかった。矢沢くんのお母様がその間に電話を下さっていた。僕は折り返しの電話をかけた。


「あれから何回か電話したんですけど、蓮、電話に出ません。あの子何考えてるんだろう。」


っと随分慌てていらっしゃった。僕もまずいことになったかも知れない。そう思った。

 その時だった。田村先生が、


-和田先生。佐野くんから電話。急用みたいです。-


っと書いたメモを僕の机に置いた。僕は、


「すみません。ちょっと学校側としても対応を確認しますのでお待ち下さい。」


っと言って電話を切った。

 そして佐野くんの電話を取ると、


「先生、電話出るの遅いよ。あのね、今、撮影で遊園地にいるんだ。それで俺がいる遊園地にキララとレンとリュウくんもいるんだけど。あの二人学校サボってるでしょう。あっ、ごめん先生撮影再開するみたいだから、もう電話切るね。」


っと言って強引に電話を切った。僕が最初に考えた通り二人とも、一緒にいたようだ。まさか遊園地にいるとは思わなかったけど。それにしても何処の遊園地だろう。肝心なことを聞けなかった。

 僕は、もう一度矢沢くんの家に電話をかけた。


「ある生徒から、矢沢くんを目撃したという情報がありました。ひとまず無事のようです。僕も蓮さんから直接事情を聞きたいのでお宅に今日の午後五時半頃お伺いさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


っと聞くと、


「無事なら良かった。その時間なら大丈夫です。お待ちしてます。」


っと許可して下さった。僕は初めて上司の許可を得ずに行動した。社会人で一番大切な報連相を怠った。幸いにも隣の席の田村先生は、僕が佐野くんと電話をしている時に席を立った。だから僕はこの会話を録音しなかったので、今日家庭訪問をすることはバレないと思う。こうして僕は放課後、仕事を定時で切り上げて矢沢くんの家に行った。

 僕はどうして吉川さんのお父様が嘘を吐いたのか、優等生の矢沢くんが学校をサボったのか知りたかった。きっと二人が学校を休んでまで遊園地に行ったのは、親には言えない理由があると思った。そして二人が今、何を考えているのか知ることの出来るせっかくの機会のようにも感じた。

 だから、僕の予想通り矢沢くんが親に学校をサボった理由を言えないっと言った時チャンスだと思った。なので学校で事情を教えてっと言ったのだ。

 そして今日、矢沢くんの希望で放課後ではなく昼休みに多目的教室に来て貰った。僕は、


「早速だけど、昨日どこにいたのか教えてくれる?」


っと切り出した。すると矢沢くんは、


「言えません。」


っと昨日と同じ態度だった。僕は、


「本当はね。先生、矢沢くんと吉川さんそして吉川さんの弟さんが遊園地にいたこと知ってるんだ。ある生徒が君達を見かけたと連絡をくれたんだ。」


っと言うと矢沢くんは、動揺したのか目を丸くした。僕は容赦なく話を続けた。


「吉川さんのお父さんは、吉川さんが体調不良で休むって言ったけど嘘だよね。吉川さんか矢沢くんがお父さんに嘘を吐くように頼んだんでしょう。矢沢くんが答えないなら吉川さんに事情を聞いても良い?」


っと言った。矢沢くんは、


「先生、それって脅しですよね。教師がそんなことして良いんですか?でも、自白します。その通りです。遊園地に行ったのは事実です。但し、キララとは行っていない。キララは昨日、本当に体調不良だった。学校をサボった僕を好きなように処分して良いですよ。これで満足ですか?」


っと言った。僕は、


「じゃあ誰と行ったんだ?」


っと聞くと、


「違う学校の友達とその弟です。キララは関係ない。僕はその子と弟を守りたいだけです。そのためなら何でもする。だから先生がもし、キララに余計なことを言ったら絶対に許さない。これ以上は言いません。教室に戻ります。」


っと言うと部屋を出て行った。この教室で、小林さんのことを話した日とは別人のようだった。半年で何があったんだろう。まるで人を殺しそうな目をしていた。僕は、初めて生徒のことを怖いと思った。


 次の日から僕は二人の関係を調べることにした。最初から家庭状況ではなく、そのことを調べるべきだった。昨日矢沢くんが言った、


「二人を守りたい。」


と言う言葉が気になった。きっと吉川さんとその弟さんのことだろう。何故、二人を庇う嘘を吐いたのか。知るべきだと思った。だから、吉川さんと仲の良い足立さんと原さんに放課後、教室に残って貰った。僕は、


