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第1話 我が家のワガママお嬢様

「あきくん、ご飯作るの手伝わせて!」


「ねぇあきくん、膝枕させて」


「あきくーん、もう寝ちゃうの? 一緒に寝ようよ」


 どうして、こうなってしまったんだろう……

 どうしてこうなってしまったんだろう……!?


 1日中セミのようにあきくん、あきくんと鳴き続ける、シングルベッドに体を滑らせてきた少女――西園寺 絢月花(さいおんじ あげは)――を端へと押しやった。あくまでソフトに。いくらなんでも、相手は女の子なんだから……

 

「なんで!?」


 い、いやいやいやいや、なんでもなにも、さすがに付き合ってもない男女が同じベッドで寝るのはまずいでしょ。


「さすがにそれはダメだよ」


「どうして、あきくん? 私たちは将来結婚する仲なんだし、間違いがあっても大丈夫だよ!」


「いや大丈夫じゃねぇだろ……てか、いつの間に結婚することになってんだよ!?」


「うーん、いつからかなぁ。あっ、拾ってもらって1日経ったときから?」


「電撃すぎだろ!? あとそもそも俺はしてないからな、そんな約束!」


「大丈夫大丈夫! 1ヶ月経つ頃には、きっと私のこと大好きにしてみせるから!」


「大丈夫じゃないんだよなぁ」


 思わずベッドから出て頭を抱えると、アゲハは抱きついてきた。そのまま、俺の耳元へと口を近づける。


「絶対、オトシテみせるから」


 お風呂上がりの生温かい息が耳に吹きかかって、全身がゾワッとした。





 そもそもの発端は、1週間前、超絶ワガママお嬢様をを拾ったことから始まった。


 俺は、学校では大人しい陰キャ、ついでに帰宅部だから、あの日はまっすぐ家に帰っていた。確か豪雨情報が出ていて、急いでいたはずだ。


 で、ここからが問題だったんだ。


 家のすぐ側まで来たとき、1人の女の子が座り込んでいた。普通だったら危ない人だと思って放置するだろう。そう、普通だったら……


 だけど俺は運が悪かった。


 その女の子と顔見知りだったのだ。


 彼女――西園寺 絢月花は、学校一の美少女で、ついでにかなりのお嬢様として有名でもあった。名前だって、なんかすごいしな。


 絢月花、で、意味は綺麗な月の羽。


 どんな美しい名前だよ。親才能ありすぎだろ。本人も名前に負けじと可愛いけども。


 彼女は生粋の陽キャであり、GWにはハワイ旅行に行く――いやもうこれ陽キャとかいうレベルじゃねぇわ――ようなやつだ。しかもその愛らしい容姿と子供っぽい性格のおかげでみんなに甘やかされるから超絶ワガママ。

 あとで話を聞いてみれば、彼女のお父様もめちゃくちゃ甘いらしい。


 ……まぁ、別にそれを俺が知ってるだけなら良かった。

 それだけならまだ無視できたんだが、もっと運の悪いことに、彼女とは同じクラスだった。

 西園寺の方は俺のことをはっきり覚えており――そう、捨てられた子猫みたいな目で俺のことを見てきたのだ。

 

 これで放置できる人がいるだろうか……?

 見捨てることができるだろうか……?


 少なくとも俺には無理だった。


「なんでそんなとこにいんの?」


 とりあえずと、声をかけた。頭は混乱して、半ば機能していなかったけど、それでも。


「なんでって……パパと喧嘩したの」

 

「喧嘩!?」


 まさかとは思った。

 だって、そんな昔のドラマみたいなことある? 家出少女だぞ、家出少女。絶滅危惧種どころかこの世にほぼ存在しないとさえ思っていた。


「うん。喧嘩したの。だから私、もう家には戻らないの」


「マジかよ……なんでまたそんな喧嘩なんか……それで、これからどうする気なんだ?」


「どうするって、どうしたらいいか分かんなかったから、座ってたの」


「えぇ……」


 どうやらノープランらしい。

 思わずため息をつく。


「あっ、そうだ! 確か清水(しみず)くんって、一人暮らしだったよね。泊めてよ」


「いやそれは無理」


「なんで!」


 西園寺が声を張り上げる。


「なんでとか言う以前にそもそも俺ら付き合ったりもしてないじゃん。女子の友達に頼んだらいいんじゃないの?」


「だって、女の子の友達に頼むのは恥ずかしいし、男の子の友達はみんな彼女いるし……」


 ほんの少し頬を膨らませて、手をいじいじしている。なんだろう……拗ねてるんだろうか。


「うわぁ、陽キャだ……」


 それよりも、男友達全員彼女持ちとかどうなってんだよ。同じ地球に住んでるとは思えない。

 呟くと、西園寺は首を傾げた。

 顔はハチャメチャに良いから、そんな仕草も様になっている。


「ねぇ、お願い」


 西園寺が俺の目の前でパチンと手を合わせた。


「お願いだから、泊めて」


 彼女の艶やかな黒髪が揺れる。

 不思議な青色の瞳と、目線がかち合った。


「わ、分かったよ。散らかってるけど気にするなよ……ていうか、逆に本当に俺でいいのか? てかダメだろ俺じゃ」


 彼女は圧倒的スクールカーストの頂点。反対に、俺は中の下だ。女子1人、そんな男の部屋に泊まっていいのか?


「さすがになにもしてこないでしょ? それにもししてきたら、西園寺グループの全てをかけて潰しにいくから、大丈夫だよ」


 あぁ確かに、彼女の実家は超巨大な会社だ。

 1人の人間を潰すことなど、造作もないだろう。まぁそもそも、なにかする方が悪いんだけど。


「それは分かってるし、しないよ。家狭いけど、気にしないで」


 ガチャリと扉を開けると、お邪魔しますもなく、西園寺は我先にと部屋に入って行った。水で手を洗う音などがよく聞こえる。

 ……あれ、ここ俺の家じゃなかったっけ?

 なんかもう乗っ取られてる気がするんですが?

新作ラブコメです。

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