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群青の嘘  作者: 伊田夏生
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プロローグ

 厳しい寒さが終わりを告げようと暖かい日差しによって校舎を明るく照らし始めた季節。いつの間にか今年最高気温を更新したニュースをテレビでよく見るようになった。ついこの前まで大雪のニュースをしていたのに。

 未来に向かうための別れと新しい出逢いの季節。いつの間にか社会人一年目がもうすぐ終わろうとしていた。思い返せば学生の頃よりあっという間に一年が過ぎていた。異動がなく公立の中学校より頭の良い子が多く教えやすいと考え就職した中高一貫の私立中学。初めて受け持ったクラスは三年二組。

 中高一貫の私立中学に通う三年生は高校受験をする子は少ないし、厳しい先輩後輩の関係も経験してきてる。社会の常識もある程度理解しているはずだ。そのため最初は楽ができると考えていた。案の定、外部の高校を受験する子は僕のクラスにはいなかった。しかし、実際の中学三年生はしっかりしているようで想像したよりずっと子供だった。毎日残業だらけの体力勝負の職場。そんな中でも僕なりにその子たちへ一年間情熱を注いできたつもりだ。

 小さい頃から憧れてた教師という職業。ドラマに出てくるような生徒に慕われる先生になりたかった。僕は頭が良い。だから生徒にとって良い先生になれた。ドラマに出て来る生徒想いのかっこいい教師に。僕が生徒に一年間指導して来たことは正しい。僕はもう大人だ。間違えてない。間違えるはずがない。この子達の卒業式はきっと良いものになるだろう。僕にとって教師になって初めての卒業式。生徒の成長した姿に感動して涙を流したりするだろうか。そう想いながら挑んだ卒業式。僕はこの日、先生になったことを初めて後悔した。

 振り返ると就職した時から間違えていた。教えやすい生徒がいる学校なんて初めからない。教師を美化しすぎていた。どんなに頭の良い子も所詮はまだ間違いだらけの未成年。そんな子達の人生のプロローグに彩りを添えるのが仕事。だから僕は主役にはなれない。常に口うるさい脇役にならなければならない。そんなことも分からなかった。いや、分かろうとしていなかった。僕は馬鹿だった。

 吉川輝星。僕はこの名前を一生忘れないだろう。彼女は、名前の通り一番星のようにキラキラ輝いていた。そのくらい多くの人の目を惹く何かがあった。だから、彼女はクラスの人気ものになれたんだと思う。しかし、まるで流れ星のように一瞬で死んだ。

 ヨシカワキララ。最初からこの生徒に出会わなければ。違う、僕がもっと早く彼女を気にしてあげていたら。でも彼女は世界一の嘘つきだ。だからきっと誰も気付けなかっただろう。いや、彼女を嘘吐きにさせたのは、僕みたいな駄目な大人のせいだ。これ以上下手な言い訳をしても仕方ない。彼女の望みはきっと……。

 〈これは彼女が死ぬまでのいや、彼女が生きた証拠あかしの物語だ。〉

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