「今日、残ってくれてありがとう。吉川さんと矢沢くんのことで知っていることを教えて欲しい。何でも良いんだ。」


っとお願いした。すると二人は、足立さんが、


「キララの家族のことならある程度知っているよ。キララの家族は皆んな仲良しだよ。キララは三兄弟の真ん中。弟のリュウくんを凄く可愛がっているし、お姉ちゃんのウララちゃんは小さい頃に何回か会ったことがあるけど優しくて良いお姉ちゃんだったよ。」


っと言うと、今度は原さんが、


「そうだ、キララの本当のお母さんって死んじゃったんだよ。幼稚園の頃だったから何で死んじゃたのかは覚えてないけど。でも、私達が初等部に入るくらいに、お父さんが再婚したんだ。だから、リュウくんは腹違いの弟なの。でも、休みの日に、お母さんと買い物行った話とか、キララからよく聞くよ。血が繋がってないのに、可愛がってくれているみたい。私、その新しいお母さんと話したこと、全然ないなぁ。」


っと言った。足立さんが、


「私もない。でも良い人そうだよね。キララのお父さんもレンの家の和菓子屋さんが潰れそうな時、助けたって言う話を聞いたことがある。キララの家族自体、結構有名人だよね。」


っと吉川さんのことを中心に話してくれた。中には僕の知らなかった情報も幾つかあった。僕は、


「矢沢くんの情報は他に知らない?」


っと質問した。二人は口を揃えて、


「知らない。」


っと言った。どうやら、矢沢くんは学校で家族の話をしないらしい。

 吉川さんの両親はやはり良い人のようだ。一昨日嘘を吐いたのは吉川さんが怒られないようにするためだろう。

 僕は二人にお礼を言って帰って貰った。僕が暫く教室で情報を整理していると、勢いよくドアが開いた。


「何こそこそ調べてるの?」


吉川さんだった。僕は驚いた。彼女は部活中の筈だから。彼女は、


「キララが気付いてないとでも思った。昨日から、キララと仲が良い子と先生が面談してること。知ってるよ。キララの周りハエみたいに飛び回らないでくれる?うざいから。」


っと言った。僕は、

「ハエって失礼だよ。部活はどうしたの?僕はただ君達のことが知りたいだけだよ。」


っと反論した。吉川さんは、


「ならキララに直接聞けよ。部活は早退した。君達ってキララとレンのことでしょう?レンと昨日の面談で何を話したの?」


っと僕に聞いた。僕は、


「一昨日休んだ理由。吉川さんも一昨日休んだよね。何で?」


っと質問返しをした。僕は、


「体調不良だよ。連絡しなかったことはごめん。これで満足?」


っと言った。僕は、


「三年生になってから、結構体調不良で休んでいるから、心配なんだよ。お父さんにもその度に連絡取ってるけど…。」


っと話すと吉川さんは慌てた様子で、


「何で、パパに連絡取ってるの。勝手なことしないでよ!」


っと声を荒げた。僕は、


「何をそんなに怒っているの?当たり前のことだよ。先生は無断で学校休んだら、心配になるから電話している。それだけのことだよ。」


っと言った。しかし、彼女は納得していないようだった。


「心配なんていらない。これからキララが休む時は自分で連絡するから。絶対に親には連絡しないで。」


っと今度は何かに怯えるように言った。

僕は本当は一昨日のことを問い詰めようと思っていた。でも出来なかった。彼女には友達にも言えない秘密がある。その秘密を知っているのは矢沢蓮、彼一人だと確信した。

 その後、二学期の間、吉川さんが学校を休むことは一度もなかった。一時はどうなるかと心配だったクラスの雰囲気は少しマシになった。吉川さんが意見を言わなくなったから。お喋りばかりしていた授業中はずっと寝ているようになった。休み時間もクラスの輪に入ってはいるが、皆んなに合わせていて前みたいな馬鹿笑いをしなくなった。顔では笑っているけど心では笑っていない。僕にはそう見えた。

 矢沢くんも、二学期のあの日以来、休むことはなかった。あの日から矢沢くんは、休み時間は吉川さんの隣りを片時も離れないようになった。そして、僕は視線を向けると彼に睨まれる。

 僕は二人以外の生徒達には割と好かれている。自分で言うのも何だが、他の何人かの生徒の悩みに気付いて真剣に向き合ったから。

 三学期が始まる始業式の日、僕は吉川さんが一学期や二学期のように遅れてやって来ることを期待していた。しかし、彼女は来なかった。他の生徒は全員元気に来ていたのに。学年主任の松本先生が、


「吉川、本人から休みの連絡がありました。」


っと僕のクラスの教室までいらして教えて下さった。吉川さんは約束を守る子だ。ちゃんと連絡を入れてくれた。それにしても最近は休まなかったのに。何故だろう。嫌な予感がした。

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